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1月20日に江戸東京博物館にて鑑賞しました。
レオナルド・ダ・ヴィンチ展はたいてい目玉となる油絵などのタブロー作品が1点出品され、そのほかには直筆の手稿、設計を元にした模型、そして彼の弟子や追随者いわゆるレオナルデスキの作品が並ぶ形式になってますが、この展覧会も同じ。そして毎回やはり堪能してます。作品を間近で鑑賞できる事の貴重さ、彼の息遣いを感じる手稿、やはり見逃す訳にはいけませぬ。
会場は始めいろんな作家が描いたものを複製したレオナルド・ダ・ヴィンチの肖像画が並びます。
中で注目したのは町の行商が売る小鳥を買い取って自由に放すダ・ヴィンチと弟子を描いた銅版画でした
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ジャン・クロード・マニゴー 《動物を愛護するレオナルド・ダ・ヴィンチ、鳥を買い取り空に放つ》 19世紀、リトグラフ
この絵がこれからの作品展示に関係してゆきます
レオナルド・ダ・ヴィンチの作品はデッサンから展示されてました
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《子どもの研究》 1502‒1503年、赤い地塗りをした紙、赤チョーク、鉛白によるハイライト
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《花の研究》 1504年頃、紙、銀の尖筆、ペンと褐色インク
何回見てもやはりすごいなあ。デッサンは他に、小さい作品ですがダンテの「神曲 地獄偏」から着想を得た大洪水図がとてもリアルで迫力がありました。
そして鳥を研究した直筆の手稿とそれを複写したページを展示したコーナーへと進みます。
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鳥の飛翔に関する手稿』 第10紙葉裏と第11紙葉表 1505年、紙、ペンと褐色インク、赤チョーク
実物も展示されてました
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この手稿には鳥がいかにして風の力を利用し、また風で体がひっくり返らないように小翼がバランスをとって飛んでいるかを書いてあり、そしてそれから人間が空を飛べる機械を考えて一部を記してました。飛行機の全体像は案を盗まれるのを警戒してわざと記さなかったそうです。だからダ・ヴィンチが亡くなると飛行機の具体的な図もわからなくなったそうです。
メモ書きや細かいイラストと共に空を飛ぶ浪漫に思いを馳せて実現を夢見て書いた詩も書かれていました。
重さを持った鳥が飛べるように人間も飛べる事を科学で可能にできると確信していました。
その貴重な手稿ですが元はイタリアにあり、それをナポレオンが略奪しフランスへ。さらにソルボンヌ大学の教授ブリエルモ・リーブリが盗みイギリスに亡命、そこでバラして数枚一組で売ってしまったそうです。教授にまでなった人が、大切な手稿を盗んだりバラ売りしたり・・・というのにはびっくりしました。
現在は奇跡的に全葉が集まりイタリア、トリノ王立図書館に保存されてます。鳥の手稿だけにトリノ・・・ですね(^^)v
手稿を日本語で全部翻訳したものを会場最後にあるタッチパネルで見れます
次にはレオナルデスキの作品、そしてレオナルド・ダ・ヴィンチの作品があります。
レオナルデスキによる「ヨハネ」の模写
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手前のヨハネはマッチョでかなり男性的なお顔です。
3年前も「レオナルド・ダ・ヴィンチ展 天才の肖像」で意味深な目つきのヨハネに出会いましたが、模写であっても描く人が自分の持ち味を加味してしまうようです。このヨハネシリーズは見ていて楽しい♪です。
本家の「ヨハネ」はこれから修復がされるそうで、描いた当時の画面の明るさを取り戻すそうです。
そしてさらにダ・ヴィンチの油絵作品の為の下絵のデッサンがあり、メインとなる「糸巻きの聖母子」が特別に並んでみるようになって展示されてました。
まず油絵作品のデッサン習作
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《受胎告知の天使のための左手と腕の研究》1505年頃
何かを語っている。美しい形の手
そしてこの展覧会のメインとなる
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《糸巻きの聖母》 1501年頃、油彩・板、48.3×36.8cm、バクルー・リビング・ヘリテージ・トラスト
この作品はイギリスのバクルー公爵家が所有されているそうです。
正直に感じたことはマリア様の頭部に対して体が小さいように思えた事と、背景がいつもの洞窟のようでなく海もしくは湖になっている割には広々と開かれている感じがしなくて空気遠近法もいまいちでレオナルド・ダ・ヴィンチらしからぬものだなと言う事です。
展覧会の説明を読むと、背景はのちの時代に加筆されたものだそうで、聖母子と糸巻きと手前の岩石部分はレオナルド・ダ・ヴィンチの真筆なのだそうです。
そういえばマリア様の右肩や右腕に塗りつぶされているのが体の線が透けて見えてます。もうすこし体は大きかったようです。
そして背景は向かって左側の背景(つまり少し体を小さくした右の体の後ろ)に歩行器に乗せようとするヨセフとマリアと嫌がるキリストが描かれていたそうですが塗りつぶされたそうです。
この糸巻きの聖母もやはりレオナルデスキが模写した作品が2点展示されてましたが、いずれも歩行器と聖家族の絵が描かれていました。
今では信じられないことですが、後の時代の人が作品を変えてしまうことがあったみたいです
でも、聖母子は希少で大切な真筆作品。マリア様は少し悲しげな微笑みをたたえ心に余韻を残します。キリスト坊やの上を向いてむにっとした頬っぺたが可愛らしい(*´ω`)
ホームページにバクルー公爵のメッセージが書かれてました。代々守りぬいた公爵家の誇りと作品への深い愛情を感じました。
そしてレオナルド・ダ・ヴィンチのデッサンをもとにレオナルデスキによって描かれたヨハネのもう1作
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レオナルド派《洗礼者聖ヨハネ》 16世紀、油彩・板、
小品ながら陰影が美しく奥行もあって清々しい風が通ってるように思える美しい作品。見ててうれしいなあって思える作品でした。ダ・ヴィンチの技法を自分のものにしている。無名なのが本当にもったいないです。
このポーズと画面構成には既視感がありました。そう去年鑑賞した17世紀のバロックの画家グエルチーノの作品です
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グエルチーノ《説教する洗礼者聖ヨハネ》1650年
グエルチーノはどこかでレオナルド・ダ・ヴィンチの作品もしくはレオナルデスキの作品を鑑賞して参考にしたのかもしれません
さらにダ・ヴィンチの二人の愛弟子の作品
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ジャン・ジャコモ・カプロッティ、 通称サライ 《12歳のキリスト(若き救世主)》 1505年頃(?)
美青年で可愛がられたそうでヴェネツィア、フィレンツェ、ローマ、フランスと随行したそうです。作品の説明に多分お師匠さん(ダ・ヴィンチ)のデッサンなどを参考に描いたのだと思われると書かれてますが、体のあちこちが不自然です。モナリザのヌード版を描いたり、3年前に鑑賞した意味深な目つきのヨハネもこの人が描いたと言われていて、どこか絵が俗っぽいです。それがまた楽しいのですが。
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ベルナルディーノ・スカーピ またはデ・スカーピス (通称ベルナルディーノ・ルイーニ) 《聖母子と洗礼者聖ヨハネ》 1520-1525年頃
ルイーニはダ・ヴィンチから影響を受けた画家
ちょっと混同して間違えてしまいましたが、もう一人の愛弟子はフランチェスコ・メルツィでした
フランチェスコ・メルツィは才能ある弟子で誠実な人柄で、ダ・ヴィンチに信頼され手稿を託され相続し保管したそうですが、彼の死後散逸したそうです。
そして、さらに展覧会は続き、今度はダ・ヴィンチの設計図やイラストを基に作った飛行機や土木の模型が展示されてました
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左側の装置も飛ぶ機械です
博物館の入り口にも、気づきにくいけど
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かなり飛ぶことにこだわってたようです。でも、危なそうだな、誰かにやらせようとしてて、皮のクッションを体に巻き付かせて墜落の際にも安全だとメモしてたけど、とんでもない。科学の人だけどどこか夢が混在してる気がしました。
会場にはあちこちにダ・ヴィンチの人生訓のようなメモ書きが日本語で書かれてました。その中から・・・
「優れた画家は、主要な2つのものを描かなければならない。それは人体と、それに抱く思いである。」(「絵画の書」180章)
「人は自分自身を支配する力より大きな力も小さな力も持ちえない」
「立派に費やされた1日が快い眠りを与えてくれるように、立派に癒された人生は快い死を与えてくれる」(「トリブルツィオ手稿」第27紙葉表)
日本の伝統文化を展示する江戸博でイタリアルネッサンス美術を堪能できた粋な展覧会でした。
「いよ!レオナルド!」の掛け声が聞こえてきそうです
4月10日まで開催されてます