それは例えようもない瞬間だった、きみは踊り子のように綺麗なラインを描いて、少し呆然としたぼくの
えりもとに嘘とも本当ともつかない居心地の悪い優しさを差し込んで、退屈をまぎらわすように騒ぐ飢えたからすたちの声に隠れるように走りさった
きっと今頃は、こんな大事なときに限ってポケットのついたジャケットを選んでこないぼくのことを嘲笑っているのかもしれない、思えば姿見の前でいつもの洋服が何かしっくりこなかった時点で今日の結末はすでに予想されていたのだ
手紙になにが書いてあるのかはだいたい判ってる、きみが手紙をつづるときの雰囲気なんてもう映画に出来るくらい
巷で流行ってるサッド・ソングを流して悦に入っていたんだろ?それをするのはもう何度目だよ
しぶしぶぼくは手紙を開く、ことばはあんまり変わらない―月曜九時のドラマのせりふのよう―まさしく流行の歌にのせられて書いたような
したがってぼくは近所の小さな書店でオリコンウィークリーを買い求め、彼女がこれを書くのに選んだであろうBGMを予想してみた、気持ちの上では赤鉛筆を耳にはさんで
しばしばぼくは予想を離れて寄り道をした、それはおもにこんな順位の羅列が、ランクインしていない音楽を不要のもののように大衆に印象付けているという宿命についてだった
昨日どこかの有線で聞いたある一節をぼくは思い出す『自分だけの笑顔で、自分だけの生き方で、イエーイエー…』
何が聞こえてもどこかで聞いたものに聞こえる、こんな感想までふくめてね
保育器に入れられたレボリューションたちは、いつかと同じフレンジャーを抱えておしゃぶりを待っている、光の先に行こうなんて考えてもいないようなボーカリゼイション
初めての一途も、それぞれの交差点も、夕暮れに染まる街角も、かわりばえしない毎日も、永遠を誓うだの、アスファルトに咲く小さな花だの、もういちど夢を見るだの、あきらめたらおしまいだの、抱きしめたあの夜だの、うつむいていちゃ明日は来ないだの、忘れられなくてあの海だの、頑張れ頑張れ、甘茶でカッポレ
どなたのためのアイ・ラブ・ユー?変わりたいなら変えたもの出しなよ
まあ、そんなことはどうでもよくて、手紙の文面から推測するに、3位の曲だとアタリを付けて
確かめるすべはもうきっと無いんだろうなともう一度手紙を読み返す、何度読み返してもさよならがフェイクにしては多過ぎた
不思議なもんでなれてくるとそういうことは自然にわかるようになるもんだ
オリコンはコンビニの前でチョウマジチョウマジ叫んでた女の子に進呈した―何か受賞しても構わないようなそんなファッションをしてたから
あーそれにしてもこの街はたらたら歩くがきが多すぎるなぁ…煙草に火をつけて数度吸ってから一番うるさいやつを狙って弾いた
『あっち!』そいつは喚いてきょろきょろしたがなんせこの人ごみだ、誰が犯人かなんてわかるわけもない
ぼくはそういうことをこっそり実行するのが昔から上手だったから、おかげでバックグラウンドで別れが進行していてもまったく気がつかないってもんだ
一応念のため万が一を懸念して地下鉄に乗り込み友達のいる街で下りた
見慣れたドアの前まで来たときそういやあいつ今日どこだかで舞台に出てるんだっけ―今日び演劇なんてたいして流行らないのによく続けていられるよな
本番片付け打ち上げで朝になるでしょう、友達予報がそう告げたのではいはいわかった帰ります帰りゃいいんでしょ
どうせならもっと別のとこ予報してくりゃいいのにな、マクドナルドはどこが一番近い?ベーコンエッグとコーヒー入れておうちに帰ろう
帰ってテレビつけたら滝川クリステルが苦しげに話していたので、ちょっと人には言えないようないろいろなことを想像してしまって自己嫌悪におちいった
まあしかたがない、不健全な肉体には不健全な精神が宿るもの
滝川サンは少なくともきちんと挨拶をして最後はお別れしてくれる
あのさ、あのさ…眠れないんですけど、やっぱり手紙を読み返すべきなんでしょうか?
電気をつけるの面倒くさくてうだうだしてるうちに眠ってしまって、明け方の夢は、そんな自分を
恥じているといったおもむきでございました
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