白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

井山天元、先勝!

2016年10月21日 23時49分43秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日、第42期天元戦が開幕しました!
第1局は井山裕太天元一力遼七段に黒番中押し勝ちを収め、まずは一歩リードしました。
それでは早速振り返っていきましょう。
なおこの対局は幽玄の間にて、 加藤充志九段の解説付きで中継されました。



1図(実戦黒13)
序盤早々、井山天元が仕掛けました。
左下の形は、黒AかBの2通りしかないというのが常識です。
ところが、実戦は黒△にハサミツケ!
私は二十年以上碁を打って来ましたが、この手を考えた事は一度もありません。
井山天元の創造力には驚かされます。





2図(実戦黒17)
白△とハサミツケられたら、黒AかBと打つしかないという事も常識です。
ところが、実戦は手抜きで黒1!
またしてもやってくれました。
私が同じ布石を打っていても、この手に気が付く事は決してないでしょう。
碁が始まったばかりの段階ですが、井山天元の2手には猛烈な感動を覚えました。





3図(実戦白22~黒25)
一力七段も驚いたでしょうが、相手の手に感心している暇はありません。
白1、3は、上辺の黒の攻めを狙う積極戦法です。
しかし黒4と落ち着いて守られ、さて白はどうするべきでしょうか?





4図(変化図)
白1、3と逃げて行くのは素直ですが、重い打ち方です。
黒8まで、左右の黒には余裕があります。
白が一方的に攻められる事になるでしょう。
元々右上一帯は黒石の数が多い所なので、正面から戦うのは良くありません。





5図(実戦白26~28)
一力七段が打った手は、白1のおまじないから、白3!
この手は、見た瞬間に良い手だと感じました。
センス溢れる一着です。





6図(実戦黒29~白36)
当然黒1から反撃したくなりますが、それを誘っています。
黒が白△を取っている間に白石が増え、白8と上辺の黒を包み込む形になりました。
上手い打ち回しだったと思います。
次に黒Aと頭を出し、白Bと進むかと思いましたが・・・。





7図(実戦黒37~白44)
実戦は黒1のツケに対して、なんと白2から強引に分断!
これ以上ない最強手で、黒に襲い掛かりました。
白はそこまで強い立場ではないので、反撃されるリスクの高い打ち方です。
大抵の棋士は二の足を踏みますが、躊躇なくやって行ける事に、一力七段の若さと勢いを感じますね。





8図(実戦黒45)
井山天元も、この進行はある程度予期していたのでしょう。
黒1が鮮やかな手筋です!
Aの切りやBの当てを見られて、白は強く対応できません。





9図(実戦白46~)
という訳で、白1と繋いで禍根を断つのが本手です。
黒2を待って、自分も白3から脱出しました。
白5となって、ここで黒が打つ手は一手しかないように見えますね。





10図(変化図)
誰でも黒1と出る手を考えるでしょう。
すると白も2と出て行く事になります。
お互いに頭を出した格好ですが、黒△が宙に浮いています。
これなら白やれるというのが、一力七段の判断でしょう。





11図(実戦黒51)
ところが、実戦はなんと黒1!
Aに切って来いと誘っています!
本当に驚きが多い碁です。





12図(実戦白52~黒61)
勢い、白も誘いに乗って行きました!
黒10まで、黒△と白〇の攻め合いの形になっています。
この攻め合いは黒が有利なので・・・。





13図(実戦白62~白70)
白は黒の包囲網を破りに行きました。
白9までと進みましたが、白の狙いは何でしょうか?





14図(変化図)
黒1と打つと、白10となって黒が潰れます。
白Aのシチョウと白Bが見合いで、どちらかの黒が取られます。
この両方を防ぐには、黒1でどう打てば良いでしょうか?





15図(実戦黒71)
実戦、黒1が両方を凌ぐ妙手です!
ここから白が前図のように打っても、黒の要石を取れない事をご確認ください。
この黒1は有名な手筋で、プロなら皆知っています。
しかし、こんな派手な手が実戦に現れるとは・・・。
またしても驚きです。





16図(実戦白72~白黒79)
実戦、白は別のコースで追いかけますが、白7に対して黒8が冷静な応手です。
ここでも黒△が働き、白Aのシチョウは成立しません。





17図(実戦白80~白92)
白も必死に追いすがります。
白13までとなり、上の黒が寂しくなっています。
もちろん、捕まってしまえば白勝ちです。





18図(実戦黒93~黒101)
しかし、黒1が決め手です!
黒9までと脱出し、黒の勝ちが決まりました。


一昨日
、私は井山天元が一力七段を全力に叩きに行くだろうと想像しました。
しかし本局は、叩くどころではなく、叩き潰しに行きましたね。
高尾紳路九段を相手にした時とは、また別種の負けられない思いがあるのでしょう。
一力七段も正面衝突は避けないでしょうから、このシリーズは全局殴り合いの碁になるような気がします。
第2局以降も、目が離せません!

第2局は11月11日(金)、北海道小樽市「小樽朝里クラッセホテル」で行われます。
お楽しみに!

若手棋士、奮闘中!(棋譜紹介)

2016年10月20日 23時59分59秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
まずはお知らせです。
10月23日(日)22日(土)に、有楽町囲碁センターにて指導碁を行います。
ご都合の合う方は、ぜひお越しください。

さて、本日は棋士の手合日です。
幽玄の間で中継された対局をご紹介しましょう。
本日登場するのは村松大樹六段(黒)と平田智也七段です。

村松六段は、気合良く仕掛けて行く棋風です。
緩んだ手を決して打たない印象があります。

平田七段は、地にからい模様派です。
まずしっかりと構えておいて、それから大きく広げて行くので、模様に入って来られて何もなくなるという事がありません。
アマチュアが真似しやすい棋風ではないでしょうか?

さて、それでは碁の紹介に入りましょう。



1図(実戦黒13)
黒△と詰めた場面です。
次にAの打ち込みがある事はよく知られていますね。
それを防ぐには、従来の感覚なら白Bでした。





2図(実戦白14~白18)
ところが、実戦は白1といきなりツケ、白5までと大きく構えました!
なるほど、白の姿はのびのびしていますね。
気持ちの良い打ち方です。





3図(実戦黒39)
その後、黒△と飛んだ場面です。
ここまでややこしいやり取りがありましたが、定石のようなものです。
そして現状は、左辺の黒と左下白の競り合いになっています。
ここで白番ですが、皆様ならどんな構想を描きますか?





4図(実戦白40~白46)
実戦は、白1~7まで、有無を言わせぬ押し切り!
何とも堂々とした打ちっぷりです。
左右を繋げて、左辺の黒は睨み殺しにする構えです。
こうなってみると、これまで打って来た石が皆光り輝いて来た印象です。





5図(変化図)
黒としては左辺の石を動きたいのですが、白6と抜かれると全く眼がありません。
周囲は真っ白、これから黒は延々と攻められる羽目になるでしょう。





6図(実戦黒47~黒55)
という訳で、黒は左下を捨てる事になりました。
黒5、9に回り、長期戦を目指しています(黒3は白Aと来た時のシチョウ当たり)。
とはいえ取れては大きく、平田七段がリードを奪いました。





7図(実戦白56~白62)
白1から隅を生きられると、外側の黒が心配です。
黒Aなどと開いておくのが常識的かもしれませんが、囲うだけの手なので、やや気が引けます。
後に白Bと打たれる嫌味も残ります。





8図(実戦黒63~65)
実戦は、黒1~3!
格好良い手が飛び出しました。
白に迫りながら形を整えようという、目一杯の手です。





9図(実戦白66~黒69)
白は中央を大事に受け、黒4までとなりました。
黒は一杯の形を作り、Aと切る狙いも残しています。
村松六段らしい、「石の張った」打ち回しでした。





10図(実戦白84~白92)
その後、右上で白1と下がった手には驚きました。
白Aと当て、黒Bと繋がせれば、それだけで生きている所なのです。
白9の手も、Cなどの広い所に向かうプロが大半だと思います。
平田七段、足が遅いのを承知で、これ以上なく手厚く打っています。
善悪は分かりませんが、これでやれるという、平田七段の自信を感じる打ち回しでした。





11図(実戦黒101~白102)
その後、黒1の踏み込みに、白2の強手で反撃!
黒Aと押さえれば白Bで、丸取りしてしまおうという事です。
黒、困ったように見えますが・・・。





12図(実戦黒103~黒111)
ここでなんと、黒1から動いて行きました!
村松六段、ずっと狙っていたのでしょう。
黒9に対して白Aと打たれると、一見黒ダメそうですが・・・。





13図(変化図)
白1には黒2の割り込みが成立します。
黒6と切り、この2子は取られませんし、黒△が働いて、黒Aからのシチョウも黒が良いです。
上手くできているものです。





14図(実戦白112~白116)
という訳で白1と割り込みを防ぎましたが、黒4でこちらが切れました。
白も5と切って、これは一体どうなっているのでしょうか?





15図(実戦)
そしてさらに物凄い事になります。
本当に、どうなっているのでしょうか・・・。
両者が必死に読む姿が目に浮かびます。





16図(実戦黒119~白132)
最終的には、こんな分かれになりました。
白は左下方面の黒を全滅させましたが、黒も上辺を大きく地にしました。
これは流石に、黒が得したのではないでしょうか?
非常に細かい碁になりました。

そして最後は、平田七段の半目勝ちとなりました。
ここまで激しく戦って、結果が半目差とは凄いですね。
両者目一杯に戦った好局だったと思います。

この一局は、名人戦最終予選の準決勝でした。
勝った平田七段は、あと1勝でリーグ復帰です。
近年、若手棋士の活躍が目立っていますね。
力の籠った碁も多いので、今後も積極的にご紹介していきます。

天元戦、開幕迫る(棋譜紹介)

2016年10月19日 23時59分59秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
10/21(金)から、第42期天元戦挑戦手合第1局が始まります。
現在名人戦王座戦が進行中ですが、井山裕太七冠への第3の刺客として登場するのが、一力遼七段です!

一力七段の特徴ですが、地が好き、模様が好き、といった言葉では表しにくいですね。
私が一言で言い表すなら、クレバーですね。
固定観念に囚われませんし、判断力が非常に優れているのです。
王座戦第1局と同日に行われた趙治勲名誉名人との対局が、それをよく表しているのではないでしょうか。
プロから見ても難解な内容ですが、ご紹介してみましょう。
なお、
この対局は幽玄の間にて中継されました。
昨日ご紹介した通り、過去の中継棋譜は幽玄の間ホームページ上でご覧頂けます。



1図(実戦白46)
最初に申し上げておきますが、今回の記事は、解説として見てしまうと物凄くいい加減です。
あくまでご紹介なので、お間違えの無いようにお願いします!(笑)

さて、本局は一力七段の黒番です。
白△と打った場面ですが、ここで大抵の方が打ちたい手があると思います。





2図(変化図)
黒1で、白1子をシチョウで取る事ができます。
黒△も助かるので、こう打ちたくなる方が多いでしょう。
しかし白2の打ち込みが強烈です!
ただ地を荒らす手ではなく、右下黒を攻める狙いを持っています。





3図(続・変化図)
右下黒が心配だからと黒1から繋がれば、右辺ががらがらに・・・。
そして白12のシチョウアタリを打たれ、左辺も苦しくなります。
黒13と抜いた利益はどうかと言えば、元々強かった黒一団をさらに強化しただけです。
黒はつまらない所に力を入れてしまいました。
実際にここまで黒悪い図にはならないでしょうが、大雑把に言えばこんなイメージです。





4図(実戦黒47~51)
という訳で、黒1の方が大事です。
白2を許しても、また他に回れます。
ここまでは、プロにとっては初級編の判断でした。

ところが実戦は、ここから黒3、5と仕掛けていきました!
白Aに黒Bと入る予定でしょうか。
それでやれるという読みがあるのでしょうね。

ツケからの三々は、プロの対局にはよくある手段です。
しかしこの配置では、なかなか気が付きません。
一力七段、鋭い所を見せました。





5図(実戦白52~黒55)
結局、白は隅を譲る事になりました。
黒としては地を得しながら、下辺全体を治まる事ができました。





6図(実戦白62)
白としては、先手を取って白△に回り、左上の黒を攻める作戦です。
黒はどう対応したものでしょうか?
周囲に白の石数が多い事を、意識しなければいけません。





7図(変化図)
黒1から正直に対応すべき場所ではありません。
一例として白10まで、黒はいかにも窮屈です。





8図(実戦黒63~黒69)
実戦は黒1、3とツケの連発から黒5、7と、軽やかな打ち回しを見せました!
黒△を取りたいならどうぞと言っています。
相手の勢力圏では正面から戦わないという、理に適った発想です。





9図(変化図)
もし白1のように取って来るなら、あっさり捨てて黒6などに向かう予定でしょう。
黒模様が広大になり、白が入って来たとしても、有利に戦えます。





10図(実戦白70~黒73)
実戦は白1でしたが、ここで一転して黒2、4と強い手を放ちました!
前図に比べて白が一路頑張ったので、そのラインで地にさせてはいけないという事ですね。
こういった所の線引きが抜群に上手いのが、一力七段です。
一見すると黒無理な戦いのようですが、黒△が戦いに役立つと読んでいます。





11図(実戦白90)
結果、黒は白△を切り離し、黒△との競り合いの形に持ち込みました。
さて、ここで一力七段、どう打ったでしょうか?
とりあえず、黒△を逃げる事を考えそうですが・・・。





12図(変化図)
黒1なら逃げられますが、白に対する迫力がありません。
一例として白12まで、白はゆとりのある姿です。
こうなると左上の黒が心配になりますし、守っているようでは右辺に入られてしまいそうです。





13図(実戦黒91~黒93)
実戦は、なんと黒1、3!
物凄い手が飛び出しました!
白に最大限に迫った手と言えるでしょう。
黒は傷だらけで、心配に見えますが・・・。





14図(変化図)
白1と取りに来れば、捨ててしまうつもりでしょう。
一例として黒12まで、右辺の黒地が広大になります。





15図(実戦白94~黒101)
という訳で、白も取りに行かず白1でしたが、そこで一転、黒2と助けました!
黒8までの図を12図と比べてみましょう。
黒にゆとりができ、白は窮屈になっていますね。
これなら黒も戦えます。
白は右辺に侵入する暇が無くなり、最終的に右辺は無事黒地になりました。

如何でしょうか?
碁は非常に難しかったですね。
実は私も全然分かっていません
ですが、一力七段の特徴を掴む役には立つかと思います。
戦うべきかかわすべきか、助けるべきか捨てるべきか、等々、そういった所の判断力が非常に優れているという事を感じて頂ければ十分でしょう。

個人的には、井山七冠と似たタイプだと感じています。
いずれ一力時代が来るかもしれません。
井山七冠としては、全力で叩きに行くでしょうね。
2人がどんな戦いをするのか、とても楽しみです。
皆様もぜひご覧ください!

武闘派対決!(棋譜紹介)

2016年10月18日 22時19分24秒 | 幽玄の間
皆様こんばんは。
本日は昨日の王座戦の裏で行われていた対局をご紹介します。
第55期十段戦本戦1回戦、結城聡九段(黒)対金秀俊八段です。
正に東西の武闘派対決!
期待通りの凄い戦いの碁でした。

なおこの対局は幽玄の間で中継されていましたが、ソフト上からは既に流れていますね。
この対局も含めて、過去に幽玄の間で中継された対局は、幽玄の間ホームページからご覧頂けます。
ログイン後、中継→中継棋譜鑑賞と進むと棋譜の一覧が表示されます。
検索も可能ですので、ぜひご利用ください。

さて、それでは対局を振り返っていきましょう。



1図(実戦黒9)
黒△と白△の小目が向かい合っている、所謂「向かい小目」の布石ですね。
最近あまり見なくなりましたが、もちろん互角の布石です。

黒1に対しては、白A~Cなどが代表的な定石です。
どれを選んでも、黒石が下辺に向かう可能性が高いのですが、白はそれを防ぎたいと考えました。
そこで白が選んだ手は・・・。





2図(実戦白10)
実戦は白1!
下辺を重視する打ち方です。
Aのハザマが空いて異様な感じですが、そこは何とかなるとみています。





3図(変化図)
黒には色々な打ち方がありますが、最も簡明なのは黒1以下です。
黒は左辺に連絡、白は勢力を築く分かれになります。

ただし、この碁は右辺の配置が特殊です。
右上白8、右下白12と両方カケられ、黒の位が低くなってしまいます。
碁盤全体を見ても、黒1以外の全ての石が3線以下にあります。
いかにもバランスが悪い感じで、白としてはこんな図になれば嬉しいでしょう。

では黒はどうするべきでしょうか?
2図のAが気になっている方が多いでしょうが・・・。





4図(実戦黒11)
実戦も、やっていきました!(笑)
白を分断する手で、最もストレートな行き方です。
一見白がバラバラで、困りそうですが・・・。





5図(実戦白12~白14)
白1、3と黒を分断!
「あなたこそバラバラじゃないですか?」と言っています。
お互いに弱い石が複数できており、この戦いは良い勝負でしょう。

白のハザマを空ける手は、一時期(確か私の入段前)流行した事があります。
この図のお互いに切り合う変化も、実戦例があります。
ところが、この後の実戦は見た事もない展開になり・・・。





6図(実戦黒35~白38)
序盤から物凄い事になっています。
黒1、3で白の出口を塞ぎ、白は4で隅の黒を取りに行きました!





7図(実戦黒39~黒43)
前図の続きで、黒5までと進みました。
一体どうなっているのでしょうか?
次図で現状を確認してみましょう。





8図(現状確認)
黒7子と白8子の攻め合いになっています。
攻め合いで最も重要なのは、お互いの石が取られるまでの手数(ダメの数)です。
数えてみますと、黒5手、白4手ですね。
白番ですが、単純にダメを詰め合うと、攻め合いに負ける事が分かります。

となれば、白は何とかして手数を延ばさなければいけません。
白がどう打ったか、予想してみてください。





9図(失敗図その1)
白1と切る手は成立しません。
黒6が好手で、白攻め合い負けになります。





10図(失敗図その2-1)
白1と打ちたくなる方が多いのではないでしょうか?
黒2に白3と逃げて、一見上手くいきそうに見えますが・・・





11図(失敗図その2-2)
黒1、3、5と、緩まず止められていけません。
黒9となった時点で白の手数は4手と、全く延びていません。

この図がダメなら、白困ったように見えますね。
ところが・・・。





12図(実戦白44)
実戦は白1の2間トビでした!
妙手です!
次に黒Aなら、白Bで脱出してしまいます。





13図(実戦黒45~白52)
そこで実戦は黒1、3、5でしたが、白6に対して黒Aとダメを詰められないのがポイントです。
(黒Aと打つと、白Bと出られて崩壊します)
そこで白8と黒のダメを詰めて・・・さて、白は何手になっているでしょうか?





14図(手数の確認)
黒1(6の所)から白6までとなると、白は5手ですね。
黒は4手なので、白が攻め合い勝ちになりました。
魔法のような妙手で、白が攻め合いを逆転しました!


ただし、石を取ったからといって終わりにはならないのが碁です。
この碁も延々と戦いが続きます。
戦いの手筋も多く登場するので、ぜひ総譜をご覧ください!

井山王座、先勝!

2016年10月17日 22時05分55秒 | 囲碁界ニュース等
皆様こんばんは。
本日、第64期王座戦挑戦手合第1局が行われました。
余正麒七段は初めて挑戦者になったとは思えぬ、見事な戦いぶりを見せましたが、終盤の井山裕太王座の粘りも流石でした。
難解なコウ争いの結果、最後は井山王座が白番1目半勝ちを収めました。
それでは対局の模様を振り返っていきましょう。
なお、この対局は幽玄の間にて、山田規三生九段の解説付きで中継されています。



1図(実戦黒25~白26)
左下は定石、左上も定石のようなものです。
右下黒1のハサミに対しても色々な定石がありますが、ここですぐに白△を動かず、白2と左下の黒に仕掛けました。
黒の対応を見てから右下の打ち方を決めようという、井山王座らしい碁盤を広く使う打ち方です。
次に白Aで左右を連絡する手がありますが・・・。





2図(変化図)
黒1と一つ押してから黒3と連絡を妨げるのが定型ですが、下辺に白石が増えるので、右下は白14と堂々と飛び出して行く事になります。
白は左右が繋がり、逆に上下の黒△は弱い石になってしまいます。
この図は黒良くないので・・・





3図(実戦黒27~白30)
実戦は黒1と右下に援軍を送る受け方をしました。
今度は白が中央に飛び出して行っても攻められるだけなので、白2、4と隅での安定を目指しました。





4図(変化図)
もし黒1と受けてくれれば、白2と隅で根拠を確保する事ができます。
黒3と下辺を打たれても、白4で1子を助けられるので、大きな黒地にはなりません。
Aの傷も残り、黒は何も得たものがありません。





5図(実戦黒31~39)
そこで実戦は黒1から白の根拠を奪い、攻める作戦を採りました。
黒△を活用しようとしています。
白もAから動き、黒の弱点を衝きながらのサバキを目指す事になりました。





6図(実戦黒57~白58)
下辺は白△まで、白が無事に治まりました。
一方下辺の黒は断点が多く、厚みではありません。
白成功でしょう。
気を取り直して黒1と大場に先行、白は2と右辺に侵入して第2ラウンド開始です。





7図(実戦黒59~白71)
ここで余七段が思い切った構想を見せてくれました。
黒1から黒△を捨てて外勢を築き、黒13まで!
白地は10目ぐらい増えましたが、右上一帯に巨大な黒模様が出現しました!
こう大きく構えられては、白は突入するしかありません。
突入地点は非常に悩ましい所ですが・・・。





8図(実戦白72~白76)
実戦は白1、3、5!
あちらに打ったり、こちらに打ったりはプロの得意技です。





9図(実戦黒77~白86)
黒1、3と左上を受けましたが、一転白4と中を動き、さらに白10と右上を動きました。
何が何やら、訳が分かりませんね(笑)。
右上一帯は黒が圧倒的に強い場所なので、白としてはどこか1つでも生きられれば良いという発想なのです。
三方全てが陽動というイメージですね。
黒に焦点を絞らせないように打っています。
このあたりは無数の変化が考えられる所で、両者の頭脳はフル回転していた事でしょう。





10図(実戦黒119)
難解な戦いは黒△で終結しました。
白は上辺で生きましたが、その間に黒は△を取り、中央の黒模様も健在です。
黒がリードを奪ったように見えました。
白としては、何とか黒模様に入らなければいけないと思ってしまいそうですが・・・。





11図(実戦白120~黒125)
実戦は白1から一歩一歩左辺に白地を増やし、黒6までと中央を囲わせてしまいました。
黒地があまりにも大きく見えるので、この打ち方は意外でしたが・・・。





12図(実戦白126)
ここで白1と踏み込む手がありました!
恐らく何十手も前から、この手が見えていたのでしょう。
流石井山王座です。
次に黒Aから切られてしまいそうですが・・・





13図(変化図)
黒1、3と切る手は無理です。
黒に断点が多く、白10まで黒地を破られてしまいます。





14図(実戦黒127~黒141)
という訳で黒1と後退したのは仕方なく、黒15まで黒地は大きく目減りしました。
これでかなり細かい碁になっているようです。
井山王座、流石の判断力でした。





15図(実戦黒169)
左上黒△とコウを取った場面です。
次に黒Aの切りでさらにコウを仕掛ける手があるので、「白Aと繋いでください」と言っています。
対する白も、「コウは怖くありません。あなたが先に黒Bと繋いだら、それから白Aと繋ぎます」と言って譲りません。
細かい碁なので、両者譲りたくない所なのです。
このコウが解決するのはなんと90手後です。





16図(実戦白194~白196)
お互い意地を張った結果、白1、3でさらに事が大きくなりました!
黒△全体に眼が無くなっています。
黒Aの所が、命懸けのコウ争いに発展しました。





17図(実戦黒259~白260)
死活、地の損得、コウ立ての数、形勢判断が必要なコウ争いで、しかもお互い秒読みなので、一手60秒以内で打たなければいけません。
私が打っていたらとても手に負えません。
結果的には、コウ争いを利用して白が地を得する事に成功したようです。
コウ争いが終わった時には白の勝ちが確定していました。


非常に難解な碁でしたが、両者見事な戦いぶりでした。
余七段も敗れたとはいえ、大舞台で井山王座相手に互角に戦えた事は、大きな自信になるのではないでしょうか。
第2局も熱戦を期待できそうです。

第2局は11月7日(月)に兵庫県神戸市「中の坊瑞苑」で行われます。
お楽しみに!