コロンブスの卵です。盲点を衝いたよい指摘です。記録しておきましょう。
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内科医・酒井健司の医心電信
《199》 禁煙とがん検診、長生きしたいならどちらがお得?
酒井健司 (さかい・けんじ)
アピタル 2015年5月18日
がん検診を受ける方の中に、タバコを吸う方がけっこういらっしゃいます。むろん、タバコががんの原因になることがわかっているがゆえに検診を受けるのでしょう。しかし、本当にがんが心配であれば、検診を受けるよりも禁煙するほうがずっと効率が良いです。
報告によっても差はありますが、喫煙習慣は寿命を約10年縮めます。もちろん、タバコを吸っていても長生きする人もいらっしゃるので、寿命を10年縮めるというのは平均での話です。
タバコを吸っていても運よく寿命が縮まらない人もいれば、タバコのせいで若死にする人もいます。また、タバコを吸っている人が禁煙したら、喫煙を続けるのと比較して、寿命は伸びます。禁煙する年齢にもよりますが、だいたい数年は伸びます。
一方で、寿命を数年伸ばすほどの効果が証明されたがん検診は存在しません。がん検診で減らせるのは検診の対象のがんによる死亡のみで、しかも検診をしたからといって100%がん死を防げるわけではありません。
肺がんリスクの高い人(喫煙者もしくは喫煙歴のある人)を対象にした低線量CTによる肺がん検診の有効性は、5万人以上を対象にした大規模な研究で証明されました(N Engl J Med. 2011 Aug 4;365(5):395-409)。しかし、対照(胸部単純レントゲンによる検診)と比較して、より小さな肺がんでも発見できる低線量CTでも、20%しか肺がん死を減らすことができなかったのです。
がん検診は万能ではありません。20%でも肺がん死を減らせるのは素晴らしいことですが、がんを見落とすことも、発見したときには既に進行していることもあります。また、早期に発見し肺がん死を避けることができたとしても、手術は体の負担になります。はじめから肺がんにならないほうがいいに決まっています。
喫煙は肺がんで死ぬ確率を4~20倍に増やします。喫煙者にとっては、もしタバコを吸っていなかったら肺がんで死ぬ確率はは4分の1~20分の1に、つまり75%~95%は肺がん死を減らせたのです。
しかも、喫煙の害は肺がんだけではありません。喫煙は、肺がんのみならず、食道がんや喉頭がんなどの他の多くのがん、心筋梗塞や脳梗塞といった心血管系の疾患、肺気腫といった呼吸器疾患などのリスクを増やします。喫煙の害は大きく、検診や他の生活習慣改善では取り戻せません。
それでも、他人に迷惑をかけないのであれば、タバコを吸う自由はあります。健康だけが人生の目的ではありません。ただ、タバコを吸うのであれば、「検診を受ければ大丈夫」などとは考えず、リスクを十分に理解した上で吸ってください。
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タバコを吸いながら、がんが怖いといって健康診断を受ける。本末転倒ですが、そういう人は多そうです。検診が命を救えるわけでもないのに。
もちろん、同様のことは、タバコを吸わない人にもいえるのだと思います。タバコを吸わないから何をしてもいいと考えて、乱れた生活をしていれば、結局、重篤な病気に罹る可能性が高くなります。
とはいえ、病気を恐れてばかりいるのもストレスが募ります。自然に健康的な生活ができるように頭を使って、健康被害を与えるものや行動とは縁を切って生きることにしましょう。
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