術前には食欲の有無に関わらず時間になればかなり正確に空腹感を覚えていたから、腹時計は正確に動いていた
ことになる。空腹感を覚えるのは俗に言う腹が空くことからもあるが、運動などで肝臓内のグリコーゲンが減ると血
糖値が下がり、脳が空腹を感じる、こんな風らしい。
私は食道下部と胃の入口(吻門)を切除しているから胃の神経はもとより、本来の消化機能はまともに動いていなと
説明を受けている。術後確かに空腹感を感じなくなってしまっている。以前は時間が分からなくても腹の減り具合
で大よその時間を察することができた。朝晩は家にいるから空腹感とは別に食事時間は決まっているから困らないが、
一人で外仕事をしていると昼食時間が分からなくて気付けば1時を過ぎていたなんてことはザラだった。
畑に出ている場合、周囲を見渡して人がいなくなっていたら昼時を知る、これが術後の腹時計の代わり。
ところが、最近は少しばかり空腹感を覚えるようになり『腹が減った』と心の中で言葉を吐くようになった。勿論、
術前のような明確な空腹感ではないが、空腹感であることには間違いはない。手術による胃の機能低下が改善され
ることはなかろうが、手術により失っていたものを完全ではないが一つ取り戻したような気分になっている。
私の場合は、たまに軽い逆流症状が起るものの胃液が喉にへばり付き耐え抜かなければならないような事はなく、
咳払いをして水を少量飲めば直ぐに回復する。目に見えている症状はこれだけである。
先生からの注意事項は『嚥下障害から肺炎にならないように』と言われているが、術後は食べ物が喉に詰まるよう
な事からは解放され食べることに何の問題もないので、恐らく嚥下障害による不具合は生じないと思っている。
ただ、胃の消化器官としての役目は殆ど役に立たないから食べたものが身にならない、つまり世の中の人と逆の悩
みを抱えている。太ることが大敵とされる時代に太りたくても太れない、ダイエットなんて言葉、大嫌い。いつも、
冬をやっと越した痩せたキリギリスのような状態でいるのも辛いこと。脂肪が少ないから寒さに弱い、肉がないか
ら硬い椅子に座ると尻が痛い、カルシュームの吸収が不十分だから骨粗鬆症の予備軍になりそうでもあり、諸手を
上げておられる状態ではないが、癌に比べれば文句は言えまい。
また、食道手術でQOLを下げる一因は結果的に縫合不具合が生じた場合、術前には自覚症状はなかったのに縫合
部に食べたものが引っかかり、詰まってしまい食道がんの自覚症状のような目に遭うこともある。手術の方法や処
置は同じであっても個人差で縫合部の治癒は大きな差となって出る場合がある。それぞれが持つ症状と上手く付き
合いながら生きていくのが務めなのだろうから、どうにかして、こちらの味方に手なづけられればと都合のいい方
に考えたい。