ある日、ポチは家からプラプラと遊びにでていきました。
いつもの通りの日課です。
家族のみんなは、ポチの姿がみえなくなっても、どうせすぐに帰って来るものと思って心配しませんでした。
そんなことはよくあることだったのです。
でも、この日ばかりは、そうではありませんでした。
いつまで待っても、ポチは帰ってきません。
夕ご飯の時間になっても、夜が明けて翌朝になっても、ポチは帰って来ませんでした。
隣組のおとな達は、「野犬狩りにつかまったのだろう」とささやきあっていました。
近所の子ども達は、「犬さらいが来たのだろう」と耳打ちしていました。
ポチが、日ごろ工場や銭湯まで、自由にヒトについて行くことができたのは、リードなどつけていなかったからです。
当時、このあたりでは、犬の放し飼いは当たり前でした。
どこの家でも、ただ残り飯をやっているだけという軽い気持ちしかなく、きちんと犬を飼っているというような責任感はなかったのかもしれません。
当時、保健所は狂犬病を撲滅するために、ノラ犬や放し飼いの犬をあつめて殺していました。
いわゆる「野犬狩り」です。
狂犬病についての知識は広まりつつありましたが、「うちの犬は大丈夫、変わったところはないし」と受け流すヒトが大半だったようです。
S少年の両親に、どれほどの自覚と認識があったものか・・・