
ヒビキさんは、うっかりすると忘れてしまうが世代が違うので「戦メリ」とは言わないのであります。戦場のメリークリスマスは傑作で、いい曲なんだそうです。
「戦場のメリークリスマスは邦楽だよねー」
「えっ? なにがどこが?」
ちなみにヒビキのいう「邦楽」というのはど邦楽、つまり長唄とか歌舞伎やお能の後ろでやってる音楽のことであります。
「だってあれ(レミレラレ)のところを三味線、ポンポンと鼓だと思って聴いてみー」とヒビキさん。
うーん。むずい。
「ところで、あれどういう映画なの?」とヒビキさん。
きたきた、映画のほとんどが映画音楽とすり替わっているヒビキさん。映画はたぶん断片的にしか見たことがないのであります。だけどそう言われてみると、大島渚には失礼ながら、音楽のほうが不朽のような。
「映画音楽が名作で、長く聴かれていて、映画のほうはそうでもないということは、やっぱりあるよね」
と母親はごちゃごちゃ。で、ついでに「Calling you」をひとふし。
「知らない。ま少し知ってるかも。で?」
「たとえば『バクダッドカフェ』なんか、ヒビキでなくとも音楽しか覚えてないし。けど、それでも音楽が記憶に残ってると、映画が再映されたりするんだよね」
ごく周辺的な情報だ。
◆
という話をしたのが日曜日のことで、明けて今朝、ふと湿った初秋のグレーの空を眺めながら、その空気を切り裂いて私にもその「ポン」が聴こえてきた。いや、想像力のなかで。……なるほど、確かに邦楽かもしれないのであります。レミレラレのところをさほど持続音でなく、弾(はじ)いていると考えれば、まさしく三味線、そのうたいはじめの息の合いかたも、まさしく邦楽。そこへポンと、湿った空気を切り裂けるのは、邦楽か仙場師匠のパーカッションをおいてはあるまい。
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