旅とエッセイ 胡蝶の夢

横浜在住。世界、50ヵ国以上は行った。最近は、日本の南の島々に興味がある。

あらら、茹でちゃった、捨てちゃった。   

2016年06月04日 19時17分22秒 | エッセイ
あらら、茹でちゃった、捨てちゃった。   

 モロッコかチュニジアの港で、一本釣りのマグロを漁師から浜値で買い取り、素早く冷やして(どうやってするのかは知らない。)築地に向けて空輸する。空飛ぶマグロ、そんな仕事をしている兄ちゃんがいた。さぞかし儲かるのかと思いきや、数年して辞めてしまったから苦労があったんだろう。
 かれが出先から世話になった社長に、マグロの大トロ数キロを空輸した。そういう手続きには精通しているからね。カチカチの冷凍ではなく、冷たい状態で布に包んで送った。本マグロの大トロの塊、たまんねえ。で、彼が帰国して社長に会った。社長は、「ああマグロ送ってくれたね、有難う。」「大トロ、どうでした?」「うん・・・まあまあ、でも有難う。」「おかしいな、刺身で食べたんですよね。」「いや、何回かに分けて煮たり、揚げたりしてたいただいたよ。」「え、大トロを煮た、揚げたのですか。」社長は包丁一本握ったことはない人で、奥さんは中国人だった。
 ケケ、俺が食う訳じゃあないから笑える。人の不幸は蜜の味。しかも大した不幸じゃあないから大笑い。

 ところが同じようなことを自分がやっていた事を思い出した。タイで知り合った旅人(長期貧乏旅行者)のxxが割りと有名な食品会社に就職した。良かったね。彼はいい奴でしっかりした人物だが、ちょっと意外な気がした。何年も途上国をほっつき歩いていた男を採用するとは、日本の社会も変わってきたのかな。それとも、新卒で採用した純粋培養の青年を教育して海外に送り出しても、先進国は良いが中国やベトナムでは手玉に取られて、病気になったり騙されたりしたからか。確かにxxなら現地の人とコミュニケーションを取るのは得意だし、簡単に人を信用したりはしないからな。xxを騙すのは容易なことではないし、よほどの事でなけりゃ驚きもしない。場数を踏んでいるからね。
 そのxxが、よく住所を知っていたと思うが突然我が家に宅配便を送ってきた。彼の名前を思い出すのに少々時間がかかったほど唐突な印象だった。コンパクトな発泡スチロールを開けてみると、削った鰹節のような木のくずが詰まっている。何これ。それはおがくずで、取り除くと出たー、伊勢えびが2匹現れた。つまみ上げると、げっ生きている。数秒たつと目が覚めたらしく、尾を腹にバクバクと激しくぶつけ始めた。うわっ、思わず手を離してしまった。大きな声では言えないが、自分はかなりな怖がりだ。エビは台所の床で脱出を試みバタバタと暴れる。おがくずが散乱し、カミさんと子供は楽しいのか怖いのか、はたまた両方かギャーギャー言ってパニくった。
 これではまるで小包爆弾だ。うーん、これどうしよう。伊勢えびを解体したことはない。刺身を考えたが、うまく出来るか自信がない。結局脳天に包丁をブスっと刺して昇天させ、大きな鍋に湯を沸かしたっぷりと塩をぶち込んで茹でた。石川五右衛門じゃああるまいし、生きたままの釜茹でじゃあ気の毒だ。湯に入れた瞬間、飛び上がったら大惨事になりかねない。頭に包丁を刺しても手足(全部脚?)を動かしていたもんね。
 伊勢えびの身は下半身の半分しかなく、あれっこれだけ、と思ったが、プリプリした身を丸カジリしたら、さすがに引き締まった身はうまかった。後でxxと話したら、「えー、茹でちゃったの。刺身でしょ、新鮮な伊勢海老は。」とちょっとがっかりされた。でもいきなり生物兵器を贈るのはちょっと止めて欲しい。うまかったからいいけど。そういえばxx、あれから連絡が絶えちゃったけど今どうしているんかな。

 30代の頃は月に2回は釣りに行っていた。乗り合いだけでなく、岸壁からもよく釣った。三浦半島の城ヶ島の岩場で釣っていたら、いい当たりと引きの良さの割りに小さな、色鮮やかな海のドジョーのような魚が次々にかかる。何これ。こんな小っこいのじゃ食う所ないよな。バケツに生かしておいたが、最後に海にリリースした。くそっ今日の釣果はドジョーだけ。
 或る時TVだかネットだかで知った。あのドジョーもどきが、江戸前で最高の天ぷらのネタ、ギンポだった。あっと思ってももう遅い。バケツの中身は海の中。

 乗り合いでアジかイサキを釣っていて、ガツンと良い当たりがあった。強い引きに我武者羅にリールを巻き、海面に現れた魚は見たこともない。何んだこりゃ。口が突き出し背びれはピンと張っている。体長は40cmほどもあり平べったくて、目の後ろに大きな黒点がある。よく分からない奴だな、君は。でもこれなら食える。
 早速船上でハラワタとエラをナイフで取り除く。ずいぶんと大きな内臓だ。それをアンダースローで遠くにぶん投げると、宙を飛んでいたウミネコが2-3羽、鳴いて飛びついてきた。その魚をクーラーBoxに入れようとすると、それに気が付いた船頭が、「おおマトウダイじゃねえか。ええ、あんたキモを捨てちまったのかい。マトウはキモがうめえんだ。身なんか食ってもうまくも何ともねー。」ええっさっきの大きな重たい内臓がキモかよ。先に言ってよ。
あとマトウダイの皮を乾かしてサビキを作ると、面白いように子アジとかが釣れるそうだ。まあ相当臭いようだが。これも後から本で読んだ。次は捨てない、キモを食う。だがあれから、ん十年外道にマトウダイが釣れたことはない。次は無いのか。


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