学校の年度が変わるというので、ヒビキが学童に置きっぱなしになっていた荷物を持って帰ってきた。と、そのなかに1月のヒビキの誕生日にお友達が書いてくれた絵が入っていた。こっちが恐竜で、こっちがバースデーケーキなんだよ、とヒビキが解説してくれる。これがろうそくで1、2、3……ほら7本でしょ。
その子のことは私も知っていた。学校へ行くと廊下や教室のうしろの壁に39枚の絵が並べて貼ってあり、その中でずばぬけた印象を放っているのが、いつもその子の絵だったからだ。こういうことは、しかし、私にとって実はこれで3度目なのである。1度目は、高校生のときに附属の幼稚園へ約半日の保育の研修へ行ったとき。それはまだ赤ちゃん赤ちゃんした年齢のクラスだったのに、ある一人の子だけ、絵に対する取り組みが明らかに真摯なのだ。彼女は脇目もふらず、休まず描き、みんなが遊びはじめてもいっこうにやめなかった。幼児らしくもある大きく、深い絵が、大人のように完成へ向かって進んでいく。今、急に思いだしたのだが、その女の子は、あゆみちゃんという名前だったように思う。
もう一人は、私の中学生時代の友人で、その子とは精神的に何の接点もなかったのに、その子の、どちらかというと変わった絵を、私はいつも応援していた。それは要するに際だった才能であり、見間違いようがなかった。彼女は今、西海岸でタイポグラフィーが専門のグラフィックデザイナーとして働いている。そのころ彼女をたいして評価しなかった美術の先生にはとうてい巡って来ないポジションだ。
さて、ヒビキと同じクラスのその女の子の場合も、ちょっと変わった子という印象を受けなくもない。というよりも、自分が何に秀でているか、彼女自身すでにわかっている。別紙で絵に貼ってある名前は、彼女の絵にふさわしい──“はねのついたりゅう”を思わせるような──すてきな名前なのだが、本当の名前を書いてしまうわけにもいかないし、かといって別の名前はちょっと思いつけないような気がする。
「ヒビキくんのおかあさん?」
と彼女はある日、私の前に現れた。小柄で、要点だけを話すタイプだな、と思ったのを憶えている。「今日はヒビキくん学童へ来る?」
そんなふうに私たちは知り合ったわけだが、ヒビキとその子がどのように遊んだりしているのかについては、まったく知らなかった。誕生日に、彼女にカードをもらったと聞いていたのだが、それが学童にずっと置きっぱなしになっていたということも、今日まで知らなかった。
「けっこうみんなに誕生日カードをあげているんだよ」
とヒビキは言った。
「○○ちゃんはさ、絵を描くのが得意なんだよ。ヒビキが音楽が得意なように」
と私は言った。「だからみんなに絵を描いてくれるんだ」
その子のことは私も知っていた。学校へ行くと廊下や教室のうしろの壁に39枚の絵が並べて貼ってあり、その中でずばぬけた印象を放っているのが、いつもその子の絵だったからだ。こういうことは、しかし、私にとって実はこれで3度目なのである。1度目は、高校生のときに附属の幼稚園へ約半日の保育の研修へ行ったとき。それはまだ赤ちゃん赤ちゃんした年齢のクラスだったのに、ある一人の子だけ、絵に対する取り組みが明らかに真摯なのだ。彼女は脇目もふらず、休まず描き、みんなが遊びはじめてもいっこうにやめなかった。幼児らしくもある大きく、深い絵が、大人のように完成へ向かって進んでいく。今、急に思いだしたのだが、その女の子は、あゆみちゃんという名前だったように思う。
もう一人は、私の中学生時代の友人で、その子とは精神的に何の接点もなかったのに、その子の、どちらかというと変わった絵を、私はいつも応援していた。それは要するに際だった才能であり、見間違いようがなかった。彼女は今、西海岸でタイポグラフィーが専門のグラフィックデザイナーとして働いている。そのころ彼女をたいして評価しなかった美術の先生にはとうてい巡って来ないポジションだ。
さて、ヒビキと同じクラスのその女の子の場合も、ちょっと変わった子という印象を受けなくもない。というよりも、自分が何に秀でているか、彼女自身すでにわかっている。別紙で絵に貼ってある名前は、彼女の絵にふさわしい──“はねのついたりゅう”を思わせるような──すてきな名前なのだが、本当の名前を書いてしまうわけにもいかないし、かといって別の名前はちょっと思いつけないような気がする。
「ヒビキくんのおかあさん?」
と彼女はある日、私の前に現れた。小柄で、要点だけを話すタイプだな、と思ったのを憶えている。「今日はヒビキくん学童へ来る?」
そんなふうに私たちは知り合ったわけだが、ヒビキとその子がどのように遊んだりしているのかについては、まったく知らなかった。誕生日に、彼女にカードをもらったと聞いていたのだが、それが学童にずっと置きっぱなしになっていたということも、今日まで知らなかった。
「けっこうみんなに誕生日カードをあげているんだよ」
とヒビキは言った。
「○○ちゃんはさ、絵を描くのが得意なんだよ。ヒビキが音楽が得意なように」
と私は言った。「だからみんなに絵を描いてくれるんだ」