医療制度改革の行方 11月14日

現役なみの収入のある70歳以上の高齢者の医療費の窓口負担が、現行の2割から3割に引き上げられることが決まった。現役なみの収入とは、年収620万円以上をさすが、来年度からそれは、520万円に引き下げられる。この場合、一気に1割から3割に負担が引き上げられる人々が約80万人存在するため、2年間は2割負担とする移行期間を設けることが決まった。

病院を受診する人の窓口負担が引き上げられることは、一部理にかなっている。何故なら、幾つになっても、殆ど病院にかかることのない人は、保険料をかけ捨てているようなものだからだ。厚労省は、そんな、ある意味、健康を維持する努力をはらう人々への、保険料の還付制度の導入の検討にも入っている。不摂生をしても中には丈夫な人はいるかもしれないが、大抵の人は、体に良い生活習慣の継続のために、物心ともに大きなエネルギーを投入している。従って、特に生活習慣病のような、ある程度生活習慣によって左右される疾病の場合には、患者負担を重くする措置は、人々の健康管理の促進にもつながる、説得力のある対応といえる。生活習慣病に限り、収入にかかわらずすべての高齢者の窓口負担を一律に引き上げても良いのではないかと、考えたくもなる。勿論、医療のお世話にならない人々への還付金制度も、併せて実行すべきだ。

また、医療費をGDPなどマクロ経済指標に連動させる諮問会議案は、却下される見通しだ。経済の大きさと医療の需要・供給は、まったく関連性がない。与党は、患者負担増よりも、診療報酬の引き下げ幅を検討すべきだと強調しているが、そのことが医療に携わる人々の人件費抑制につながり、医療サービスの質の低下をもたらさないよう配慮しなければならない。

最も合理的な方法は、薬価の高い先発品よりもジェネリック医薬品にプライオリティをもたせることだ。医薬品の開発には、莫大な費用がかかる。費用を回収するために一定の特許期間中は、ジェネリック医薬品の発売を禁止する方法は必要だが、ジェネリック医薬品が発売された医薬品については、医師が積極的にジェネリック医薬品を処方できる体制をつくるべきだと私は思う。

厚労省は、先発品の記載であってもジェネリック医薬品に変更して良いか否か、新たに処方箋にチェック欄を設ける案を打ち出した。ジェネリック医薬品は先発品と比較して医薬品名に対する馴染みが薄いことと、ヒット医薬品については、雨後の筍のごとくジェネリック医薬品が発売されるため、日本でなかなかジェネリック医薬品制度が普及しないことに対する措置だ。

ジェネリック医薬品にプライオリティを置く処方に転換すれば、数兆円規模での医療費抑制につながることは明白なのだから、政府の頑張りを期待する。厚労省は、自らの天下り先である先発医薬品メーカーに痛みを伴う改革には、二の足を踏むだろう。改革を断行するには、患者利益を最優先に考えることのできる、しがらみのない人材による、勇気と実行力が必要なのだ。

最初の1,000円は自己負担という免責制度の導入も、今回は見送られそうだ。街角薬局が、地域の健康相談窓口として、十分に職責を全うできる体勢を確立してからでなければ、免責制度導入による受診抑制は、デメリットにしかなり得ない。薬剤師の生涯教育の充実をはかり、街角薬局がプライマリーケアの出発点となるような制度設計こそが、医療費抑制のために最も有効な方策だと、私は考える。
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