駒澤大学「情報言語学研究室」

URL https://www.komazawa-u.ac.jp/~hagi/

こゑ【聲・声】―川端康成『雪国抄』―

2023-05-01 11:54:31 | 日日昰記録

jk1234萩原義雄「こえ【聲】」川端康成『遺稿雪国抄』DB

 此の川端康成『遺稿雪国抄』DBは、すべて架蔵覆製本に基づいて萩原義雄が責任入力しています。誤字脱字が見つかれば修正しますのでお知らせ願います。また、小説『雪国』とは多少異なる文意の箇所が登場しますので、既成刊行の単行本や文庫本を用意して覧ていただくことをお奨めします。

 川端康成作の『遺稿雪國抄』の作中での「聲」という言葉の使われ方に注目した。

    エクセル版抜粋「聲」一覧通本文:【聲】川端康成遺稿『雪國抄』 

9彼はを驚いてをあげさうになつた。1.3031-011.3061-11

92それはもうまぎれもなく女の裸の心が{自分の}男を呼ぶであつた。1.3031-01・1.3061-11

94しかし宿屋中に響き渡るにちがひない金切聲だつたから、當惑して立ち上ると、女は障子紙に指をつつこんで棧をつかみ、そのまま島村の體へぐらりと倒れた。1.3031-02

86女が廊下から大聲でに島村の名を呼んで、ばたりと投げ込まれたやうに彼の部語体詞屋に入つて來た。1.3031-02名

《語の解析》
  『雪国抄』における単漢字「聲」の語は、総数五例、内二例は熟語「大聲」「金切聲」という声の質感表現である。

 川端康成『雪国』を通じて見通してきた「こえ【聲】」の語についてであるが、引き続き他作品との見極めできるのである。こうしたなかで、文学七の講義のひとつ、大槻文彦編『言海』↓『大言海』について学ぶことにもなった。その『言海』そして、『大言海』から新編『大言海』へと受け継がれているなかで、現在の小学館『日国』第二版へと継承されず移行が見られていない『言海』にはなかった、「(三)漢字の音(オン)。(訓(ヨミ)に對ス)卽チ、支那ノ言葉ナリ。大學寮ニ音博士(コヱノハカセ)アリ、漢音(カンオン)ヲからごゑ(エ)ト云ヒ、吳音ヲやまとごゑト云ヒ、對馬音(ツシマゴヱ)モアリ。(漢音ノ條ヲ見ヨ)」の意義説明を見逃してなるまい。ここを今風に和らげておくと、大陸中国のことばである。本邦の朝廷に設置されていた大学寮に音博士という官職があって、漢音を「からごゑ【唐聲】」と云い、古より発音されてきた呉音を「やまとこゑ【大和聲】」と云い、さらには朝鮮半島から伝えられた「つしまごゑ【對馬聲】」もあるという内容についてである。繰り返して云うが、漢字の音を「こえ」と呼ぶことがつたえていないことに氣づくからである。この点については、既に第二ステージである大槻文彦『言海』での「こゑ【聲】」に展開していることにもなろう。更には、第三ステージ諸橋轍次著『大漢和字典』の「こゑ【聲】」にも引き継がれていくことを見通しているのである。萩原義雄識

《補助資料》
 白川静著『字通』
【常】声 七画 四〇二七
【旧字】(聲) 一七画 四七四〇
【字音】セイ・ショウ(シャウ)
【字訓】こえ
【同訓異字】ほまれ・ほめる
【説文解字】
【甲骨文】
【字形会意】
 旧字は聲に作り、殸(けい)+耳。殸は声(けい)(磬石)を鼓(う)つ形。その鼓つ音を聲という。声(けい)は磬石を繋けた形である。〔説文〕十二上に「音なり。耳に從ふ。殸聲」という。卜文に声・殸に作り、ときに祝禱を収める器の形である𠙵(さい)を加えることがあり、磬声は神を招くときに鼓つものであった。もと神聴に達する音をいう。
【訓義】
[1] おと、ね、こえ、ひびき。
[2] ことば、おとずれ、うわさ、おしえ。
【古辞書の訓】
〔名義抄〕聲 コヱ・キク・ナ・ラ(ヨ)シ・イラフ・アラハス・オト・ナラス・ノノシル 〔字鏡集〕聲 ノノシル・イラフ・アラハス・ナラス・ナル・ヨシ・オト・ツキタリ・ナ・コヱ・キク
【声系】
〔説文〕に録する殸声六字のうち、聲のみが声異なる。聲は会意字とみるべきである。
【熟語】
【声威】せいい(ゐ)  名声畏望。唐・韓愈〔張中丞(巡)伝後叙〕南霽雲の救ひを賀蘭に乞ふや、賀蘭、巡・(許)遠の聲威功績の己の上に出づるを嫉み、肯て師を出だして救はず。霽雲の勇且つ壯なるを愛し、其の語を聽かず、彊(し)ひて之れを留む。
【声韻】せいいん  音韻。
【声咽】せいえつ  声をあげて泣く。
【声冤】せいえん  冤訴する。
【声援】せいえん  応援する。
【声燄】せいえん  大評判。
【声音】せいおん  音楽。〔礼記、郊特牲〕殷人は聲を尚(たつと)ぶ。臭味未だ成らざるに、其の聲を滌蕩(できたう)(呼号)す。~聲音の號は、天地の閒に詔告する所以なり。
【声価】せいか  評判。〔後漢書、宗室四王三侯、北海靖王興伝〕(子睦)中興の始め、禁網尚ほ闊(ひろ)し。而して睦、性謙恭にして士を好み、千里交結す。名儒宿德よりして、門に造(いた)らざる莫(な)し。是れに由りて、聲價益々廣し。
【声化】せいか  感化。
【声家】せいか  詞曲の作者。
【声華】せいか  名声。
【声欬】せいがい  せきばらい、謦欬。
【声楽】せいがく  音楽。〔列子、仲尼〕大夫は齊・魯の機(巧)多きを聞かざるか。善く土木を治むる者有り。~善く聲樂を治むる者有り。~群才備はる。
【声喊】せいかん  喊声。
【声玩】せいがん  声色と玩好。
【声気】せいき  はげます。鼓舞する。〔左伝、僖二十二年〕三軍は利(優勢)を以て用ひ、金鼓は以て氣を聲す。利にして之れを用ふれば、隘(あい)に阻(そ)するも可なり。聲盛んにして志を致せば、〓〔亻+吋〕(ざん)(陣立てが不揃い)に鼓するも可なり。
【声伎】せいぎ  歌妓。〔唐書、魏謩伝〕(魏謩上言)陛下即位して、聲色を悦ばず、今に十年なり。~數月以來、稍々聲伎を意(おも)ひ、教坊閲選し、百十未だ已(や)まず。~宗姓育せざるは、寵幸累(るい)を爲す。
【声技】せいぎ  声伎。
【声郷】せいきよう  声調、また評判。
【声響】せいきよう(きやう)  声の響き。〔淮南子、泰族訓〕寒暑の燥𤃁(さうしつ)は、類を以て相ひ從ひ、聲響の疾徐は、音を以て相ひ應ず。故に易に曰く、鳴鶴(めいかく)陰に在り、其の子之れに和すと。
【声教】せいきよう(けう)  上の教化。〔書、禹貢〕東は海に漸(いた)り、西は流沙に被(およ)び、~聲教四海に訖(いた)る。
【声偶】せいぐう  対句。
【声訓】せいくん  訓化。
【声口】せいこう  口気。
【声光】せいこう  声容。
【声高】せいこう  大声。
【声劫】せいごう  声でおどす。
【声采】せいさい  文采。
【声罪】せいざい  罪をばらす。
【声姿】せいし  声容。
【声施】せいし  名声が広く伝わる。
【声詩】せいし  楽詩。
【声実】せいじつ  名実。
【声称】せいしよう  名声。
【声章】せいしよう  名声。
【声色】せいしよく  音楽と女色。〔礼記、月令〕(仲冬の月)是の月や、日の短きこと至(きは)まり、陰陽爭ひ、諸生蕩(うご)く。君子齋戒して、~聲色を去り、耆欲(しよく)を禁じ、~以て陰陽の定まる所を待つ。
【声声】せいせい  多くの声。
【声勢】せいせい  気勢。
【声績】せいせき  好評判。
【声息】せいそく  消息。
【声諾】せいだく  承諾する。
【声馳】せいち  名声が広まる。
【声張】せいちよう  大声。
【声聴】せいちよう  応接の態度。
【声調】せいちよう(てう)  音調。〔晋書、嵆康伝〕夜分、忽ち客有りて之れに詣(いた)る。稱(い)ふ、是れ古人なりと。康と共に音律を談じ、辭致清辯なり。因りて琴を索(もと)めて之れを彈じ、廣陵散を爲(つく)る。聲調絶倫なり。遂に以て康に授く。仍(よ)りて誓つて人に傳へず。
【声読】せいどく  音読する。
【声布】せいふ  声馳。
【声符】せいふ  音符号。
【声聞】せいぶん  評判。〔孟子、離婁下〕苟(いやし)くも本無しと爲さば、七八月の閒、雨集り、溝澮(こうくわい)皆盈(み)つるも、其の涸るること、立ちて待つべきなり。故に聲聞の情(実際)に過ぐるは、君子之れを恥づ。
【声病】せいへい  詩賦の平仄が整わぬこと。作詩の基本の心得とされた。唐・元稹〔詩を叙して楽天に寄する書〕稹九歳、賦詩を學ぶ。長者往往、其の教ふべきに驚く。年十五六、粗々(ほぼ)聲病を識(し)る。
【声芳】せいほう  名声。
【声貌】せいぼう  声容。
【声望】せいぼう(ばう)  名声と人望。〔後漢書、光武十王、東平憲王蒼伝〕蒼、朝に在ること數載、隆益する所多し。而して自ら以(おも)へらく、至親にして政を輔(たす)け、聲望日に重しと。意(こころ)に自ら安んぜず、上疏して職を歸さんとす。
【声名】せいめい  名声。〔中庸、三十一〕是(ここ)を以て聲名中國に洋溢し、施(し)いて蠻貊(ばんぱく)に及ぶ。舟車の至る所、人力の通ずる所、~凡そ血氣有る者、尊親せざる莫(な)し。故に天に配すと曰ふ。
【声明】せいめい  揚言する。
【声問】せいもん  たより。〔漢書、蘇武伝〕武、平恩侯に因りて自ら曰く、前(さき)に匈奴を發する時、胡婦適々(たまたま)一子通國を産む。聲問來(きた)る有り。願はくは使者に因りて金帛を致し、之れを贖(あがな)はんと。上(しやう)焉(こ)れを許す。
【声誉】せいよ  ほまれ。〔後漢書、馮衍伝〕太原に鎭し上黨を撫し、百姓の歡心を收め、名賢の良佐を樹つ。天下變無ければ、則ち以て聲譽を顯はすに足り、一朝事有るときは、則ち以て大功を建つべし。
【声容】せいよう  音容。姿と声。宋・蘇軾〔次韻して頓起に答ふ、二首、一〕詩 相ひ逢うて應(まさ)に覺ゆべし、聲容の似たることを 話せんと欲して先づ驚く、歳月の奔(はや)きことを
【声揚】せいよう  揚言する。
【声利】せいり  名利。
【声律】せいりつ  五声六律。音楽。〔漢書、礼楽志〕漢興りて、樂家に制氏有り。雅樂聲律を以て、世世大樂官に在り。
【声涙】せいるい  声と涙。
【声烈】せいれつ  名声。
【下接語】
蛙声・䵷声・悪声・威声・遺声・雨声・音声・家声・笳声・歌声・諧声・喊声・喚声・寒声・歓声・澗声・鼾声・雁声・希声・奇声・寄声・嬌声・金声・軍声・形声・渓声・雞声・五声・哭声・混声・四声・叱声・秋声・銃声・春声・女声・笑声・商声・象声・頌声・簫声・鐘声・上声・新声・人声・仁声・水声・正声・清声・千声・泉声・善声・楚声・双声・大声・嘆声・灘声・男声・鳥声・聴声・砧声・鄭声・霆声・笛声・天声・伝声・怒声・濤声・徳声・吞声・肉声・入声・波声・罵声・吠声・発声・蛮声・飛声・美声・風声・平声・変声・鞭声・砲声・鳳声・謗声・梵声・妙声・民声・無声・名声・夜声・余声・容声・揚声・雷声・乱声・流声・令声・励声・厲声・櫓声・和声

小学館『日本国語大辞典』第二版
こえ[こゑ]【声】〔名〕(1)人や動物が発音器官を使って出す音。(イ)人の声。声帯を振動させ、口腔、鼻腔、その他の共鳴腔を共鳴させて出す音。音声学では、有声音をいう。社会的にきまった意味をもつことばと、泣き声、笑い声、うめき声などことばにならないものがある。音声。*日本書紀〔七二〇(養老四)〕推古二九年二月(北野本訓)「少幼者(わかいもの)は慈(うつくしひ)の父母(かそいろは)を亡(うしな)へるが如(こと)くして哭(な)き泣(いさ)つる声(コヱ)、行路(みち)に満てり」*万葉集〔八C後〕五・八九二「楚(しもと)取る 里長(さとをさ)が許恵(コヱ)は 寝屋処まで 来立ち呼ばひぬ〈山上憶良〉」*枕草子〔一〇C終〕五四・小舎人童「こゑをかしうて、かしこまりて物などいひたるぞらうらうじき」*源氏物語〔一〇〇一(長保三)〜一四頃〕常夏「このもののたまふこゑを、すこしのどめて聞かせたまへ」*方丈記〔一二一二(建暦二)〕「なげきせちなるときも、こゑをあげてなくことなし」*米沢本沙石集〔一二八三(弘安六)〕一・五「或偉(あるとき)般若台の道場の虚空に御音(コヱ)計にして御詠ありけり」*徒然草〔一三三一(元弘一/元徳三)頃〕一「声をかしくて拍子とり」*中華若木詩抄〔一五二〇(永正一七)頃〕上「紅紫の花を売る声」*随筆・翁草〔一七九一(寛政三)〕一七二「声いと高うすめるをの子の色くろきはなく、髭多きが髪多きはまれなり」(ロ)鳥や獣の鳴き声。動物が喉頭の発声器を、また、鳥類が喉頭の鳴器を振動させて出す音。繁殖期に雄が雌を求めて鳴くときのものと、仲間との合図や敵に対する威嚇のときのものなどがある。*万葉集〔八C後〕五・八三四「梅の花今盛りなり百鳥の己恵(コヱ)の恋(こほ)しき春来たるらし〈(氏未詳)肥人〉」*古今和歌集〔九〇五(延喜五)〜九一四(延喜一四)〕夏・一四六「ほととぎすなく声きけばわかれにしふるさとさへぞこひしかりける〈よみ人しらず〉」*いほぬし〔九八六(寛和二)〜一〇一一頃〕「たづはるかにて友をよぶ声もさらにいふべきかたもなう哀なり」*徒然草〔一三三一(元弘一/元徳三)頃〕一〇四「このたびは鳥も花やかなる声にうちしきれば」*歌謡・閑吟集〔一五一八(永正一五)〕「み山烏のこゑまでも 心あるかと物さびて しづかなる霊地哉」*ロドリゲス日本大文典〔一六〇四(慶長九)〜〇八〕「ヤマ フカク ナリツツ シカノ coye(コエ) タエテ」(ハ)昆虫が、はねや肢を摩擦させ、または腹面にある発音器から出す音。むしのね。*万葉集〔八C後〕一五・三六一七「岩走る滝もとどろに鳴く蝉の許恵(コヱ)をし聞けば都し思ほゆ〈大石䒾麻呂〉」*古今和歌集〔九〇五(延喜五)〜九一四(延喜一四)〕秋上・二〇二「あきののに人松虫のこゑすなり我かとゆきていざとぶらはん〈よみ人しらず〉」*方丈記〔一二一二(建暦二)〕「秋はひぐらしのこゑ耳に満てり」*俳諧・奥の細道〔一六九三(元禄六)〜九四頃〕立石寺「閑さや岩にしみ入蝉の声」*和漢三才図会〔一七一二(正徳二)〕五三「松虫〈略〉按松虫蟋蟀之類、褐色而長髭腹黄在二野草及松杉籬一、夜振レ羽鳴声如レ言二知呂林古呂林一甚優美也」*唱歌・虫のこゑ(文部省唱歌)〔一九一〇(明治四三)〕「あれ松虫が鳴いてゐる。ちんちろちんちろ ちんちろりん〈略〉あきの夜長を鳴き通す ああおもしろい虫のこゑ」(2)物が振動しておきる音。(イ)琴、笛などの楽器や鐘、鈴の音。また、それらの合奏の音。楽音(がくおん)。がくのね。音楽。*日本書紀〔七二〇(養老四)〕雄略八年二月(前田本訓)「高麗の王、即ち軍兵を発して、筑足流城(つくそくろさし)に屯聚(いは)む。〈略〉遂に歌儛して楽(コヱ)を興す」*源氏物語〔一〇〇一(長保三)〜一四頃〕帚木「律のしらべは、女のものやはらかにかき鳴らして簾のうちより聞えたるも今めきたる物のこゑなれば」*源氏物語〔一〇〇一(長保三)〜一四頃〕明石「三昧堂近くて、鐘の声松風に響きあひて」*今昔物語集〔一一二〇(保安元)頃か〕五・四「止事无(やむごとなき)聖人也と云ふとも、色にめでず、音(こゑ)に不耽(ふけら)ぬ者は不有じ」*平家物語〔一三C前〕一・祇園精舎「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり」(ロ)物がぶつかったり、すれたり、落ちたりなどしておきる音。ものおと。噪音。ひびき。おと。*万葉集〔八C後〕二・一九九「ととのふる 鼓(つづみ)の音は 雷(いかづち)の 声と聞くまで〈柿本人麻呂〉」*源氏物語〔一〇〇一(長保三)〜一四頃〕明石「あらき浪のこゑ」*新古今和歌集〔一二〇五(元久二)〕賀・七一六「ちとせふるをのへの松は秋風のこゑこそかはれ色はかはらず〈凡河内躬恒〉」*謡曲・舟弁慶〔一五一六(永正一三)頃〕「思ひも寄らぬ浦波の声を知るべに、出で舟の」*中華若木詩抄〔一五二〇(永正一七)頃〕上「昨夜までは、寒雨の声かと疑いたる葉声が、今夜は春と変じて」*仮名草子・伊曾保物語〔一六三九(寛永一六)頃〕中・二五「その柱の河におち入音、底に響きておびただし、此声におそれて、蛙ども水中に沈み隠る」*随筆・畏庵随筆〔一八二一(文政四)〕上「碪(きぬた)うつ声に民の家々其いとなみのをこたらぬぞしらる」(3)発音のぐあい。語調。アクセント。↓声うちゆがむ・声ひがむ。(4)曲調。声調。*梁塵秘抄口伝集〔一二C後〕一〇「初積、大曲、足柄、長歌を初めとして、様々のこゑ変はる様の歌田歌に至るまで、記し了(を)はりぬ」*体源鈔〔一五一二(永正九)〕一〇末・律呂合陰陽声事「内外曲の声の明に必呂律あり」(5)漢字の音(おん)。*宇津保物語〔九七〇(天禄元)〜九九九(長保元)頃〕蔵開中「例の花宴などの講師の声よりは、少しみそかに読ませ給ふ。〈略〉一度は訓(くに)、一度はこゑに読ませ給て、おもしろしと聞し召すをは誦(ずん)ぜさせ給ふ」*今昔物語集〔一一二〇(保安元)頃か〕一二・三四「日夜に法花経を読誦するに、初めは音(こゑ)に読む、後には訓(よみ)に誦す」*名語記〔一二七五(建治元)〕三「これは、こゑ、訓ともに、いづれをももちゐたる也」*東野州聞書〔一四五五(康正元)頃〕三「立春、立秋、初冬、如レ此類二字の時はくんに読む。三字、四字あればこゑによむ」(6)神、魂などが人に告げることば。(7)人々の、表立たない意見。うわさ。評判。また、人々の意見。*ものいわぬ農民〔一九五八(昭和三三)〕〈大牟羅良〉日本のチベット・七「いわゆるものいわぬ農民の声を活字にしている私の仕事の上に」*彼の歩んだ道〔一九六五(昭和四〇)〕〈末川博〉三「『末川、きさまは、法科へ行け。きさまは、工科向きではない』という声が圧倒的になった」(8)季節や月、またある状態の、それとわかるような感じ。また、それが近づいてくる気配。「秋の声」*泊客〔一九〇三(明治三六)〕〈柳川春葉〉一「今年も十二月の声を聞くと、最(も)う何処と無く世の中がさわつき出して」(9)(「こえ(声)を上げる」の略)弱音(よわね)をはくこと。閉口すること。*洒落本・短華蘂葉〔一七八六(天明六)〕「ヤア半時うつじゃないかサアこへじゃこへじゃ」*新撰大阪詞大全〔一八四一(天保一二)〕「こへとは あやまるといふこと」【語誌】⇐「おと(音)」の語誌。【方言】(1)言葉。《くい》沖縄県石垣島996(2)消息。安否。《くぃい》沖縄県首里993【語源説】(1)発して言語となることから、コトアヘ(言合)の約転か〔大言海〕。(2)コトヱ(言笑)の義〔名言通・和訓栞〕。(3)キコエの上略〔和句解・日本釈名〕。(4)コエ(音)はキコエ(聞得)の上略。また、コヘ(声)の和訓はコエ(音得)〔紫門和語類集〕。(5)すべての物は声で聞き分けられることから、コトワケ(言分)の反〔名語記〕。(6)コヒワメキ(乞叫)の義〔日本語原学=林甕臣〕。(7)コエ(呼好)の義か〔和語私臆鈔〕。【発音】〈なまり〉コイ〔NHK(山梨)・飛騨・伊賀・播磨・鳥取・愛媛周桑・長崎〕コー〔鳥取〕〈標ア〉[コ]〈ア史〉平安来○◎〈京ア〉(エ)【上代特殊仮名遣い】コヱ(※青色は甲類に属し、赤色は乙類に属する。)【辞書】字鏡・名義・和玉・文明・伊京・明応・天正・饅頭・黒本・易林・日葡・書言・ヘボン・言海【表記】【声】名義・和玉・文明・伊京・明応・天正・饅頭・黒本・易林・書言・ヘボン・言海【音】名義・和玉・文明・明応・天正・饅頭・黒本・易林・書言【風】名義・和玉【䎷・唎】名義【譻・嚖・罃・𠷓・龕・鉿】和玉

岩波『広辞苑』第七版
こえ【声】人や動物が発声器官から出す音。音声。地蔵十輪経元慶点「声論の八の音に至りて」。「大きなー」音声学上、声帯の振動を伴う呼気。有声音。息。物の振動から発する音。ひびき。「鐘のー」「白波のー」ことばの発し方。語調。アクセント。「なまりのあるー」意見。考え。「「庶民のー」「読者のー」季節・時期などが近づくけはい。「秋のー」「師走のーをきく」漢字の音。宇津保蔵開中「一たびは訓、一たびはーによませ給ひて」

大槻文彦編『言海』

こゑ(名)【聲】〔言罅(コトエ)ム意カ〕(一)物物相觸ルルニ生ジテ、空氣ニ傳ヘ、耳ニ聞ユルモノ。オト。ネ。ヒビキ。鳴(ナリ)。(二)動物ノ呼吸器ニ發シテ、耳ニ聞クベキ音(オト)。人ニテハ、音(オン)トイヒ、言葉トイヒテ、意味ヲナシ、彼此ノ情ヲ通ズ。〔13979:三七五頁二段〕
新編『大言海』
こ(コ)-え(ヱ)(名)【聲】〔言合(ことあへ)ノ約轉ナドニテ(事(コト)取(トリ)、ことり。占合(ウラアへ)、うらへ)撥シテ、言語トナル意ニテモアルベキカ〕(一)人類の撥聲器ヨリ出ヅル音(オト)。肺臓内ノ空氣、聲帯ニ觸レテ、喉、口ニ出ヅ、音(オン)トモ云ヒ、又、言葉トナリテ、意味ヲ成シ、彼此ノ情ヲ通ズ。鳥獸蟲魚ノ撥スルニモ、云フ。(二)言(コト)。言葉。モノイヒ。(三)漢字の音(オン)。(訓(ヨミ)に對ス)卽チ、支那ノ言葉ナリ。大學寮ニ音博士(コヱノハカセ)アリ、漢音(カンオン)ヲからごゑ(エ)ト云ヒ、吳音ヲやまとごゑト云ヒ、對馬音(ツシマゴヱ)モアリ。(漢音ノ條ヲ見ヨ)(四)非情ノ物物、相、觸レテ發スル音(オト)。音(ネ)。鳴(ナリ)。

次に「かなきりごゑ【金切聲】」を用意した。

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿