とある用事で岩手は遠野まで行ってきた。
一日と四時間の旅。
12/11午後四時半、会社が引けてそのまま名古屋インターへ。
古い私のナビに載っていない新東名を走り夜九時半頃に東京の首都高速
に入り、混雑を避けるため右回りで東北道に入る。
東北道に入って予想通り塩原辺りから雪になる。
完全に雪道ならばそれなりだけれど、半分凍結したような嫌な路面がこの先
続くのかと思うと嫌になってくる。
嫌になってくると言うか、一歩でも気を抜いたら即死につながると言う緊張を
この先一日試されるのかと思うと心が折れる。
知らないうちにハンドルを握るこぶしにガッチリ力が入っていて肩がこる。
日付が変わり夜が明ける前の午前四時、花巻から釜石道に入る。
用事のあるところのすぐ前まで釜石道が出ているけれど、運送屋時代以降せ
っかくここまで来たのだからと東和インターで降り、漆黒の中のめがね橋をくぐ
って宮守まで向かう。
インターを降りたらそこからはもうスケートリンクのようなカチカチ路面が続く。
主要道路がこれ一本しかないのにこんななのには驚いた(まだまだ序の口らし
い)
カラ荷のワンボックスじゃいくらスタッドレスを履いていても峠ののぼりでたびた
び滑る。
そして上りよりも峠を下る方が当然ながらもっと怖い。
午前四時半、実に十二時間かけて遠野に到着、小一時間もかからず荷物を積
み込みそのまま東和インターまで戻り、入り口わきの道の駅で少し休憩するも
モカ錠剤飲んでドーピングしてしまったので眠られず、少し足を伸ばしただけだ
った。
六時半前にとうとうどうしようもなくなって出発する。
さてここからが悪夢の時間だ・・・・。
相変わらず凍結路面の東北道を西に向かう。
通勤や営業の車が出だし少し頻雑になってくる、と言うか深夜は貨物ばかりで
一定のルールで走っているけれどもこまかい車が走り出すと速度差がありすぎて
出たり入ったりされて非常に疎ましく神経を使う。
超長距離とは坦々と着実に進むことが求められるのだ。
そしてここにきて問題が出てきた。
シートの座面の形が悪く、太ももの付け根を圧迫するらしくだんだんと足が痺れて
くる、と言うか地に足が着いていないようなフワフワした感じになってきて落ち着か
ないと言うか感覚がなく危ない。
ずっと同じ格好で座っていて腰を折っているのですでにそこで血行が悪くなってい
るのだけれど、これが「エコノミークラス症候群」なのかなとか思ったり。
トラックの座席ではこれは感じたことがなかったから、やはり考えられているのだ
ろう・・・・しかしこれには参った。
どうしようもないので給油(半分になったら給油)のたびに足を上げて寝っころがる。
一時間くらい寝っころがって、少し歩き回ってまた出発。
座面にクッションを置いて足の付け根を圧迫しないようにしたら楽になったのはも
うずいぶんそれから後のことだった。
そんなこんなで帰り道は行き程急がないので休みながら進み一番眠くなるお昼過
ぎに東北道を終わる。
ちなみに食ったら寝てしまうので十一日に出発してから帰るまで何も食わなかった。
昼間の首都高速の渋滞は平日昼間という事かあまり深刻ではなかったのが助か
った。
それでも東名東京インターを通過するのにはもう夕方三時前だった。
東名に入ればもう雪の心配はないけれど夕方の混雑に巻き込まれてしんどい。
しかし夕焼けと真正面に見える帰りの「同乗者」にとっては初めての「生富士山」を
喜んでもらえたので少しは気がまぎれる・・・・が、帰り道は独りではない。
自分はともかく他人の命も預かっているのでこれはこれで気が抜けなく行きとは別
の緊張を強いられる。
帰りも新東名を通ってきたけれど、山を越えたら西向きはほとんどずっと非常にな
だらかだけれど下り坂になっているようで、足柄からほとんどひと目盛位しかガソ
リンを使わなかったのには驚いた。
針が壊れて満タンで張り付いた、困ったな・・・と思っていたら少しづつ減りだしたの
だから壊れてはいなかった。
新東名と東名の合流、三ヶ日辺りまで来るともう名古屋まで手が届きそうになって、
(でもまだ百二十キロもある)もう本当に心が折れそうになるけれど、走らねばなら
ないわけで、運送業の時の方がまだ自由だったな、なんて思ったりして。
そして夜も暗くなった12/12午後八時半前にやっと高速道路から「下界」へ降り立
つことができた。
一昼夜と四時間、昼間もあるけれどほとんど水銀灯とHIDランプの青白い光線ば
かり見ていたせいか、街中の(これも水銀灯だが)見る物すべての色がおかしい。
妙に黄色かったり、青かったり・・・・これが元に戻るのに一日かかった。
そして無理やりモカ錠剤とリポビタンDでドーピングしたので身体が元の調子に戻
るのに四日は要した。
とにかく緊張し続けていたので身体中が痛いしガッチリハンドルを握り続けていた
特に左手は握力がちっとも回復しなかった。
結果としていえる事は、千キロを超えるような長旅ではやっぱり大型にはかなわな
いという事(安定感と装備の関係で)。
それからこれは経験上分かっていたことだけれど、高速道路で「ガンガン」走れる
のはせいぜい四百キロ程度だという事、それ以上行こうと思ったら安定してコツコ
ツ走らなければならない。
そして答えとして出たのは「休憩も無しに高速のみで千九百キロは無謀」という事。
出来ない事では決してない、でも一日ちょっとで行って帰って来るような強行軍は
トラックでもないとかなりきつい、そしてそれは時として事故につながりかねないと
いう事。
もちろんのんびり休憩しながら行くのであれば、それは楽だろうけれど、それなら
要所だけ高速に乗って、あとはバイパス使って国道走った方が楽しいし時間もそ
んなに変わらない。
あ~、まあしかし、悪いけれど冬の東北道はもう金輪際御免こうむる。
今度行く機会があるならば(荷物はないだろうから)もう新幹線で行くことにしよう。
座っていようが歩き回ろうが勝手なのだ、戸口から戸口まで五時間もかからない。
文庫でも読んで音楽でも聞いて、ちくわ食いながらビールでも飲んでいるうちに着い
てしまうのだから。
久々の「必要に駆られて」走った超長距離はつらかった、覚え書き。