2017/10/11~2023/10/16更新
あぢ【鯵】『大言海』
萩原義雄識
大槻文彦『大言海』〔明治二二年五月刊〕
あぢ〔名〕【鯵】〔『倭訓栞』あぢ、『新撰字鏡』に、鯵を訓ぜり、『万葉集』に、味と書けり、味の佳なるを称するなるべし」いかがあるべき〕海産の魚。状、鯖(さば)に似て小さく、長さ、二三寸より尺に至る、鱗なくして、両面の腮(えら)の下より尾まで、線(すぢ)をなして、鱗の如きもの折れて並ぶ、これをゼイゴ、又、ゼンゴ(竹莢)といふ、背、青くして赤みあり、腹は微白なり、夏秋、多く、肉、美なり。*字鏡72「鯵、阿地」*本草和名下25「鯵、阿知」(倭名抄、同じ)竹莢魚〔一八頁中段〕
小学館『日本大百科全集』
アジ あじ/鰺jack mackerel 英語 horse mackerel 英語
硬骨魚綱スズキ目アジ亜目アジ科Carangidaeの総称であるが、一般にはこのうちアジ亜科のものをさす。狭義にはそのうちのマアジをさすことが多い。スズキ目のなかで、前上顎骨(じようがくこつ)が伸出でき、背びれ、臀(しり)びれ、腹びれにとげがあり、鱗(うろこ)が小さいか、まったくないものをアジ亜目とし、アジ亜目のなかで、臀びれの前方に二本のとげをもつものをアジ科とする。さらにアジ科のうち、側線に稜鱗(りようりん)(ぜんご、ぜいごともいう)と称する一列の硬くてとげのある鱗をもつものをアジ亜科とする。アジ亜科は、背びれと臀びれの後方に小離(はなれ)びれがあるかないか、側線のどの部分に稜鱗があるか、また体形、背びれや臀びれの前部軟条の長短などによって、ムロアジ属、オニアジ属、マアジ属、メアジ属、カイワリ属、ヒシカイワリ属、クボアジ属、イトヒキアジ属などに分けられる。[鈴木清]
《補助資料》
小学館『日本国語大辞典』第二版
あじ[あぢ]【鰺】〔名〕(1)アジ科の魚の総称。体側に「ぜんご」とよばれるうろこの変形した堅い突起が一列に並んでいる。マアジ、ムロアジ、シマアジなど種類が多く、温帯から熱帯の海に広く分布。多くの種が食用になるが、大形種の中にはシガテラ毒をもつものもある。*博物図教授法〔一八七六(明治九)〜七七〕〈安倍為任〉二「竹筴魚(アヂ)は諸国の海に産す。品類多し。其内むろあぢと称するは形小なれども味ひ美なり。播州室津の名産とす」(2)アジ科のマアジの呼称。体長は約三〇センチメートルになる。背は淡灰色に青みをおび、腹部は銀白色。水産上重要な魚で、日本各地の沿岸で多量にとれる。和名マアジ。学名はTrachurus japonicus《季・夏》*新撰字鏡〔八九八(昌泰元)〜九〇一(延喜元)頃〕「鰺 阿知」*今昔物語集〔一一二〇(保安元)頃か〕二八・五「鰺の塩辛・鯛の醤(ひしほ)などの諸に塩辛き物共を盛たり」*俳諧・享和句帖〔一八〇三(享和三)〕三年六月「活鰺や江戸潮近き昼の月」*風俗画報‐二五四号〔一九〇二(明治三五)〕漁業「新島〈略〉伊豆七島日記に云〈略〉此島八丈三宅とかはりて魚多く、大かた江戸にかはる事なし。あぢ、むろあぢ、ことにおほし」【語源説】(1)アヂ(味)ある魚の意から〔和語私臆鈔・俚言集覧・和訓栞・本朝辞源=宇田甘冥〕。(2)アラヂ(粗路)の義。その背の形から名づけられた〔名言通〕。(3)イラモチ(苛持)の義〔日本語原学=林甕臣〕。【発音】〈なまり〉アズ〔富山県・石川〕ワジ〔紀州〕アッ〔鹿児島方言〕〈標ア〉[ア]〈ア史〉平安●○〈京ア〉[ア]【辞書】字鏡・和名・色葉・名義・下学・和玉・文明・伊京・明応・天正・饅頭・黒本・易林・日葡・書言・ヘボン・言海【表記】【鰺】字鏡・和名・色葉・名義・下学・文明・伊京・明応・天正・饅頭・黒本・易林・書言・ヘボン・言海【鱢】和名・和玉【鯩】名義【𩷕】下学【鰭】和玉【図版】鰺
この『日国(につこく)』〈小学館『日本国語大辞典』の略称〉第二版には、これ以前の『言海』末尾に「竹莢魚」と記録されていて、詳しい説明はない。と言うことは、近代国語辞典の初めといま現在とを読み解く上で、その語内容についての意義説明・語源・用例などを比較検証していくうえで欠かせない内容の一つとして漢語名の受容性について考察することが茲には有している。実際に、「あじ」という魚名を中国漢字で表記するとき、『言海』ではこうして末尾に「竹莢魚」と記載しているところを『日国』第二版では、実際の典拠とも言える安倍為任著『博物図教授法』〔一八七六(明治九)年〜七七年成る〕卷二に、「竹筴魚(アヂ)は諸国の海に産す。品類多し。其内むろあぢと称するは形小なれども味ひ美なり。播州室津の名産とす」 を以て、直接引用していることに氣づく。また、「ゼイゴ」「ゼンゴ」という「竹筴」に似た魚体の特徴から、この「竹筴魚(アヂ)」という漢字の標記語命名と此の用例、安倍為任著『博物図教授法』では、どのような資料を基本に記載しているのかまで溯って、その典拠を明らかにすることが必要となる。此の点については、現行の『日国』第二版にも、全く明らかにされていない。その意味で、魚名「あぢ」と標記漢字「竹筴魚(アヂ)」についての検証しておくことが求められてくる。
あぢ【鯵】『大言海』
萩原義雄識
大槻文彦『大言海』〔明治二二年五月刊〕
あぢ〔名〕【鯵】〔『倭訓栞』あぢ、『新撰字鏡』に、鯵を訓ぜり、『万葉集』に、味と書けり、味の佳なるを称するなるべし」いかがあるべき〕海産の魚。状、鯖(さば)に似て小さく、長さ、二三寸より尺に至る、鱗なくして、両面の腮(えら)の下より尾まで、線(すぢ)をなして、鱗の如きもの折れて並ぶ、これをゼイゴ、又、ゼンゴ(竹莢)といふ、背、青くして赤みあり、腹は微白なり、夏秋、多く、肉、美なり。*字鏡72「鯵、阿地」*本草和名下25「鯵、阿知」(倭名抄、同じ)竹莢魚〔一八頁中段〕
小学館『日本大百科全集』
アジ あじ/鰺jack mackerel 英語 horse mackerel 英語
硬骨魚綱スズキ目アジ亜目アジ科Carangidaeの総称であるが、一般にはこのうちアジ亜科のものをさす。狭義にはそのうちのマアジをさすことが多い。スズキ目のなかで、前上顎骨(じようがくこつ)が伸出でき、背びれ、臀(しり)びれ、腹びれにとげがあり、鱗(うろこ)が小さいか、まったくないものをアジ亜目とし、アジ亜目のなかで、臀びれの前方に二本のとげをもつものをアジ科とする。さらにアジ科のうち、側線に稜鱗(りようりん)(ぜんご、ぜいごともいう)と称する一列の硬くてとげのある鱗をもつものをアジ亜科とする。アジ亜科は、背びれと臀びれの後方に小離(はなれ)びれがあるかないか、側線のどの部分に稜鱗があるか、また体形、背びれや臀びれの前部軟条の長短などによって、ムロアジ属、オニアジ属、マアジ属、メアジ属、カイワリ属、ヒシカイワリ属、クボアジ属、イトヒキアジ属などに分けられる。[鈴木清]
《補助資料》
小学館『日本国語大辞典』第二版
あじ[あぢ]【鰺】〔名〕(1)アジ科の魚の総称。体側に「ぜんご」とよばれるうろこの変形した堅い突起が一列に並んでいる。マアジ、ムロアジ、シマアジなど種類が多く、温帯から熱帯の海に広く分布。多くの種が食用になるが、大形種の中にはシガテラ毒をもつものもある。*博物図教授法〔一八七六(明治九)〜七七〕〈安倍為任〉二「竹筴魚(アヂ)は諸国の海に産す。品類多し。其内むろあぢと称するは形小なれども味ひ美なり。播州室津の名産とす」(2)アジ科のマアジの呼称。体長は約三〇センチメートルになる。背は淡灰色に青みをおび、腹部は銀白色。水産上重要な魚で、日本各地の沿岸で多量にとれる。和名マアジ。学名はTrachurus japonicus《季・夏》*新撰字鏡〔八九八(昌泰元)〜九〇一(延喜元)頃〕「鰺 阿知」*今昔物語集〔一一二〇(保安元)頃か〕二八・五「鰺の塩辛・鯛の醤(ひしほ)などの諸に塩辛き物共を盛たり」*俳諧・享和句帖〔一八〇三(享和三)〕三年六月「活鰺や江戸潮近き昼の月」*風俗画報‐二五四号〔一九〇二(明治三五)〕漁業「新島〈略〉伊豆七島日記に云〈略〉此島八丈三宅とかはりて魚多く、大かた江戸にかはる事なし。あぢ、むろあぢ、ことにおほし」【語源説】(1)アヂ(味)ある魚の意から〔和語私臆鈔・俚言集覧・和訓栞・本朝辞源=宇田甘冥〕。(2)アラヂ(粗路)の義。その背の形から名づけられた〔名言通〕。(3)イラモチ(苛持)の義〔日本語原学=林甕臣〕。【発音】〈なまり〉アズ〔富山県・石川〕ワジ〔紀州〕アッ〔鹿児島方言〕〈標ア〉[ア]〈ア史〉平安●○〈京ア〉[ア]【辞書】字鏡・和名・色葉・名義・下学・和玉・文明・伊京・明応・天正・饅頭・黒本・易林・日葡・書言・ヘボン・言海【表記】【鰺】字鏡・和名・色葉・名義・下学・文明・伊京・明応・天正・饅頭・黒本・易林・書言・ヘボン・言海【鱢】和名・和玉【鯩】名義【𩷕】下学【鰭】和玉【図版】鰺
この『日国(につこく)』〈小学館『日本国語大辞典』の略称〉第二版には、これ以前の『言海』末尾に「竹莢魚」と記録されていて、詳しい説明はない。と言うことは、近代国語辞典の初めといま現在とを読み解く上で、その語内容についての意義説明・語源・用例などを比較検証していくうえで欠かせない内容の一つとして漢語名の受容性について考察することが茲には有している。実際に、「あじ」という魚名を中国漢字で表記するとき、『言海』ではこうして末尾に「竹莢魚」と記載しているところを『日国』第二版では、実際の典拠とも言える安倍為任著『博物図教授法』〔一八七六(明治九)年〜七七年成る〕卷二に、「竹筴魚(アヂ)は諸国の海に産す。品類多し。其内むろあぢと称するは形小なれども味ひ美なり。播州室津の名産とす」 を以て、直接引用していることに氣づく。また、「ゼイゴ」「ゼンゴ」という「竹筴」に似た魚体の特徴から、この「竹筴魚(アヂ)」という漢字の標記語命名と此の用例、安倍為任著『博物図教授法』では、どのような資料を基本に記載しているのかまで溯って、その典拠を明らかにすることが必要となる。此の点については、現行の『日国』第二版にも、全く明らかにされていない。その意味で、魚名「あぢ」と標記漢字「竹筴魚(アヂ)」についての検証しておくことが求められてくる。
漢字「竹莢魚」の典拠を探る
http://www.zukan-bouz.com/syu/%E3%83%9E%E3%82%A2%E3%82%B8
【漢字】 「真鰺」、「鰺」。『延喜式』では、「阿遅」と表記します。
【語源】 一般的な名称だったもの。アジ類の代表的なもので、もっともたくさん見かけるものの意味。
⑴ 「味がいい」から「あじ」。
⑵ 「鰺」の文字は「参」が旧暦の三月、太陽暦の五月にあたり。この頃が「マアジ」の旬ということからくる。静岡県沼津市の干物の加工業者の話。
⑶ 他には「味の良さから」「あじ」となった。
⑷ 『新釈魚名考』に「海岸近くでも容易に、しかも大量にとれたために「あじ」の魚名は古くからあり〈あ〉は愛称語、〈じ〉〈ぢ〉は魚名語尾であり〈あじ〉〈アヂ〉とは美味な魚の意味だろう」。
⑸ 島根県で棘のあるイトヨを「川あじ(カワアジ、カワアヂ)」という。アヂは。「かじける(痩せ細る)」のカヂ、楮(カヂ コウゾ)の「紙の繊維=線状・筋」という語の変化で細り、とがりの派生で「とがり」、「とげ」を表す。アヂ(アジ)は棘のある魚。
と記載するが、此処にも「竹莢魚」の語例は茲には見出せない。長崎県対馬産の真鯵は対馬海流の豊富な海水ミネラルを含み、質の良い旨みが凝縮されていている。
http://www.zukan-bouz.com/syu/%E3%83%9E%E3%82%A2%E3%82%B8
【漢字】 「真鰺」、「鰺」。『延喜式』では、「阿遅」と表記します。
【語源】 一般的な名称だったもの。アジ類の代表的なもので、もっともたくさん見かけるものの意味。
⑴ 「味がいい」から「あじ」。
⑵ 「鰺」の文字は「参」が旧暦の三月、太陽暦の五月にあたり。この頃が「マアジ」の旬ということからくる。静岡県沼津市の干物の加工業者の話。
⑶ 他には「味の良さから」「あじ」となった。
⑷ 『新釈魚名考』に「海岸近くでも容易に、しかも大量にとれたために「あじ」の魚名は古くからあり〈あ〉は愛称語、〈じ〉〈ぢ〉は魚名語尾であり〈あじ〉〈アヂ〉とは美味な魚の意味だろう」。
⑸ 島根県で棘のあるイトヨを「川あじ(カワアジ、カワアヂ)」という。アヂは。「かじける(痩せ細る)」のカヂ、楮(カヂ コウゾ)の「紙の繊維=線状・筋」という語の変化で細り、とがりの派生で「とがり」、「とげ」を表す。アヂ(アジ)は棘のある魚。
と記載するが、此処にも「竹莢魚」の語例は茲には見出せない。長崎県対馬産の真鯵は対馬海流の豊富な海水ミネラルを含み、質の良い旨みが凝縮されていている。
これを大陸側からは、「竹莢魚」と呼称しだしたのか、見極めていくことになる。では、いつから本邦では「竹莢魚」と呼称しだしたのか、次に探らねばなるまい。
その先述となる文献書が安倍為任著『博物図教授法』〔一八七六(明治九)年〜七七年成る〕卷二となる。
一 竹筴魚(アヂ)は諸國の海に産す。品類多し。其内ムロアヂと称(しよう)するは形(かたち)小なれども味ひ美(び)なり。播州(ばんしう)室津(むろつ)の名産(めいさん)とす。〔二十六オ6〕
とあって、単漢字「鯵」の表記は茲では用いられていない。『博物図教授法』という特殊な生物学研究領域での資料として、この名称がその後どう継承されているのかを見極めていくことになる。
その先述となる文献書が安倍為任著『博物図教授法』〔一八七六(明治九)年〜七七年成る〕卷二となる。
一 竹筴魚(アヂ)は諸國の海に産す。品類多し。其内ムロアヂと称(しよう)するは形(かたち)小なれども味ひ美(び)なり。播州(ばんしう)室津(むろつ)の名産(めいさん)とす。〔二十六オ6〕
とあって、単漢字「鯵」の表記は茲では用いられていない。『博物図教授法』という特殊な生物学研究領域での資料として、この名称がその後どう継承されているのかを見極めていくことになる。
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