(『むくげ通信』237号、2009.11.29)
ゆうさんは、むくげの会 http://ksyc.jp/mukuge/ のメンバーだ。
そこでは、2か月に一回、『むくげ通信』を発行している。
最近号にかいたものを本ブログ「研究生活」としも発表させていただく。
http://ksyc.jp/mukuge/237/hida.pdfでもみることができる。
実は、この仮説、本ブログ http://blog.goo.ne.jp/hidayuichi/d/20080623
で、少し書いたことがある。今回は、その全面展開?版である・・・。
東アジア漢字圏―中国・朝鮮・日本における
「表記方法」・「漢字発音」に関する歴史的考察 飛田雄一
たいそうな表題だ。たいそうついでに、大風呂敷を広げようと思う。
「表記方法」というのは、中国では漢字のみだが、朝鮮ではハングル、日本にはひらがな・カタカナがあるということだ。ここでは、その理由を考えてみたい。そして「漢字発音」というのは、文字通り漢字の読みという意味だ。同じ漢字でも中国・朝鮮・日本で発音が異なる。あたりまえのことと思うが、その3者の間の発音の方法?などについて考察する。ますますたいそうになってきたが、以上2点について、飛田仮説をとりあえず唱えておこうというのが本小論の目的である。あらかじめおことわりしておくが、以下の仮説は過程も結論もまったく検証されていない。はい。
ハングルは15世紀、ひらがな・カタカナは、9世紀にできたといわれている。なぜひらがな・カタカナが早くできたのか? ハングルは、遅くできた分だけ合理的にできているがなぜ15世紀までできなかったのか?
朝鮮も日本のそれぞれの文字ができる以前は、漢字を使用していた。形象文字としての漢字を中国で使用されると同じように用いられていたであろう。その後、日常の言葉との乖離もあるので、少々めんどくさくなり、漢字のまわりに何やら記号をつけて朝鮮語的、あるいは日本語的に読めるようにした。さらに、漢字を表音文字として利用するようになった。日本のそれは「万葉仮名」、朝鮮にもそれらしいのがあったと聞いている。
日本ではその万葉仮名からひらがな・カタカナが生まれる。一方、朝鮮では、だいぶ遅くなってハングルが創られる。そのタイムラグは結構長い。その理由は何か? 私は、中国との距離の差だと考える。朝鮮では、新しい中国語がどんどんと次から次へと入ってくる。それに対応するのが忙しくて(?)朝鮮独自の文字をつくる余裕がなかった。一方日本では、それなりに新しい中国語が入ってくるものの、それなりにひらがな・カタカナをつくる余裕があったのである。中国の偉い人が朝鮮にきて新しい文字をみると、「けしからん」と思ったかもしれないが、遠い日本へ中国の偉い人も余り来ないし、いちいちけしからんというような気もなかったのだ。その間に日本では、ひらがな・カタカナがそれなりに発達したのである。以上、第1の仮説は、「中国との距離が遠い日本では早くから独自の文字が作られ、近い朝鮮では、作られるのに時間がかかった」だ。
次に、「漢字発音」に関する第2の仮説に移る。
先に述べたように朝鮮には新しい中国語が次々に入ってくる。中国の歴代王朝は、殷、周、秦、前漢、新、後漢、三国、晋、南北朝、隋、唐、五代、宋、元、明、清と習ったが、それぞれの王朝によって微妙に漢字の発音も異なってきた(であろう)。日本には、時の中国の発音によって名づけられた呉音(ごおん)、漢音(かんおん)がある(唐音もあるらしい)。例えば「正」「生」の音読みは、「ショウ」「セイ」だ(音読みが3つ以上ある漢字があるような気がしたが思い出せないので次にすすむ—と思ったら横のデスクで執務中の鹿嶋さんが、「石、セキ、シャク、コク」だと教えてくれた、ありがとう)。日本の漢字における複数音読みの存在は外国人が日本語を学ぶ時のネックのひとつだ。2つ以上の音読みのある漢字が日本語にはけっこうあるのである。まして、それ以上に多い訓読みが外国人を悩ませる。
一方、朝鮮では漢字の読み方はほぼ一つだ(以下、例外を無視して一つとする)。同じ漢字圏の韓国人留学生が日本語を勉強するときにもこれがやっかいな問題になる。なぜ朝鮮では漢字の発音が一つなのか?
それは、中国の偉い人が(別に偉い人である必要はないが)朝鮮にきたとき中国の発音と違っていたりすると「きみ、その発音まちがっているよ、古い発音だよ」と、直されるのである。そこで、朝鮮では、中国の新しい発音が徐々に浸透して、古い中国語の発音は徐々に消えていく。そして一つになるのである。
また中国人が日本に行ったときにも同じように「きみ・・・」と言っただろうがそれはおそらく回数も少ないし、影響力も朝鮮におけるのにくらべて弱かったであろう。徐々に浸透したとしても、古い中国語の漢字の読みは残ったのである。すなわち、第2の「漢字発音」に関する飛田仮説は、「朝鮮では新しい中国語の発音が次々と入ってきて古い中国語の発音は駆逐されたが、日本では古い中国語の発音も残った」である。
いずれにしても中国との地理的な距離が、朝鮮と日本のこのような差異をもたらしたのだ、と私は考えている。
ここまで書いてきて、さて、これが「仮説」なのかも疑問になってきた。これが学者によって立証された「定説」であるのかもしれないという気もしてきた。が、いまさら本通信に穴をあけられない。そのまま発表させていただくことにした。ご静聴、ご静読、ありがとうございました。
大風呂敷大いに結構だとおもいます。
日本の漢字に音読みが多く、韓国語の漢字はほとんど一漢字一発音の由来は、ゆうさんのお説がかなり妥当なもののように思われます。
日本の場合呉音、漢音、唐音の順に古いみたいですね。
「明」と言う漢字は呉音で「ミョウ」漢音で「メイ」唐音で「ミン」とよむとか。
ひらがな、カタカナとハングルの発生時期の差の考察に関しては、やはりその前に両者の構造的違いに触れるべきでしょう。
ひらがなは漢字の草書体の簡略形、カタカナは漢字の部分使用です。どちらももともとあった漢字をアレンジしたものですから、比較的安易に作ることができたと思います。
それに対してハングルは、子音、母音、さらにパッチムまで使った音節語で、一種の発音記号といえます。
さらに、その音を発音する時の口や喉、声帯の形を元にして出来ています。
日本でひらがなが発生した時期に、ハングルに近いものを作りあげるのは学問的に無理があったのではないでしょうか。