ヴィットリオ・デ・シーカ監督 1970年公開作品
映画の冒頭に画面いっぱいにひまわり畑が映し出されます。ひまわりは風に揺られ一斉にこちらに向かって咲いています。
そして第二次世界大戦の終戦後、行方不明の夫を何度も役所に確認しては帰っていく女性が現れる。
彼女はジョバンナ(ソフィア・ローレン)。
アフリカ戦線に向かう予定の兵隊アントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)と恋に落ち結婚して12日間の新婚生活を送る。きっと12日たてば戦争も終わってるはず。
二人ははしゃぎながら楽しい時間を過ごし、水辺に散策すると敵軍の飛行機の射撃に間一髪免れる。平和そうに見えた生活だったけど、一瞬忘れていたけど、戦争は厳として存在してた。
二人は画策して芝居を打って兵役に入るのを延ばそうとしたが、逆にそれが仇となってアントニオはロシア戦線に送り込まれてしまった。別れ際にアントニオは毛皮をお土産に戻ってくるよと言って従軍汽車に乗り込む。
たった12日間の結婚生活。
数年たってロシア戦線の帰還兵が汽車に乗って戻ってきた。駅のホームに集まった人々は写真を掲げて兵役に就いた家族や恋人を待ち受けていた。イタリアと日本は同じ敗戦国だったせいか、このシーンは以前テレビで何度も見た日本でシベリアから帰還した兵隊を待つ人々の姿と重なりました。日本兵はシベリアで過酷な労働を強いられましたが、イタリア兵はどんな捕虜生活を過ごしたのだろう。
ジョバンナもアントニオの写真を掲げて待っていたが返ってこなかった。だけど、アントニオと一緒に敗残兵としてロシアの極寒の雪の平原を逃げていった男に出会う。真っ白の世界の中、次々と兵隊が倒れ死んでゆく。アントニオもそこで倒れてしまい、置いてゆくしかなかった
ジョバンナは一人ロシアへと向かう。
ところで、私が今回鑑賞したDVDではロシアとなってましたが、あの時代はソビエト連邦だったはず。映画公開時にはやはりソ蓮となっていたそうです。何故国名を変えたのか。若い人にはソ連はもう知らない国になってしまったのだろうか、それとも何か政治的な判断だったのかな?
当時、ソ連は社会主義国家で、めったに入国も出国もできないし、不気味な国の印象を持ってました。そんな社会主義の国に一人で行くジョバンナの強い思いと執念。
ロシアのイタリア大使館の役人はジョバンナをひまわり畑に連れてゆきます。そこはもとは戦場でひまわり畑の下には多くの死んだイタリア兵が埋められた所だという。イタリア兵だけでなくロシアの農奴や貧しい人も一緒にうめられているという。画面を見ると、シルエットで直接的な表現ではなかったですが、大きな穴に放り込まれたように死体が重なってるように見えました。
そしてひまわり畑を入ってゆくとイタリア兵の慰霊碑が建っていた。
諦めることを勧める役人にも、頑として夫の生存を信じ更に探すジョバンナ。
ついに再会を果たすのだけど・・・・
物語の最後にまたひまわり畑が画面いっぱいに現れます。
冒頭に現れたときは長閑に感じたひまわり畑だったけど、中盤にひまわり畑の場所のいわれを知り、最後にもう一度現れると、それはもう哀しみのこもった光景に見えてしまいます。花一輪一輪はすべて土の下に眠る人の魂のように見えます。ああ、この映画の本当の主人公はひまわり畑だったんだな、と思いました。愛する人と別れたまま祖国に帰れず死んでいったイタリア兵の悲しみ、過酷な生活で疲れ果て死んでいった農奴の悲しみ、そんな無念と死んだ体から溶け出した栄養を吸い上げてひまわりは咲いている。
ジョバンナとアントニオの物語ははひまわりの魂が私達に教えてくれた物語なのか、それとも二人はひまわり畑へと私達を導くために現れた物語なのか。
戦争がなければアントニオとジョバンナは陽気な夫婦となって故郷で笑い声いっぱいの生活をしていたでしょう。戦争が二人を引き裂き、ジョバンナは深い喪失に苦しみ、アントニオは故郷を失う。
否応なく受け入れてゆく新しい生活。
それでも、お土産の毛皮を忘れないアントニオに胸を打たれました。
以前日本にもロシアにそのまま残り生活していた方がニュースになった事も思い出しました。この映画の話ととても似た境遇の話で、日本もイタリアも故郷に帰れなくなった人が他にもいたのでしょう。
この映画はヴィットリオ・デ・シーカ監督が撮らなくてはいられないと、強い思い入れをもって作った反戦映画だと思いました。
ヘンリー・マンシーニの作曲したテーマ曲も二人の想いを切なく表していました。
ひまわり畑が咲いている場所は実在して、今はロシアから独立したウクライナにあるそうです。
慰霊碑にはロシアの詩人ミハイル・スヴェトロフの詩が刻まれているそうです。ウィキペディアに記されてある訳文を参照します
ナポリに生まれし若者よ!
ロシアの平原に君は何か残していたのか?
なぜ幸福になれなかったのだ、故郷の名高い湾を見下ろしながら
追記
この作品はすでにイタリアでもオリジナルネガが紛失していて、日本で2011年、2015年、そして去年2020年にポジフィルムを修復して映画館で上映したそうです。
私は幸運な事に修復された映画のDVDを鑑賞したようです。
私も色々と映画を見てきていますが、この「ひまわり」のラストシーンが一番号泣した作品だと思います。
あのヘンリー・マンシーニの音楽も本当に名曲ですよね。
以前「雪の中の軍曹」っていう本を読んだのですが、まさにこの映画と同じくロシア戦線での独伊軍の敗走が描かれてました。この本で「ひまわり」の背景がよくわかったのが収穫でした。
https://22596950.at.webry.info/201906/article_13.html
久しぶりでもう一度見直したくなりました。また大泣きしそうです。
ごみつさんならすでに鑑賞しているだろうなと思ってましたが、やはり、さらに参考になる本も紹介してくださりありがとうございます!
図書館で検索して借りてみたいと思います。
私は前から見てみたいと思いながら、今回が初めての鑑賞でした。
この状況では誰も攻められない。
でも夫の生存を信じ何年も待ち続けたジョバンナには辛い現実で胸が痛みました。アントニオも望郷の思いでこの先何度も苦しむのだろう。
ソフィア・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニが愛し合う二人を魅力的に演じたからこそ戦争の理不尽さが浮かび上がる。
そこに監督の想いが感じられました。
きっと最初にひまわり畑の存在を映画に残しておきたかったのだろうな。