昨夜ニュースを見ていると、中国で化学工場が大爆発する衝撃的な映像が映し出されていた。
日本の化学産業も、大手化学会社で2011年頃から連続して大規模な爆発火災事故を起こした事を思い起こした。
当時、まだ化学会社に在籍しており、事故原因の解析結果を基に、再度のリスクアセスメントを行い色々な対策をとるサポートをしたが、別の課題として、団塊世代の退職に伴う『技術伝承、安全伝承』という新たな課題も見えてきた。
最近でこそ大きな事故は起こっていないが『安全はすべてに優先する』の精神で仕事に取り組んでほしいものである。
そしてもう一つ気になる事がある。この化学会社を含め中国で生産している製品である。
このブログでも何度か書いた事があるが『風や桶や』の関係である。
過去日本では色々な化学品を生産するための基幹原料は、古くは化学の先進国であるドイツから輸入し、その後、技術の蓄積で殆どの化学品を生産してきたが、公害問題や安全性の問題、さらにはコスト面などからだんだん日本から出て行き、今は輸入に頼るようになっている。
今回の事故も『ベンゼン』を出発する化学品の様であるが、ベンゼン → ニトロベンゼン(ニトベン) →アニリン・・といった化学製品の原料の原料であれば大変な事になる。
化学品の出発する所の事故であれば、今最先端での機能色素や、昨年も問題となった特殊な色の顔料が国際的に不足するなど、大変な問題となるであろう。(後記)
これが『風や桶や』の関係である。
たぶん、今、化学製品を作られている方、大学で研究されている方でも、ここまでさかのぼって有機化学を解ける方は少ないかと思われる。
ベンゼン(亀の甲)は化学製品の中に色々と組み込まれているが、手を付けていかないと反応が進まず、この手、反応基を付けていく工程は複雑であり、上記のアニリンにスルフォン基を付けて、そこから染料の母体となる中間体を作るなど、化学の教科書にも出てこない反応工程があったかと思う。
これで思い出した事がある。8年前の東北の地震の時に引っ張り出された大先輩である。
資材部門に長年おられた方であるが、売り込みに来る化学品商社の方からは、別名『化学品の生き字引』というあだ名が付けられていた。これは、化学工業日報社が発行している『何千何百の化学商品』の内容を、商社の方よりも詳しく理解しておられたからである。
小生も、初めてお会いしたのが阪神大震災の時であり、当時別会社に在籍されていたが、自社が購入している化学品を含め、どうゆう化学会社が、どういう方法(プラント)で生産しており、どこの工場でどの位作られているかをよく覚えておられ、非常事態でもあわてることなく調達を進められた神様の様な方であった。
さらに裏の情報も色々と掴んでおられ、平時でもここが危なそうだ。何かあれば足りなくなる可能性があると、常々危険予知をされていた。
化学業界の先にある末端製品市場で使われそうな原料問題にも造詣があり、自動車産業は10年もすればかなりの台数が電気自動車になる事や、テレビもプラズマではなく機能色素、有機ELの時代となり、違う原料が取り合いになると・・退職前に話されていた。懐かしい限りである。
この方から、危険予知、究極のBCP、そして、いざという時にどうするかという事と、確か『風や桶屋』の話も教えて頂いたと思う。
東北の地震の時、千葉のコンビナートでの火災を受けて、各社の生産品目の流れがすぐに引き出せたのもこの方の教えの賜物であった。
何か異常事態、事故が発生すると、自分たちに係わる納入原料を中心に調べるが、その前、そしてもっと源流まで遡らないと、危機回避は出来なくなる。
『風や』と『桶屋』を結びつけることは相当勉強しないと難しいかもしれないが、製造業に携わる者にとっては重要であり、アンテナを高く張り巡らせる必要がある。
トヨタなどは、本社の資材担当部門が海外の化学会社が事故を起こすたびに即答で影響調査を求めてきていたが、事業継続の中での意識の高さに驚かされた所でもある。
今回も今朝、すぐに発信されているのではなかろうか。
話しを少し昨日の事故へ戻して、ニュース記事をネットから調べると
昨夜のTBSなどでは 『≫中国、化学工場で爆発 6人死亡
中国東部にある江蘇省・塩城市の化学工場で爆発があり、これまでに6人が死亡、30人が重傷です。
日本時間午後4時前、江蘇省の農薬を生産する工場で爆発がありました。工場近くで撮影された映像からは建物や停車中の車が爆風で壊れている様子が確認できます。地元当局によりますと、この爆発で少なくとも6人が死亡、30人が重傷ということです。
また、中国国営テレビは工場近くの住宅や小学校の窓ガラスが吹き飛ぶなどの被害が出て、小学校の児童らがけがをしたと報じています。』
と報道されている。
このニュース記事を検索している中で、ネット動画に『江苏盐城化工厂』という会社の記載があった。
どうもこの江蘇天嘉宜化工(Jiangsu TianJiaYi Chemical)という会社のようである。
<Livedoor Newsより>
【新華社南京3月21日】
21日午後2時48分(日本時間同3時48分)ごろ、中国江蘇省塩城市響水(きょうすい)県の生態化学工業パークにある天嘉宜化工有限公司で爆発があった。事故発生後、江蘇省、塩城市、響水県が直ちに緊急態勢を取り、いち早く事故の救援作業などを行った。午後7時(日本時間同8時)までに6人が死亡、30人が重傷となっており、この他、複数の負傷者が出ている。現場では現在も救援活動が続いており、医療衛生部門は負傷者の救助に全力で取り組み、環境保全部門は環境モニタリングを行っている。(記者/邱氷清、朱国亮、呉新生)
爆発火災の報道の中で「農薬の原料のベンゼンが爆発した」との記載があり、この会社の生産品目をカタログで見てみると、
间苯二胺(CAS 108-45-2) C6H8N2
(1,3-フェニレンジアミン m-Phenylenediamine)
邻苯二胺(CAS 95-54-5) C6H8N2
(1,2-フェニレンジアミン o-Phenylenediamine)
2,3-二氨基甲苯(CAS 2687-25-4)C7H10N2
(2,3-ジアミノトルエン)
などが載せられており
用途は:医药原料和染料中间体 と記載されている。
生産品 生産量も间苯二胺(1,3-フェニレンジアミン)は年間17000吨であり、对苯二胺、间羟基苯甲酸、三羟甲基氨基甲烷、均三甲基苯胺、2,5-二甲基苯胺、3,4-二氨基甲苯、间二甲胺基苯甲酸、对甲苯胺などの生産品目の記載がある。
(中国文字が消えているので、和名、英名はCASから追記)
やはり精密化学品やエンプラの出発点となる原料の様である。
ここから、染料や農医薬品、製造工程まで、どこでどう生産が引き継がれているか、どの程度のポジションの会社かどうかは、今では知りえない所であるが、日本の会社への影響が気になる所である。
特に日本の化学会社の中で、染料は殆どが中国で最終製品の染顔料となっていると聞いているが、医薬品や農薬、除草剤など、特殊な機能を有し、許認可が必要なため国内でまだ製造されている。
この場合、日本国内での調達が難しくなった原料は海外へ求める必要があり、中国で中間段階まで反応させた化学品や特殊変性した原料を日本へ輸入し、さらに精製し純度を上げたり、不純物の除去、さらに最終の反応工程を経るなどで高度に機能化された化学品が作られている。
医薬品などの場合は認証が厳しく、出発する工程から明確化されたものである必要があり、今回のような事故が発生すると、サプライチェーン自体が成り立たなくなる可能性も出て来る。
一方で今朝の毎日デジタルなどでは、事故の記事と共に
『爆発した工場を運営する企業は2007年に設立され、汚水処理をしたり、危険な化学品を取り扱ったりしていた。廃棄物管理を巡り、たびたび当局から行政処罰を受けていた。
中国では15年8月にも、天津市浜海新区で化学物質などを貯蔵したコンテナが爆発し、170人以上が死亡・行方不明になった。』
との報道もされており、環境規制や工場立地のあり方で、さらなる規制が厳しくなり、昨年の夏以降に発生している、青や赤の色素が足りなくなる問題もさらに深刻化してくる可能性がある。
『風や桶屋』で考えれば、染料以上に影響が出て来る可能性がありそうである。
例えば、半導体封止で用いるアミン類や、さらには回路を描いていくレジスト、写真薬などへも遡及する可能性もあり、化学品の流れを今一度見直す必要があるのではないかと愚考している。
中国からの原料は、過去、コストを押さ得るために反応途中で出て来る有機物を含んだ塩や、純度を揚げるためにの洗浄で用いた溶媒を未処理で工場外へ放出していたが、住民からの訴えや、先進国への仲間入りの中で環境問題へも取り組み、かなり良くはなったと聞いている。
しかし、まだまだ日本の企業が過去同じような化学品を生産していた時の様な、安全管理や環境対策などの取り組みが出来ていないかとも思われる。
そうなれば、日本への復活も‥とも考えられるが、日本での原料サプライや反応装置そのものもなくなっており、かなり厳しいが、精密な原料だけでも復活の道が出るのではとも邪推してしまう。
機能色素などはミクロン単位での異物管理が必要であり、中国原料であればPM2.5などからの混入も避けられないとの事で、日本国内で精密合成をされている所もあると聞いたが、なかなか出発原料までとなると難しく、日本でのクリンルーム内での再精留などが必要になるとも昨年お聞きした。
もう一つ今回の事故を受け、若い方の化学会社への就職希望がどうなのか、心配となった。
日本の精密化学品産業は、大手の化学会社より、和歌山での特殊原料生産や富山地区の医薬品原体、さらには、溶媒を使用する事での爆発事故を懸念してか、都市部を離れた場所での生産など、中堅企業が支えている所も大きい。
在職中、研究職や工場オペレーターの人材確保が難しくなっていると知ったが、今回の事故で、化学産業は3K職場のイメージがさらに悪くならない様に若い方へも伝わればいいのであるが。
しばらく事故の内容は注視していきたい。
***** [参考情報]*****
<染料不足問題>
繊研ニュース ネット記事から 2019年01月19日 08:59 JST
■ 繊研plus ファッションビジネス専門紙「繊研新聞」公式サイト
中国の環境規制が、国内の染色加工業に深刻な影響を与えている。
今年半ばには、染料払底で加工ができない商品もあり、アパレルメーカーを含めた繊維業界全体での対応が急務になっている。
16日開かれた日本繊維産業連盟(繊産連)の総会で、染色加工業界から染料入手難に関する意見表明が行なわれた。
具体的には、ポリエステル綿混織物の染色加工に使われる青のスレン染料が、中国で一手に生産を行なっていたメーカーの生産中止によって入手できなくなっているというもの。
スレン染料は、耐光堅牢度などに優れており、ユニフォーム用のポリエステル綿混織物の染色加工などに使われることが多い。このスレン染料の中で耐塩素性に優れる青の供給が途絶え、国内染色加工場では在庫をやりくりして生産を続けているが、5月末あたりで在庫が底を突く見通しとなり、この染料での染色加工はできなくなると訴えた。
染料不足は染料生産の大半を担う中国での環境規制強化によって、染料メーカーの生産中止などが続いていることによるもの。染色加工各社は他のスレン染料などでの代替策を練っているが、性能や色の再現性などで、従来品とまったく同じ物を作るのは困難だとしている。またコスト面でも、染色加工場の経営をさらに圧迫する要因にもつながる。
このため、繊産連での意見表明となった。染色加工場での対応には限界があるため、アパレルやユーザーにも染料を巡る現状を知らせ、理解を求めた。
<昨年の記事から> (Livedoor News より)
中国で環境規制強化 世界で車用テールランプの「赤色」が不足
2018年10月9日 6時1分
ざっくり言うと
•全世界で自動車用テールランプなどに使われる「赤色」が不足している
•中国の環境規制強化で操業停止の染料原料メーカーが増え、供給不足が長期化
•生産の中国一極集中が問題で、サプライチェーンの構造的欠陥が浮き彫りに
世界規模で「赤色」不足のなぜ? 2018年10月9日 6時1分
全世界で“赤色”が不足している。代表例は自動車用テールランプの赤だ。
中国の環境規制強化により2018年春から現地の染料原料メーカーが相次ぎ操業停止となり、特に赤色の供給不足が長期化している。染料を使う化学メーカー間では代替調達の動きも出始めた。問題の根本は生産の中国一極集中にあり、サプライチェーンの構造的欠陥が図らずもあぶり出された。
自動車テールランプの赤
染料世界大手の独ランクセスは6月から赤色など一部製品のフォースマジュール(不可抗力による供給制限)を継続している。法令違反を調べる中国政府の環境査察により、染料産業が集積する江蘇省や山東省で原料・中間体メーカーを含む工業団地の操業停止や閉鎖、移転命令が続出。その結果、ドイツでの染料製造に大きな支障を来している。
独ランクセスが得意とする染料はポリカーボネートやアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの合成樹脂に着色する。車用テールランプのほか、飲料用ペットボトルや玩具など最終用途は幅広い。樹脂を手がける日系化学メーカーなどは現状在庫で対応しているものの、代替調達の検討に入った。ただ、新たに顧客の認証取得が必要で時間がかかる。
16―17年から目に見えて強化された中国の環境査察は工業団地に入居する1社の違反で、団地全体が“連帯責任”で操業停止となるほどの厳しさだ。今回に関しても「その原料メーカーは悪いことをしていないが、工業団地内で他社が違反して全部駄目になった」(日系化学メーカー幹部)といわれる。
問題をより深刻化しているのはサプライチェーンの隠れた脆弱(ぜいじゃく)性だ。「原料は世界でもほとんど中国でつくっている」(業界関係者)とみられ、欧州や日本で採算の合わない材料生産が中国へ次々移転した末の惨事だ。
混在する楽観論と悲観論
「中国の自動車メーカーも騒ぎ出すから、早晩解決するはずだ」(化学大手幹部)との楽観論も少なくない。確かに複数の原料メーカーが操業を再開したことで、独ランクセスも9月に黄色と緑色、青紫色3製品の供給制限を解除した。状況は好転しつつある。
一方で、悲観論もある。11月上旬に上海で「中国国際輸入博覧会」が開催される。習近平国家主席の肝いりとされる一大行事だ。会期の前後は上海周辺に工場の操業規制をかけるとみられ、隣の江蘇省なども影響は避けられない。
テールランプメーカーなど川下業界では今のところ大きな問題にはなっていない模様。ただ、今後さらに染料の供給不足が長期化するようなら、世界の自動車産業は深刻な被害を受けるかもしれない。
(文=鈴木岳志)
\\\最後に\\\
今日書いたMEMOの中に化学工業日報社が発行の『何千何百の化学商品』を書いたので、現状を見てみた。
なんと「17019の化学商品 2019年度版」となっているではないか。
たしか1万を超すのに時間がかかっていたが・・そして本の価格も、35,640円に。
入社後原料を探すのに用いた本であるが、化学品毎に汎用の名前や規制、簡単な製法、そして製造メーカーと生産量。概略の価格が出ていた。
高い本なので研究室に1冊あればいい方で、資材部門などは毎年買い替えるので、このお下がりを頂いて活用していた記憶がある。
いまはCDで販売され、検索も簡単になっているようであるが、必要な原料を探すついでに、パラパラとめくって、ああこんな原料が増えている・・なんて学んだことも思い起こした。
今の研究者たちはこのような余裕もないのでは。
『我々の時代は』・・こんなことを言うと昔は良き時代だったですねと言われかねないが
図書室へ行くと、ケミアブ(Chemical Abstracts)を反応の手待ち時間に、隅から隅まで読んでおられた方がおられたり、回覧されてくる特許公報を丹念に読み、空いた時間で追実験するなど、
情報を得るために努力をしてきた。
今はネット検索や、さらにはAIで要らない情報は機械的に排除するなど、ムダを省くことが進んでいるが、書物に書かれた情報から得られるものはまだまだ多いと思われる。
ケミアブも年間300万円近くかかり、保管場所もどんどん手狭となり、大手企業の図書館からも消えつつあるが、CDではなく、バイブルとしてすぐに見れる場所にいてほしいものである。
多分、こういう『多くの情報から必要な物を探す事』の訓練をしていかないと、どこかで書いてきた「思考回路形成力」が芽生えないような気がしている。
コンピューター検索だけでは、あまりにも短絡である。人間はロボットではない。
今回の事故でも爆発の映像だけが鮮明で、その裏に潜むものまでは見えてこない。
報道の責任かもしれないが・・・・
この記事を昨夜から書いているが、少しピントがずれて来た。
[化学工業日報社「17019の化学品」]
日本の化学産業も、大手化学会社で2011年頃から連続して大規模な爆発火災事故を起こした事を思い起こした。
当時、まだ化学会社に在籍しており、事故原因の解析結果を基に、再度のリスクアセスメントを行い色々な対策をとるサポートをしたが、別の課題として、団塊世代の退職に伴う『技術伝承、安全伝承』という新たな課題も見えてきた。
最近でこそ大きな事故は起こっていないが『安全はすべてに優先する』の精神で仕事に取り組んでほしいものである。
そしてもう一つ気になる事がある。この化学会社を含め中国で生産している製品である。
このブログでも何度か書いた事があるが『風や桶や』の関係である。
過去日本では色々な化学品を生産するための基幹原料は、古くは化学の先進国であるドイツから輸入し、その後、技術の蓄積で殆どの化学品を生産してきたが、公害問題や安全性の問題、さらにはコスト面などからだんだん日本から出て行き、今は輸入に頼るようになっている。
今回の事故も『ベンゼン』を出発する化学品の様であるが、ベンゼン → ニトロベンゼン(ニトベン) →アニリン・・といった化学製品の原料の原料であれば大変な事になる。
化学品の出発する所の事故であれば、今最先端での機能色素や、昨年も問題となった特殊な色の顔料が国際的に不足するなど、大変な問題となるであろう。(後記)
これが『風や桶や』の関係である。
たぶん、今、化学製品を作られている方、大学で研究されている方でも、ここまでさかのぼって有機化学を解ける方は少ないかと思われる。
ベンゼン(亀の甲)は化学製品の中に色々と組み込まれているが、手を付けていかないと反応が進まず、この手、反応基を付けていく工程は複雑であり、上記のアニリンにスルフォン基を付けて、そこから染料の母体となる中間体を作るなど、化学の教科書にも出てこない反応工程があったかと思う。
これで思い出した事がある。8年前の東北の地震の時に引っ張り出された大先輩である。
資材部門に長年おられた方であるが、売り込みに来る化学品商社の方からは、別名『化学品の生き字引』というあだ名が付けられていた。これは、化学工業日報社が発行している『何千何百の化学商品』の内容を、商社の方よりも詳しく理解しておられたからである。
小生も、初めてお会いしたのが阪神大震災の時であり、当時別会社に在籍されていたが、自社が購入している化学品を含め、どうゆう化学会社が、どういう方法(プラント)で生産しており、どこの工場でどの位作られているかをよく覚えておられ、非常事態でもあわてることなく調達を進められた神様の様な方であった。
さらに裏の情報も色々と掴んでおられ、平時でもここが危なそうだ。何かあれば足りなくなる可能性があると、常々危険予知をされていた。
化学業界の先にある末端製品市場で使われそうな原料問題にも造詣があり、自動車産業は10年もすればかなりの台数が電気自動車になる事や、テレビもプラズマではなく機能色素、有機ELの時代となり、違う原料が取り合いになると・・退職前に話されていた。懐かしい限りである。
この方から、危険予知、究極のBCP、そして、いざという時にどうするかという事と、確か『風や桶屋』の話も教えて頂いたと思う。
東北の地震の時、千葉のコンビナートでの火災を受けて、各社の生産品目の流れがすぐに引き出せたのもこの方の教えの賜物であった。
何か異常事態、事故が発生すると、自分たちに係わる納入原料を中心に調べるが、その前、そしてもっと源流まで遡らないと、危機回避は出来なくなる。
『風や』と『桶屋』を結びつけることは相当勉強しないと難しいかもしれないが、製造業に携わる者にとっては重要であり、アンテナを高く張り巡らせる必要がある。
トヨタなどは、本社の資材担当部門が海外の化学会社が事故を起こすたびに即答で影響調査を求めてきていたが、事業継続の中での意識の高さに驚かされた所でもある。
今回も今朝、すぐに発信されているのではなかろうか。
話しを少し昨日の事故へ戻して、ニュース記事をネットから調べると
昨夜のTBSなどでは 『≫中国、化学工場で爆発 6人死亡
中国東部にある江蘇省・塩城市の化学工場で爆発があり、これまでに6人が死亡、30人が重傷です。
日本時間午後4時前、江蘇省の農薬を生産する工場で爆発がありました。工場近くで撮影された映像からは建物や停車中の車が爆風で壊れている様子が確認できます。地元当局によりますと、この爆発で少なくとも6人が死亡、30人が重傷ということです。
また、中国国営テレビは工場近くの住宅や小学校の窓ガラスが吹き飛ぶなどの被害が出て、小学校の児童らがけがをしたと報じています。』
と報道されている。
このニュース記事を検索している中で、ネット動画に『江苏盐城化工厂』という会社の記載があった。
どうもこの江蘇天嘉宜化工(Jiangsu TianJiaYi Chemical)という会社のようである。
<Livedoor Newsより>
【新華社南京3月21日】
21日午後2時48分(日本時間同3時48分)ごろ、中国江蘇省塩城市響水(きょうすい)県の生態化学工業パークにある天嘉宜化工有限公司で爆発があった。事故発生後、江蘇省、塩城市、響水県が直ちに緊急態勢を取り、いち早く事故の救援作業などを行った。午後7時(日本時間同8時)までに6人が死亡、30人が重傷となっており、この他、複数の負傷者が出ている。現場では現在も救援活動が続いており、医療衛生部門は負傷者の救助に全力で取り組み、環境保全部門は環境モニタリングを行っている。(記者/邱氷清、朱国亮、呉新生)
爆発火災の報道の中で「農薬の原料のベンゼンが爆発した」との記載があり、この会社の生産品目をカタログで見てみると、
间苯二胺(CAS 108-45-2) C6H8N2
(1,3-フェニレンジアミン m-Phenylenediamine)
邻苯二胺(CAS 95-54-5) C6H8N2
(1,2-フェニレンジアミン o-Phenylenediamine)
2,3-二氨基甲苯(CAS 2687-25-4)C7H10N2
(2,3-ジアミノトルエン)
などが載せられており
用途は:医药原料和染料中间体 と記載されている。
生産品 生産量も间苯二胺(1,3-フェニレンジアミン)は年間17000吨であり、对苯二胺、间羟基苯甲酸、三羟甲基氨基甲烷、均三甲基苯胺、2,5-二甲基苯胺、3,4-二氨基甲苯、间二甲胺基苯甲酸、对甲苯胺などの生産品目の記載がある。
(中国文字が消えているので、和名、英名はCASから追記)
やはり精密化学品やエンプラの出発点となる原料の様である。
ここから、染料や農医薬品、製造工程まで、どこでどう生産が引き継がれているか、どの程度のポジションの会社かどうかは、今では知りえない所であるが、日本の会社への影響が気になる所である。
特に日本の化学会社の中で、染料は殆どが中国で最終製品の染顔料となっていると聞いているが、医薬品や農薬、除草剤など、特殊な機能を有し、許認可が必要なため国内でまだ製造されている。
この場合、日本国内での調達が難しくなった原料は海外へ求める必要があり、中国で中間段階まで反応させた化学品や特殊変性した原料を日本へ輸入し、さらに精製し純度を上げたり、不純物の除去、さらに最終の反応工程を経るなどで高度に機能化された化学品が作られている。
医薬品などの場合は認証が厳しく、出発する工程から明確化されたものである必要があり、今回のような事故が発生すると、サプライチェーン自体が成り立たなくなる可能性も出て来る。
一方で今朝の毎日デジタルなどでは、事故の記事と共に
『爆発した工場を運営する企業は2007年に設立され、汚水処理をしたり、危険な化学品を取り扱ったりしていた。廃棄物管理を巡り、たびたび当局から行政処罰を受けていた。
中国では15年8月にも、天津市浜海新区で化学物質などを貯蔵したコンテナが爆発し、170人以上が死亡・行方不明になった。』
との報道もされており、環境規制や工場立地のあり方で、さらなる規制が厳しくなり、昨年の夏以降に発生している、青や赤の色素が足りなくなる問題もさらに深刻化してくる可能性がある。
『風や桶屋』で考えれば、染料以上に影響が出て来る可能性がありそうである。
例えば、半導体封止で用いるアミン類や、さらには回路を描いていくレジスト、写真薬などへも遡及する可能性もあり、化学品の流れを今一度見直す必要があるのではないかと愚考している。
中国からの原料は、過去、コストを押さ得るために反応途中で出て来る有機物を含んだ塩や、純度を揚げるためにの洗浄で用いた溶媒を未処理で工場外へ放出していたが、住民からの訴えや、先進国への仲間入りの中で環境問題へも取り組み、かなり良くはなったと聞いている。
しかし、まだまだ日本の企業が過去同じような化学品を生産していた時の様な、安全管理や環境対策などの取り組みが出来ていないかとも思われる。
そうなれば、日本への復活も‥とも考えられるが、日本での原料サプライや反応装置そのものもなくなっており、かなり厳しいが、精密な原料だけでも復活の道が出るのではとも邪推してしまう。
機能色素などはミクロン単位での異物管理が必要であり、中国原料であればPM2.5などからの混入も避けられないとの事で、日本国内で精密合成をされている所もあると聞いたが、なかなか出発原料までとなると難しく、日本でのクリンルーム内での再精留などが必要になるとも昨年お聞きした。
もう一つ今回の事故を受け、若い方の化学会社への就職希望がどうなのか、心配となった。
日本の精密化学品産業は、大手の化学会社より、和歌山での特殊原料生産や富山地区の医薬品原体、さらには、溶媒を使用する事での爆発事故を懸念してか、都市部を離れた場所での生産など、中堅企業が支えている所も大きい。
在職中、研究職や工場オペレーターの人材確保が難しくなっていると知ったが、今回の事故で、化学産業は3K職場のイメージがさらに悪くならない様に若い方へも伝わればいいのであるが。
しばらく事故の内容は注視していきたい。
***** [参考情報]*****
<染料不足問題>
繊研ニュース ネット記事から 2019年01月19日 08:59 JST
■ 繊研plus ファッションビジネス専門紙「繊研新聞」公式サイト
中国の環境規制が、国内の染色加工業に深刻な影響を与えている。
今年半ばには、染料払底で加工ができない商品もあり、アパレルメーカーを含めた繊維業界全体での対応が急務になっている。
16日開かれた日本繊維産業連盟(繊産連)の総会で、染色加工業界から染料入手難に関する意見表明が行なわれた。
具体的には、ポリエステル綿混織物の染色加工に使われる青のスレン染料が、中国で一手に生産を行なっていたメーカーの生産中止によって入手できなくなっているというもの。
スレン染料は、耐光堅牢度などに優れており、ユニフォーム用のポリエステル綿混織物の染色加工などに使われることが多い。このスレン染料の中で耐塩素性に優れる青の供給が途絶え、国内染色加工場では在庫をやりくりして生産を続けているが、5月末あたりで在庫が底を突く見通しとなり、この染料での染色加工はできなくなると訴えた。
染料不足は染料生産の大半を担う中国での環境規制強化によって、染料メーカーの生産中止などが続いていることによるもの。染色加工各社は他のスレン染料などでの代替策を練っているが、性能や色の再現性などで、従来品とまったく同じ物を作るのは困難だとしている。またコスト面でも、染色加工場の経営をさらに圧迫する要因にもつながる。
このため、繊産連での意見表明となった。染色加工場での対応には限界があるため、アパレルやユーザーにも染料を巡る現状を知らせ、理解を求めた。
<昨年の記事から> (Livedoor News より)
中国で環境規制強化 世界で車用テールランプの「赤色」が不足
2018年10月9日 6時1分
ざっくり言うと
•全世界で自動車用テールランプなどに使われる「赤色」が不足している
•中国の環境規制強化で操業停止の染料原料メーカーが増え、供給不足が長期化
•生産の中国一極集中が問題で、サプライチェーンの構造的欠陥が浮き彫りに
世界規模で「赤色」不足のなぜ? 2018年10月9日 6時1分
全世界で“赤色”が不足している。代表例は自動車用テールランプの赤だ。
中国の環境規制強化により2018年春から現地の染料原料メーカーが相次ぎ操業停止となり、特に赤色の供給不足が長期化している。染料を使う化学メーカー間では代替調達の動きも出始めた。問題の根本は生産の中国一極集中にあり、サプライチェーンの構造的欠陥が図らずもあぶり出された。
自動車テールランプの赤
染料世界大手の独ランクセスは6月から赤色など一部製品のフォースマジュール(不可抗力による供給制限)を継続している。法令違反を調べる中国政府の環境査察により、染料産業が集積する江蘇省や山東省で原料・中間体メーカーを含む工業団地の操業停止や閉鎖、移転命令が続出。その結果、ドイツでの染料製造に大きな支障を来している。
独ランクセスが得意とする染料はポリカーボネートやアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの合成樹脂に着色する。車用テールランプのほか、飲料用ペットボトルや玩具など最終用途は幅広い。樹脂を手がける日系化学メーカーなどは現状在庫で対応しているものの、代替調達の検討に入った。ただ、新たに顧客の認証取得が必要で時間がかかる。
16―17年から目に見えて強化された中国の環境査察は工業団地に入居する1社の違反で、団地全体が“連帯責任”で操業停止となるほどの厳しさだ。今回に関しても「その原料メーカーは悪いことをしていないが、工業団地内で他社が違反して全部駄目になった」(日系化学メーカー幹部)といわれる。
問題をより深刻化しているのはサプライチェーンの隠れた脆弱(ぜいじゃく)性だ。「原料は世界でもほとんど中国でつくっている」(業界関係者)とみられ、欧州や日本で採算の合わない材料生産が中国へ次々移転した末の惨事だ。
混在する楽観論と悲観論
「中国の自動車メーカーも騒ぎ出すから、早晩解決するはずだ」(化学大手幹部)との楽観論も少なくない。確かに複数の原料メーカーが操業を再開したことで、独ランクセスも9月に黄色と緑色、青紫色3製品の供給制限を解除した。状況は好転しつつある。
一方で、悲観論もある。11月上旬に上海で「中国国際輸入博覧会」が開催される。習近平国家主席の肝いりとされる一大行事だ。会期の前後は上海周辺に工場の操業規制をかけるとみられ、隣の江蘇省なども影響は避けられない。
テールランプメーカーなど川下業界では今のところ大きな問題にはなっていない模様。ただ、今後さらに染料の供給不足が長期化するようなら、世界の自動車産業は深刻な被害を受けるかもしれない。
(文=鈴木岳志)
\\\最後に\\\
今日書いたMEMOの中に化学工業日報社が発行の『何千何百の化学商品』を書いたので、現状を見てみた。
なんと「17019の化学商品 2019年度版」となっているではないか。
たしか1万を超すのに時間がかかっていたが・・そして本の価格も、35,640円に。
入社後原料を探すのに用いた本であるが、化学品毎に汎用の名前や規制、簡単な製法、そして製造メーカーと生産量。概略の価格が出ていた。
高い本なので研究室に1冊あればいい方で、資材部門などは毎年買い替えるので、このお下がりを頂いて活用していた記憶がある。
いまはCDで販売され、検索も簡単になっているようであるが、必要な原料を探すついでに、パラパラとめくって、ああこんな原料が増えている・・なんて学んだことも思い起こした。
今の研究者たちはこのような余裕もないのでは。
『我々の時代は』・・こんなことを言うと昔は良き時代だったですねと言われかねないが
図書室へ行くと、ケミアブ(Chemical Abstracts)を反応の手待ち時間に、隅から隅まで読んでおられた方がおられたり、回覧されてくる特許公報を丹念に読み、空いた時間で追実験するなど、
情報を得るために努力をしてきた。
今はネット検索や、さらにはAIで要らない情報は機械的に排除するなど、ムダを省くことが進んでいるが、書物に書かれた情報から得られるものはまだまだ多いと思われる。
ケミアブも年間300万円近くかかり、保管場所もどんどん手狭となり、大手企業の図書館からも消えつつあるが、CDではなく、バイブルとしてすぐに見れる場所にいてほしいものである。
多分、こういう『多くの情報から必要な物を探す事』の訓練をしていかないと、どこかで書いてきた「思考回路形成力」が芽生えないような気がしている。
コンピューター検索だけでは、あまりにも短絡である。人間はロボットではない。
今回の事故でも爆発の映像だけが鮮明で、その裏に潜むものまでは見えてこない。
報道の責任かもしれないが・・・・
この記事を昨夜から書いているが、少しピントがずれて来た。
[化学工業日報社「17019の化学品」]