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オーケストラ・クラス    La Melodie

2021-10-09 01:38:48 | 銀幕

ラシド・ハミ監督  フランス映画  2017年 

フランス、パリの一地域の小学校では〈demos〉という子供向けの音楽教育プログラムを実施しているそうです。クラッシック音楽に触れ合う機会の少ない環境の子供たちに楽器を貸して、プロの演奏家から演奏を教わる。そして連携した何校かの小学生が集まってオーケストラを編成し、1年間練習した成果を新設された劇場「フィルハーモニー・ド・パリ」で発表するそうです。そこでは6年生になるとスポーツクラスかオーケストラクラスを選択して、オーケストラクラスを選択した児童がその教育を受けるそうです。

 

バイオリンの演奏家シモン・ダウドは演奏する仕事に恵まれず、お金のためにその小学校の音楽クラスを受け持つことになった。学校の音楽クラスの担任ブラヒミ先生と共に校庭に建っている防音設備のある音楽室に入る。

その小学校は移民の家庭の子が多く通っているところで、いろいろな人種の子がいて、裕福な家庭の子はいないようです。そして学校は荒れている様子。子供たちの態度はかなり悪い。学校の備品を自分のズボンに入れる子がいてそれをクラスの子は面白がったり、喧嘩したり、先生の話を聞こうとしないで話の途中で先生をからかうような失礼な話し方をするし、面白がって卑猥な話をわざとする。

いえいえこれはフランスだけの事情ではありません。私も子供の一人が小学校でほぼ似たような状態になってました。先生方も保護者も苦悩し改善方法はないかと模索しましたが、疲れ果てそのまま卒業したのです。だからこのクラスの様子はリアルでした。

 

子供たちはクラッシック音楽をほぼ聞いたことなくて知らない。バイオリンを受け取ると弓でチャンバラをやってしまう。

ダウド先生はまずみんなに問いかける

「バイオリン奏者として一番大切なものは?」みないろいろ答えます。中にはわざとエロな答えを言って受けを狙う子も。ダウド先生は答えを言います

「大切なのは自分の体だ」子供たちはちょっと驚いた表情をします。

そして最初にバイオリンの構え方をおしえ、皆の前でバイオリンの演奏(メンデルスゾーンのバイオリン協奏曲の冒頭部分)を披露する。この子たちには生まれて初めてのバイオリンの生演奏、そしてほぼ初めて聞いたクラッシック音楽。口をぽかんと開けてバイオリンの音色をしばし聞き入っていました。

そんな様子を窓の外から見続ける子供がいます。

その少年はレッスンの後音楽室に忍び込んでバイオリンをそっと手に持つ。目ざとく見つけたオーケストラクラスの子たちが怒り喧嘩になるがブラヒミ先生が止めて、忍び込んだ理由を聞くと、その少年はオーケストラクラスではないけれどバイオリンをやりたいという。ブラヒミ先生はダウド先生の了承を得てから少年に言う

「条件がある。わかるか?」

少年はうなづく「喧嘩しない。」

「ほかには?」

「尊重し合う」この誓いのやり取りが良いなと思いました。日本にもこういう誓いを言葉にしあえる機会があるといいな。実際その子は誓いを守ります。

少年はバイオリンを渡され「感謝します」と礼を言って下校する。

その少年の名はアーノルド。アーノルドは手にしたその日からインターネットで練習方法を調べて住んでいるアパートの屋上で練習を始める。

そして早くもオーケストラクラスで頭角を現す。ダウド先生はアーノルドにバイオリンの天性の才能があることに気づきます。

だが周りの子はまだまだメロディとは程遠い音。

児童の中に口の達者なサミールがいます。先生に対して小ばかにするような言い方をする困った子で私も聞いてむかっとしてました。ある日真面目に練習しないサミールはダウド先生に注意されると「うるせーじじい」と言い返し、ダウド先生はとうとうかっとしてサミールの胸倉を掴んでしまう。すぐさまブラヒミ先生が止めに入りサミールを退室させます。が、後日サミールの父親(田中邦衛さんに似ている)が「よくもうちの息子を殴ったな」とダウド先生に怒鳴り込みに来ます。

どうもサミールが大げさに言いつけたようで、それを短気な父ちゃんはその言葉をうのみにしてかっとしたようでダウド先生の胸倉をつかみ今にも殴りそうになり、この時もあわててブラヒミ先生が止めに入ります。サミールの父ちゃんは怒りが収まらずダウド先生の足元の地面にケースに入ったバイオリンを投げつけます。これでサミールのクラス参加は終わった。怒鳴る父親のそばにいたサミールは戸惑いの表情を見せます。

ダウド先生はこのオーケストラクラスに失望しどうせコンサートは成功しない、そしてサミールみたいなやる気のない子に教えるのは無理だといい、いなくなってホッとしている様子でした。

すると、ブラヒミ先生はダウド先生に抗議します。

「彼みたいな子を救うためにやってるんだ。クラスを団結させたい。誰も見放さない。」

ダウド先生は反論します「平等なんて無理だ。できる子も道連れにする。」

それでも考え直してくれとブラヒミ先生は懇願し立ち去ります。

ブラヒミ先生はお名前と言い顔立ちと言い移民としてフランスに来た人なのはわかります。きっといろいろ苦労されて、そして子供たちの家庭の事情も察することのできる人なのでしょう。お顔は強面だけど、子供たちに決して威圧的な態度をせずダウド先生と子供たちの橋渡しをし続けます。

その言葉にダウド先生も何かを感じたのか、クラスのバイオリンの教え方が変化します。

そしてサミールの住むアパートに向かう。サミールの父ちゃんにサミールを突き飛ばしたことを謝り、そして両親に向かって「息子さんがいないと本番で大きな穴が空きます。サミールは音楽の申し子です」という。一緒に聞いていたサミールの表情がほころぶ。親からどうするかと聞かれるとオーケストラクラスを続けたいと控えめにいう。サミールの父ちゃんはバイオリンを弾いてみてくれと注文しダウド先生は一家の前で演奏する。その曲は バッハ パルティータ「シャコンヌ」。その演奏を聞いてサミールの父ちゃんも優しそうなお母さんも泣きそうな表情になります。たぶんご両親も生のバイオリンの演奏をじっくり聞いたのは初めてだったのでは。両親はバイオリンの音色に感動した様子でした。サミールの父ちゃんのお顔には深いしわが多くて、苦労の多い人生が伺われました。そしてこの演奏を聞いて心の中の新しいドアを開け、自分が経験できなかった事を息子に経験させてあげたいという気持ちが湧きあがったように見えました。

私もバイオリンの生演奏をじっくり聞いたことはないです。そばで「シャコンヌ」を聞いたら私もきっとサミールの両親のように感動して泣けてしまうと思います。

サミールはオーケストラクラスに再び参加します。前よりは神妙になり、ダウド先生には信頼を寄せるようになりました。でも、人は簡単には変わりません。友達には相変わらず減らず口で諍いを生じさせたりします。クラスの子供たちも相変わらず下ネタを面白がってしゃべります。

でも子供たちは音楽するときに真摯な態度になってきます。アーノルドと一緒に屋上で自主練をしたり音楽する喜びが静かにしみこんできているようでした。

アーノルドは更に演奏が上達し、ダウド先生は課題曲「シェエラザード」(リムスキー=コルサコフ作曲)のソロ部分の演奏にアーノルドを指名する。二人には深い師弟の結びつきがあるのが感じられました。

いつしかダウド先生にも子供たちに教える喜びを持ち始めていきます。

そんな時に音楽室が火事になって使えなくなり、オーケストラクラスが消滅する危機が訪れます。ダウド先生は行動します。そして親たちも行動します。あのサミールの父ちゃんも活躍します。

いつしか子供たちを応援する親たちも団結してゆく。

 

そして年度末にとうとう「フィルハーモニー・ド・パリ」でのコンサートで本番を迎えます。

 

 

この映画ではダウド先生と子供たちの交流と成長がメインとなってますが、私は彼らを結び付け補助し続けたブラヒミ先生の存在がより印象に残りました。

問題ある生徒を見放さない教師としての矜持を持ち、また実行してました。最初はバイオリンを子供たちと一緒に習ってたけれど、途中から子供たちの演奏の成長に追いつかず見届けるだけになったブラヒミ先生を保護者たちの懇親会でダウド先生はからかってましたが、それに対してもニコニコして妻に演奏するなと怒られたと言って一緒にいる保護者たちを笑わせます。本当にいい人だ。

ホールでの演奏の後、子供たちは小学校を卒業するし、バイオリンは次の学年へと引き継がれてゆくのでしょう。

子供たちの多くはそこでバイオリンとのご縁は終わるのだと思います。聞く音楽も流行りのダンスミュージックやヒップホップなどがメインになるように思います。でもシェエラザードの音楽が流れるとオーケストラクラスでの日々を思い出すのでは。クラッシック音楽が身近に感じられることこそ教育の成果ですね。そして「バイオリン演奏者にとって一番大切なのは自分の体」という言葉を思い出すのでは・・・。成長するにつけ困難や苦難がやってくるけれど、そんなときにこの言葉を思い出し、きっと自分を大切にするでしょう。

アーノルドはこのままバイオリンを続けていずれ音楽の道で生きてゆくような気がします、それが出来るようにダウド先生は娘さんが昔使っていたバイオリンを贈ってました。もし、この音楽教育〈demos〉がなかったら、アーノルドはバイオリンに触れることなく、才能を見出されることはなかったでしょう。将来奏でる音楽はクラッシックなのか違う分野になるのかそれはわからないけれど、プロになったらダウド先生と一緒に演奏会を開いてほしいな。

人の話を聞こうとせず、話を折ってふざけたり喧嘩したり下ネタばかりだった日々から、クラッシック音楽に触れあうことで、真摯に向き合う気持ちが萌芽し、仲間と一緒に一つのハーモニーを奏でる喜びを知った様子を淡々とつづっていった映画でした。うん、ドラマチックである必要はないよね。いつの間にかしみこんでいくものだと私も思います。

そして子供たちの変化が教師や保護者にも及んでいくのもまた良かったです。

 

息子のいた授業崩壊があった学年も、吹奏楽やスポーツなどいろいろな活動に先生も保護者もいろいろ協力しました。成長する過程で変わっていく子、変わらない子とそれぞれでした。中学に進学すると落ち着いて来て、今は成人してますがみんなどうしているのだろう。

そうそうコンサートでサミールの父ちゃんはにこにこ顔でビデオをとっていましたよ♪


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