ウクライナでの中国DJI社製ドローン使用が、
ロシアによるミサイル誘導に使われている
──ウクライナ副首相のツイートに、ドローン最大手の中国DJI社が反応。技術的に可能な範囲で協力を打診したが、実効性には疑念も残る
ウクライナのフョードロフ副首相はTwitter上で、ドローン最大手の中国DJI社を名指しし、ロシア軍がミサイルの誘導に同社製品を使っていると指摘した。
●動画:中国DJI社製ドローン使用が、ロシアの攻撃を誘導する......
フョードロフ氏は「彼ら(ロシア軍)はミサイルを誘導するために DJIの製品を使用している」と述べ、「@DJIGloba、あなたはこうした殺人行為の共犯者となりたいのですか?」と強く批判した。
続いて氏は、ロシアとの取引を停止し、ウクライナ領内で活動中のドローン情報を提供するほか、外国で購入されウクライナで使用されているあらゆるDJI製品を使用不能にするよう求めている。
■ DJIは代替案を打診
DJIは翌日、同社側では個別のドローンを飛行不可能にする機能を用意していないと回答した。そのうえで代替案として、「ジオフェンス」機能をウクライナ全土に適用すれば、実質的にすべてのDJI製ドローンを飛行禁止にすることはできると説明している。
同社はまた、必要であればウクライナ政府として正式に要請するよう求めた。ロシアとの深いパイプが指摘される中国に本社を置く企業としては、相当に前向きな回答となっている。 ただし、技術的制約から、高い実効性は期待できない可能性がある。
ウクライナ全土にジオフェンスを適用した場合、ウクライナ側のドローンもすべて飛行不能となるためだ。ウクライナでは軍とドローン所有者有志が協力し、ロシア軍の動向をドローン部隊で監視しているが、これが機能しなくなることを意味する。
また、ジオフェンス機能の更新にはネット接続が必須となるが、どれほどのオーナーが更新に応じるかは不透明だ。 ジオフェンスは本来、空港や原子力設備など重要施設周辺を局所的に飛行禁止にするための機能だ。同社の提案はこれをウクライナ全土に拡大して適用し、同社製ドローンを全面的に飛行不能にする内容となる。
■ パイロットの位置を一挙取得
AeroScope機能に懸念 DJI製ドローンをめぐっては、ドローン本体とパイロットの位置を収集する「AeroScope」と呼ばれる製品があり、このデータがロシア軍による攻撃に悪用される危険性が懸念されている。
DJI社は、一般のドローンユーザーを念頭に置いた安全対策として、2017年以降に出荷されたすべての同社製ドローンに飛行データの自動送信機能を付与している。ドローンの位置と速度などの飛行データと、シリアル番号およびパイロットの位置が全方位に向けて送出され、この機能はドローンが飛行している限りはオフにすることができない。
データは暗号化されているため通常は公開されないが、同社が販売するドローン検知システム「AeroScope」を購入したユーザーはこの暗号化を解除し、最大で周囲50キロ圏内のすべての同社製ドローンの飛行データを入手可能だ。
DJI社は、治安当局などに限ってAeroScopeを販売していると説明している。一台数百万円前後からと高価なこともあり一般ユーザー向けではないが、一部には富豪が入手して自宅周辺の警備に利用しているとの情報がある。
ロシア側がAeroScope製品を入手すれば、ウクライナ軍と有志協力部隊が共同して飛ばしている偵察用ドローンの位置を一挙に取得することが可能だ。 フョードロフ氏は同社に宛てた文書のなかで、「ロシア軍はシリアを通じて入手したDJI AeroScopeの機能拡張版を利用している」と指摘。
パイロットの位置を特定して攻撃するなどが可能であり、「状況は極めて危機的だ」と述べた。 そのうえでDJI社に対し、「ロシア連邦、シリア、またはレバノンで購入と初期設定がなされた、すべてのDJI製品をブロックする(使用不能にする)」よう求めている。
これに対しDJI社は、AeroScope機能については技術的に「オフにすることができない」とし、要求を断った。
■ 国際企業としての采配問われる
欧米諸国にも熱烈なユーザーを抱えながら、ロシアと繋がりの深い中国に本拠を置く同社にとって、難しい舵取りが続く。フョードロフ氏はまた、DJI社にロシアでの全ビジネスを停止するよう求めている。
英フィナンシャル・タイムズ紙は「西洋の多くのテクノロジー企業がこのような(ウクライナ政府による)嘆願に積極的に応じている」のに対し、ドローン業界首位のDJIは要求を「毅然とはねつけた」と指摘する。
ただしDJI社は、「望まれるのでしたら、この問題に関する協議を続けることも可能です」と述べ、妥協点を探る姿勢をみせている。 ある業界筋はフィナンシャル・タイムズ紙に対し、「同社は政治に巻き込まれたくないのだ」と述べ、技術企業として難しい立場に立たされたとの認識を示した。趣味用途として販売していたドローンが戦地で想定外に利用されている事態を受け、ドローンメーカーとしての対応が問われている。