懐を抜け出した昔が、タンポポの綿毛のように舞う
少し常軌を逸した気候のことだったね
海を見下ろす、人気の無い展望台は
腹を空かせた獣のような太陽に脅されて
しんと息を詰めていた
遥か眼下の海は、いけないことでもしているみたいに少しだけ波の音を聞かせて
ある種の言葉にならない感情のように満ち引きを繰り返していた
遠くで旋回を繰り返す珍しい形の鳥の事を君は知りたがっていたが
あいにく僕にはそれを補えるような蓄積は無かった
おかげで絶え間なく風が吹いて
時折は身体さえぐらりと揺らぐくらいだった
あの時何か一言投げ捨てることが出来たらきっと季節は凪いだのだ
奇跡は嘘と同じようなものだってあの時僕らはまだ受け入れられずに居た
執拗な爪が裂いたような雲がたくさんたくさん太陽を飾って
空はどちらにも回る渦みたいに見えた
沖に浮かんでいた船、砂浜で遊んでいた猫、旋回していた不思議な鳥
みんなみんな気づかないうちに姿を消してしまう
長く伸びていた影が脳天に重なったとき
真実なんてどうとでもなってしまうものなんだと僕らは悟った
それで余計にどうしようもなくなって、隣に誰も居ないみたいに
爪先で短い草を探ってばかり居たんだ
取るに足らない出来事みたいに鼻歌が零れて
坂道に隠れていた雀達が着弾の瞬間のようにぱあっと飛び散った
飛行機役も兼ねるみたいにそいつらが不恰好な編隊を組んでどこかに飛び去ったので
笑おうと思って口を開いたのだけどそれがどういうことだったのか忘れてしまっていた
どうしてあんなに意地を張り続けなければいけなかったのだろう
風にはほんの少しだけ海の哀しみが混じっていた
何かを強引にひっくり返そうとして、おそらくは御伽噺の大団円のように
手に取るべき君を捜したのだけれど
そんな思惑を抱いたときには君はもう数歩向こうへ行ってしまっていたんだ
懐を抜け出した昔が、タンポポの綿毛のように舞う
少し常軌を逸した気候のことだった
あのとき、手に取り損ねたものが
今もあの風の中で鳥の名を尋ねている
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