白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

やさしく語る 布石の原則

2017年08月20日 23時59分59秒 | 著書
皆様こんばんは。
本日行われたアマチュア本因坊では、高校2年生が優勝しました。
芝野虎丸竜星といい、若い世代の活躍は目覚ましいものがありますね。

さて、本日は出版間近となった新刊のPRを行います。



前作「やさしく語る 碁の本質」の続編です。
タイトルも装丁もそっくりですね。
前作は主に中盤戦を扱いましたが、本書は布石がテーマになります。
内容は独立しており、どちらか片方だけご覧頂いても理解できるようになっていますが、両方ご覧頂ければ序盤から中盤までの線がつながるでしょう。
それでは、本書の構成の説明に入りたいと思います。

〇序章「本書の内容と活用法」
導入部分です。
19路盤の広さ・自由度を再確認して頂くような内容になっています。
俗に「布石はどう打っても1局」と言いますが、基本的な考え方を身に付けていることが前提です。
本書は、読者の皆様に基本的な考え方を身に付けて頂き、自然な布石が打てるようになって頂くことを目標にしています。

〇第1章「勢力圏を意識する」
布石での具体的な考え方を学ぶ前に、そもそもどういう布石を打てれば成功なのかを知る必要があります。
キーワードは勢力圏です。
布石は一言で言えば勢力圏争いであり、それに勝った方が有利な中盤戦を迎えることができます。
本章では勢力圏とは何かということと、その重要性について解説しています。

〇第2章「勢力圏争いに勝つ」
本章では、勢力圏争いに勝つための具体的な考え方を、3つの「原則」としてまとめています。
前作と同様、考え方をパターンとして身に付けて頂くことが狙いです。
いつでもこの考え方ができるようになれば、細かい技術が足りなくても、石が自然と良い所に向かうようになるでしょう。

〇第3章「確認問題1」
練習問題です。
第2章で学んで頂いたことを、実戦形式で練習して頂きます。
教えを受け取るだけでなく、自分の頭で考えることが上達への近道です。

〇第4章「勢力圏への入り方」
本書では、まずは第2章、第3章の内容をしっかりと練習して頂くことが大事です。
今までできていなかった方であれば、それだけで十分と言っても良いぐらいです。
ですが、そこまでの内容が身に付いた方には、上級編として新たな考え方を学べるようになっています。

それが「勢力圏への入り方」です。
実際の対局では相手もいることですから、勢力圏争いに勝てないことがあります。
そんな時は、相手の勢力圏に入って行くことも必要になります。
そのためにはどんな考え方で着手を選べば良いのかということを、これも3つの「原則」としてまとめています。

〇第5章「確認問題2」
練習問題です。
第4章で学んで頂いたことを、実戦形式で練習して頂きます。
上級編なので一部高度な内容も含みますが、理解が難しそうであれば飛ばして頂いても構いません。

〇第6章「布石紹介」
第5章までの内容をしっかりと練習して頂ければ、布石の考え方は身に付くようになっています。
ただ、考え方を学ぶだけでは、実際の布石の流れをイメージし難いかもしれません。
そこで、三連星や中国流などを題材に、布石のお手本を示しています。

〇第7章「実力テスト」
出ました、実力テストです(笑)。
ただ、今回は布石という分野の性質上、正解の幅が広くなっています。
私と全く同じ答えである必要はなく、ゲームと思って楽しんで頂ければ幸いです。

〇第8章「知識編」
前作では序章に用語集が入っていましたが、今回は最終章である本章に入っています。
また、今回は覚えておくと役に立つ定石や定型もご紹介しています。
本書の内容とも関りが深く、まずこの章からご覧頂いても良いでしょう。


以上、序章+8章の構成となっています。
多少の違いはありますが、前作とほぼ同じ構成と言って良いでしょう。
構成や文章など、大半を私が手掛けているところも同じです。

布石の考え方は漠然としたものになりやすく、本作をまとめるにあたってはかなりの苦労がありました。
当初は布石の全てを説明しようとしていたのですが、気が付けばかなりの難易度に・・・。
これでは単なる自己満足になってしまうということで、最初から作り直しました。

読者の皆様に対局で役立てて頂くことを考えると、シンプルであることが一番です。
そこで、結局は前作の形式に落ち着きました。
メインターゲットは1桁級の方ですが、2桁級の方や有段者の方にも参考にして頂けるのではないかと思っています。

私も苦労しましたが、原稿の遅れで関係者の方には多大なご迷惑をおかけしました。
この場を借りてお詫びしたいと思います。
その代わり、本書は私としては満足の行く出来になりました。
多くの方に活用して頂ければ幸いです。

見本到着

2017年08月19日 23時59分59秒 | 仕事・指導碁・講座
皆様こんばんは。
本日、「やさしく語る 布石の原則」の見本が到着しました!
カメラの状態が悪くて、こんな写真しか撮れませんが・・・。
明日から内容の紹介もして行きたいと思います。

さて、本日は永代塾囲碁サロンにて指導碁を行いました。
お越し頂いた方々、ありがとうございました。
なお、予定していた解説会はお客様が集まらず、中止になりました。
ちょっと告知が遅すぎましたか・・・。

今回は時々指導碁にも現れる、ありがちなミスをご紹介しましょう。



1図(テーマ図)
白1に黒2と挟みました。
白3の三々入りには、下辺を大切にして黒4、6が正しい方向です。
ここで白7と押して頭を出そうとして来ましたが、黒AとB、どちらが正解でしょうか?





2図(失敗図1)
黒1とハネ、白2の時に黒3、5と出切りましたが、これは定石のうろ覚えです。
と言うのは、このタイミングで出切ると・・・。





3図(失敗図2)
黒1子を抱えず、白1とつながれてしまいます。
黒4と打てば白2子は取れるのですが、白7と切りに対して黒8の手入れが必要になり、白9とポン抜かれてしまいます。
外側でのポン抜きの威力は大きく、黒△が色褪せてしまうのでこれは白良しです。





4図(正解1)
という訳で、黒1、3と先に出切るのが正解です。
今度黒4と打たれると2子がただ取られになるので、白4と抱えるぐらいです。
そこで黒5の切りも決めて・・・。





5図(正解2)
白1の抜きに黒2と2目の頭をハネれば、白のダメ詰まりを利用して中央進出を止めることができます。
黒10まで、定石完成です。

定石を覚える際は、丸暗記ではなく一手一手の意味を学ぶことが大切です。
そうすると手順もしっかりと覚えられますし、応用も利きます。
例えばこの定石なら、挟みの位置が違うケースでも、4図までの流れはほとんど同じなのです。

このパターンは、「やさしく語る 布石の原則」にも収録しています。
定石は多くを覚える必要はありませんが、実戦によく現れるものはしっかりと身に付けておきたいですね。

人間+AI=?

2017年08月18日 23時59分59秒 | AI囲碁全般
皆様こんばんは。
新刊「やさしく語る 布石の原則」の見本ができたそうです。
明日あたり私の手元に届くでしょう。
楽しみです。

さて、本日は昨日の大会で優勝したDeepZenGoが孔傑九段と対局しました。
普通の対局ではなく、孔九段が準優勝プログラム「CGI」の読み筋を参考にしながら打つ、いわゆる相談碁です。



1図(実戦)
黒番のDeepZenGoが大模様を築き、白が中央に突入している場面です。
白1は様子見の動き出しです。
隅を生きようという訳ではなく、黒に何か相手をして貰えればBあたりに利き筋ができ、中央白の凌ぎに役立つという意味です。
しかし、DeepZenGoは隅には目もくれず、黒4から攻撃開始しました。
隅を大きく生きられる手が残っているのでリスクがありますが、DeepZenGoには怖くて手が縮むことはありません。





2図(実戦)
白1と逃げた場面で、黒2と左上に転戦しました。
黒8の後、黒△の動き出しが残ったので・・・。





3図(実戦)
白1~7と取りましたが、黒8まで黒石が増え、この部分にできそうだった中央白の眼を奪っています。
そして、白9と逃げたところで黒10、12と攻めを再開しました。
黒は左上で生きた上、中央白への攻めも継続できています。
得をしながら攻めるという、攻め方のお手本のような打ち回しです。





4図(実戦)
白△とつないだ場面です。
中央の白は、まだ1眼あるかどうかという状態ですが・・・。





5図(実戦)
ここで黒1と右上隅を確保、白2に対しては黒3から地を囲ってしまいました。
もう攻めの利益は十分上げたので、これでお腹いっぱいという訳です。
DeepZenGoが緩急自在の打ち回しで勝ち切りました。

孔九段ほどの棋士がAIの力を借りても、DeepZenGoに勝つことは容易ではないようです。
もはやDeepZenGoも、人間レベルを大きく超えてしまっているのです。
複雑な死活勝負に持ち込めば孔九段の能力も生きたでしょうが、今回は都合の悪い展開でしたね。

DeepZenGo、優勝!

2017年08月17日 23時54分26秒 | AI囲碁全般
皆様こんばんは。
本日は第36期女流本因坊戦の挑戦者決定戦が行われました。
幽玄の間での解説者としてずっと見ていましたが、謝依旻女流棋聖の手には驚かされることが多かったですね。
思い切った打ち回しに、吉原由香里六段もペースを乱されたでしょうか?
中盤で痛恨のミス出てしまいましたね。

挑戦されることが多かった謝女流棋聖、今度は藤沢里菜女流本因坊のタイトルを奪いに行きます。
両者の戦いは当分終わりそうにありませんね(笑)。

また、本日は中信証券杯 第1回世界電脳囲碁オープン戦が行われました。
優勝候補筆頭の「絶芸(FineArt)」、急成長を遂げた「CGI」といった強豪が出場していましたが、優勝は「DeepZenGo」でした!
DeepZenGoはいつも幽玄の間で我々に強さを見せ付けていますが、AIの中でも強さを証明しましたね。
それでは、準決勝と決勝で私が注目した場面をご紹介しましょう。



1図(絶芸-DeepZenGo戦1)
準決勝、絶芸(黒)との対局です。 
黒△と打った場面は、黒地がずいぶん多いようですが・・・。





2図(絶芸-DeepZenGo戦2)
白1~5と、皆取り作戦!
周囲の白にも薄みがあり、とても取れそうもないと思ってしまいますが・・・。





3図(絶芸-DeepZenGo戦3)
取ってしまいました。
黒△が全滅しています。
物凄いパワーを発揮して、決勝に進出しました。





4図(CGI-DeepZenGo戦1)
CGI(黒)との決勝戦です。
白1とケイマに打ちましたが、黒6までと切られました。
右下白は大丈夫なのでしょうか?





5図(CGI-DeepZenGo戦2)
白1と黒に急所に迫り、黒2、4には白5、7の手筋炸裂!
次に黒Aと押さえれば、白Bとカケツいで白CとDが見合いという訳ですね。





6図(CGI-DeepZenGo戦3)
黒9までで白△10子を取られましたが、黒△を取り込んで立派な捌きになっています。
そして、白12、14の仕掛けとは!
かなり強引に見えますが、黒の外勢を破壊しに行きました。

AI同士の碁は、対人間の碁とは全く違うという印象を受けます。
正直なところ、ついていけないことが多いですね(笑)。
ただ、この2局のDeepZenGoは、持ち前の力強さを発揮していたように感じました。

Master対棋士 第60局

2017年08月16日 19時43分15秒 | Master対棋士シリーズ(完結)
皆様こんばんは。
明日午前10時から、第36期女流本因坊戦挑戦者決定戦、謝依旻女流棋聖吉原由香里六段の対局が行われます。
幽玄の間での解説者は私です。
多くの皆様にお楽しみ頂ける解説を目指しますので、ぜひご覧ください。

さて、本日はMaster対棋士シリーズ最終回となります。
ラストバッターを務めたのは古力九段です。
本来は柯潔九段が打つ予定だったそうですが、体を壊して入院・・・。
Master攻略のために根を詰め過ぎたのでしょうか。

さて、それでは見て行きましょう。
最終回ということで、いつもの倍の分量となっています。



1図(実戦)
黒1と肩ツキしたのは当然Master・・・ではなく、古九段でした。
Masterの打ち筋を逆用するような場面も、本シリーズではよく見られましたね。

と言っても、こういった早い段階で黒1と肩ツキするのは、Masterの生み出した手という訳ではありません。
日本国内の公式戦でも何度も打たれています。
ただ、あくまで個人の趣向の域を出ない打ち方と見做されて来ました。
しかし、Masterの出現により、従来の価値観に疑問を抱く棋士が増えています。

さて、黒1に対して白Aと押せば黒Bと飛ぶでしょうし、白Cの這いなら黒Dと飛ぶでしょう。
大半の棋士は、どちらを選ぼうかと考えますが・・・。





2図(実戦)
Masterは白1のコスミツケ!
コスミツケは最善手になることもありますが、一方で悪手になりやすい手でもあります。
そして、この状況でコスミツケを考える棋士はほとんどいなかったでしょう。

と言うのは、単に白3、黒4となれば白Aと進出する手が残りますが、白1、黒2の交換があるために中央への道が塞がってしまったからです。
この手順だけ見たら、序盤から隅の地を気にした悪手と思えます。





3図(実戦)
しかし、Masterは白1~7まで黒を切断し、両側の黒への攻めを狙っているのです。
後に白Aと挟んだ時、白△は黒Bの滑りなどを防ぎ、予め根拠を奪っておいた手とみることもできます。
一旦隅に引き籠っておいて、外側の生きていない黒石を狙う・・・。
これも一種の壁攻めであり、Masterの得意とするところです。

また、隅が白地になっていますが、これは数字として数えるより、根拠を確保したとみるべきですね。





4図(実戦)
後に白1の挟みが実現しましたが、黒4に対して2子を動かず、右上白5に先行しました。
また、黒8~12の切断に対しても、構わず白13に先行しています。

左右の白△は、どちらも黒を切り離している要石です。
それをあっさりと捨ててしまうとは柔軟ですね。
前図とは状況が変わり、戦うべきではなくなったと判断しているのでしょう。
何という切り替えの早さでしょうか。





5図(実戦)
黒1~5と、中央作戦に出ました。
中央の黒石を全てつなげ、赤で囲ったあたりを全部地にしてしまおうという構想です。





6図(変化図)
これに対して、白が普通に打てばこのような図が想定されます。
中央が大きく、これは黒なかなかのものでしょう。
黒△は痛んでしまいましたが、まだAやBから動き出す余地があります。





7図(実戦)
しかし、Masterの対応は的確でした。
黒4までは前図と同じですが、白5から変化して白9までとなりました。
前図との大きな違いは、前図でBにあった白石が9にあることです。

この後黒Aと外を止めれば、白Cとつないで効率の良い白地が完成します。
白DやEから黒地を荒らす狙いも残り、それでは黒勝てません。





8図(実戦)
そこで、黒1~5まで打つことになりましたが、白6の飛び出しに回られました。
黒7は白Aなら黒Bと切り、白6の石を取ってしまう狙いですが・・・。





9図(実戦)
白1とゆるめた手がまた柔軟です。
黒4の切りで先手で白△を取られますが、白7まで飛び出せれば十分とみています。
この後、黒はAと目一杯に囲って頑張りますが・・・。





10図(実戦)
白△が決め手になりました。
黒Aと遮りたいのですが、白B、黒C、白D、黒E、白Fとなり、黒△が切り離されてしまいます。





11図(実戦)
そこで、黒1~7とかわしましたが、先手で黒△を取っては白十分の戦果です。
白8からヨセに入り、白の優勢は明らかです。
この後、黒は右下隅で生きるなど頑張りましたが、白に安全確実に逃げ切られました。


1月17日から始まったシリーズでしたが、これにてついに完結となりました。
あくまで私個人の見解ですが、Masterの強いところや不思議なところなどを、皆様にお伝えできたのではないかと思います。
なお、後日番外編として、シリーズを通しての感想を改めて記す予定です。


さて、最後にお知らせです。
毎月永代塾囲碁サロンで指導碁を行っていますが、今月は指導碁の前に講座を入れてみようと思います。
時間は未定ですが、40分ぐらいになると思います。
内容は「Master流定石の活用法」です。

Masterは例えばあんな手こんな手を打って世間に衝撃を与えましたが、今では採用する棋士も少なくありません。
アマの皆様も真似したくなるでしょうが、付け焼き刃では逆効果になることも多いでしょう。
そこで、そういった手を上手く使うコツをお伝えしようと思います。

指導碁を受けなくても席料のみでご覧頂けますので、ぜひお越しください。