気仙沼に出かけたもう一つの理由は、阪神淡路大震災を契機に日本で「ボランティア」が普及・一般化したように、東北大震災を経て、「社会起業家」というか「ソーシャル・ベンチャー」が根付いたのではないかという期待でした。
たまたま「気仙沼」×「ベンチャー」で検索したら3件がヒットしました。
そこで無謀にも、こちらの日程の都合なので申し訳ないが、お目に係れないでしょうかとメールをしましたところ、うち2件が了承して下さいました。
●気仙沼ニッティング
連絡がつかなかったのは、㈱気仙沼ニッティングで、私が知らないだけで、ずいぶんと著名な会社のようです。御手洗瑞子さんという方が2013年に始められた手編み商品の企画・製造・販売をされている会社で初年度から黒字とのこと。
御手洗珠子社長については、ネット検索でもたくさん出てきますし、ご本も出されているようです。
東大経済学部を出られて、マッキンゼー・アンド・カンパニーでコンサルなどを経験し、ついでブータンの初代首相フェロー(ブータン政府が1年間雇用する外国出身の若手プロフェッショナル)として、産業育成策などを手掛けていたが、震災のニュースを聞いて、日本に戻り、復興支援の仕事をしていたところ、糸井重里さんから声がかかり、「ほぼ日刊イトイ新聞」のプロジェクトとして気仙沼発のセーターを作るこのプロジェクトがスタートしたということです。
素晴らしい経歴と彼女がとても美人なこともあって、いろいろなマスコミにも登場されている期待の会社です。
地元のお母さんたちが編んだセーターを販売しているというのですが、一番安くて7万6500円(税・配送料別)で、高いものは、20万円近いものもあります。一枚編むのに50時間もかかるので、安い値段はつけられないとのこと。どこかのインタビューで「被災した人が作っているから可哀そうなので買う」というのではなく、「セーターがとても素敵だから買う」というお客さんが多いのだといいいます。
糸を京都の手芸用毛糸のAVRILさんがオリジナルで作っておられ、デザインは、編み物作家の三國万理子さんによるものとのこと。
とても素敵なセーターのようですが、なかなか手が出ないのが正直なところです。もっとも、私でも、茶道具には、ン10万円するものも購入しているくらいですから、センスの良い人で、一度着たらやめられない素敵なセーターを購入する方もおられるに違いありません。
残念ながら、ご連絡が取れなかったのと、お店は土日にあいているとのことで、今回はお邪魔できませんでしたが、次の電車まで時間があったので、ミーハーのように、タクシーでお店の辺りまで行ってきました。
ついでに、渡辺健さんがやっているお店にも立ち寄って写真を撮ってきました。・・・・ここまでは、単なるミーハーです。
●NPO法人ピースジャム(詳細は別記事)
NPO法人ピースジャムは、『とにかく赤ちゃんのおなかは減らさない』をモットーに、災害への支援、子育てをするママへの暮らしの支援を行っている団体です。 代表の佐藤 賢さん自身が震災当時、7ケ月のお子さんのいるパパであり、ドラッグストアにミルクやおむつを買いに行ったところ、すごい行列で、皆不安なため、必要以上に買い占めるというような状況だったという。佐藤さんは、それまでバーを経営しており、その資金をもとに、お子さんのいる家族のニーズを聞いて、内陸部に買い出しに出かけ、今必要なものを支援するというところから、活動が始まったそうです。
そうしたことをブログで発信していたら、自腹で続けるのは大変でしょうと物資を送ってくれる支援者が現れるようになり、被災者のニーズと物資調達の仲介のような役割を担っていったといいます。今回は、佐藤さんには、お目に係れず、現在一緒に運営を担っている高橋勝宏さんにお話しを伺うことができました。
その後、支援という形から、お母さん達が仕事をして収入を得て、自立できる環境を整える必要性を感じ、「雇用支援事業」を開始しました。子供を育てながら、働ける環境を作っていこうと、土地を探し、拠点を作りました。現在は、気仙沼駅から車で20分くらいの高台に子供たちが遊べる場所と子供を見守りながらお母さん達が作業できる場所ができていました。
お金もないので、全部手作りしようとしたが、整地だけは、見かねて、土地を貸してくれた方がたまたま土木関係の方で手助けしてくれたという。また、コンテナーを寄付してくれる人がいて、それ以外は、全部自分たちで手作りしたというが、なかなかお洒落な空間になっていました。
働くという面では、2つの柱があって、一つは、ジャムづくり。マイクロビデオテックの先生がレシピを作ってくれたそうです。なるべく、地元の野菜や果物を使うようにしています。
もう一つは、「ベビーモスリン®」の縫製です。震災当時、清潔な布が不足しているということがあり、ロンドン在住の日本人ママ達が、イギリスで使われている万能子育て布「モスリンスクエア」を、東北の助産院、保健所等からの要請に基づいて、合計6000枚以上を支援物資として送りました(ベビーモスリンプロジェクト)。そこが、ピースジャムの雇用支援を支援してくれ、国産化の手助けをしてくれたそうです。
お母さん達(現在8人くらい)には、自給でお金が支払われますが、佐藤さんや高橋さんたちの給料は、現在は、さまざまな団体等からの助成金で賄っており、販路などを拡大し、早く自立したいとのことです。
現在の場所は、ただ仕事をするだけでなく、子育て中のママ達の居場所になってくれたら、子供たちの遊び場になってくれたら、さらに多世代を含めた地域コミュニティの核になってくれたらと思っているようです。さまざまなイベントを催して、認知度をたかめて、たくさんの人に来てもらいたいとしています。
ツリーハウスもありました。
写真1:入口
写真2:コンテナ(イベントの折に学生さんがWELLCOMと書いてくれた)
写真3:縫製部門(今日は2人)
写真4:ジャム部門
写真5: キッズスペース
写真6:縫製部門の方の赤ちゃん(よく寝てました)
写真7:ツリーハウス
●変幻自在合同会社
今回、もう一つ訪問できたのが、変幻自在合同会社です。代表の清水隼人さんは、不在でしたが、一緒にやっておられるNTTドコモの東北復興新生支援室の馬場勝己さんにご案内いただきました。清水さんと馬場さんが手がけているのが、高台に設置された仮設住宅向けの無人販売所の展開です。
仮設住宅では、高齢者が多いのに、交通手段がないために、買い物難民が多いという現実があります。そのため、無人販売所を設け、そこに日常的によくつかわれる商品(カップめんやおつまみ、ごみ袋、冷凍食品、アイスクリームや氷、洗剤やトイレとペーパー、おむつなどなど)を置いておいて、プリペイドカードとバーコード読み取り機で簡単に買い物ができます。自治会の方に主旨と使い方を説明し、自分たちの店と思ってもらうことが大切と言います。
というのは、普段は無人だからです。ですから、そこの住民の人以外には、場所をあまり知られないようにしているとのこと。
ユニークなのは、お二人のどちらかが二週間に一回は見回りに来て棚をきれいにしたり、商品補充をしますが、それ以外に、もし地元の人がタクシーを読んだら(特定の会社)、そのタクシーの人に商品補充を依頼していることです。
地元の問屋さんに、前もって商品を注文しておき、段ボールに入れられたものを、タクシーにもってきてもらう仕組みです。
商品ごとの購入履歴などは、データが飛ぶようになっているので、分かるため、それに基づいて発注をかけておくことができます。
また、商品補充の日がわかるようにしているので、いつも置いているもの以外に置いて欲しいものがあったら、その時に話して欲しいとしています(そのほか、アンケート用紙なども置いてあるので、そこに書くこともできる)。
このほか、地元の「からくわ夕市会」という農家(といっても自給的)の方々が毎土曜日に市をやっていて、そこで売れ残った商品を100円で売れるようにしている。現在10人の人がバーコードを持っているという。生鮮品は、良く売れるそうだ。
月に3万5000円くらいの売り上げがあるが、光熱費や通信費もかかるので、アプリも既存のものをつかっているし、人件費などをなるべくかけない方式にしたいと工夫している。
以前は、ある小学校に仮設住宅があり、そこにも置いていたが、仮設住宅がほとんどなくなったので、そこは撤収したという。釜石にも、同じ仕組みでやっているところが一ケ所あるとのこと。
清水さんにとって、この無人販売所は、利益になっているわけではなく、釜石にもフランチャイズ料を要求しているわけではない。清水さんは、気仙沼のリアルタイム宿泊情報サイトを立ち上げるなど、IT技術を活用した別の仕事で暮らしているらしい。
写真1: 無人販売所清水屋
写真2:プリペイドカード読み取り機、野菜の販売やタクシーが呼べる画面
写真3:からくわ夕市会の人と野菜が完売している棚
写真4:店内、説明する馬場さん
●co-ba(シェアオフィス)
変幻自在合同会社が使っているのが、気仙沼にあるシェアオフィスco-ba kesennumaである。なかなかおしゃれな空間で、シェアオフィスであり、いろいろなイベントにも使われているようだ。
当日は、おられなかったのだが、杉浦恵一さんという方が代表を務められている。
co-baというシェアオフィスは、渋谷にあって、その全国展開版の一つらしい。東京以外では、この気仙沼のほかに、呉、郡山、花巻、飛騨高山にもあるみたいだ。co-baは、株式会社ツクルバの中村真広さんの発明の一つらしい。「場の発明を通して欲しい未来をつくる」がツクルバのミッション。とても魅力的だ。
気仙沼代表の杉浦さんは、一般社団法人Nr.12(ナンバートゥエルブ)を設立し、気仙沼を中心に復興支援事業を展開している。チャリティスポーツイベントを実施したり、「ともしびプロジェクト」を手掛けているとのこと。ともしびプロジェクトとは、結婚式場や葬祭場などで誰かの為に灯され、その後、不要になったキャンドルを気仙沼のお母さんがろ過、最整形し、キャンドルホルダーとして製品化しており、3.11にローソクをともして、「忘れない」ようにしようというものだ。お母さんたちには、手数料が入る。
NTTドコモの馬場さんによると、このほかにも、気仙沼には、いろいろな事業を始めた人がいるとのことである。
先にみた、NPO法人ピースジャムの庭にあったツリーハウスを作る会社も気仙沼にできているという。ネット検索すると、一般社団法人東北ツリーハウス観光協会で、これも糸井重里さんのアイデアによるらしい。実際にやっているのは、事務局長の斉藤道有さんという方らしい。大きなツリーハウスだけでなく、小鳥が入る「バードハウスキット」も販売されている。
このほかにも、藍工房OCEAN BLUEというのがあり、気仙沼のパパママが集まってできた「子育てサークルはぐはぐの木」(代表:藤村さやか)が運営しているらしい。ここも子供を遊ばせながら、お母さんが働けるというのが狙いのようだ。
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「防潮堤」を肌で感じたいということから、気仙沼にたまたま出かけ、せっかくならと「気仙沼」×「ベンチャー」で検索して2社が対応してくれたおかげで、いろいろなことを知ることができた。
別の都市名にベンチャーを掛けてもいろいろ出てくるのかもしれないし、気仙沼が独特なのかもしれない。今日は、時間がなくて、これ以上調べられないので、のちほど調べてみたいと思う。
ともかく、30歳代ぐらいの方々が、復興にあたって、いろいろなことをなさっておられる。
共通しているのは、なんか楽しそうだし、空間なんかがおしゃれだし、音楽イベントなどを行うなどが当たり前みたいなことだ。
悲壮感が漂ったり、貧乏くさくない。実際には、大儲けなどしていなさそうなのにである。
また、糸井重里さんが大きな力を提供しているらしいことも分かった。
真剣なのだけれど、子供がどろんこ遊びをしているような楽しさも感じる。これは、やはり、これからの日本の姿とか方向性を見せてくれているような気がするのだけど、言い過ぎだろうか。
経済成長しなくても、人口が減少しても、高齢化が進んでも・・・全然行けるような気がする。 まぁ、もうちょっと勉強してみないと分からないけど。
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