白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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Master対棋士 第3回(第2局)

2017年01月19日 23時32分20秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
本日、第20期ドコモ杯女流棋聖戦挑戦手合三番勝負が始まりました!
第1局の結果は、154手まで白番の謝依旻女流棋聖が中押し勝ちを収め、先勝となりました。
挑戦者の牛栄子初段は、序盤で明らかに優位に立っていただけに残念でした。

結果的には謝女流棋聖が圧倒しましたが、しかし三番勝負の行方はまだ分かりません。
私の経験上、こう手酷くやられると、かえって思い切った戦いができるようになるのです。
1月30日(月)に行われる第2局に、期待しましょう!

なお、しばらく国内棋戦の紹介はしない予定です。
女流棋聖戦の総譜は、幽玄の間でご覧頂けます。

本日はMasterの棋譜を紹介します。
今回も相手は不明です。张紫良二段(中国)です。



1図(テーマ図)
Masterが白番、黒△と打った場面です。
ここまでの布石、AIらしさは微塵も感じませんね。
Masterは2間締まりや大ゲイマ締まりを打つイメージがあるかと思いますが、小ゲイマ締まりも打つのです。

しかし、普通だったのはここまででした・・・。
実戦進行の前に、まずは人間的な布石を見てみましょう。





2図(参考図)
私が白なら、このような進行を目指します。
棋士によって細かい所は違うでしょうが、大体これに近い進行を考えるでしょう。
隅や辺を主体とした考え方です。
ところが・・・。





3図(実戦)
ここで、Master得意の手が出ました。
白1、白7の肩ツキ2発!
まさか、こんなに早い段階で肩ツキを打つとは・・・。

肩ツキは、一般的には模様の拡大を防ぐ目的で打たれます。
また、肩ツキした石を他の目的に役立てる事ができればなお良しです。

しかし、この場合模様と言っても、上辺には黒石が5つあるだけです。
急いで消しに行く必要があるようには思えないのです。
また、肩ツキした石がどう役立って来るか、現時点では全く見えません。
これが本当に良い打ち方なのか、疑問を感じました。





4図(実戦)
と思っていたら、白2ともう一つ肩ツキ!
2つでは物足りなかったのか、20手目にして3つ目の肩ツキです。
この肩ツキは消しではなく、勢力を作る意味があります。
しかし、これがどう生きて来るのか、はっきり見えて来ない点は同じです。

「白はこんな甘い打ち方で間に合うの?」
これが大半のプロの感覚でしょう。
ところが・・・。





5図(実戦)
40手ほど進み、白1と打った局面を見てみましょう。
戦いの起こっている中央で、白△が立派な役目を果たしているではありませんか!
中央の黒を大きく包み込む態勢になり、明らかに白のペースになっています。





6図(実戦)
その後50手ほど進み、白△と打った場面です。
黒は防戦一方になり、前図から殆ど地が増えていません。
一方、白は攻めの効果で、右下一帯を大きく盛り上げる事に成功しました。
下辺肩ツキからの勢力も、しっかりと役立っている事が分かります。

本局はMasterらしさ溢れる棋譜でした。
この碁でも、見た事の無い形は一切打たず、いつの間にか形勢が良くなっていました。
布石で数十手先を読み切る事は不可能ですから、この打ち方は人間的に言えばという事になります。
勘の精度が物凄く高い事が、Masterの最大の特徴です。