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ザ・ビューティフル 英国の唯美主義1860-1900

2014-04-17 22:16:55 | 一期一絵

4月15日、麗らかな春の日に行ってきました。


せっかくラファエル前派展を鑑賞したのだし、こんな風に二つの美術館が連動して美術の流派の時間の経過を見せるという趣向も面白く感じ行きました。
画家はラファエル前派からそのままこの唯美主義に移行した人が多いようです。

ラファエル前派の作品には、物語や宗教のエピソードを絵に織り込んでましたが、唯美主義は絵の美しさそのものに主眼を置いているそうです。
彼らの美術活動は初めは保守的な世論から攻撃されたけど、次第に貴族や新興の金持ちにもてはやされ、次第に世間に認知されました。イギリス人は全体的に保守的なイメージがありますもんね。でも20世紀にポップアートを始めたのはアメリカではなくイギリスからだし、60年代から世界を席巻したロックミュージックの存在もあるし、革新的な反動もまた内包している国民なのでしょう。

同じころ、フランスで起きた印象派と違い、絵自体は古典的です。その美しい画面を演出する題材として、神話やギリシャ時代の題材や背景を用い描かれた女性像は近寄りがたい雰囲気をもってます。
ラファエル前派展に出てきた人物もそうだけど、洋画の本流はやはりヨーロッパ人にあって、東洋人がいくら頑張ってもあの圧倒的な唯美主義の世界には到底届かないのかと思わせられてしまいました。
皮肉にも、当時ジャポニズムが流行り日本の美術に憧れて「アングロ・ジャパニーズ」という和洋折衷の絵や工芸品を作り出す美術家が現れています。その日本的な要素はやっぱりヨーロッパ人の思う東洋趣味で日本人の私がみると異国的な感じをうけます。

そして、芸術家もパトロンもかなり裕福でありまた美意識が研ぎ澄まされ美しいものばかりに囲まれた生活を享受した人たちを考えると、実は圧倒的に多かった享受できなかった人の存在も感じてしまいました。
現在は一部の選ばれた人じゃなくても、遠く離れた日本でも、唯美主義美術を楽しむことができます。彼らの耽美な生活に思いをはせながら作品を楽しみました。

ロセッティの作品は油絵作品もありましたがこの木版画に惹かれました

「芸術の殿堂」1857年 木版
小さな図版しか見つからなかったですが、本物も小さな作品です。とても緻密でちょっと肉感的な女性像はいかにもロセッテイの世界の住人。中世ヨーロッパの佇まいもラファエル以前の時代への憧憬を感じました。
  
そのロセッティのミューズのジェインの写真も展示されてました

「ウィリアム・モリス夫人の肖像-ロセッティが指示したポーズで」ジョン・R・パーソンズ
ジェインはこの時は結婚してジェイン・モリスとなってます。あまりニコニコしない女性だったそうですが、媚びない魅力を男性陣は感じたのかな。端正な顔立ちの女性です。とても聡明で教育を受けたらフランス語をすぐに習得し、のちにイタリア語も習得したそうです。ロセッティたちはしきりに女神とあがめたのを、ある意味自分の役割と割り切ってたのかな。彼女にとってもロセッティは運命を変えた人ですよね。

家具も展示されてました。

「飾り戸棚(フォーシーズンズ・キャビネット)」エドワード・ウィリアム・ゴドウィン 1877年頃
棚の引き戸に四季を著す絵が描かれてます。まさしくジャポニズムな戸棚。そして、私から見るとやっぱり異国的な感じ。
他にもアクセサリーも展示され、建築の設計図も。唯美主義は生活全般に及んでるのですねえ。

その日本趣味はこの絵にも

「サロメの化粧ーサロメより」オーブリー・ビアズリー1894年(この作品は1907年版)
オスカー・ワイルドの戯曲「サロメ」の挿絵。化粧台が漆を塗ったような直線的な棚になっています。後ろの窓も日本風
ビアズリーは大好きです。この人の作品のように。美しさのなかに毒を含んだような作品も後期にはでてきたようです。
ビアズリーの作品が多く展示されていて嬉しかったです。この作品は原画ではなかったですが、鋭い線の美しさは堪能できました。

ビアズリーの作品をもう少し

「アーサー王が吠える獣を見たこと」1893年
トマス・マロリー作「アーサー王の死」の挿絵。やはり線が美しく1線も無駄がない。惚れ惚れと魅入りました。
ビアズリーの挿絵は物語を越えて絵そのものが魅力を放っている。そういう意味ではたしかに唯美主義。

ビアズリーはオスカー・ワイルドの戯曲「サロメ」の挿絵で有名ですが。ワイルドは後に同性愛で訴えられます。

同じように同性愛で18か月の禁固刑を受けて人生を失ったシメオン・ソロモンの作品を2点載せます

「花嫁、花婿、悲しき愛」1865年


「月と眠り」1894年
この人の作品はラファエル前派展にも展示されてました。「花嫁、花婿、悲しき愛」を描いた60年代は同性愛者の注文に描くことが多かったそうです。これはなにかを意図した題材なのかと思います。見た印象で感じるのは社会的体裁を考えて結婚する男とその恋人の天使。天使だけ悲しい表情をしてます。
「月と眠り」は、社会的に失墜し、画家仲間にも見放され、失意と極貧の時代に描かれたもの。絵の人物は中性的で男性にも女性にも見えます。
個人的に勝手な解釈をすると、下弦の月を頭に飾っている人物は月の女神アルテミス。下弦の月はあと数日で新月となり見えなくなります。だからアルテミスが手をまわしている若い男性はもうすぐ命を終えることを暗示している気がします。青年は目をつぶりやがて来る死を前に穏やかにうけとめている・・・たぶんシメオン・ソロモンその人ではないかな。
そしてもうひとつ、これは後から気づきました。アルテミスと彼女が愛したがために永遠の眠りについたエンデュミオン。アルテミスは永遠に美しいまま眠り続けるエンデュミオンに夜な夜な添い寝をしたそうです。
この人のこの2作は唯美主義なのか、個人的に疑問なんです。でも作品にはとても惹かれるものを感じます。どこか物語が入っていたり暗示的に思えます。これまでの聖書や神話や古典とは関係しない世界を絵にしたという事で唯美主義の範囲になるのかな?
年上の上流社会の詩人と恋におち、弾劾され、唯美主義の画家にも見捨てられ遠ざけられ、救貧院で65歳で亡くなり、一時は社会的に葬むられ忘れられた画家だったそうです。


さて、芸術一家のアルマ=タデマ家の事も記したいと思います。
ローレンス・アルマ=タデマはギリシャ時代を題材にした端正な絵を描き、また家具やアクセサリーのデザインも手がけました。奥様も画家だそうです。
そしてその娘さんもアマチュアの画家です。その娘さんアンナ・アルマ=タデマが17歳で描いた水彩作品を載せます。

「タウンゼンド・ハウス」応接間、1885年9月10日
本物は27.2×17.7㎝と大きくないのですが、その緻密さと正確さに驚きます。この絵を17歳で描いたなんて。しかも描き直しができない水彩画で。
このタウンゼンド・ハウスはアルマ=タデマ家の家だそうです。とても豪華なしつらえで、裕福さがうかがえます。
それにしても、カーテンの柔らかさや床の質感や細かな装飾やら、本当に見事!

唯美主義絵画としてはレイトンやワッツの作品の方が代表的だし、ホイッスラーの版画作品や抽象絵画を予見させる作品もありました。

最後に唯美主義らしい作品を

「真夏」アルバート・ムーア 1887年
まさに絵そのものの美しさを主眼とした作品。タイトル通り夏の強い日差しを感じます。だけど、東京の真夏はこんな生易しいものじゃない。こんなに布をグルグル体に巻き付けたら汗びっしょりになっちゃうゾ☆と思った作品です。
実はあまりに整然とした作品には、そそられませんでした。
ちょっと癖のある作品が好きです。


☆5月6日まで開催されてます。

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