「太平洋の向う側 9」 固ゆで料理人
Chapter7 Clif House
マディカン刑事が俺をピックアップして、タナカサンの黄色いロールスロイスが見つかった場所まで乗せて行ってくれることになった。この時間、この街の気温はスクーター向きじゃない。俺はありがたくマディカンの申し出を受けることにした。
受話器を置くとすぐに又電話が鳴った。今度はドン・コレステローレからだった。
「お、まだ大丈夫そうだな」
ドンが言うには、コレステローレファミリーを見張っていたコウ兄弟の下っ端をとっ捕まえて、おしゃべりをさせたんだが、そいつが言うにはどうも俺が狙われているらしいと伝えてきた。
「裁判も無くなったし、仕返しってのもあまり考えられないし、なんか別の思惑があるだろうから、一寸した手を使って喋らしたら、連中はオマエさんを狙っていると吐いたぜ。理由はわからねぇが、これでお前さんが神様に会いにいくような事があったら俺も寝つきが悪いんで、又、ハーヴェイを呼んだ。今度はヤツはオマエの御守だぜ。費用はコッチ持ちだから心配するな。ハーヴェイの奴はもうじきカンタベリーホテルに着くころだ。」
俺は尋ねた。
「ドン・・・喋らせたって、どうやったんだ? 本当のことを言っていると言えるか?」
ドンが笑いながら答えた。
「フランクとグイドが二人掛かりで吐かせたんだぜ・・それでも信用できねぇか?」
フランクとグイド・・この二人は、人に喋りたくないことを喋らせるのが得意な連中で、フランクは「フランク・ザ・ハンク」グイドは「グイド・ザ・グリード」と呼ばれている。フランクはハンク・ウィリアムスのモノマネが中途半端に上手い。中途半端に上手いと言うのは、声も発音もハンク・ウィリアムス本人にものすごく似ているが、各小節で音程が微かに狂う。この街の住人ほどベタベタなカントリーウェスタンソングを嫌がる連中は居ない、この街ではカントリーソングをずっと聞かされること、それも微かに音程が狂う気持ちの悪いカントリーを聴かされることはものすごく残忍な拷問となる。
かたやグイドの得意技は貪欲になんでも食べ続けることだ。それも凡そ味を無視した組み合わせの食品を恐ろしく下品な音を発しながらいつまでも食べる。その食べるところを喋ってもらいたい奴に見せる。ドン・コレステローレも部下たちもグイドが食事している姿は絶対に観ない。
一度、ドンのファミリーに入ったばかりの奴がグイドの食事姿を見て逃げ出したことがあった。彼が言うにはジャバ・ザ・ハットだってグイドを観たら逃げ出すに決まっていると言ったそうだ。それ以来、フランク&グイドの拷問を覗くことは絶対に禁じられている。
一度、FBや警察のIの隠しカメラを見付けたりしたときに、フランクに歌を歌わせ、グイドにカメラの前で食事をさせたことがあった。その後警察やFBIの監視はピタリとおさまったそうだ。
そして拷問部屋の外で警備している連中は絶対に耳栓をすることになっている。
聞こえてくるのは、少しだけ音を外したハンク・ウィリアムスの唄と、食べ物を食べるときに発せられるあらゆる音・・・そしてたまに食べ物自体が発する鳴き声・・・・・俺の背筋はブルッと震えた・・あの二人にやられたんなら絶対に間違いない。
「ならホントだな」
ドンは「そらそうだろうよ」と言うと、クッククックとブルーバードを見付けた子供みたいに幸せそうに笑いながら電話を切った。
電話を切ったところで静かな街にクラクションが響いた。窓の外を見るとシヴォレーインパラが停まっていた。マディカンの車だ。
足首のケースにワルサーを差して階下に降りていくと、マディカンが車の中から「早く乗れ!」と言った。愛想の無いことこの上ない男だ。
車を出してクリフハウスに向かう。クリフハウスとはこの街の観光名所の一つで、断崖絶壁に建つレストランだ。マディカンに言わせれば、100種類のオムレツ料理で有名だった時代はヨカッタが、近頃は野菜と魚ばかり出すような軟弱なレストランに落ちぶれてしまったそうだ。この国では芋と卵と肉を出す店をレストランと言うと決まっているそうで、ビストロなんぞという名前は反アメリカ的で胸糞悪いと言う。俺はなにも答えないでおいた。俺は魚の缶詰を食ったなんぞと言ったら車から降ろされそうだからな・・・。
しばらく走っているとマディカンが唸った・・・
「だれか尾けてきやがる・・・・オマエを尾けてるのか?お前の事務所からずっと一緒だぜ」
俺はバックミラーを直しながら後ろを見た・・・・手を振っている・・・ハーヴェイだった。
「心配いらない、あれはおれの用心棒だ。」
「フム・・お前のミフネか?腕は立つんだろうな?なんたってケツ撃たれちゃかなわないからな・・」
クリフハウスの駐車場には回転灯を点けた」警察車が停まっていて、その横にタナカさんのロールスロイスが停まっていた。
近づくと制服警官が警察車の横に立っている。
俺たちの車が近づくと、警官は制帽を少し後ろにずらし、眩しそうに手で庇を作りこっちを見た。マディカンが俺だと告げると警官は破顔一笑、手を降りながらマディカン警部補ですか?と訊いた。この刑事、仲間には好かれているみたいだ。
マディカンは車を降りながら車には誰もいないのかと訊いた。
「誰もいませんね。この素敵な車はコレステローレファミリーの車みたいですね・・・登録はマイケル・コレステローレにんまています」
マディカンは「ん?」と言う顔でコッチを見た。
俺はタナカサンがドン・コレステローレからこの車を貰ったいきさつを話した。
マディカンンはつまらなそうに「フ~ン」と言うと、車の周りをしらべ始めた。
しばらくその辺を見ているうちに、制服警官が
「あ、これ、なんすかね?缶詰?」
その言葉に俺とマディカンは思わず顔を見合わせた。
警官が見つけたところに行き、そのあたりを見回すと、もう一つ同じ缶が落ちている。
更にその向こうに行くと又缶が落ちている。
「こいつは目印だな・・この缶を追っていけば何かある・・・罠かもしれんが・・」
「罠だとしても行かなければ・・なにしろタナカサンとドロテと船長がつかまっているんだから・・」
「それだな、ヤツラはお前をおびき寄せるために誘拐をしたんだ」
「それだけ?」
「いやそれだけじゃないと思うが・・・今はまだ判らないだろうよ」
制服警官に応援を要請するように言うと、俺たちは落ちている缶を一個一個追い始めた。
缶はクリフハウスの横を通り、オーシャンビーチまで続いている。
砂浜に落ちている缶に沿って進むと、ボートがさかさまに置いてある。
その中から声が・・・・ボートをひっくり返すと縛られたドロテと船長が居た。
そして船長の額には手紙がガムテープで貼ってある。ドロテも船長も英語が上手くないので連絡に間違いのない様に手紙を貼ったそうだ。
オマエがドン・コレステローレから貰ったサンマカンヅメ1ケースとMr、タナカを交換したい。
時間と場所はあとで伝える。ヨロシクネ。コウより
人の英語力を信じない割には変な英語だ。
船長とドロテは事情を聴くために市警本部へ行くことになり、俺はコウ・ケツアツからの連絡を待つため、いったん事務所へハーヴェイのダットサンで帰ることにした。
事務所でなにか朝飯を作ることにしよう・・・。
フェジョン…ブラジルの豆料理だ。黒いんげん豆と肉や内臓などを煮込む料理で、ブラジルの国民食だ。昔からこれを食べるととても元気が出ると云われていて、今でも水曜日と土曜日はフェジョンの日と決まっているらしい。
ハーヴェイと二人分なので、冷蔵庫に残っているソーセージとか肉とかを鍋に入れて炒める。
開缶するとこんな感じ。豆の煮汁と脂が混ざって固まっている。匂いはにんにくがキツク、ランチョンミートに似ている。
適当なところで缶の中身と混ぜて温まれば出来上がり。
これ、ライスにかけて食べる料理。
ウマイのかまずいのか・・外国人には難しいが、有名な歌手のリサ・オノが美味しいと言っていたから美味しいんだろう。
本当はオレンジが付きものだそうだが、今日は無いので日本製のビールでいいか。
食べると結構クセになる味だな。決して悪くない。ビールにも合う。
そうこうしているうちに電話が鳴った。
マディカン刑事が俺をピックアップして、タナカサンの黄色いロールスロイスが見つかった場所まで乗せて行ってくれることになった。この時間、この街の気温はスクーター向きじゃない。俺はありがたくマディカンの申し出を受けることにした。
受話器を置くとすぐに又電話が鳴った。今度はドン・コレステローレからだった。
「お、まだ大丈夫そうだな」
ドンが言うには、コレステローレファミリーを見張っていたコウ兄弟の下っ端をとっ捕まえて、おしゃべりをさせたんだが、そいつが言うにはどうも俺が狙われているらしいと伝えてきた。
「裁判も無くなったし、仕返しってのもあまり考えられないし、なんか別の思惑があるだろうから、一寸した手を使って喋らしたら、連中はオマエさんを狙っていると吐いたぜ。理由はわからねぇが、これでお前さんが神様に会いにいくような事があったら俺も寝つきが悪いんで、又、ハーヴェイを呼んだ。今度はヤツはオマエの御守だぜ。費用はコッチ持ちだから心配するな。ハーヴェイの奴はもうじきカンタベリーホテルに着くころだ。」
俺は尋ねた。
「ドン・・・喋らせたって、どうやったんだ? 本当のことを言っていると言えるか?」
ドンが笑いながら答えた。
「フランクとグイドが二人掛かりで吐かせたんだぜ・・それでも信用できねぇか?」
フランクとグイド・・この二人は、人に喋りたくないことを喋らせるのが得意な連中で、フランクは「フランク・ザ・ハンク」グイドは「グイド・ザ・グリード」と呼ばれている。フランクはハンク・ウィリアムスのモノマネが中途半端に上手い。中途半端に上手いと言うのは、声も発音もハンク・ウィリアムス本人にものすごく似ているが、各小節で音程が微かに狂う。この街の住人ほどベタベタなカントリーウェスタンソングを嫌がる連中は居ない、この街ではカントリーソングをずっと聞かされること、それも微かに音程が狂う気持ちの悪いカントリーを聴かされることはものすごく残忍な拷問となる。
かたやグイドの得意技は貪欲になんでも食べ続けることだ。それも凡そ味を無視した組み合わせの食品を恐ろしく下品な音を発しながらいつまでも食べる。その食べるところを喋ってもらいたい奴に見せる。ドン・コレステローレも部下たちもグイドが食事している姿は絶対に観ない。
一度、ドンのファミリーに入ったばかりの奴がグイドの食事姿を見て逃げ出したことがあった。彼が言うにはジャバ・ザ・ハットだってグイドを観たら逃げ出すに決まっていると言ったそうだ。それ以来、フランク&グイドの拷問を覗くことは絶対に禁じられている。
一度、FBや警察のIの隠しカメラを見付けたりしたときに、フランクに歌を歌わせ、グイドにカメラの前で食事をさせたことがあった。その後警察やFBIの監視はピタリとおさまったそうだ。
そして拷問部屋の外で警備している連中は絶対に耳栓をすることになっている。
聞こえてくるのは、少しだけ音を外したハンク・ウィリアムスの唄と、食べ物を食べるときに発せられるあらゆる音・・・そしてたまに食べ物自体が発する鳴き声・・・・・俺の背筋はブルッと震えた・・あの二人にやられたんなら絶対に間違いない。
「ならホントだな」
ドンは「そらそうだろうよ」と言うと、クッククックとブルーバードを見付けた子供みたいに幸せそうに笑いながら電話を切った。
電話を切ったところで静かな街にクラクションが響いた。窓の外を見るとシヴォレーインパラが停まっていた。マディカンの車だ。
足首のケースにワルサーを差して階下に降りていくと、マディカンが車の中から「早く乗れ!」と言った。愛想の無いことこの上ない男だ。
車を出してクリフハウスに向かう。クリフハウスとはこの街の観光名所の一つで、断崖絶壁に建つレストランだ。マディカンに言わせれば、100種類のオムレツ料理で有名だった時代はヨカッタが、近頃は野菜と魚ばかり出すような軟弱なレストランに落ちぶれてしまったそうだ。この国では芋と卵と肉を出す店をレストランと言うと決まっているそうで、ビストロなんぞという名前は反アメリカ的で胸糞悪いと言う。俺はなにも答えないでおいた。俺は魚の缶詰を食ったなんぞと言ったら車から降ろされそうだからな・・・。
しばらく走っているとマディカンが唸った・・・
「だれか尾けてきやがる・・・・オマエを尾けてるのか?お前の事務所からずっと一緒だぜ」
俺はバックミラーを直しながら後ろを見た・・・・手を振っている・・・ハーヴェイだった。
「心配いらない、あれはおれの用心棒だ。」
「フム・・お前のミフネか?腕は立つんだろうな?なんたってケツ撃たれちゃかなわないからな・・」
クリフハウスの駐車場には回転灯を点けた」警察車が停まっていて、その横にタナカさんのロールスロイスが停まっていた。
近づくと制服警官が警察車の横に立っている。
俺たちの車が近づくと、警官は制帽を少し後ろにずらし、眩しそうに手で庇を作りこっちを見た。マディカンが俺だと告げると警官は破顔一笑、手を降りながらマディカン警部補ですか?と訊いた。この刑事、仲間には好かれているみたいだ。
マディカンは車を降りながら車には誰もいないのかと訊いた。
「誰もいませんね。この素敵な車はコレステローレファミリーの車みたいですね・・・登録はマイケル・コレステローレにんまています」
マディカンは「ん?」と言う顔でコッチを見た。
俺はタナカサンがドン・コレステローレからこの車を貰ったいきさつを話した。
マディカンンはつまらなそうに「フ~ン」と言うと、車の周りをしらべ始めた。
しばらくその辺を見ているうちに、制服警官が
「あ、これ、なんすかね?缶詰?」
その言葉に俺とマディカンは思わず顔を見合わせた。
警官が見つけたところに行き、そのあたりを見回すと、もう一つ同じ缶が落ちている。
更にその向こうに行くと又缶が落ちている。
「こいつは目印だな・・この缶を追っていけば何かある・・・罠かもしれんが・・」
「罠だとしても行かなければ・・なにしろタナカサンとドロテと船長がつかまっているんだから・・」
「それだな、ヤツラはお前をおびき寄せるために誘拐をしたんだ」
「それだけ?」
「いやそれだけじゃないと思うが・・・今はまだ判らないだろうよ」
制服警官に応援を要請するように言うと、俺たちは落ちている缶を一個一個追い始めた。
缶はクリフハウスの横を通り、オーシャンビーチまで続いている。
砂浜に落ちている缶に沿って進むと、ボートがさかさまに置いてある。
その中から声が・・・・ボートをひっくり返すと縛られたドロテと船長が居た。
そして船長の額には手紙がガムテープで貼ってある。ドロテも船長も英語が上手くないので連絡に間違いのない様に手紙を貼ったそうだ。
オマエがドン・コレステローレから貰ったサンマカンヅメ1ケースとMr、タナカを交換したい。
時間と場所はあとで伝える。ヨロシクネ。コウより
人の英語力を信じない割には変な英語だ。
船長とドロテは事情を聴くために市警本部へ行くことになり、俺はコウ・ケツアツからの連絡を待つため、いったん事務所へハーヴェイのダットサンで帰ることにした。
事務所でなにか朝飯を作ることにしよう・・・。
フェジョン…ブラジルの豆料理だ。黒いんげん豆と肉や内臓などを煮込む料理で、ブラジルの国民食だ。昔からこれを食べるととても元気が出ると云われていて、今でも水曜日と土曜日はフェジョンの日と決まっているらしい。
ハーヴェイと二人分なので、冷蔵庫に残っているソーセージとか肉とかを鍋に入れて炒める。
開缶するとこんな感じ。豆の煮汁と脂が混ざって固まっている。匂いはにんにくがキツク、ランチョンミートに似ている。
適当なところで缶の中身と混ぜて温まれば出来上がり。
これ、ライスにかけて食べる料理。
ウマイのかまずいのか・・外国人には難しいが、有名な歌手のリサ・オノが美味しいと言っていたから美味しいんだろう。
本当はオレンジが付きものだそうだが、今日は無いので日本製のビールでいいか。
食べると結構クセになる味だな。決して悪くない。ビールにも合う。
そうこうしているうちに電話が鳴った。
「太平洋の向う側 10」 固ゆで料理人
Chapter8 Alcatoraz
俺の商売で、朝の8時に電話をしてくる奴と言えば未払いローンの請求か、じゃなければ俺の仕事を快く思っていない奴からの脅しの電話と決まっている。どちらの電話も慌てて出る必要はない。俺はブラジルの豆料理を食いながら受話器を上げた。
相手は中国語訛りの知らない奴だった
「グッモ~ニン!まだ起きてるね?」
「豆を喰ってるところだ、」
「豆は体に良いね!ドンドン食べ給え。ところでカンツメと日本人を交換したいたろ?」
どこかで聞いたことのある声だ。この訛りからすればコウ兄弟の片割れのケツアツのはずだが、俺はコウ・ケツアツと話をしたか思い出せない。
「交換はする気はない。Mr,タナカをただ解放しろ。そうすれば許してやる」
「アッハッハハ、オマエ、ランボーみたいね、でもそういかないヨ。オマエ、警察におしゃべりしただろ?折角カンツメ並べて道順を見せたりしてオ・モ・テ・ナ・シの準備したのに、ムダになったよ。電話でロールスロイスの場所を教えようとしても留守番電話だったしな~・・警察と一緒じゃお膳立て、ゼンブ無駄だったね・・でもま、イイヨ、警察の中にも友達いるからなんてもすぐ判るね」
「警察は誘拐で捜査を始めるぜ。誘拐は重罪だし、サンフランシスコ市警は実に優秀な刑事が揃っている。オマエの身のためだ、早くタナカさんを返せ」
「ダメヨォ、ダメダメ・・・ いいか、バカ探偵、良く聞くね!船長に3つの文字を教えた。オマエにも続き教える。警察抜きで二人できなさい。船長が知っているのはアルファベット3文字、オマエに教えるのは[ATRAZ]アトラス・・・ここが交換の場所ヨ」
「俺が船長に会えばパズルが完成して場所が判るんだな?」
「そうそう、その通り!たのしいたろ?船長はタナカの親友だし、喋ったら船に復讐に行くと言ってあるから、絶対警察には喋らないネ。シャベルのオマエだけ。たのっし~な」
「No!全然楽しくない」
「兎に角、もうじき二人とも警察をでてオマエのところに来るヨ。カンツメ忘れずに持って来てね。あ、ドン・コレステローレも、あのボディガードのガンマンも、あのカンツメ持っていないことは調べ済み。オマエがカンツメ持てるのは知ってるヨ。じゃあとはヨロシクね!ピストルは要らないからまるだしで来るの、判ってるネ?」
「まるだし?・・・丸腰のことか?」
「そうそう、それそれ・・それで来い、じゃあね!」
会話が終わったらしいので受話器を置こうとしたとき、まだ切らずにいた受話器から大笑いする声が聞こえた。
「どうだマックス、吾輩の中国人のモノマネは?これであいつらは中国人どもが犯人だと思い込んでおるぞ!ワッハッハッ!どうだマックス!吾輩の天才でぶりは!・・・・アッ!・・・電話切れてないではないか・・」
そしてカチッと言う音がして、ツーという音が聴こえてきた。
「フム・・・・相手はコウ兄弟じゃなさそうだな・・・」
受話器を置くと同時にもう一本電話。豆を食う暇もない。
相手はマディカンだ。
「よォ、まだ起きてるな?」
「豆を食ってた」
「豆は体にいいからドンドン食いな!ところでこれからそっちに行くぞ」
「・・・何しに?」
「マドモアゼルと船長を連れて行く。だからまだ起きていろよ」
「なんでここに?」
「マドモアゼルのほうはおまえと一緒にいたいそうで、船長の方はMr、タナカと缶詰を交換するのに付きあうそうだ。なんと言っても友達だからだそうだ。」
「そんな危険なことやらせて良いのか?」
「知るか、やりたいというからやらせるだけだ」
俺は迷わずにマディカンに告げた。
「実は、アンタたちが来ることは知っていた」
「なんで知ってる?」
「連中から電話があった。なんでも警察の中にもお友達がいるらしいぜ」
「・・・・・で?」
「あんたには内緒にしておかないとタナカサンは長生きするのが難しくなるそうだ」
「じゃ、なぜ俺に言う?」
「言わなきゃタナカさんは確実に長生きできなくなるから」
「フン・・・それは正しい・・・それで、連中はなんと言ってた?」
「船長が連中から聞いたキイワードと俺が聞いたキイワードを合わせるとタナカサンに会える場所が判るそうだ」
「お前のほうのキイワードは?」
「アトラズ・・ATRAZ・・・だそうだ」
「クク・・この問題を作った奴は馬鹿か?アルカトラズだ。船長が知っているキイワードはALCだよ。賭けても良い。なんてくだらないほどカンタンなんだ?」
「Alcatraz・・・」
今は観光地になった昔の刑務所島、通称ザ・ロック・・・・アルカトラズ島。
そういえばそうだ。ATRAZと訊いてアルカトラズを連想しない奴はこの街の住民ではない・。
「ところで、オマエ、以前、コバヤシ丸の船長に会った事はあるのか?」
「いや、初めて会った。タナカサンの友人だと言うことしかしらない。」
「じゃ、あの船長が本人かどうか・・・オマエさんには判らないんだな?」
「ああ・・・いったいどういうことだ?」
「実は、車の中で、左折するときに「取りイ舵」と俺が言ったら、野郎、ポカンとしてた」
・・・俺もポカンとした。
「多分、オマエさんもポカンとしてるだろう?」
敏腕刑事は電話の向うもお見通しだ。
「取り舵はというのは、日本語で左に曲がるときの日本の船員用語だ。俺は海兵隊にいたときは日本駐留していて、日本の護衛艦にも招待されることがあった。そのときにいくつかの日本語を教えて貰った。取り舵を日本人の船長が知らない訳はない。それを知らないということは、俺たちが保護した船長はニセモノだからだ」
そういえば、コバヤシ丸の船員達は連れて行かれるところは見たが、ドロテと一緒に警察に保護された奴はみていない。俺もマディカンもそれから日本語が判らないドロテも、てっきり、この男が船長だと思い込まされたとしても無理はない。
マディカンの推理通りだろう。この推理に俺も納得した。すると本物の船長はタナカサンと一緒に連れて行かれた・・ってことか?
マディカンは続けた。
「あいつは今のところ誰とも連絡を取れないように見張っているから、オマエもあいつの前では船長だと信じている演技してろ」
「あいつを使って偽の情報を流すのか?」
「できるかどうか判らんが、そうしたい・・と言うところだ」
一時間ほどしてマディカンだけが来た。偽の船長とドロテは、精密検査の名目で医務室に留め置かれている。
俺とエルウッドとマディガンの3人しかいない事務所にはカリフォルニアの陽光が差し込む。
朝陽はフレンス窓の窓枠の影を壁に映す。
俺たちに似合わない朝陽の中、マディカンはタナカサン救出の計画を簡単に説明してくれた。
俺は連中の言うとおり、缶詰を持って、観光船でアルカトラズに上陸する。
奴らはすでに上陸して待ち構えて見張っているだろうから、観光客や船員に化けた警察官を上陸させるわけにはいかない。
上陸させるのはスワット部隊で、島の沖合800メートルくらいから泳いで島に潜入する。
上陸すると見つかる恐れがあるので、昔島から脱獄した英国の諜報部員に島からの脱走ルートを案内してもらい、ルートを逆に侵入して島の中央部に進出する。
そして制圧、人質解放、悪い奴らを一網打尽・・と言う計画だそうだ。
しかし、市警にそんな泳ぎのできる特殊チームなんかあるのかと訊くと、サンフランシスコは港湾都市だということを忘れては困る。海上事件用のチームもしっかりあるんだという答え。
エルウッドの出番は・・・・無い。残念だ。俺はこの南部人を信頼し始めていたのだが・・・。
「そしてこいつが案内人だ」
と、言いながらマディカンが写真を俺たちに見せた。写真を見たエルウッドと俺は顔を見合わせた。身長を計る目盛りのついた壁を背にして、番号札を胸に掲げた男の前向き写真と横向き写真が写っていた。
「なんで、こいつは逮捕写真で白いタキシードを着ているんだ?」
写真に写っていた男は白のタキシードを着て、襟のところに赤い薔薇を挿していた。
「この男は、元は英国情報部員と名乗る窃盗犯で、今じゃカリフォルニア州のお客さんだ。ピア39で警官をブッ飛ばして捕まった。で、捕まえてみればFBIだかNSCだかNFLだかのお尋ね者だが、折角捕まえたのから政府に引き渡さないで、サンフランシスコ市警が拘留していたという訳だ・・・理由は知らんが・・。で、そいつがアルカトラズの秘密ルートを知っていると言うから手伝ってもらうことにしたのさ。オマエは島で会うことになるかもしれないから顔を覚えておけ」
「いや、必要ない・・・知り合いだ」
俺は、以前、この男に仕事を頼まれ、海の上でボートに乗ってこの男を待っていた。
そして、海中から現れたこの男をピックアップして波止場に運んだことがある。
大体の事は判った。
一時間後、すべてが動き出したかのように、カンザスから自分で自分宛てに送った缶詰が届いた。
豆を食べ終わった。
エルウッドは事務所から出て待機した。
何もないような顔をしてマディカン刑事が戻って来て、ドロテと自称「船長」を置いて帰って行った。
船長はニコニコ顔で俺に警察にも話していない秘密「ALC」を俺に打ち明け、タナカサンを助けに行こうと誘った。
俺は熱心に頷きながら必ず助けようと言った。
場所はアルカトラズ。時間は16:00時と船長がおしえてくれた。
船長は電話を貸してくれと言って、誰かに自分は無時だと英語で伝えた。勿論、これは連中に計画通りの暗号で合図したに違いない。
敵方も動き出した。
応援のスワットチームも今頃装備をチェックしている頃だ。
俺も波止場からアルカトラズクルーズの観光船に乗らなければならない。
相棒のワルサーを置いていくのは心細いが、仕方がない。留守番をしていてもらおう
さあ、作戦開始だ。
俺の商売で、朝の8時に電話をしてくる奴と言えば未払いローンの請求か、じゃなければ俺の仕事を快く思っていない奴からの脅しの電話と決まっている。どちらの電話も慌てて出る必要はない。俺はブラジルの豆料理を食いながら受話器を上げた。
相手は中国語訛りの知らない奴だった
「グッモ~ニン!まだ起きてるね?」
「豆を喰ってるところだ、」
「豆は体に良いね!ドンドン食べ給え。ところでカンツメと日本人を交換したいたろ?」
どこかで聞いたことのある声だ。この訛りからすればコウ兄弟の片割れのケツアツのはずだが、俺はコウ・ケツアツと話をしたか思い出せない。
「交換はする気はない。Mr,タナカをただ解放しろ。そうすれば許してやる」
「アッハッハハ、オマエ、ランボーみたいね、でもそういかないヨ。オマエ、警察におしゃべりしただろ?折角カンツメ並べて道順を見せたりしてオ・モ・テ・ナ・シの準備したのに、ムダになったよ。電話でロールスロイスの場所を教えようとしても留守番電話だったしな~・・警察と一緒じゃお膳立て、ゼンブ無駄だったね・・でもま、イイヨ、警察の中にも友達いるからなんてもすぐ判るね」
「警察は誘拐で捜査を始めるぜ。誘拐は重罪だし、サンフランシスコ市警は実に優秀な刑事が揃っている。オマエの身のためだ、早くタナカさんを返せ」
「ダメヨォ、ダメダメ・・・ いいか、バカ探偵、良く聞くね!船長に3つの文字を教えた。オマエにも続き教える。警察抜きで二人できなさい。船長が知っているのはアルファベット3文字、オマエに教えるのは[ATRAZ]アトラス・・・ここが交換の場所ヨ」
「俺が船長に会えばパズルが完成して場所が判るんだな?」
「そうそう、その通り!たのしいたろ?船長はタナカの親友だし、喋ったら船に復讐に行くと言ってあるから、絶対警察には喋らないネ。シャベルのオマエだけ。たのっし~な」
「No!全然楽しくない」
「兎に角、もうじき二人とも警察をでてオマエのところに来るヨ。カンツメ忘れずに持って来てね。あ、ドン・コレステローレも、あのボディガードのガンマンも、あのカンツメ持っていないことは調べ済み。オマエがカンツメ持てるのは知ってるヨ。じゃあとはヨロシクね!ピストルは要らないからまるだしで来るの、判ってるネ?」
「まるだし?・・・丸腰のことか?」
「そうそう、それそれ・・それで来い、じゃあね!」
会話が終わったらしいので受話器を置こうとしたとき、まだ切らずにいた受話器から大笑いする声が聞こえた。
「どうだマックス、吾輩の中国人のモノマネは?これであいつらは中国人どもが犯人だと思い込んでおるぞ!ワッハッハッ!どうだマックス!吾輩の天才でぶりは!・・・・アッ!・・・電話切れてないではないか・・」
そしてカチッと言う音がして、ツーという音が聴こえてきた。
「フム・・・・相手はコウ兄弟じゃなさそうだな・・・」
受話器を置くと同時にもう一本電話。豆を食う暇もない。
相手はマディカンだ。
「よォ、まだ起きてるな?」
「豆を食ってた」
「豆は体にいいからドンドン食いな!ところでこれからそっちに行くぞ」
「・・・何しに?」
「マドモアゼルと船長を連れて行く。だからまだ起きていろよ」
「なんでここに?」
「マドモアゼルのほうはおまえと一緒にいたいそうで、船長の方はMr、タナカと缶詰を交換するのに付きあうそうだ。なんと言っても友達だからだそうだ。」
「そんな危険なことやらせて良いのか?」
「知るか、やりたいというからやらせるだけだ」
俺は迷わずにマディカンに告げた。
「実は、アンタたちが来ることは知っていた」
「なんで知ってる?」
「連中から電話があった。なんでも警察の中にもお友達がいるらしいぜ」
「・・・・・で?」
「あんたには内緒にしておかないとタナカサンは長生きするのが難しくなるそうだ」
「じゃ、なぜ俺に言う?」
「言わなきゃタナカさんは確実に長生きできなくなるから」
「フン・・・それは正しい・・・それで、連中はなんと言ってた?」
「船長が連中から聞いたキイワードと俺が聞いたキイワードを合わせるとタナカサンに会える場所が判るそうだ」
「お前のほうのキイワードは?」
「アトラズ・・ATRAZ・・・だそうだ」
「クク・・この問題を作った奴は馬鹿か?アルカトラズだ。船長が知っているキイワードはALCだよ。賭けても良い。なんてくだらないほどカンタンなんだ?」
「Alcatraz・・・」
今は観光地になった昔の刑務所島、通称ザ・ロック・・・・アルカトラズ島。
そういえばそうだ。ATRAZと訊いてアルカトラズを連想しない奴はこの街の住民ではない・。
「ところで、オマエ、以前、コバヤシ丸の船長に会った事はあるのか?」
「いや、初めて会った。タナカサンの友人だと言うことしかしらない。」
「じゃ、あの船長が本人かどうか・・・オマエさんには判らないんだな?」
「ああ・・・いったいどういうことだ?」
「実は、車の中で、左折するときに「取りイ舵」と俺が言ったら、野郎、ポカンとしてた」
・・・俺もポカンとした。
「多分、オマエさんもポカンとしてるだろう?」
敏腕刑事は電話の向うもお見通しだ。
「取り舵はというのは、日本語で左に曲がるときの日本の船員用語だ。俺は海兵隊にいたときは日本駐留していて、日本の護衛艦にも招待されることがあった。そのときにいくつかの日本語を教えて貰った。取り舵を日本人の船長が知らない訳はない。それを知らないということは、俺たちが保護した船長はニセモノだからだ」
そういえば、コバヤシ丸の船員達は連れて行かれるところは見たが、ドロテと一緒に警察に保護された奴はみていない。俺もマディカンもそれから日本語が判らないドロテも、てっきり、この男が船長だと思い込まされたとしても無理はない。
マディカンの推理通りだろう。この推理に俺も納得した。すると本物の船長はタナカサンと一緒に連れて行かれた・・ってことか?
マディカンは続けた。
「あいつは今のところ誰とも連絡を取れないように見張っているから、オマエもあいつの前では船長だと信じている演技してろ」
「あいつを使って偽の情報を流すのか?」
「できるかどうか判らんが、そうしたい・・と言うところだ」
一時間ほどしてマディカンだけが来た。偽の船長とドロテは、精密検査の名目で医務室に留め置かれている。
俺とエルウッドとマディガンの3人しかいない事務所にはカリフォルニアの陽光が差し込む。
朝陽はフレンス窓の窓枠の影を壁に映す。
俺たちに似合わない朝陽の中、マディカンはタナカサン救出の計画を簡単に説明してくれた。
俺は連中の言うとおり、缶詰を持って、観光船でアルカトラズに上陸する。
奴らはすでに上陸して待ち構えて見張っているだろうから、観光客や船員に化けた警察官を上陸させるわけにはいかない。
上陸させるのはスワット部隊で、島の沖合800メートルくらいから泳いで島に潜入する。
上陸すると見つかる恐れがあるので、昔島から脱獄した英国の諜報部員に島からの脱走ルートを案内してもらい、ルートを逆に侵入して島の中央部に進出する。
そして制圧、人質解放、悪い奴らを一網打尽・・と言う計画だそうだ。
しかし、市警にそんな泳ぎのできる特殊チームなんかあるのかと訊くと、サンフランシスコは港湾都市だということを忘れては困る。海上事件用のチームもしっかりあるんだという答え。
エルウッドの出番は・・・・無い。残念だ。俺はこの南部人を信頼し始めていたのだが・・・。
「そしてこいつが案内人だ」
と、言いながらマディカンが写真を俺たちに見せた。写真を見たエルウッドと俺は顔を見合わせた。身長を計る目盛りのついた壁を背にして、番号札を胸に掲げた男の前向き写真と横向き写真が写っていた。
「なんで、こいつは逮捕写真で白いタキシードを着ているんだ?」
写真に写っていた男は白のタキシードを着て、襟のところに赤い薔薇を挿していた。
「この男は、元は英国情報部員と名乗る窃盗犯で、今じゃカリフォルニア州のお客さんだ。ピア39で警官をブッ飛ばして捕まった。で、捕まえてみればFBIだかNSCだかNFLだかのお尋ね者だが、折角捕まえたのから政府に引き渡さないで、サンフランシスコ市警が拘留していたという訳だ・・・理由は知らんが・・。で、そいつがアルカトラズの秘密ルートを知っていると言うから手伝ってもらうことにしたのさ。オマエは島で会うことになるかもしれないから顔を覚えておけ」
「いや、必要ない・・・知り合いだ」
俺は、以前、この男に仕事を頼まれ、海の上でボートに乗ってこの男を待っていた。
そして、海中から現れたこの男をピックアップして波止場に運んだことがある。
大体の事は判った。
一時間後、すべてが動き出したかのように、カンザスから自分で自分宛てに送った缶詰が届いた。
豆を食べ終わった。
エルウッドは事務所から出て待機した。
何もないような顔をしてマディカン刑事が戻って来て、ドロテと自称「船長」を置いて帰って行った。
船長はニコニコ顔で俺に警察にも話していない秘密「ALC」を俺に打ち明け、タナカサンを助けに行こうと誘った。
俺は熱心に頷きながら必ず助けようと言った。
場所はアルカトラズ。時間は16:00時と船長がおしえてくれた。
船長は電話を貸してくれと言って、誰かに自分は無時だと英語で伝えた。勿論、これは連中に計画通りの暗号で合図したに違いない。
敵方も動き出した。
応援のスワットチームも今頃装備をチェックしている頃だ。
俺も波止場からアルカトラズクルーズの観光船に乗らなければならない。
相棒のワルサーを置いていくのは心細いが、仕方がない。留守番をしていてもらおう
さあ、作戦開始だ。