【もくじ】
はじめに (2023.02.06 掲載)
一、 NATOとは何か (2023.02.06 掲載)
1. NATOの沿革 (2023.02.06 掲載)
2. 東西ドイツ統一と核問題 (2023.02.06 掲載)
3. NATOの核とウクライナ問題 (2023.02.13 掲載)
4. 核共有というNATOの核管理方式
二、 日本の国防費増大はトランプの提言という虚言 (2023.02.23 掲載)
1. トランプ大統領とNATO (2023.02.23 掲載)
2. 張り子のトラNATOの装備 (2023.02.23 掲載)
・2016年アメリカ大統領選挙 (2023.02.23 掲載)
・NATOとトランプの対決 (2023.02.23 掲載)
3. 自民党政権崩壊の危機 (今回掲載)
・米朝共同声明の衝撃 (今回掲載)
・朝鮮戦争と国連軍地位協定 (今回掲載)
・国連軍地位協定と日米安全保障条約の関係 (今回掲載)
・うろたえる政府自民と外務省 (今回掲載)
三、 五年以内という期限を限定した意味
1.核共有を日本に導入する
2.日本国内の政治動向
まとめ
二、日本の国防費増大はトランプ元大統領の提言とする虚言
3、自民党政権崩壊の危機
・米朝共同声明の衝撃
トランプは大統領以来、NATO加盟国に分担金の増額を要求しながら解体を目指していることとほぼ同時に進行していたのが朝鮮戦争を終結させることであった。トランプが大統領に就任する直前の年、2016年、アメリカ予算によれば、在日米軍に対する支出は55億ドル(6000億円程度(当時))となっていた[1]。トランプ大統領は、日本に対して駐留費の大幅増額を要求してくることは明らかであった。そのような中で、2018年になると日本政府が予想すらしない方向に事態が急展開していった。
2018年6月12日、アメリカのドナルド・トランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長及び国務委員会委員長との、史上初の首脳会談がシンガポールで行われた。これだけでも十分に衝撃的な話であるが、会談後出に共同声明がだされ、その内容に日本政府はさらに強烈な衝撃を受けることになった。
『……
共同声明
アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプと朝鮮民主主義人民共和国の金正恩国務委員長は、史上初の首脳会談を2018年6月12日、シンガポールで開催した。
トランプ大統領と金正恩委員長は新たな米朝関係や朝鮮半島での恒久的で安定的な平和体制を構築するため、包括的かつ誠実な意見交換を行った。トランプ大統領は朝鮮民主主義人民共和国に安全の保証を与えると約束し、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化に向けた断固とした揺るぎない決意を確認した。
新たな米朝関係の構築は朝鮮半島と世界の平和と繁栄に寄与すると信じると共に、相互の信頼醸成によって朝鮮半島の非核化を促進すると認識し、トランプ大統領と金正恩委員長は次のように宣言する。
アメリカ合衆国と朝鮮民主主義人民共和国は、平和と繁栄を求める両国国民の希望に基づき、新たな米朝関係の構築に取り組む。
アメリカ合衆国と朝鮮民主主義人民共和国は、朝鮮半島での恒久的で安定的な平和体制の構築に向け、協力する。
2018年4月27日の「板門店宣言」を再確認し、朝鮮民主主義人民共和国は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む。
アメリカ合衆国と朝鮮民主主義人民共和国は朝鮮戦争の捕虜・行方不明兵の遺骨回収、既に身元が判明している遺体の帰還に取り組む。
トランプ大統領と金正恩委員長は「史上初の米朝首脳会談が、両国の数十年にわたる緊張と敵対を乗り越える新たな未来を築く重要な出来事であった」と認識し、この共同声明の内容を「完全かつ迅速に履行すること」を約束した。
アメリカ合衆国と朝鮮民主主義人民共和国は米朝首脳会談の成果を履行するため、「マイク・ポンペオ国務長官と朝鮮民主主義人民共和国の高官の交渉を続けて可能な限り迅速に履行する」と約束した。
トランプ大統領と金正恩委員長は「新たな米朝関係の発展と、朝鮮半島と世界の平和、繁栄、安全のために協力すること」を約束した。
……』
このアメリカと北朝鮮の共同声明では、朝鮮戦争を終結させることで合意したというのである。その後も両国は積極的な接触を行っている。
2019年2月27日、ベトナムの首都ハノイでドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による2回の会談が行われ、朝鮮半島の核兵器廃絶に向けた取組についても協議した。金正恩が最も問題としたのは、核を廃棄した場合に、カダフィ大佐と同様に体制を崩壊させられるのではないかというアメリやNATOの対する不信感であった。とくに北朝鮮と交渉にあたっていたのが強硬なボルトン( John Robert Bolton)であった。ボルトンであるが、トランプが大統領に就任する直前に、沖縄駐留アメリカ軍を台湾移転することで「台湾は地理的に沖縄やグアムよりも東アジアの国や南シナ海に近い。この地域への迅速な米軍配備をより柔軟にする」と主張していたことは注目に値する[2]。
2019年6月30日、ドナルド・トランプ米大統領は、韓国と北朝鮮を隔てる軍事境界線を挟み、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と握手した。軍事境界線を挟んでトランプ氏が「また会えて嬉しいです」と声をかけると、金委員長はトランプ氏を招き入れるような仕草を見せ、これに応えてトランプ氏が境界線をまたいで北朝鮮側に入った。両首脳は10歩ほど進み、北朝鮮側で再び握手した。
その後、現職のアメリカ大統領として初めて、境界線を歩いて越え、北朝鮮側に入った。これに続き、金氏がトランプ氏と並んで境界線を越え南側に入った。
満面の笑みの金委員長は「またお会いできて何よりです。まさかこの場所でお会いできるとは思っていませんでした」と、通訳を介してトランプ氏に言い、トランプ氏は「大変な瞬間です」「素晴らしい前進だ」と答えた。両首脳は続いて、にこやかに談笑しながら共に境界線を南側へ越え、そのまま記者団の質問に応じた。金氏もその場に立ったまま、記者団の質問に答えるという異例の展開となった。金氏は、トランプ大統領が初めて米大統領として初めて軍事境界線を越えたことを強調した。トランプ氏は境界線を越えたのは「本当に歴史的」で、「素晴らしい名誉なことだ」と述べ、2人はあらためて握手を交わした。
朝鮮戦争終結がいよいよ現実のものとなった瞬間であった。それと共に、日本政府及び外務省を非常に慌てさせることとなった。
・朝鮮戦争と国連軍地位協定
そもそも日本の安全保障の考え方は、日米安全保障条約及び国内法ともに、すべて朝鮮戦争を基に整備されてきた。つまり朝鮮戦争が終戦になるということは、少なからず条約や国内法にも影響を及ぼすことになる。朝鮮戦争の終戦の影響について、朝鮮戦争に派遣された朝鮮国連軍の結成と、サン・フランシスコ講和条約まで遡って検証してみる。
朝鮮国連軍に付いては、外務省公式ページ『朝鮮国連軍と我が国の関係について』に次のようにある。
『……
朝鮮国連軍は,1950年6月25日の朝鮮戦争の勃発に伴い,同月27日の国連安保理決議第83号及び7月7日の同決議第84号に基づき,「武力攻撃を撃退し,かつ,この地域における国際の平和と安全を回復する」ことを目的として7月に創設された。また,同月,朝鮮国連軍司令部が東京に設立された。
……』
この時、朝鮮国連軍司令部は東京の連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)におかれ、ダグラス・マッカーサー(Douglas MacArthur)が司令官に任命された。そして、占領アメリカ軍が今度は朝鮮国連軍となって朝鮮半島に向かった。
その後、朝鮮戦争が膠着状態となった1951(昭和26)年9月になると、日本はサン・フランシスコ市で講和条約を締結することになった。サン・フランシスコ講和条約発効後の占領アメリカ軍および朝鮮国連軍の関係を規定している条項がある。
『……
日本国との平和条約
昭和二六年九月八日サン・フランシスコ市で著名
昭和二六年一一月一八日批 准
昭和二六年一一月二八日批准書寄託
昭和二七年 四月二八日効力発生
昭和二七年 四月二八日公布(条約第五号)
……
第六条
連合国のすべての占領軍は,この条約の効力発生の後なるべくすみやかに、且つ、いかなる場合にもその後九十日以内に、日本国から撤退しなければならない。但し、この規定は、一又は二以上の連合国を一方とし、日本国を他方として双方の間に締結された若しくは締結される二国間若しくは多数国閻の協定に基く、叉はその結果としての外国軍隊の日本国の領域における駐とん又は駐留を妨げるものではない。
……』
すなわちサン・フランシスコ講和が効力を発すると、昭和27年4月28日から90日以内に占領軍は日本から撤退することになっていた。この条文通りに占領アメリカ軍を撤収すると、朝鮮戦争で戦闘が継続中にもかかわらず、戦争を継続することが困難となってしまう。併せてマッカーサーも日本を去らなければならず、朝鮮国連軍の司令官が不在となる。そこでアメリカは一計を案じ、講和条約締結の当日、吉田茂とアメリカの国務長官ディーン・アチソンとの間で占領軍が引き続き駐留することを認めるという交換公文が取り交わした。
『……
吉田・アチソン交換公文(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約の署名に際し吉田内閣総理大臣とアチソン国務長官との間に交換された公文)
合衆国国務長官から内閣総理大臣にあてた書簡
書簡をもつて啓上いたします。本日署名された平和条約の効力発生と同時に、日本国は、「国際連合がこの憲章に従つてとるいかなる行動についてもあらゆる援助」を国際連合に与えることを要求する国際連合憲章第二条に掲げる義務を引き受けることになります。
われわれの知るとおり、武力侵略が朝鮮に起りました。これに対して、国際連合及びその加盟国は、行動をとつています。千九百五十年七月七日の安全保障理事会決議に従つて、合衆国の下に国際連合統一司令部が設置され、総会は、千九百五十一年二月一日の決議によつて、すべての国及び当局に対して、国際連合の行動にあらゆる援助を与えるよう、且つ、侵略者にいかなる援助を与えることも慎むように要請しました。連合国最高司令官の承認を得て、日本国は、施設及び役務を国際連合加盟国でその軍隊が国際連合の行動に参加しているものの用に供することによつて、国際連合の行動に重要な援助を従来与えてきましたし、また、現に与えています。
将来は定まつておらず、不幸にして、国際連合の行動を支持するための日本国における施設及び役務の必要が継続し、又は再び生ずるかもしれませんので、本長官は、平和条約の効力発生の後に一又は二以上の国際連合加盟国の軍隊が極東における国際連合の行動に従事する場合には、当該一又は二以上の加盟国がこのような国際連合の行動に従事する軍隊を日本国内及びその附近において支持することを日本国が許し且つ容易にすること、また、日本の施設及び役務の使用に伴う費用が現在どおりに又は日本国と当該国際連合加盟国との間で別に合意されるとおりに負担されることを、貴国政府に代つて確認されれば幸であります。合衆国に関する限りは、合衆国と日本国との間の安全保障条約の実施細目を定める行政協定に従つて合衆国に供与されるところをこえる施設及び役務の使用は、現在どおりに、合衆国の負担においてなされるものであります。
本長官は貴大臣に敬意を表します。
千九百五十一年九月八日
ディーン・アチソン
……』
とある。つまり、日本は、国際連合が派遣した軍隊、占領アメリカ軍がそのまま駐留を継続することに合意していたのだ。この交換公文をもとに取決めたのが、昭和29(1954)年2月19日、朝鮮国連軍が我が国に滞在する間の権利と義務その他の地位及び待遇を規定する「日本国における国連連合の軍隊の地位に関する協定」(国連軍地位協定)となった。この協定の中で、国連軍が撤収する条項を確認すると次のとおりである。
『
日本国における国連連合の軍隊の地位に関する協定
昭和二九年二月一九日東京で署名
昭和二九年五月二一日受諾について内閣決定
昭和二九年六月一日受諾書寄託
昭和二九年六月一日公布(条約第一二号)
昭和二九年六月一一日効力発生
……
千九百五十一年九月八日に日本国内閣総理大臣吉田茂とアメリカ合衆国国務長官ディーン・アチソンとの間に交換された公文において,同日サン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約の効力発生と同時に,日本国は,国際連合が国際連合憲章に従つてとるいかなる行動についてもあらゆる援助を国際連合に与えることを要求する同憲章第二条に掲げる義務を引き受けることになると述べられているので,
前記の公文において,日本国政府は,平和条約の効力発生の後に一又は二以上の国際連合加盟国の軍隊が極東における国際連合の行動に従事する場合には,当該一又は二以上の加盟国がこのような国際連合の行動に従事する軍隊を日本国内及びその附近において支持することを日本国が許し且つ容赦することを確認したので,
国際連合の軍隊は,すべての国及び当局に対して国際連合の行動にあらゆる援助を与えるよう要請した,千九百五十年六月二十五日,六月二十七日及び七月七日の安全保障理事会決議並びに千九百五十一年二月一日の総会決議に従う行動に今なお引き続き従事しているので,また,
日本国は,朝鮮における国際連合の行動に参加している軍隊に対し施設及び役務の形で重要な援助を従来与えてきており,且つ,現に与えているので,
よつて,これらの軍隊が日本国の領域から撤退するまでの間日本国におけるこれらの軍隊の地位及び日本国においてこれらの軍隊に与えられるべき待遇を定めるため,この協定の当事者は,次のとおり協定した。
第一条
この協定に別段の定がある場合を除く外、この協定の適用上次の定義を採択する。
(a)「国際連合の諸決議」とは、で九百五十年六月二十五日、六月二十七日及び七月七日の国際連合安全保障理事会決礒並びに千九百五十一年二月一日の国際連合総会決議をいう。
(b)「この協定の当事者」とは、日本国政府.統一司令部として行動するアメリカ合衆国政府及び、「国際連合の諸決議に従って朝鮮に軍隊を派遣している国の政府」として、この協定に受諾を条件としないで署名し、「受諾を条件として」署名の上これを受諾し、又はこれに加入するすべての政府をいう。
(c)「派遺国」とは、国際連合の諧決議に従って朝鮮に軍隊を派遣しており又は将来派遣する国で、その政府が、「国際連合の路決議に従って朝鮮に軍隊を派遣している国の政府」としてこの協定の当事者であるものをいう。
(d)「国際連合の軍隊」とは、派遣国の陸軍、海軍又は空軍で国際連合の諸決議に従う行動に従事するために派遣されているものをいう。
……
第二十四条
すべての国際連合の軍隊は、すべての国際連合の軍隊か朝鮮から撤退していなければならない日の後九十日以内に日本国から撤退しなければならない。この協定の当事者は、すべての国際連合の軍隊の日本国からの撤退期限として前記の期日前のいずれかの日を合意することができる。
……
……』
同協定第24条には、すべての国連派遣軍が朝鮮半島から徹底していなければならない日から90日以内に日本からも徹底しなければならないと定められている。要するに朝鮮半島から国連派遣軍が徹底すべき日とは、朝鮮半島が終戦となって派遣軍が駐留する根拠がなくなり朝鮮半島から完全に撤退する日なのである。
尚、同協定の締結国は、アメリカ、カナダ、ニュー・ジーランド、イギリス、南アフリカ連邦、オーストラリア、フィリピン、フランス、イタリアの9カ国であった。この締結国の中心は、イギリスとイギリス連邦(Commonwealth of Nations)に加盟するカナダ、ニュー・ジーランド、南アフリカ連邦、オーストラリアなのだ。ちなみにイギリス連邦には、イギリスの旧植民地であった56国が加盟していて国際連合(United Nations)内で最大の派閥を形成している。国連で安全保障の問題を多数決で決定してはならないのは、最大派閥の意見に左右されることが多いためである。ウクライナ問題はその好例である。常任理事会に、国際連合憲章第27条による拒否権があるのは合理的な方法なのだ。
また、イギリス連邦と日本の安全保障に関連する出来事を考えるうえで「日本国における国連連合の軍隊の地位に関する協定」(国連軍地位協定)は非常に重要な意味を持っている。
例えば、令和4(2022)年10月25日に、防衛省は、警察予備隊創設70年を記念し、同年11月6日に相模湾で国際観艦式を開催することを決めた。参加国はアメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、インドネシア(オーストラリアと安全保障に関する協定を締結)、マレーシア、ニュー・ジーランド、シンガポール、タイ(朝鮮戦争参戦国)、インド、パキスタン、ブルネイ、韓国(当事国)の13か国であった。この参加国を見て直ちに思いつくことは、太字の参加国がイギリス連邦諸国であることと、そして朝鮮戦争参戦国なのである。日本はアメリカ以外に安全保障条約を締結した国はない。しかし、朝鮮戦争に参戦した国、若しくは将来参戦する国の地位を定めた「国連軍地位協定」では、朝鮮国連軍統一司令部、つまりアメリカ軍の下で、『……平和条約の効力発生の後に一又は二以上の国際連合加盟国の軍隊が極東における国際連合の行動に従事する場合には,当該一又は二以上の加盟国がこのような国際連合の行動に従事する軍隊を日本国内及びその附近において支持することを日本国が許し且つ容赦する……』という定めがある。この条項を利用したからこそイギリス連邦諸国が観艦式に参加することができたのだ。そればかりか、イギリス連邦諸国はアメリカ軍の指揮のものと自衛隊と日常的に戦闘訓練を行うことも可能となっている。近年、自衛隊はイギリス連邦諸国と頻繁に戦闘訓練を行うようになったのは昭和29(1954)年に締結した古色蒼然とした「日本国における国連連合の軍隊の地位に関する協定」(国連軍地位協定)があったからこそ可能だったのだ。
・国連軍地位協定と日米安全保障条約の関係
ところで「国連軍地位協定」と日米安全保障条約は別物であるという意見もあろうことから、それが間違いであることを示しておく。
昭和35(1960)年1月19日にワシントンで「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」を締結しているが、同時に付属文書も取り交わされていた。
『……
アメリカ合衆国国務長官
クリスチャン・A・ハーター
日本国総理大臣 岸信介閣下
書簡をもつて啓上いたします。本長官は、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名されたアメリカ合衆国と日本国との間の安全保障条約、同日日本国内閣総理大臣吉田茂とアメリカ合衆国国務長官ディーン・アチソンとの間に行なわれた交換公文、千九百五十四年二月十九日に東京で署名された日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定及び本日署名されたアメリカ合衆国と日本国との間の相互協力及び安全保障条約に言及する光栄を有します。次のことが、本国政府の了解であります。
1 前記の交換公文は、日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定が効力を有する間、引き続き効力を有する。
……
本長官は、閣下が、前各号に述べられた本国政府の了解が貴国政府の了解でもあること及びこの了解が千九百六十年一月十九日にワシントンで署名された相互協力及び安全保障条約の効力の発生の日から実施されるものであることを貴国政府に代わつて確認されれば幸いであります。
本長官は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。
千九百六十年一月十九日
アメリカ合衆国国務長官
クリスチャン・A・ハーター
……』
これは日米安全保障条約がサン・フランシスコ講和会議において締結された安全保障条約、吉田茂アチソン交換公文及び「日本国における国連連合の軍隊の地位に関する協定」(国連軍地位協定)を引続き効力を有することの確認を求めたものである。
日米安全保障条約を締結したものの、アメリカ軍が駐留する根拠は吉田・アチソン交換公文であり、駐留アメリカ軍の地位を定めているのは「国連軍地位協定」なのだ。
此の確認文書からもわかる通り、日米安保条約を破棄するには1年前に通告する必要がある。しかし、日米安全保障条約のもととなる交換公文や「国連軍地位協定」では朝鮮戦争が終戦となり撤退が完了すれば90日以内に駐留アメリカ軍は撤収してしまうのだ。
・狼狽える政府自由民主党と外務省
くどいようであるが、2018年6月1日、シンガポールでのドナルド・トランプ大統領と金正恩朝鮮労働党委員長との会談後に出された共同声明により、駐留アメリカ軍の撤退日が具体化することになった。それは日本の安全保障に関する法体系は、朝鮮戦争が継続することを前提として組み立てられていた根拠が消滅することになるのだ。
日本政府は、日米安全保障条約によりアメリカ軍が日本に駐留することが抑止力であると説明し、安全保障上必要であるという理由で屈辱的な行政協定を認め、自衛隊の指揮権をアメリカに売渡し、航空管制権を売渡し、アメリカの本土防衛のために日本の電波権を売渡すなど、国民に多大な犠牲を強いてきた。それが、朝鮮戦争終戦とともに、駐留アメリカ軍は、もぬけの殻となってしまうのだ。そのときに、国民は自民党政権に騙されていたことを目の当たりにすることになる。それとともに、日米安全保障条約は、たんなる治外法権の象徴となるのだ。そして自民党は結党以来、日本の主権をアメリカに売渡すことを既得権益として国内政治を牛耳ってきたが、それは「自由民主党=売国政党」であったことが戦後史で確定する。併せて「アメリカに防衛権を移譲し続けることが仕事であった」外務省がいかに無能であるかが明らかになる日なのだ。したがって外務省及び自由民主党の既得権行は全て消滅してしまうのだ。その衝撃がいかに強烈であったのかは想像に余りある。
そのため、急遽、自由民主党と外務省とはRUSI( Royal United Services Institute for Defence and Security Studies、イギリス王立防衛安全保障研究所)の安全保障案を丸呑みすることにして「イギリスのヨーロッパ防衛戦線組織」であるNATOに擦寄って出来上がったのが「令和4年日本国国防方針」だったのだ。だから「令和4年日本国国防方針」は日本とは無関係のNATO標準の防衛費対GNP比2%であり、仮想敵国ロシアなのだ。
かねてからイギリスは、自国の戦力不足を解消するため自衛隊をイギリスの戦略の中に組み込むことを目指していた。それが、トランプが進める朝鮮戦争終結というデタントにより、NATOと同様に存在意義が問われることになった自由民主党政権が頼ったのがイギリスであった。イギリスに取って日本政府と外務省の無能さは「勿怪の幸い」「棚から牡丹餅」「鴨が葱を背負って来る」だったのだ。イギリスは、100年前の日英同盟と同じように、自国戦略上で手薄な地域に日本の戦力を自由にかつ無償で配置する権利を獲得するつもりなのだ。その見返りが、これまで通りに治外法権を容認する自由民主党に日本国の統治を任せることにしているのだ。そして自由民主党政権が、国民をだます方法として利用しているプロパガンダが排除の論理「共通の価値」と国家間の不平等を容認する「法の支配」という言い訳なのだ。
日本政府自由民主党が国民に隠蔽し虚言を弄してきたのは、日本が主権国家ではなく治外法権の国だということに尽きる。
唯一の救いは、日本が治外法権国に甘んじているのは、たんに自由民主党が政権を握っているだけであって、政権を交代して「行政協定」を破棄してゆく努力で日本の主権を回復することは可能である。
事実、トランプ大統領は、日本政府に朝鮮戦争を終結させるので、それにともない日本に強いてきた駐留軍の地位を定めた「行政協定」が撤退により不要になることを日本政府に示したではないか。
トランプが2%の防衛費まで引き上げるように求めたのは、主権国であるなら自主防衛をすべきではないかといっているのであって、自衛隊の指揮権をアメリカに売飛ばしたまま、GNP比2%まで軍拡して、さらにアメリカにとって使い勝手のよい自衛隊にして提供しろとは言っていないのだ。ここまで自虐的な政府自民党、外務省、与党に協賛する野党や「連合」は、すべて解体し下野すべきなのだ。
売国政党である自由民主党を支持してきたのも日本国民である。ならば国民は、昭和20年8月15日に「八紘一宇」や「東亜共栄圏」そして「愛国」などというイデオロギーやプロパガンダは跡形もなくなり、荒廃した日本があったというリアリズムに立ち戻って考え直す必要があるだろう。これ以上、虚言を弄する政府自由民主党を支持するというのは、もはや、愚かなことなのだ。日本の宿痾は、自由民主党の存在なのだ。
(つづく)
[1] Wedge(2016年12月21日)「在日米軍の駐留経費は日本が負担すべきか?」
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/8370 (2023.02.02閲覧)。
[2] 琉球新報(2017年1月19日)「在沖米軍 台湾移転を」 米国務副長官候補が提言」
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-429626.html (2023.02.25 閲覧)。
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