旅とエッセイ 胡蝶の夢

横浜在住。世界、50ヵ国以上は行った。最近は、日本の南の島々に興味がある。

取り返しのつかないこと   

2016年08月07日 17時50分07秒 | エッセイ
取り返しのつかないこと   

 やっちまった。取り返しのつかないことを、やっちまった。今そこで顔を赤らめた貴方、そう貴方だよ。いいの、いいの、誰にだってあるんだから。思い当たらんなー、知らないわ、と言う人はとんでもない大嘘つきか、恥を恥とも思わない厚顔野郎or女郎(ジョローじゃなくメローと読んで下さい。)だ。やはりそういうのは思春期、学生時代に多いんじゃあないかな。大人になると感受性がにぶくなるし、顔のつらも厚くなる。
 高校一年くらいの時、休み時間に教室で教壇に立ち、後ろ足で壁をバンバン蹴飛ばした。友達と二人で思い切り何度もやった。何んで?理由なんかない。強いて言えば、そうしたかったの、その時は。さんざん蹴飛ばしたら、それを見ていた割と大人しい生徒が、同じうように蹴飛ばした、バン、バン。そこへ向かいの図書室から、初老の小柄な男性教師が頭から湯気を出す勢いで飛び込んできた。
 「キサマか!」何をやってもタイミングが悪いというか、要領の悪い奴はいるもんだ。最後に蹴飛ばした大人しい生徒が、教師に捕まり耳を掴んで教室から引きずり出された。えっ、俺たちはとっさに目を伏せた。「あいつは現行犯だ、助からない。今更名乗り出ても怒られるのが増えるだけ。」だけどこれは汚い。卑怯極まる振る舞いだし、すこぶる後味が悪い。怒られた(殴られた)生徒は、余計な言いわけをしなかったから、事件はそれで収まったが、彼はその後何日も俺たちと口をきかなかった。
 やはり同じ頃、夏休みの補習授業で数学の教師が言った。この中で幾何と代数、両方赤点(進学校だったので60点以下)を取った者はおるか、手を挙げなさい。俺は両方赤点だったが、とっさに見栄を張って手を挙げなかった。そういう姑息な少年だった。よし今手を挙げた者、後で俺の所に来い。特別に次のテストのヒントを与える。しまった、やっちまった。
 おいおい、大したことないじゃん、取り返しがつかないって。そりゃーそーでしょ、本当にヤバいことが活字に出来る訳ない。

 もっと深刻な後悔は、子供(小学4年位)の時に起きた。庭にしゃがんで、炎天下何時間でも蟻の巣に水を入れ続け、慌てて飛び出てくる蟻たちを殺していた。傍から見たら、何する小僧?だったろう。ところが先日、二階の台所のゴミ箱に進入してきた蟻のスカウト(斥候)を、手にしたライターでサっと炙り殺していた、次々と。換気扇の前でタバコを吸っていたんだが、半世紀近く経っても全く進歩が見られない。
 子供の時、特に昆虫が好きだったとは思えないが、カマキリの卵、クワガタ、ザリガニ、ウシガエルの子と親等を持ち帰っては飼っていた。アゲハの幼虫(毛虫)を持ち帰り、大き目のジャムの空きビン(ガラスのビン)に葉っぱと一緒に入れた。ふたには空気抜きの穴を開けておいたはずだ。ところがそのままビンの事を忘れてしまった。部屋は常に散らかっていたので、ビンはどこかに紛れこんでいった。半年位たって、そのビンを見つけた。何だ、これ。中には中途半端に翅を広げたアゲハがいて、干からびてしまっている。
 うわー、ビンの中で孵化したのか。それでそのままビンにつっかえて死んでしまったのか。子供ながらにショックだった。これこそ、取り返しがつかない事、その時はこれで〝地獄に落ちる〟とまで思った。この事件は今思い出しても、心がチクリと痛みます。

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