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29歳問題  29+1

2018-07-17 00:52:30 | 銀幕

2017年 彭秀慧(キーレン・パン)監督作品

 

少しネタばれしてますのでまだ見てない方はご注意ください

 

この物語は2005年の香港が舞台です。

クリスティは化粧品メーカーに務めるキャリアウーマン。スタイリッシュな部屋に住み、毎朝決まった時間に起き分刻みでキビキビ身支度してバスに乗って通勤する。責任感の強い彼女は仕事をテキパキとこなしていき、女性社長エレインからも信頼されている。

その実、クリスティは疲れている、朝の身支度をしながらポツンと「行きたくない」とこぼす。はっと気づいたら来月の4月3日で30歳になるじゃないか。バスでばったり会った昔の知り合いからは独身女性の老後の保障をする保険を勧誘される。認知症の父親も心配だが忙しさであまり会いに行ってないようです。父からは晩御飯ができたから早く帰れと何度も電話が来て、忙しい身にはその電話も悩みの種。

更に部長に昇進しクリスティの忙しさと責任の重さは彼女を追い込んでしまう。長年付き合ってた恋人とも最近うまくいかない。学生時代の友人との女子会は、何だか見栄を張りあっているようであまり楽しそうに見えない。

そんな時、借りている部屋の大家さんが勝手にクリスティの部屋を売り払ってしまい、やむなく大家さんの紹介で部屋主がパリ旅行している短期間、臨時に間借りすることになる。

古いアパートの部屋に入ると、壁一面に青い空と雲が描かれ大きなエッフェル塔の形に写真を貼っている。笑顔の部屋主の姿がいっぱい写っていた。部屋には短期間間借りするクリスティへの歓迎のメッセージが貼ってあり、ビデオプレイヤーには、見てね、と張り紙があった。それでビデオを見てみると、画面から部屋主のティンロが笑顔で現れる。レスリーファンであること。レスリーのドラマにちなんでパリに旅に出たことを説明。そしてティンロを撮影したボーイフレンドも最後に一緒に画面に現れる。

レスリー・・・2005年ならばレスリーの旅立ちはまだ記憶に新しく、ティンロのような現役ファンがいっぱいいる頃でしょうね

そして自己紹介のように自分の来歴や感じた事を記した手記が置かれていて、手に取って読み始めると、偶然にも二人は同じ年、同じ誕生日で共にもうすぐ30歳になるとわかる。クリスティはティンロに親しみを感じ始めた。

 同じ日に生まれたけど、二人の生活はずいぶんと違う。クリスティが務めてるメーカーはモダンな建物で、彼女含め働く社員は皆ほっそりとして体の線に合わせたスタイリッシュな服装をしている。ティンロはふっくらしたあまり化粧っ気のない女性でゆったりした服装をしている。小さなお店で働いている。生活はそんなに豊かではないし、きっと過去に辛いこともあったのかもしれない。嫌なことがあったら笑顔でにーっと笑ってやり過ごすという。ティンロと仲良しで幼馴染のボーイフレンドであるホンミンとのやり取りが微笑ましい。そんなことが記されているノートを読み、理不尽な出来事が続き精神的に参ってしまったクリスティは、少しずつ心がほぐれていく

見た感じでは、ティンロの方が朗らかに暮らしているように見えました。

 

映画の中で

クリスティの務める会社の社長エレインの言う「土星回帰」という言葉が印象に残りました。

土星は30年かけて太陽の周りを一周する。人生も30年で一つの区切りがあり新しい次の30年の人生が始まる。エレイン社長も30歳で人生を自ら変えて、そしてもうすぐやってくる二度目の土星回帰でまた新たな人生を歩むという。

 でも区切りを向かえるにはこれまで見ようとしなかった困難や試練を受け入れ清算せざるを得ない

 クリスティは意識を失ってしまった父と心の中で会話する。脳裏に現れ出るのは幼いころの楽しかった情景の中だったり、実現しなかった成人したクリスティと父の喫茶店での穏やかに話し合う様子。父は認知症だからだけでなく、心から娘と一緒に晩御飯を食べたくてきっと何度も電話したのだろうね。クリスティと一緒に涙が止まりませんでした。

そのほかにも潜んでいた困難がいろいろ現れ、頑張って積み上げた事が崩壊し、クリスティは絶望のあまり力なく床に倒れ込むと、数秒間クリスティの生活とティンロの世界が溶け合う。はたと我に返ったクリスティは、さらに手記を読んでティンロもまた試練にぶつかってしまっていることを知る。

クリスティは手記の続きをさらに読む。ティンロは幼馴染のホンミンに知らせた。優しいホンミンはその時頼もしい存在になる。二人の関係は私は姉弟のような関係なのかな?と思ってましたが、ちょっと違っているようです。

LCCを利用してパリへ向かったティンロ。

 

この映画は監督のキーレン・パンさんが独り芝居で発表した自作作品をもとにしたそうです。発表した時、2005年でキーレンさんはまさしく30歳で、芝居は評判になったそうです。クリスティとティンロ、そしてエレイン社長の30歳へのこだわりはそのままキーレン・パン監督の当時のこだわりでもあります。確かに、20代は「若者」というくくりに入るけど、30歳になったとたん若者というくくりから追い出されたような気持になります。ずっと若さが当たり前だった20歳代にとっては未知の30歳以後やがて訪れる老いに不安を感じるのかも。

でも、土星回帰の30年に節目を感じる人もいれば違う年に節目を感じる人もいると思うのです。私自身の29歳から30歳に変わる頃は、実はさほど抵抗はなく30歳は20歳代の延長としか思わなかった。でも34歳になった時、はたと気づいたのです。もう若くない、間違いなく30代の真ん中だ。焦り戸惑いながら、少しずつ若くない自分を受け入れていったのでした。

土星回帰の後も人生は続く。それまでの人生と比べても瑞々しさは変わらない。私はそう感じてます。

 

この映画には80年代や90年代の香港映画や音楽へのオマージュがちりばめられているそうです。それはティンロやクリスティのこれまで生きてきた日常になじんだ音楽や芸能人。レスリー・チャンとレオン・ライの歌。さらに、こちらは私はわからなかったのですが、初恋の人や音楽、クリスティの大家さんにタクシー運転手、ティンロの務める店の社長も、わかる人にはうなずいてしまうそうです。

そしてティンロ役のジョイス・チェンさん自身もレスリーととても仲が良く信頼を寄せていた女性タレントであるリディア・サムさんの娘さんだそうです。たしか、レスリー没後5年追悼コンサートの時、ジョイスさんは直前にお母さまのリディア・サムさんをご病気で亡くされて、お母さまの代わりに舞台で歌われた事を聞いてます。だからティンロがレスリーが好きと言うセリフにはグッときます。

また大好きな映画「花様年華」のポスターも映画で役割を持っていたのも嬉しい。そしてさらに映画「ラヴソング(甜蜜蜜)」「天使の涙(堕落天使)」を連想するシーンもありにんまりとしました。

最後のシーンは舞台から映画ができたのが感じられる演出でした。クリスティの心の再生をこんな形で表したのでしょう。彼女にとってティンロはすでに大切な存在になっている。

 あの後、ティンロもクリスティも無事に土星回帰を迎えて新しい軌道に入り進めることができただろうか。きっと乗り越えていくと信じていたいです。そしてできればいいお友達になっていてほしいな。

 

 


2 コメント

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振り返るのにいいかも (himari)
2018-07-18 00:15:16
Liziさん
この映画は、Liziさんの言われる通り、30歳をずっと前に過ぎた年頃で、この映画を通して自分の29歳だったころをを思い返す人が多いような気がします。私もやっぱり思い出しましたもん☆
仕事や家族の事などいろいろ抱えこんでいたクリスティには、つつましくシンプルに暮らすティンロが新鮮に見えたのでしょうね。
本文では書き忘れましたが最後にレスリーの歌う「ゼロからの開始」という歌が流れます。まさにティンロとクリスティに相応しい歌なんです。
公式サイトを見たら、上映が終了した映画館も多いですが、まだ上映中だったりこれから上映する映画館もいくつかありました。Liziさんのお住まいの近くだったり機会がありましたら見てみてくださいね!





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見てみたい (Lizi)
2018-07-17 12:36:06
ご無沙汰しています、Liziです。
ティロンとクリスティの関係や内容が気になってみてみたくなりました。
自分もすでに30をずいぶんすぎていますが、自分が30になるころの思いと比べてみてみるのも面白いですね。
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