萌芽落花ノート
35 航海日誌
思いを乗せて運ぶ船、羽根、春、遠い春、昼、夜、酔う。
赤い風を孕む緑の帆の伝馬船の優しい船首に立とうよ。
そして海の青さを青空と言いくるめようぜ。
そして天水桶から跳び出した白衣の娘の腐り始めた尻の肉を噛もう。
そして死んでいる愛犬の首輪を僕の首に締めてやろう。
代りに腕時計を潰して濁った海に投げてやるのさ。
人体を時限装置だと誤らないためだって。
母港に向けて出帆しながら「いつか旅立つ」と電報を打ちながら……
(中略)
今朝ようやく気付いたのだが、衣服はあまりにも普遍的だった。
(終)