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グレート・ビューティー 追憶のローマ

2014-09-20 12:20:57 | 銀幕


パオロ・ソレンティーノ監督作
西洋の文化の波にひたりたくて9月19日に見に行きました。

少しネタバレで書いていきます。これから見る方はご注意ください。


制服の女性たちが美しいコーラスを響かせ聞かせてるローマの名所を観光する日本人団体客と、ブロークンな日本語で説明するイタリア人女性。その日本人たちがあまり日本人に見えないのは重要ではないけど、気になったので書いときます。大きなカメラで名所の写真を撮ってそのまま倒れる日本人・・・あまりの感激に気絶したのかな?
(後ほど知りましたが、その日本人は急死なんだそうです。)
中国人の商社マン、アラブ系の女性・・・ローマの今をさりげなく示している。

ではローマ人は
勿論多くの人は日常を多少の波風をたてながらも穏やかに過ごしているのでしょう。
名士や著名人は・・・全員ではないと思うけど
これはもうパーティという乱痴気騒ぎの日々
凄いエネルギーです。ちょっと怖いみたいにとりつかれたような表情で。イタリアって麻薬が禁止されてない国みたいで、台所で吸っている人もいるし。
その中で満面の作り笑顔で渡り歩くジェップ・ガンバルベッロ

26歳で書いた小説で話題となりバンカレッラ賞(どうも文学賞らしい)を得て寵児となって40年。
あれから一度も小説を書かず、教養雑誌のレポーターをこなしながらパーティと社交三昧の日々・・・に疲れ始めていた。
誰もが言う、どうして小説を書かないの?
煙に巻きながらも、小説を書きたいと心の中で疼いている

「もはや時間がない」

・・・そういう風に時間を浪費している人は多いと思うのです。彼ほど華やかでなくても
その本来やるべき時間を浪費して失っている彼がいかに再生するのか・・・


この映画は次々と場面が変わり様々な人物が現れては去っていきます。フェリーニなど過去のイタリア映画監督への敬意、さらにイタリアを代表する女優や歌手がカメオ出演をされているそうです。が、私はほとんど知らないのでそこのところはわかりませんでした。だから初見では細かな情景の意味を理解する余裕がないのでこの映画をきちんとはわかってないと思います。
感じたのは、物語を追うタイプの映画ではなく、揺蕩う波のような物語にゆったりと浸かる映画だという事です。

前半の乱痴気騒ぎの連続に映画館の隣の席の方は途中から寝息をたてていました。乱痴気騒ぎの趣味の悪さに途中で出ていく方もいました。
私もいい加減辟易したあとに少しずつこの映画から醸し出す哀惜の波に揺蕩う気分になっていきました。

才気煥発で喧騒の波の中にいても溺れず渡り歩く要領の良さ、鋭く本質を見抜いてズバリと指摘して相手を狼狽させる厳しさを持ち合わせる一方
純粋な魂に尊敬と愛情をもって接する優しさを持っている

節々に登場する白い装束の修道女の清楚な佇まい、統合失調症の青年へ流した涙、
そして初恋の女性エリーザの死の知らせ・・・それは突然にエリーザの夫から直接涙ながらに知らされ、自身も涙を溢れさせてしまう。
回想シーンに出てくるその女性の美しさに息をのむ。まるでポッティチェッリの絵の中の天使のよう。ジェップにとって純粋な美しさの象徴。

混沌とした喧騒に身を置きながらずっと純粋な存在を追い求めている

古い友人の娘で中年の美しいストリップダンサーのラモーナはどこか幸せをあきらめている風情。なにか惹かれるものを感じたジェップ。
ラモーナをパーティに誘い、そこで公爵夫人から鍵の管理を任されている足の少し不自由な青年に頼んで公爵夫人の邸宅を案内してもらう

文化の歳月の重みと豊かさが感じられ、そこがとても好きなシーンです。

ジェップはラモーナに言う、天井(天上)に海が見えるよ。あっけなく失う儚いひととき。

回廊を巡って噛みしめる無駄にした時の長さ。

隣に住む寡黙で品のいい紳士の謎、没落した貴族、一瞬にして消える麒麟。夢破れ去りゆく友。

聖女が聖フランチェスコのごとく起こす奇跡の美しさ。


小説になる題材は彼の周りに溢れている


美しい建造物、見事な彫刻、窓から見えるコロッセウム。
それから比べると人間の持ち時間は儚い。

そして頽廃
古代からの歴史と文化のある都市だからと言って人々は粛々と文化をたしなみながら生活してるわけではないのですね。

彼は小説を書き始めるか…これは人によって違う答えが出るでしょう。私が感じたのはnoです。
彼は映画の終わり近くまるで小説の一説のように文章をつぶやいていた。彼は自分自身が物語の中に入り込んで主人公を体現して心の内で誰も読むことのない物語をつづっているのだと思う。
幻の小説はさぞや鋭敏な感性のもの、それを形にすると崩れてしまうような・・・・だから書けないのだと思いました。


そして、映画の冒頭に現れる「RESPECT」は本題と解釈しました。偉大な過去とやはり偉大な映画界の巨匠への敬意をもった映画・・・と理解していいのかな。
わかりやすい映画ではないけど、それがこの映画の醍醐味だと思う。

追記
パーティの1シーンでミース・ファンデル・ローエのデザインしたソファー「カウチ」に横たわりながら足にギブスをはめて「There is an Angel」を歌っていたのは日本人シンガーSarawakaさんだそうです。撮影の直前に骨折してしまい、急きょこういうシーンになったそうです。それがむしろどこか病んでいるローマの社交界を映し出す効果になってました。

イタリアの動画を見てみたら「LA GRANDE BELLEZZA」という題名でした。「RESPECT」は監督のメッセージだったのかな?


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