5月にNHK「ドキュランドへようこそ」というテレビシリーズで「カラーでよみがえるイギリス帝国 BRITAIN IN COLOR」というBBC放送局が制作した、昔のイギリスの白黒映像を着色してより見やすくした映像、でイギリス近代史を解説する番組を見ました。
その日は「ロイヤルファミリー ROYALTY」の特集で、晩年のビクトリア女王からエリザベス2世女王が戴冠するまでの世界情勢とイギリス国王の変遷とヨーロッパ中の王室にいるビクトリア女王の子孫の映像が解説されてました。それがとても興味深くて面白かったのです!。録画もしておいたので何度も再生して見てました。特にエドワード8世国王(のちのウィンザー公爵)と王位を引き継いだ弟のジョージ6世国王(エリザベス2世女王のお父様)の映像は見ごたえがありました。
Wikipediaで二人の王様の事を調べているうちに、この映画も見てみたいと思いました。
トム・フーパー監督、英国王室の史実をもとに作られた作品。2010年公開。アメリカ映画
英国王ジョージ5世の第2王子ヨーク公爵アルバート(家族からはバーティと呼ばれています)は吃音に悩みとても内気な人柄。でも立場上、人前でスピーチをしなくてはならず、いろいろな言語療法士に見てもらってもうまくいかない。大切な場で言葉が出ず惨めな気持ちになってしまい余計内向的になってしまっていました。
ある日奥様のヨーク公爵夫人エリザベスはオーストラリア人の言語障害療法士の元に夫を連れていく。
言語障害療法士のライオネル・ローグはヨーク公爵をバーティと呼び自分の事もライオネルと呼ぶよう提案し対等な関係を築こうとする。それに対し反発をもつバーティはつい感情的になる。すると、一瞬吃音がなくなるのです。
そう、バーティはいつも吃音なわけじゃない。妻エリザベスや二人の娘エリザベス(お母さまの名前を受け継がれたのかな)とマーガレットの前では普通にしゃべるのです。娘たちにパパがペンギンになって冒険した作り話をペンギンの身振りをしながら話すときはとっても楽しそうに喋ってました。
そして真面目で堅実な人柄でした。
ローグは見抜いてました。バーティは偉大になれる人物だと。
バーティの兄で王太子のエドワード(家族からはデイビッドと呼ばれています)は独身で華やかで社交的。だけど王となるべき自覚が足りない。
父王崩御の後、デイビッドは王位を継ぎエドワード8世となりましたが、アメリカ人で二度の離婚歴を持つウォリス・シンプソンと結婚をするため王位を返還。バーティが王位を引き継ぎジョージ6世となってしまう。狼狽するバーティ。
さらに、ヨーロッパはナチスドイツが台頭し再び戦争が避けられない状況となってしまう。バーティは国王としてイギリス国民に団結してこの難局を乗り越えるメッセージを送らなくてはならない。
バーティことジョージ6世を演じたコリン・ファースは、さすが繊細さと頑固さと気品を持つ王を素敵に演じてます。
実を言うと本物のジョージ6世は更に端正な方なのです。
ジョージ6世。エリザベス女王陛下のお父様です。愛妻家で二人の娘に愛情を注がれた、テレビドキュメントでも言われてましたが、家族とても仲良くて、善き夫で父親でした。
王子だからと言って何もかも恵まれてたわけではなく、幼児期は乳母の虐待やいろいろな困難があったそうです。
そして人種差別を嫌い、第二次大戦後南アフリカを訪問した際、あからさまな人種差別が公然と行われていたことに激怒したそうです(Wikipediaより)
ライオネル・ローグ療法士は母国オーストラリアで戦争で言語障害になった兵士たちを治療した実績を持つ人でしたが、正式な資格を持ってない。そのことと、イギリス人でないこともあって王室の側近は彼に対して良く思ってなくて、療法士を変えることを提案します。
ライオネルに何度も反発していたバーティでしたが、その側近の助言は断りました。大切なのは心のケアだと理解しているライオネルの元、少しずつ気持ちを解放し体もほぐしてゆく。
演じたジェフリー・ラッシュもオーストラリア人だそうです。相手がどんな立場であろうと態度を変えず飄々としながら心から患者を治そうと努力するローグ療法士を味わい深く表現してました。
バーティの兄デイビッドことエドワード8世、後のウィンザー公爵と後に結婚されたウォリス・シンプソンは享楽的な人物に描かれてます。これはドキュメント番組でもそのような人物だったと言っていました。Wikipediaでは更に2010年に公開された、それまで秘密にしていた、情報が書かれていてかなり衝撃的でした(ここでは書きませんので興味のある方は調べてみてくださいね)。
ウォリスはバーティの妻エリザベスから嫌われていたし、おそらく多方面からいろいろ非難されたと思われますが、それをものともせず生き抜いた強い女性でもあるなと思いました。その強さこそがデイビッドを惹きつけ、彼を支えていけたのでしょう。
映画のクライマックスとなるスピーチは、用意された原稿をもとにラジオを通して国民に語りかけるものです。一見何気ないように思えますが、できれば避けたかった戦争に突入せざる得ない状況下、国王の名のもとに多大な犠牲を覚悟でナチスドイツと戦う覚悟と団結を呼びかける重要なメッセージでもありました。そして当時、ラジオは都会や地方を問わず全国民に国王が語りかけることが出来る最先端技術メディアであったことをあらためて気づきます。
もし国王がいなかったら、もしくは国王が何も言わなかったら、イギリス国民は心の拠り所が定まらず、団結して戦うことが出来ずナチスに国を乗っ取られたかもしれない。
国の存亡をかけた大事なメッセージはわかりやすい言葉と声で伝える必要があります。吃音で苦しむジョージ6世にはいかに困難な事であるか。
ジョージ6世はスピーチに挑みます。ローグ療法士も支えます・・・
そのクライマックスは感動的でした。そしてその後さらりと言うウィットのある言葉の応酬に知的なセンスと二人の親密さを感じました。
何気なくジョージ6世の気持ちをほぐすチャーチル(そのころはまだ首相ではなかったようです)の存在感もよかったです。
ジョージ6世の王妃を演じたヘレナ・ボナム=カーターはドキュメント番組で見た王妃ととてもよく似ていました。
そして映画もドキュメント番組もジョージ6世の家族の映像には数匹のウェルシュ・コーギー犬が一緒にいて、イギリス王室、特にエリザベス女王陛下にとってコーギー犬は家族であり、懐かしい家族の思い出でもあるのだろうな、と思いました。
王と療法士の立場を越えた友情が素敵でした。
「英国王のスピーチ」は見る前に「カラーでよみがえるイギリス帝国」を見て当時のイギリスの状況や王室の様子をある程度予習できていたので、すんなりと映画の中の世界に入ってゆけました。
内気だけど芯が強くて責任感のあるジョージ6世の人柄は魅力的ですね。
最後近く国王が「ライオネル、わが友よ」と言うシーンは感動的でした。
あの当時の事を調べると、兄上のエドワード8世が反対された結婚をするために早々に国王の位を手放し弟に譲ったのは歴史的に見てよい選択だったのだなと感じられました。
そして出る回数はそんなに多いわけではなかったけれどチャーチルの存在感はやはり際立ってました。
その同じ時代を今度はチャーチルを中心に据えてみた映画は興味深いです。是非見てみたい!レンタルDVD屋さんで探してみます。
「英国王のスピーチ」、すごい良い映画ですよね。知らなかったエピソードばかりだったし、私もとても感動しました。
アカデミー賞の作品賞も受賞してましたね。
2017年の映画「ウィンストン・チャーチル / ヒトラーから世界を救った男」の中で、ドイツからの空襲がふどくなったロンドンから王室は疎開するんですが、ジョージ6世は最後まで残るんですよ。
「英国王のスピーチ」見てると、とても感動するシーンでした。