ポチの姿がみえなくなったちょうどこの日には、さらに不運が重なっていました。
子どもたちが、次々と麻疹にかかっていたのです。
S少年のお母さんには、日常の家事のほかに、子どもたちの看病が加わりました。
頭をひやす氷嚢にいれる氷も、遠くまで歩いて買いに行かなくてはなりません。
家に電話もない時代ですから、小児科医の往診をお願いするのにも、わざわざ歩いていかなければなりません。
当時は、子どもが病気になると、小児科医の先生が家に往診に来てくださいました。
子ども達は、色とりどりの紙風船のような小さなおもちゃにだまされて、素直におしりをだして、注射を打ってもらいました。
麻疹や風疹や百日咳など、こども達はとにかくよく病気をしました。
栄養状態も衛生環境も、今とはまったく違っていたのでしょう。
日本中が、国の復興と生活の再建に、無我夢中で取りくんでいた時代でした。
結局、ポチの姿が見えなくなったこの時、本当にポチが「野犬狩り」につかまったのか、確かめられるおとなはいませんでした。
S少年の両親は、どうかポチが無事に帰ってくるように、ただただ祈るばかりでした。