◎千一夜物語 その７ ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語（４）
★ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語（第807-814夜）（「完訳 千一夜物語10」、岩波文庫）
●「ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語」（第810夜）より
３人の王子は、互いの無事の到着を祝し合ってから、一緒に食事をするため坐りました
食後、持ち帰った珍品を互いに見せ合うことにし、まず長男のアリ王子が、今坐っている羊毛でできた祈祷用の絨毯を見せました
アリ王子は弟たちに、自分のそばに坐らせ、一瞬のうちに空の旅をさせました
今度はハサン王子が言いました
「ここに、珍品とも見えない象牙の筒がございます。この見栄えのしない外見にもかかわらず、まことに不思議な品なのです。さあ、私のするように、なさってごらんなさい」
王子は、左の眼を閉じて、右の眼にその象牙の筒をあてて、言いました
「象牙の筒よ、すぐにヌレンナハール姫を見せてくれ」そして水晶を覗きました
すると、王子が突然顔色を変え
「われわれ３人が幸福を期待して、こんな辛い旅を企てたのは無駄でした。あと何分かの後には、われわれの従妹はもうこの世にいなくなるでしょう。それというのは、今従妹は病床にあって、涙にくれる侍女たちと、絶望した宦官たちに囲まれている。ではお二人御自身も、従妹の陥っているふびんなありさまをご覧になるがよい」
心の中で姫を見たいと念じなさいと教えながら、象牙の筒をアリ王子に渡しました。アリ王子は水晶を覗きますと、弟と同じように心を痛めて、後しざりしました
フサイン王子も同じ光景を見ましたが、心痛した様子を見せるどころか、笑いを浮かべて言いました
「従妹の病気は、非常に重いようでありますが、それもこれなる林檎の霊験にはさからえないでしょう」
アリ王子は
「そういうことなら、われわれは俺の絨毯を使って、大至急我らの御殿におもむき、お前は我らの愛する従妹にその林檎の救いの霊験を試みてくれまいか」３人は絨毯の上に坐って、ヌレンナハール姫の部屋に運ばれたいと、願いをいっしょに念じました。すると瞬く間に、３人は絨毯に坐ったまま、姫の部屋のまん中にいるのでした
フサイン王子は、いそいで、横たわっているヌレンナハール姫に近づき、鼻孔の下に不思議な林檎を置きました。すると姫は両眼を開き、まわりにいる人たちを驚いた眼で眺めながら、床の上に起き直りました
すでに３王子の到着と姫の快癒の知らせを受けておられた帝王は、みなつつがなく帰ったことをたいそうお悦びになりました。３人の王子は、めいめい持ち帰った珍品を帝王にお見せし、誰を選ぶか決定して下さるようにと、お願い申し上げました
帝王はしばらくの間、深くお考えにふけっておられたが、やがて仰せられました
「その品々はそれぞれ役割に応じて、お前たちの従妹の快癒にあずかって力あった。最初に姫の病状を明らかにしたのは、象牙の筒であるし、姫のもとにお前たちを大至急運んだのは、絨毯であるし、姫を癒したのは、林檎である。もしこれらの珍品の１つを欠いたならば、この不思議な結果は生じなかったであろう」
帝王はふたたび思案をなさりはじめ、ひと時たつと、お叫びになりました
「こうするのだ、我が子らよ。
お前たちは各自、弓矢を携えて、町の外に出で、騎手の野仕合に使う馬場に行け。そして、お前たちのうち最も遠く矢を放った者に、ヌレンナハール姫を妻に授ける旨、余は宣言する」そして３人は馬場へとおもむきました
アリ王子が、最初に射ました
ハサン王子が次に射ると、矢は兄よりも遠くに落ちました
３番目にフサイン王子が射ましたが、遥かに消え失せたその矢が落ちるのを誰ひとり見なかったのです。あらゆる捜索にもかかわらず、矢を見つけ出すことができませんでした
帝王は
「一番遠くまで放ったのは、フサインよ、お前らしく見える。しかもお前が勝者ではない。矢が発見される必要があるからじゃ。そこで余は、矢が兄のそれよりも遠くに落ちた次男ハサンを勝者と宣言せざるをえない次第じゃ。ハサンよ、ヌレンナハール姫の夫となるのは、異議なくお前である」
数日後、ハサン王子とヌレンナハール姫との婚儀が盛大にとり行われました
長男アリ王子は、結婚式には列席しようとせず、王位継承を自ら放棄し、修道僧の法衣を着け、王宮を去り、この上なく僻地に隠遁しに行ってしまいました
ところで、矢が遥か遠くに消え失せてしまった、フサイン王子はどうかと申しますと…
…ここまで話した時、シャハラザードは朝の光が射してくるのを見て、慎ましく、口をつぐんだ
★ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語（第807-814夜）（「完訳 千一夜物語10」、岩波文庫）
●「ヌレンナハール姫と美しい魔女の物語」（第810夜）より
３人の王子は、互いの無事の到着を祝し合ってから、一緒に食事をするため坐りました
食後、持ち帰った珍品を互いに見せ合うことにし、まず長男のアリ王子が、今坐っている羊毛でできた祈祷用の絨毯を見せました
アリ王子は弟たちに、自分のそばに坐らせ、一瞬のうちに空の旅をさせました
今度はハサン王子が言いました
「ここに、珍品とも見えない象牙の筒がございます。この見栄えのしない外見にもかかわらず、まことに不思議な品なのです。さあ、私のするように、なさってごらんなさい」
王子は、左の眼を閉じて、右の眼にその象牙の筒をあてて、言いました
「象牙の筒よ、すぐにヌレンナハール姫を見せてくれ」そして水晶を覗きました
すると、王子が突然顔色を変え
「われわれ３人が幸福を期待して、こんな辛い旅を企てたのは無駄でした。あと何分かの後には、われわれの従妹はもうこの世にいなくなるでしょう。それというのは、今従妹は病床にあって、涙にくれる侍女たちと、絶望した宦官たちに囲まれている。ではお二人御自身も、従妹の陥っているふびんなありさまをご覧になるがよい」
心の中で姫を見たいと念じなさいと教えながら、象牙の筒をアリ王子に渡しました。アリ王子は水晶を覗きますと、弟と同じように心を痛めて、後しざりしました
フサイン王子も同じ光景を見ましたが、心痛した様子を見せるどころか、笑いを浮かべて言いました
「従妹の病気は、非常に重いようでありますが、それもこれなる林檎の霊験にはさからえないでしょう」
アリ王子は
「そういうことなら、われわれは俺の絨毯を使って、大至急我らの御殿におもむき、お前は我らの愛する従妹にその林檎の救いの霊験を試みてくれまいか」３人は絨毯の上に坐って、ヌレンナハール姫の部屋に運ばれたいと、願いをいっしょに念じました。すると瞬く間に、３人は絨毯に坐ったまま、姫の部屋のまん中にいるのでした
フサイン王子は、いそいで、横たわっているヌレンナハール姫に近づき、鼻孔の下に不思議な林檎を置きました。すると姫は両眼を開き、まわりにいる人たちを驚いた眼で眺めながら、床の上に起き直りました
すでに３王子の到着と姫の快癒の知らせを受けておられた帝王は、みなつつがなく帰ったことをたいそうお悦びになりました。３人の王子は、めいめい持ち帰った珍品を帝王にお見せし、誰を選ぶか決定して下さるようにと、お願い申し上げました
帝王はしばらくの間、深くお考えにふけっておられたが、やがて仰せられました
「その品々はそれぞれ役割に応じて、お前たちの従妹の快癒にあずかって力あった。最初に姫の病状を明らかにしたのは、象牙の筒であるし、姫のもとにお前たちを大至急運んだのは、絨毯であるし、姫を癒したのは、林檎である。もしこれらの珍品の１つを欠いたならば、この不思議な結果は生じなかったであろう」
帝王はふたたび思案をなさりはじめ、ひと時たつと、お叫びになりました
「こうするのだ、我が子らよ。
お前たちは各自、弓矢を携えて、町の外に出で、騎手の野仕合に使う馬場に行け。そして、お前たちのうち最も遠く矢を放った者に、ヌレンナハール姫を妻に授ける旨、余は宣言する」そして３人は馬場へとおもむきました
アリ王子が、最初に射ました
ハサン王子が次に射ると、矢は兄よりも遠くに落ちました
３番目にフサイン王子が射ましたが、遥かに消え失せたその矢が落ちるのを誰ひとり見なかったのです。あらゆる捜索にもかかわらず、矢を見つけ出すことができませんでした
帝王は
「一番遠くまで放ったのは、フサインよ、お前らしく見える。しかもお前が勝者ではない。矢が発見される必要があるからじゃ。そこで余は、矢が兄のそれよりも遠くに落ちた次男ハサンを勝者と宣言せざるをえない次第じゃ。ハサンよ、ヌレンナハール姫の夫となるのは、異議なくお前である」
数日後、ハサン王子とヌレンナハール姫との婚儀が盛大にとり行われました
長男アリ王子は、結婚式には列席しようとせず、王位継承を自ら放棄し、修道僧の法衣を着け、王宮を去り、この上なく僻地に隠遁しに行ってしまいました
ところで、矢が遥か遠くに消え失せてしまった、フサイン王子はどうかと申しますと…
…ここまで話した時、シャハラザードは朝の光が射してくるのを見て、慎ましく、口をつぐんだ