旅とエッセイ 胡蝶の夢

横浜在住。世界、50ヵ国以上は行った。最近は、日本の南の島々に興味がある。

或る午後の教室

2018年06月24日 13時39分44秒 | エッセイ
或る午後の教室

 もう半世紀、50年も経つのだから書いてもいいと思うのよ。小学校高学年の、と或る午後の教室。給食の後の授業はけだるい。遠くから流れる先生の声を夢うつつで追っていたら、事件は起きた。自分は教室の真ん中辺に座っていた。突然後ろからシャーっという激しい水音がして、一気に目が覚めた。振り返ると、目が合った女の子が慌てて顔を伏せた。
 その子の顔がみるみる赤くなる。真っ赤になった。後にも先にも、人の顔色があんなに急激に変わるのは見たことがない。女の子は机に突っ伏して、低い声で泣き出した。その一瞬、世界も自分も消えてしまえ、と思ったんじゃないかな。普段活発で、頭の良い子だった。

 我慢の限界が来たのか、具合が悪かったのか。クラスの中にはたいてい世話焼きの女子がいる。勉強も運動もからきし駄目だが、授業以外ではクラスの女子をまとめて、男子をとっちめたり、先生に抗議したりする。その女子がサっと立ち上がり、女の子に声をかけて連れだした。先生よりも手際がよい。

 そんな時、男子は何の役にも立たない。でも僕らは思った。「気にしないで。何とも思ってないよ。明日から気まずいのなんてヤダからね。」


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