白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
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Master対棋士 第4回(第3局)

2017年01月20日 18時14分10秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
お知らせするのが遅れましたが、著書「やさしく語る 碁の本質」の第3刷発行が決まりました!
この早さにはビックリです。
次回作の執筆に向けて、ますますプレッシャーがかかりますね(笑)。

なお、皆様からご指摘頂いたミスは、第2刷で大半を修正できています。
ただ、石数のずれについては、雰囲気を変えてしまう恐れがあり、修正を見送りました。
申し訳ありませんが、ご了承ください。

第3刷では、唯一の修正点があります。
それは、人工知能と書くべき所を、1箇所「人口」知能と書いてしまった点です。

ともあれ、皆様からのご指摘のおかげで、より完成度を高める事ができました。
ありがとうございます。

次回作でも、皆様からお世話になるかもしれません。
ミスが出ないに越したことはありませんが・・・。

さて、本日もMasterの対局をご紹介します。
黒番がMaster、相手の棋士は不明丁世雄三段(中国)です。



1図(テーマ図)
黒△と飛んだ場面です。
これは棋士同士の碁と言われても、全く違和感は無いでしょう。

また、今までと違い、どちらかと言えば分散型の碁形ですね。
双方に大きな地ができそうにないように見えます。

Masterは中央志向のイメージがありますが、実際にはいつも中央を目指している訳ではありません。
あくまでも勝率の高い手を目指しているので、隅や辺が大きいと見ればそちらに打つのです。





2図(実戦)
その後、黒1、5と、黒△を見捨てるような打ち方をしています。
足早作戦を採って来たように見えますね。
確かにそれも一面ですが・・・。





3図(実戦)
右下隅を気にして、白1と守りました。
それを見て、一転して黒2の動き出し!
黒8まで、一瞬にして下辺の白が閉じ込められてしまいました。

Masterに隙を見せると、絶対に見逃してくれません。
恐ろしいですね・・・。





4図(実戦)
下辺の白は脱出できないので、左下の黒との攻め合いに持ち込みました。
白△と打ち、Aの所にコウができています。
これは、従来であれば人間のチャンスでした。
AIはコウが苦手であり、Masterの前身であるAlphaGoでさえも、その欠点を抱えていました。
ところが・・・。





5図(実戦)
黒1、3が最善であり、粘り強い応手です。
コンピューターのイメージにはそぐわないのですが、実はAIは最善の答えを出す事が苦手だったのです。
しかし、この弱点は相当高いレベルで克服されてしまったようです。

白4、6とコウを抜いて行きますが、黒全体を取るまでにはかなりの手間がかかります。
その間に黒5、7と連打し、白△や〇を飲み込む構えです。
大きな地ができそうにないと言っていましたが、状況が変わって来ました。





6図(実戦)
さらに手順が進み、黒△と打った場面です。
下辺の白は右下と繋がって安泰になりましたが、Aの所のコウが残っており、まだ左下の黒を取れた訳ではありません。
一方黒は白△や〇を立ち枯れにした上、左上一帯も大きな構えになっています。
結局、テーマ図以降は白の得た物があまりにも少なかったのです。

この後白Aと突入して暴れましたが、的確な対応に遭って上手く行きませんでした。
黒の完勝です。

人間の碁は描いたストーリーを大事にしますが、それに縛られて臨機応変な判断ができなくなる事があります。
しかし、AIにはそれがありません。
今までどう打って来たかは関係なく、その場その場で最善手を見付けるだけなのです。
このあたりが、AIの碁を見て違和感を感じる理由の一つでしょうね。