不定形な文字が空を這う路地裏

テレフォンの下に潜むシステム






よく晴れた空の真下、味の薄いイチゴジャムが詰め込まれたパンを頬張って
昨日電話し忘れたあの娘が今どんな気分でいるか想像してみる
綺麗な栗色の髪が、待ちくたびれるときの癖でくるくると巻かれて
今日には変な癖が残っているんだ
彼女はヘアースタイルを整えたりするのが少し下手だから
ドライヤのブオーブオーいう音と寝癖直しスプレーのシュッシュッという刻みがしばらく六畳のワンルームを支配するだろう
でも彼女の天然パーマは少し独特な曲がり方をするからきっと思い通りの形には出来なくて
そのとき初めて彼女はそれが僕のせいであるということを認識するのだ
あんなに待っていたのに、あんなに楽しみにしてたのに
それから一度は携帯を手に取る、もちろん僕に電話をかけようとして
けれど彼女は少々気を回しすぎるところがあってそこでもしかしたら僕が何か大変な用事を抱えてしまったのかもしれないとか考えて
もう少し待ってみたらどうかなあなんて思う、それから髪形を整えるのを諦めて
何年か前に浜崎あゆみが被っていたのとそっくりな帽子を被ることにするだろう
彼女の仕事は洋服を売ることだから、帽子を被ったままでいても一向に構わないのだ
そして鏡の前で何度も練習した飛び切りの笑顔を浮かべて夜の七時まで僕のことを忘れて接客を続けるだろう(もっとも最近の接客業には必ずしも笑顔は必要とされていないらしい)
休憩時間には近くのカップベンダーでカフェ・オレの牛乳多めを買って熱い熱いと言いながら無理をして飲み(何故か冷めるまで待つということをしない)
メンソールを一本吹かして張り切って仕事に戻る
彼女のいいところはデフォルトでポジティブを装備しているところ
ところでこないだ商品補充のバイトをしている友人に聞いたんだけどカップベンダーの自販機の内側ってゴキブリが凄いらしいよ、僕はそれを聞いてから缶ジュースしか飲めなくなった
その話をしたら彼女はどう思うだろう?『でもさ、ゴキブリがあそこから出てくるわけじゃないんだから』そういってこれからもカップベンダーを利用し続けるかもしれない
変なところで図太い、まったく
変なところで図太い娘だ
なんだか
声を聞きたくなってきたな
仕事の終わる
時間は
まだかなぁ

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