タミフルのカプセル 11月23日

新型インフルエンザのパンデミックな流行に備えて、タミフルはその特効薬とされ世界中の注目を集めている。現在、製造販売の権利を持つスイスのロッシュ社は勿論のこと、ラムズフェルド米国防長官をはじめ米国の政治家によるインサイダーが噂される、タミフルを開発し特許権を持つギリアド社の株価はうなぎのぼり。「新型インフルエンザ対策=タミフル」という構図の裏には、米国の国家戦略が見え隠れする。

タミフルの剤形は、子ども用のドライシロップ(顆粒のようなもの)と大人用のカプセル剤とがあるが、ゼラチンカプセルのタミフルは、そのゼラチンの原料を以前は米国産のウシに依存していたことがわかっている。タミフルの場合、日本のカプセルメーカーが製造したカプセルを中外製薬がスイスに持ち込み、薬を充填し日本に持ち帰るという方法をとっている。昨年のBSE騒動より以前は、米国産ウシをゼラチンの原料に使用していたが、BSE騒動をきっかけに、「BSEの発生した米国・カナダ・日本以外のウシに切り替えた」と中外製薬は公表している。更に、ゼラチン精製過程でアルカリ処理を施すので、仮にBSE感染源が混じっていたとしても、その段階でリスクは消えるとしている。

これに関して、2003年、抗HIV薬フォートベイスカプセルの改訂にともない、同社は次のようにコメントしている。
厚労省通知(平成15年4月14日付け)により医薬品・医療用具等へのウシ由来原料としての脊髄の使用が禁止された。ただし、低リスク国由来原料を使用しアルカリ処理したゼラチンは、その限りでないとされ、本剤は低リスク国であるアメリカを原産とする牛の脊髄を含む骨を原料とし、製造工程で酸処理を行ったゼラチンを使用している。EU委員会科学運営委員会では、酸処理とアルカリ処理との感染物質に対する除去率は、ほぼ同等と評価されている。加えて、同年8月に出された厚労省通知が示す安全ラインを本カプセルはクリアしていると判断する・・・
中外製薬はこのように述べ、その安全性を主張したのだ。

その後の平成17年3月31日の厚労省告示・生物由来原料基準 第4「動物由来製品原料総則」の1『反芻動物由来原料基準』によって、使用可能な原産国のリストから、BSEが発生したアメリカは除かれることとなった。しかし、反芻動物に由来する原料であってもアルカリ処理してあれば、その限りではないとされ、タミフルについては、米国・カナダ・日本以外の原産国(同告示に準じた原産国を使用しているとみなさざるを得ない)に切り替えた上に、アルカリ処理したゼラチンを使用しているので、BSEのリスクはないとするのが中外製薬の主張である。

当該厚労省告示では、同時に、品質及び安全性の確保上必要な情報が確認できるよう、
ア 原産国
イ 原材料を作成した年月日
ウ 原材料の由来となる反芻動物の飼育又はと畜の状況
エ 原材料について伝達性海綿状脳症を防止するための処理及び作業の経過
オ 原材料のロット番号
について、記録・保存するよう義務付けている。 アとウについては、トレーサビリティそのものであり、タミフルカプセルが、ゼラチンの原料を米国産牛からいつ切り替えたのか、その時期が重要なポイントとなる。更に、アルカリ処理すれば米国産牛を使用しても良いと解釈できるにもかかわらず、何故米国産牛の使用を中止したのか、確認すべき点は他にもある。

タミフルの製造には6~8ヶ月間を要するが、原料の精製過程を考慮するとタミフルが市場に出回るまでには、トータルで2~3年を要するそうだ。カプセルへの充填は最終工程だが、現在市場に出回っているタミフルのカプセルのトレーサビリティを知ることは、国民の安全の確保の観点からも厚労省に課された使命と責任であると私は考える。

英国に1日でも滞在した人の献血を禁止するくらい慎重な一面を持つ反面、医薬品や牛肉に関する規制にはあまりにも緩慢な日本政府。牛肉は消費者に選択の権利が残されているが、医薬品となるとそうはいかない。BSEは、変異型クロイツフェルト・ヤコブ病を発症すると脳症の果てに致死するという、重大なリスクをはらんでいる。医薬品に副作用はつきものだが、ことBSEに係る問題に関して、ベネフィットがリスクを上回ると単純に判断することはできないのだ。

政府の責任として、抗リウマチ薬エンブレルにしてもタミフルカプセルにしても、100%BSEのリスクのないことを証明することが必要だと私は考えている。天下り先である製薬企業の利益を優先するあまり、承知の上でBSEリスクを看過することは、薬害エイズに匹敵するくらい反人道的な行為であり政府の傲慢だと考えざるを得ない。安易に例外が認められ、例外がいつしか本流にならぬよう、リスクに厳格に対応する姿勢が、政府には求められるのだ。
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