5b)取得した導関数の数理的証明
微分法の数理的証明は、ラグランジュが行ったように、曲線上に引いた接線が実際に曲線と1点でのみ接するのを示すだけで良い。上記に登場した図の接線を原点を通過するようにy軸方向にc-aq2の分だけ平行移動すると、下図のようになる。
元の指標三角形は、相似のまま拡大し、三角形pqoとして現れる。直角三角形の斜辺poの傾きは、次のように求まる。
f(q) q = 2aq2+bq q =2aq+b
曲線のx座標qにおける接線を平行移動しただけなので、この値はx座標qにおける曲線の接線の傾きに等しい。またqをxに置き換えれば、この式が曲線の微分式に等しいのも判る。
そこで次に確認すべきなのは、この微分式から得られる接線が実際に曲線と一点で接することである。もちろんそれは、接線式と曲線が接点で一点に交わり、接点から離れるほどに両線が離れることの確認で良い。先に示したように曲線y=ax2+bx+cと接線式y=(2aq+b)x+(c-aq2)は、x座標qにおいて一点で接する。それゆえに二つの式のx値qに不定値iを加量すると、二つの式のiに応じた乖離の仕方が見えてくる。
x座標(q+i)における曲線と接線のy座標乖離
={a(q+i)2+b(q+i)+c}-{(2aq+b)(q+i)+(c-aq2)}
=aq2+2aqi+ai2+bq+bi+c-2aq2-2aqi-bq-bi-c+aq2
=ai2
この二式の差分において判るのは、i値が0から大きくなるほどに曲線と接線はどんどん遠ざかることである。すなわちこの接線は、x座標qにおいてのみ曲線と接している。大事なのは、ここでの加量値iの正当性である。これは無限微差に扱われる必要の無い、より大なる加量値だからである。
5c)曲線式の数理的な質として現れる導関数
バロー式の無限微差を用いた接線式の恣意的な求め方と違い、デカルトは数理において接線式を得る仕方を既に提示していた。それは接線式と曲線式の交点座標が一点の二重解となることから示される。ただし下記では説明を単純にするために曲線を原点通過する放物線として描き、その放物線の一点に法線、そして法線とy軸の交点を中心にする円を作図した。もちろんここでの接線は、法線と曲線の交点において法線に垂直な直線として現れる。
まず曲線y=ax2の正x座標側の一点p(X,aX2)を通る法線を考える。ここではaを正値とする。この法線の傾きをA、y軸との交点sの座標を(0,S)と表すと、法線式はy=Ax+Sとなる。この法線は(X,aX2)を通過するので、式aX2=AX+Sを満たす。これによりSも、XとAの式で表現可能となる。
S=aX2-AX
法線のy軸との交点座標は(0,aX2-AX)であり、法線式はy=Ax+(aX2-AX)となる。そしてこの式から法線のx軸との交点rの座標((-aX2+AX)/A,0)も得られる。
一方で法線とy軸との交点sを中心にする半径sp長の円の式は、y=S±√(sp長2-x2)である。そしてこの円と曲線の交点のx座標は、次の式を満たす正負のx座標で反転する最大4つの解として現れる。
ax2=S±√(sp長2-x2)
a2x4+(1-2aS)x2+S2-sp長2=0
sp長2は直角三角形sptのpt長(=X)とsp長(=S-aX2)から三平方の定理でX2+(S-aX2)2として得られる。このsp長2の代置に加え、先のS=aX2-AXを上記式に代入し、整理すると次の式が得られる。
a2x4+(1-2aS)x2+S2-(X2+(S-aX2)2)=0
a2x4+(1+2aXA-2a2X2)x2-X2(1+2aXA-a2X2)=0
上記式をB=1+2aXAとして書き直すと次の式になる。
a2x4+(B-2a2X2)x2-X2(B-a2X2)=0
この式からxの解を求めるとx2 = -(B-2a2X2)±√((B-2a2X2)2+4a2X2(B-a2X2)) 2a2 = -B+2a2X2±√(B2-4a2X2B+4a4X4+4a2X2B-4a4X4) 2a2 = -B+2a2X2±B 2a2 x = ±√ -B+2a2X2±B 2a2 = ±X or ±√(X2- B a2 )
x座標をXにしたときの曲線と円のx正座標における交点x値は、このままでは、x=X、およびx=√(X2-B/a2)であり、曲線と円の交点は2点に分かれる。しかしB=0であれば、曲線と円の交点はx=Xの一点で交わる。すなわち曲線と円が接することになる。このとき法線の傾きAをXで表わすと次のようになる。
B = 1+2aXA = 0
A=- |
|
法線の傾きが-1/2aXだと判れば、接線の傾きも2aXだと判る。すなわち曲線f(x)のxについての微分値f’(X)は2axで表現される。当然ながら曲線y=ax2の任意の点(X,aX2)における接線式は、y=2aXx+uである。そして点(X,aX2)の式代入からu=-aX2を得ることで、任意の点(X,aX2)における接線式は、次のものに落ち着く。
y=2aXx-aX2
ここでの目的は、f(x)=ax2の不定点Xにおける接線の傾きから微分値f’(x)を得ることである。そして接線の傾き2aXを得たことにより、f’(X)=2aX、すなわちf’(x)=2axが得られた。デカルトの接線法には、バローやフェルマーのような恣意的な無限微差の操作が登場しない。それゆえにヘーゲルは、デカルトの接線法を天才の所業として絶賛している。なるほど導関数として現れる微分値は、原函数におけるdy/dxの比である。とは言え、この微分値が持つ本質としての意味は、あいかわらずここで論究されない。
6)増分比から概念化される質
微分により導出された導関数は、原函数における諸運動の増分比である。増分比は或る場合には速度であり、或る場合には面積比であり、微分の切り口に応じた運動に関する固有な意義を持つ。この意義の解明は、微分法にとって理論的課題と別の応用的課題を成す。しかし微分が明らかにするのは、増分比に留まる。そこで増分の意義を明らかにする役割は、むしろ積分が果たす。もともと特定の諸運動に対して増分比の固有な意義が確立されるのは、微分の場面である。この固有な意義を離れて微分値を異なる運動に対して拡大適用するのは許されない。これに対して積分は、微分での導関数を原函数とし、微分での原函数を導出してそれを導関数とする。つまり積分が導出するのは、再構成された諸運動の全体である。この再構成は、増分比に従う増分の総和として現れる。そしてこの再構成において積分は、微分が導出した増分比の固有な意義を確定する。これらの事情に現れているのは、微分が導出した意義を積分が逆導出して意味づけるような本質と概念の相互関係である。
7)対象把握における微積分の方法的意義
アルキメデスにおいて曲線の長さを求める方法は、2点間の曲線長が2点間の直線距離より大きく、2点の各接線の交点のまたがる接線長の合計長より小さい実測値として示されるだけであった。しかしこの説明から曲線の長さを求める解析的な方程式を得ようとすると、あらかじめ曲線の2点における接線式を得る必要があり、しかもそれは無限小の曲線長として算出され、2点間の間で積分されなければいけない。これに対して系列の形式は、無限系列においてその有限量を表現しようとした。しかし無限系列は剰余を必然的に伴い、その剰余を消去するための新たな徒労をもたらす。ラグランジュは、微積分の方法的確立において、曲線の導関数が面積比を与えることを示し、上記の困難を克服する。それは以下の式のように、x座標ab間の曲線長を、2点間のx座標の無限小値dxと曲線式の微分値によりdy値をf’(x)として得て、三平方の定理を通じて無限小の曲線長を算出し、2点間の間を積分するものとして現れる。
∫ab dx√(1+f’(x)2)
もともと加減乗除の各種算法やべき乗と根の導出、対数や級数の計算が対象とするのは、対象の持つ特殊な規定性や比である。そして上記の記述が示すのも、この各種算法の持つ基本的性格が微積分おいて変わらず保持されていることである。ただし微積分の方法的確立は、無限反復する実測に対して原函数の比を導関数として提示し、それにおいて無限反復の正しい限界を示したことにむしろその意義を持っている。
(2019/09/15) 続く⇒(ヘーゲル大論理学 第一巻存在論 第二篇 第二章Cc) 前の記事⇒(ヘーゲル大論理学 第一巻存在論 第二篇 第二章Cb(1))
ヘーゲル大論理学 存在論 解題
1.抜け殻となった存在
2.弁証法と商品価値論
(1)直観主義の商品価値論
(2)使用価値の大きさとしての効用
(3)効用理論の一般的講評
(4)需給曲線と限界効用曲線
(5)価格主導の市場価格決定
(6)需給量主導の市場価格決定
(7)限界効用逓減法則
(8)限界効用の眩惑
ヘーゲル大論理学 存在論 要約 ・・・ 存在論の論理展開全体
緒論 ・・・ 始元存在
1編 質 1章 ・・・ 存在
2章 ・・・ 限定存在
3章 ・・・ 無限定存在
2編 量 1章・2章A/B・・・ 限定量・数・単位・外延量・内包量・目盛り
2章C ・・・ 量的無限定性
2章Ca ・・・ 注釈:微分法の成立1
2章Cb(1) ・・・ 注釈:微分法の成立2a
2章Cb(2) ・・・ 注釈:微分法の成立2b
2章Cc ・・・ 注釈:微分法の成立3
3章 ・・・ 量的比例
3編 度量 1章 ・・・ 比率的量
2章 ・・・ 現実的度量
3章 ・・・ 本質の生成
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