この映画には
主人公ともう一人影の主人公がいると感じました。
主人公木野本郁男は本来は優しい人柄なんだと思う。職場で苛められている同僚をかばい、一緒に暮らしている恋人愛弓と娘美波にも素直に愛され慕われている。でも競輪にはまり有り金をはたいてさらに恋人のお金をこっそり持ち出してしまう。
ギャンブルから遠ざかる気持ちもあって郁男と愛弓と美波は石巻の港に一人暮らす愛弓の漁師の父勝美のもとに引っ越していく。
でもちょっとしたことで簡単に再びギャンブルにはまり、ズブズブ使い込む。そして愛弓と喧嘩して激昂して取り返しのつかない事態が起きる。
堕ちていく郁男。自暴自棄になって暴力をふるう。勿論その暴力には理不尽な悪事への怒りで、弱い立場には決して振るわないのだけど、体も大きくギャンブルにはまり怪しい所に出入りする郁男は十分誤解される要素を持っている。
そんな郁男に美波と勝美はあくまでも優しい。見るからに頑固そうな勝美の優しさは何故?と思ったけど、それも徐々にわかってくる。でもいいの?そんな優しい人の大切なお金もギャンブルに使い込んでしまう男だよ。
郁男もそんな自分に自己嫌悪し、絶望していく。
そんな郁男とはまるで正反対の男が物語の途中からどんどん存在感を増してゆく。その男のことは詳しく描かれてないけど、何気ない様子がこれまでの人生を想像させる。彼は真面目で優しくて、一途。でも突き詰めた悲しい思いの向こうにあるのは渦巻いていく情念と狂気。
二人の主人公の関係性が不思議でした。影の主人公は時に気の毒そうな表情で郁男に勝ち誇り、そして沢山の優しさも与える。
郁男はある意味恵まれていた。郁男の不器用な優しさを勝美は見抜いていたし、後を託すような気持ちがあったのでしょう。人を惹き付ける魅力は慎吾くんそのものの魅力が郁男に投影されたのだと思います。
影の主人公も郁男の元同僚も人から省みられなかったのが悲しい。
ねえ郁男、それがわかったから、あの涙になったんだよね。その涙こそがこの映画の全ての悲しみや優しさがこもっている。
一人の駄目な男の再生の物語でもあり、もう一人の男の静かな狂気の物語だと感じました。
それから映画に麿赤兒が現れると凄い存在感を発してました。