吾亦紅
吾亦紅が今年も咲いている
「我もまた紅」、素朴で地味なこの花にこんな情熱的な名前がついていた
母の体が弱ってきたので、ふるさとへ連れていったとき、吾亦紅がたくさん咲いていた
八ヶ岳に吾亦紅はとても似合っていた
実家を守っている従妹と父も一緒に花の枝おばあさんのお墓参りをしたり、
ミニトマトやキュウリを採ったりした
どれだけ母の失われた記憶に役立ったのかわわからないが、確かに喜んでいた
冬になると八ヶ岳おろしが吹きすさび、
手も顔もあかぎれて真っ赤なほっぺをしていた少女のころの母
ほんのひと時、温かい陽だまりの花野で薄、秋桜、女郎花、百日草、松虫草と両手にあふれんばかりに
とってうれしそうにしていた母
もう25年がたつ
この一文を読んで覚えていてくれた従妹から吾亦紅の一枝そっとさしだされた
若神子の88歳の従兄とも会ってきた
彼は何も覚えていなかった
(花300)