カトリック社会学者のぼやき

カトリシズムと社会学という二つの思想背景から時の流れにそって愚痴をつぶやいていく

映画「静かなる情熱ーエミリ・ディキンスン」を観る

2017-09-10 21:03:52 | 神学

映画「静かなる情熱ーエミリ・ディキンスン」を観てきました。妻が良い映画らしいという話をどこからか聞きつけてきて私を誘ったので、岩波ホールまでついて行きました。

 まだ映画の内容が良く咀嚼できておらず、そもそも映画通でもないのでうまくまとめられないが、忘れないうちに若干の印象を記してみたい。
映画の原題は A Quiet Passion で、イギリス=ベルギー映画という。内容は、外見は穏やかだが、中身は激情一杯の癇癪持ちの女流詩人の伝記だ。解説によると、Emily Dickenson (1830-1886) という19世紀後半のアメリカ、ニューイングランドを生きた女性詩人の「オマージュ」だそうだ。その存在は長く忘れられていたが、死後1800編の詩が発見され、20世紀後半にその価値が再発見されたアメリカ文学史では貴重な女性の詩人という。予告編では「アメリカ文学史上の奇跡」とまで言っていた。私も名前は聞いたことがあったが、岩波文庫版の詩集もちらっと覗いたことがある程度で、予備知識は皆無だった。
 映画としての印象もまとまらない。どういう角度から観るかで印象も変わるからだ。女性の伝記もの?、宗教映画?、詩人の私生活? 19世紀ニューイングランドの上流階級の優雅な生活? 恋物語? 今風にいえば、文学や詩にのめり込む「閉じこもり」女の生涯? 背景にあるのは南北戦争とピューリタニズムのようだ。特に19世紀半ばアメリカ東部で盛んになった福音主義運動が伝統的な清教徒(ピューリタン)に影響を与え、それに反発する女性達を描いているとも言える。私は19世紀のマサチューセッツ州のピューリタンの生き方がきちんと描かれていることに感激した。
 エミリ・ディキンスンの生涯については、Wikipedia に詳しい。日本語版もよいが、特に英語版は詳しい。しかも評価も納得できるもののように思えた。
 彼女の祖父はアマースト大学の創設者の一人で、父親は弁護士。ウィキペディアによれば、「金持ち」(wealthy)ではないが、マサチューセッツ州の上流階級で、広大な Homestead (家屋敷)に住んでいた。彼女はここでほぼ55年の生涯を独身で過ごす。詩の才能は豊かだったようだ。詩人としての感性は特別だったらしい。が、神経症(広地恐怖症)に病み(生涯屋敷のなかで、否、自分の部屋のなかだけで過ごしていたようだ)、怒りっぽく、言葉で他人を傷つける。ブライト病とかいう腎臓病を患い、最後はこれで命を落とす。若いときは recluse と呼ばれていたようだ。隠遁者、世捨て人、変わり者、とでもいえようか。彼女の性格を”eccentric "と表現する記事が多いが、単に変わっている、というよりは、心を病んでいる、という側面を強調するための言葉のようだ。
 私もカト研の端くれとしてここでは宗教映画としてこの映画をみてみたい。映画の中の会話はきれいな東部のアメリカ英語で、日本の中学で習う英語のようなきれいな英語だ。現代風のスラングみたいなものはない。字幕の日本語訳も見事だったが、英語も私でも聞き取れるほどだった。といっても、全編を流れる彼女の詩の朗読はフォローが難しかった。略語があるし、韻を踏んでいるし、しかも詩のテーマが、「death」(死)と「immortality」(魂の不滅・不死)で、よくわからなかった。信仰が「ことば」であることをこの映画はよく示している。エミリは伝統的な意味での信仰は持っていなかっただろうが、「ことば」が大事なものとしてはき出されていた。そして、「ことば」が「文字」として「詩」になった。
 宗教映画としては、当時のピューリタンのメンタリティーがよく描かれているように思えた。エミリが、家族全員での祈り、朝食時とか共同告白の時とかで、一緒に祈ることを拒否する場面は印象的だった。エミリの反抗心の強さ、自分に忠実であろうとする強さが、よくでていた。ピュウリタニズムといっても、時代や地域によって異なるのだろうが、当時の福音主義の影響がこの場面にどのように反映されているのか、私にはわからない。また、突然の「白いドレス」は何を意味しているのだろう。わからない場面がいくつかあった。しかし彼女の芯の強さを偏執狂とみたり、彼女の恋心を「妄想的な恋愛感情」と決めつけるのはちょっといただけないとも思う。この映画の監督は彼女をもう少し好意的に、詩人としての人間性に引きつけて描いているように見えた。
 見終わった後の印象は明るいものではなかった。といってグルーミーというわけでもない。南北戦争期のアメリカにこういう詩人がいたことを知って、現代のアメリカ人はほっとするのではないだろうか。著名な映画賞をもらっているというが、むべなるかなである。

 

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