唯物論者

唯物論の再構築

補足2:ワークシェア

2010-11-16 16:14:05 | 資本論の見直し
ワークシェアによる可変資本減少でも利潤増加は可能

 前出の可変資本を減少させても利潤が増加する例(搾取人数減少vs利潤減少)のように失業者を出す形ではなく、ワークシェアにより失業者を出さずに可変資本を減少させても利潤が増加する例を以下に示す。
 例証にあたり想定する可変資本減少の前の資本主義社会の状態は、先行ページで想定したものと同じである(==>過剰供給vs利潤減少[例証で想定する資本主義社会の初期状態])

労働者A・B・Cの必要生産物(=労賃)および必要労働時間労働者A・B・Cの剰余生産物(=利潤)および剰余労働時間労働者A・B・Cの生産物全数および総労働時間
3人分の生活資材1人分の生活資材4人分の生活資材
18時間6時間24時間

可変資本比率 100%
人間生活維持に必要な労働時間 6時間
利潤率 33.33%


ワークシェアによる可変資本減少でも富者の利潤が減少しない例

 最初の想定での労働生産性を1.5倍向上させる。加えて最初の想定での可変資本を33.33%減少させる。このため想定4の内容を以下の想定4aに、想定5の内容を以下の想定5cにそれぞれ変更する。

 想定4a) 貧者の1日の労働時間は、5時間20分(=8時間×2/3)。富者は労働に携わらない。
 想定5c) 8時間で1人の貧者は2人分の生活資材を生産する。
       したがって5時間20分で1人の貧者は、1.33人(=2人×2/3)分の生活資材を生産する。。

 この変更で、1日の商品生産での生産物と労働時間の内訳は、次のように変わる。

貧者A・B・Cの必要生産物(=労賃)および必要労働時間貧者A・B・Cの剰余生産物(=利潤)および剰余労働時間貧者A・B・Cの生産物全数および総労働時間
3人分の生活資材1人分の生活資材4人分の生活資材
12時間4時間16時間


 貧者3人の1日の労働は、労働時間が短くなったにもかかわらず、以前と同様に4人分の生活資材を生産している。つまり貧者3人の商品生産は、自分たち3人と富者1人の社会全体の需要を満たし、かつ無駄な供給も無い単純再生産に縮小再均衡している。ちなみに可変資本比率・人間生活維持に必要な労働時間・利潤率および剰余生産物量・可変資本の減少幅を再度まとめると以下のようになっている。

 初期想定 ワークシェアの場合
可変資本比率 100% 100%
人間生活維持に必要な労働時間 6時間 4時間
利潤率 33.33% 33.33%
剰余生産物量 1人分の生活資材 1人分の生活資材
可変資本の減少幅 0% 33.33%


 労働時間が短縮したために、労働生産性が1.5倍向上しても、利潤率は33.33%のまま変わらない。利潤は、この想定変更の前も後も、1人分の生活資材であり、増えも減りもしていない。したがって富者にとってワークシェアの結果は、嬉しくもないのだが、悲しいわけでもない。一方の貧者側は、仲間が失業を免れた上に、全員に生活時間の余裕が生まれている。労働生産性向上により、人間生活維持に必要な労働時間は、6時間から4時間に短縮している。ちなみに失業者を出す場合(==>搾取人数減少vs利潤減少)での可変資本比率・人間生活維持に必要な労働時間・利潤率および剰余生産物量・可変資本の減少幅をまとめると以下のようになっている。


 初期想定 失業者を出す場合 ワークシェアの場合
可変資本比率 100% 100% 100%
人間生活維持に必要な労働時間 6時間 4時間 4時間
利潤率 33.33% 100% 33.33%
剰余生産物量 1人分の生活資材 2人分の生活資材 1人分の生活資材
可変資本の減少幅 0% 33.33% 33.33%


失業者を出す場合とワークシェアの場合を比べると、一人あたりの必要労働時間や可変資本の減少幅が変わらなくても、ワークシェアだと可変資本の利潤率・剰余生産物量が小さい。これは、失業者を出す場合に比べてワークシェアだと、貧者全体の必要生産物が多いためである。この必要生産物総量の差は、当初の失業予定の貧者に充当される生活資材の量に相当する。ワークシェアだと剰余生産物量が減少するので、富者の利益を尊重するならワークシェアを回避する必要がある。


ワークシェアによる可変資本減少でも富者の利潤が増加する条件

 上記例に即して想定4aの労働時間を維持してワークシェアの形で可変資本減少して、なおかつ利潤を増加するためには、労働生産性の向上が1.5倍を超える必要がある。つまり上記例の想定5cの生産性向上を超える必要がある。労働生産性の向上が1.5倍だと、貧者3人の1日の労働は、4人分の生活資材だけを生産するだけで終わるからである。それ以下の生産性向上レベルで可変資本が減少すると、資本家は利潤の増加が無理になる。


 逆に上記例に即して想定5cの生産性向上レベルを維持してワークシェアの形で可変資本減少して、なおかつ利潤を増加するためには、労働時間が5時間20分を超える必要がある。つまり上記例の想定4aの労働時間を超える必要がある。労働時間が5時間20分だと、貧者3人の1日の労働は、4人分の生活資材だけを生産するだけで終わるからである。それ以下の労働時間に可変資本が減少すると、資本家は利潤の増加が無理になる。

 ちなみに労働時間が5時間にした場合、1日の商品生産での生産物と労働時間の内訳は、次のようになる。ワークシェアにより、富者のために必要な労働力量が失われたため、今度は富者にとっての労働力不足が発生する。

労働者A・B・Cの必要生産物(=労賃)および必要労働時間労働者A・B・Cの剰余生産物(=利潤)および剰余労働時間労働者A・B・Cの生産物全数および総労働時間
3人分の生活資材0.75人分の生活資材3.75人分の生活資材
12時間3時間15時間


 なお利潤増加を目論んで富者が生産性向上や労働時間延長を企てる場合、過剰生産した商品を富者が消費する必要がある。さもないと、もともと4人だけのこの資本主義社会では、需要4単位を超える供給分が過剰となる需給不一致が発生する。例えば富者が5商品を市場に出しても、4商品だけが売れるだけであり、1 商品が売れ残る。富者の手元に実体化する利潤は、相変わらず1人分の生活だけである。したがって富者は、裕福になるのに失敗する。ただしその場合でも資本主義も経済危機に陥るわけではなく、富者の恒久的な貧者支配も可能である。
 なお富者の贅沢消費は、貧者の消費節約と違い、実行するのは簡単である。過剰供給と必要生産物量の需給ギャップに恐慌の原因を求めるのは、無意味である。なお資本主義が行う需給ギャップの克服方法を別の箇所(==> 過剰供給vs必要生産量)で述べる。
(2010/11/16 ※2015/08/15 ホームページから移動)


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資本論の再構成
           ・・・ 利潤率低下vs生産性向上
           ・・・ 過剰供給vs利潤減少
           ・・・ 搾取人数減少vs利潤減少
           ・・・ 機械増加vs利潤減少
           ・・・ 過剰供給vs必要生産量
           ・・・ 労働力需要vs商品市場
           ・・・ 過剰供給vs恐慌
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           ・・・ あとがき:資本主義の延命策

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