白石勇一の囲碁日記

囲碁棋士白石勇一です。
ブログ移転しました→https://note.com/shiraishi_igo

棋力と上達

2018年08月26日 23時59分59秒 | 囲碁について(文章中心)
<本日の一言>
暑い日が続きますね。
外出すると、自分の感じている以上に汗をかいているようです。
水分補給を怠らないように気を付けたいですね。


皆様こんばんは。
昨日は久しぶりにお休みしました。
お休みする際にはFaceBook、Twitterでお知らせしようと思っていたのですが、家に帰ったらバタンキュー(死語)でした。

さて、本日のテーマは棋力と上達です。
上達すればその分だけ棋力も上がるのか、ということについてお話ししたいと思います。

ただ、その前に棋力の定義をはっきりさせておきましょう。
私は、棋力とはその人が平均的にどれだけの勝率を期待できるかを示すものと定義しています。
別の言葉を使うなら、期待値や相場ですね。

単純にランダム性だけ考えても、5連勝したり5連敗することは当たり前に起こることです。
また、囲碁は人間が打つものですから、その時々の体調、心理状態などによって調子の良し悪しも変わります。
ただ、何百回、何千回も打てばほぼ収束するはずですね。
長期的にみて、その人がどれぐらいの段位級位で打てば勝率が丁度良くなるかを判断して棋力が決まっているわけです。
この判断は主観的に行われることもあり、システム的に行われることもあります。
前者は、例えば指導者が生徒と対局して棋力を決めるケース、後者はレーティングや勝敗によって段級位が変わるネット対局などがありますね。
実際には数百局打った結果ようやく段位が決まるようなことは無いので、正確な評価ができるとは限りませんが。

さて、前置きが長くなりましたが本題に入りたいと思います。
上達した分、そのまま棋力は上がるかどうか?
つまり、成績が真っ直ぐの右肩上がりで上がっていくかどうか?
その答えはです。

棋力向上のためには、正しい考え方を知り、それを実践することが欠かせません。
しかし、それですぐに結果が付いてくるとは限りません。
何故なら、それは今まで用いてきた方法を修正したり、捨てたりすることでもあるからです。
それが間違った考え方であっても、今まで練習してきたわけです。

例えば、最高でも50点しか得られない考え方をしていて、その習熟度が7割という方がいたとします。
その方が100点の考え方を学び始め、その習熟度がまだ2割だとします。
その場合、短期的には勝率が上がらなかったり、場合によっては下がってしまうこともあるでしょう。
(他には技術全体のバランスという問題もありますが、今回は割愛します。)

例え話ばかりで恐縮ですが、料理では猫の手というものがありますね。
始めて包丁を握った人があの方法で食材を切ろうとすると、確実に遅くなりますし、かえって危なくなることもあるでしょう。
自己流でもなんでも、持ちやすい方法で切りたいと感じるはずです。
少なくとも私はそうでした。
ただ、正しい方法を学んでいけば、一時的にやりにくくとも、長い目で見れば料理の上達につながるということでしょう。
ちなみに、私自身は猫の手習得を早々に放棄しました(笑)。
自身の食事作りでは、火が通っていてまずくなければ良いと思っているからです。
つまり上達自体を放棄したわけですね。

まあ私の料理の腕はさておき、囲碁の上達に関しても同じようなイメージを持っているわけです。
ですから、付け焼刃の段階ではすぐに結果が出るとは限りません。
でも、技術が向上していれば、いつか必ず棋力も向上し、結果が出るようになるはずです。
停滞期間がある分、その上昇幅は非常に大きく、別人の碁のように見られることもあるでしょう。
個人的にも、定期的に指導している方がある日を境に急に強くなった経験は珍しくありません。

ただし、注意点があります。
目先の勝敗にこだわる必要はありませんが、正しく上達できているかどうかは常に確認しておくべきです。
成績が停滞しているのを一時的なことだと思っていたら、実は学んでいることや理解の方法が間違っていて、後ろ向きに進んでしまっていることもあるのです。
指導碁を受ける際には、そのあたりを確認して頂くと効果的です。

ちなみに、死活や手筋、攻め合いなどの基礎分野を学んでいる限り、効率の良し悪しはあっても、後ろ向きに進んでしまうことは少ないです。
それは皆無ではなく、例えば死活を意識するあまり隅で小さく生きようとしてしまうケースがありますが、これも一時的なものです。
死活の力が上がれば自然と改善しますし、改めて正しい考え方を教えても良いでしょう。
基本的に、基礎分野は裏切らないと思って良いです。

このような理由もあり、棋力向上のためには、まず基礎分野を学習することが推奨されています。
長年棋力が向上しないという方のほとんどは、基礎分野を学習していなかったり、学習していてもかける時間が極めて少ないです。
基礎の力が上がれば、棋力は確実に向上します。

とは言え、ほとんどの方にとって囲碁は楽しむことが第一だと思います。
無理に嫌いな分野に取り組み、囲碁が苦痛になっては本末転倒というものです。
ご自身のペースで、楽しめる範囲で取り組んで頂けば十分でしょう。


ところで、あれこれ考えながら書いていた結果、1時間半以上経過したことに気が付きました。
文章力も向上させたいものです。

囲碁と年齢

2018年08月24日 23時59分59秒 | 囲碁について(文章中心)
<本日の一言>
大統領経験者が皆不幸になるというのは凄い話ですね。
なり手がいなくなると思いますが・・・。


皆様こんばんは。
本日は囲碁と年齢についてお話しします。

「子供の頃から囲碁をやっている人にはかなわない」
このようなことを仰る方は多いです。
これ自体は正しい面もありますが、誤解を含んでいることも多いです。

そもそも、棋力向上を目的とする場合、幼少期から囲碁を始めることのメリットは何でしょうか?
これを、語学や音楽の例に当てはめて考えている方が結構多いように思いますが、それは間違っていると思います。
私は、幼少期ならではの特別な学習能力というものは、囲碁においてはほとんど無いと考えています。
幼少期から囲碁を始めて有利な点は、人より多くの時間が使えるということでしかないのではないでしょうか。

4歳、5歳で碁を覚えたプロは珍しくありませんが、それから1年や2年で高段者になるケースは極めて稀です。
ですが、碁を10歳前後で覚えたプロの大半は、あっという間に有段者、高段者になっています。
上達速度に関して言えば、ピークは幼少期ではないということです。
むしろ10歳よりももっと上ではないかと思っています。

これは大人が碁を覚えたり、上達を目指す際にも意識しておくべきことだと思います。
上達のピークが10代だとすれば、20歳を過ぎたあたりから段々学習効率は落ちてくるでしょう。
しかし、身に付けられなくなるものは無いのです。

上達したいという意思を持ち、正しい努力をしているならば、どれだけ年齢を重ねていても囲碁は上達できます。
ぜひ諦めずに頑張って頂きたいですね。

孫ー溝上戦

2018年08月23日 23時59分59秒 | 幽玄の間
<本日の一言>
金足農業への寄付金が1億9千万円に達したそうですね。
物凄い人気です。
これも地方創生の1つの道なのかもしれませんね。


皆様こんばんは。
木曜日は日本棋院棋士の公式対局日です。
日本棋院ネット対局幽玄の間でも、多くの対局が中継されました。
本日はその中から、孫喆六段と溝上知親九段の対局をご紹介しましょう。



1図(テーマ図)
孫六段の黒番、白△と打ち込んだ場面です。
黒AやBなら、白Cのツケから隅で生きる狙いですが・・・。





2図(実戦)
黒△の下がりが強手でした。
次に白AやBと動いてくれば、丸取りにしてしまおうということでしょう。
確かに白が苦しそうですが・・・。





3図(実戦)
捌きに定評のある溝上九段、白1~7の手順を捻り出しました!
白3のシチョウ当たりにより、黒Aと打っても白7の石を取れません。





4図(実戦)
白×は捨てましたが、白△までと形を作ることができました。
鮮やかなものですね。
こういった進行は、観戦していて楽しくなります。

碁の方はこの後孫六段が剛腕を発揮し、KO勝ちとなりました。

NHK囲碁講座9月号

2018年08月22日 23時59分59秒 | 仕事・指導碁・講座
<本日の一言>
バドミントン女子、アジア大会で48年ぶりに優勝!
おめでとうございます。


皆様こんばんは。
本日は連載中のNHK囲碁講座別冊付録をご紹介します。



9月号は8月16日に発売されました。
折り返し地点となる連載第6回は、「石がバラバラ病」です!
我ながら、なんと恐ろしげなタイトルでしょうか。

「石をしっかりつなげなさい」
どなたでも一度はこのような教えを受けたことがあるでしょう。
石のつながりは碁の基本中の基本であり、最も重要なことでもあります。
初心者はもちろん、私達プロ棋士にとっても大切です。

石は1つ1つ置いてあるだけよりも、2つの石が連絡、連携することによってより大きな力を発揮します。
それも、1+1=2となるとは限りません。
1+1が3や4、あるいはそれ以上になることもあるのです。
そのあたりは、私の著作である「やさしく語る碁の大局観」をご覧頂くと分かりやすいでしょう。
置き碁では5子局を超えたあたりから、置き石が増えるごとに急激に白の打ち方が難しくなっていきますが、それは置き石同士が強力に連携するからです。

置き石を例に出しましたが、もちろんそれ以外の石に関しても同様です。
置き碁でも互先でも、石同士が連携することは大切なのです。
それができなければ、戦いで優位を築いたり、効率の良い打ち方が難しくなってしまいます。
また、もっと酷いケースとして、近くにいた石同士がバラバラに引き裂かれ、厳しく攻められてしまうようなこともありますね。
それが今回のテーマであるバラバラ病です。

石がつながることの重要性は、どなたもある程度は理解している筈です。
しかし、それでも毎回バラバラ病を発症してしまう方は後を絶ちません。
気を付けているはずなのに何故なのかと、不思議に思っている方も多いでしょう。

その原因は大きく2つありまして、1つは石がつながることの価値を過小評価しているケースです。
例えば、石をつなげて打つるかどうかを、石が取られる危険があるかどうかだけで判断してしまうケースです。
もちろん、石がつながれば取られにくいというのは大事なことですが、つながることの価値はそれだけではないのです。

もう1つは、他のことに気を取られて忘れてしまうケースです。
例えば、相手の石を取りたい、地が欲しい、早く大場に向かいたい、などなど・・・。
しかし、自分の石の状態が良くないのに無理をしてしまうと、得たものよりずっと大きなツケを払う羽目になってしまうのでしょう。
そうならないよう、しっかりと状況確認をしておきたいものです。


石がバラバラ病は自覚しやすく、お悩みの方も多いと思います。
ぜひ今回の講座で原因を発見し、治療に取り組んで頂きたいですね。

問題解答

2018年08月21日 23時59分59秒 | 問題集
<本日の一言>
金足農業、大躍進でしたね。
秋田の方々は大喜びでしょう。
もっとも、甲子園で酷使されたピッチャーは選手寿命が縮まるというデータもあるようですが、これはなかなか難しい問題ですね。
個人的には7回制への変更が良いような気がしています。


皆様こんばんは。
本日は昨日の問題の解答を発表します。



1図(正解)
白△が正解です!
左下隅は白Aの抜き、白Bの下がりという2つの手段がありますが、黒の対応を見てどちらかを選ぼうという作戦です。
個人的に、この類の手筋を後出しの手筋と読んでいます。





2図(正解)
黒1なら白2が先手になるので、白4を選択します。
白6まで、黒2子を取っては大成功です。





3図(正解変化)
黒1と取れば、白2を利かして辺に1眼できるので、白4を選択します。
白6まで、大きく生きることができました。
これが双方最善の進行であり、真の正解図ですが・・・。





4図(別解?)
実は初手白1と打っても生きることができます。
いわゆる「詰碁」であれば、初手が2通りあってはいけないので、失題ということになってしまいます。
ただ、本問は白の最善を問うているので、1図~3図が正解となります。
本図は3図と比べると白が7目ほど損をしています。


問題の完成度はさておき、1図白△のような手筋で決める問題は好きです。
パンダ先生が悩むような問題は、頭が痛くなります(笑)。