http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/185450より転載
国民が葬った民主主義…改憲へ衆参独裁政権誕生の絶望
2016年7月11日
■大マスコミの裏切りで全く伝わらなかった本当の争点
10日、投開票された参院選はやりきれない結果だった。野党共闘はある程度、奏功し、1人区で野党は11勝(21敗)した。しかし、この程度の善戦ではどうにもならず、終わってみれば、自民党が56議席と圧勝。公明党も14議席を確保した。おおさか維新の7議席を加えれば、改憲勢力は77議席を獲得。非改選の無所属議員のうち改憲賛成の4人を加えると、自公プラス改憲勢力が参院で3分の2を制してしまった。
与党は衆院ではすでに3分の2を確保しているから、これでいよいよ、国家統制を前面に押し出した改憲が現実味を帯びてくる。安倍首相はテレビで慎重姿勢を見せていたが、こんなものはポーズだ。今回の選挙結果とは、もっとも危ない暴君に、とてつもない数を与えてしまったのである。
高千穂大の五野井郁夫准教授は「2016年7月10日は歴史に刻まれる日になるだろう」と言い、こう続けた。
「日本の民主主義が形式的なものになってしまった日だからです。衆参で与党や与党協力勢力が3分の2を制するなんて、日本の民主主義の歴史においてはほとんど未踏の領域です。
今でもこの政権はメディアに平気で圧力をかける。公平・中立報道をしなければ、電波停止をにおわせる。今後も言論機関に圧力をかけてくるでしょう。本来であれば、『それはおかしい』と言う野党もここまで負けてしまうと、手も足も出ない。
与党議員や閣僚に疑惑があっても証人喚問はもとより、質問時間すら制限されてしまう。安倍政権は『今がチャンス』とばかりにやりたい政策を加速化させていくでしょう。グズグズしていたら、高齢化が進む安倍応援団、日本会議が許さないからです。かくて、あっという間に国の形が変わってしまう恐れがある。後世の歴史家は、この日が歴史の分岐点だったと分析するかもしれません」
それなのに、有権者の能天気だったこと。投票率は戦後4番目に低い54.7%だから、どうにもならない。大マスコミが安倍の姑息な争点隠しに加担したものだから、民主主義を賭した選挙だという自覚もなく、盛り上がらない選挙になった結果がコレなのである。民主主義は死んだも同然だが、そのことすら大マスコミは報じようとせず、従って有権者はいまだに気づかない。安倍の思うツボである。
■比例統一名簿に失敗した野党の致命的大失態
返す返すも悔やまれるのは、野党4党が比例区で統一名簿を作れなかったことだ。1人区で野党統一候補は11議席を獲得。特に東北地方は5勝1敗と共闘効果を発揮し、メディアの最終情勢調査を大きく覆すほど善戦しただけに、なおさら惜しまれる。比例区で野党票が分散した結果、自民党の比例獲得議席は19と、圧勝した前回の18議席を上回ってしまった。
「野党共闘が比例区でも実現していれば、自民党から少なくとも5、6議席を奪えたはず。確実に改憲勢力3分の2議席は阻止できました」(政治ジャーナリスト・鈴木哲夫氏)
政治評論家の野上忠興氏は「決断できなかった民進党の岡田代表の“オウンゴール”」と語ったが、まさにその通りだ。昨年夏の安保法の成立以降、憲法学者の小林節・慶大名誉教授らは野党の大同団結を呼びかけ、社民・生活も統一名簿実現に前向きだった。消極姿勢は民進だけで、小林教授はしびれを切らして「国民怒りの声」を立ち上げた後も「統一名簿が実現すれば、いつでも降りる」と強調していた。
「最後は連合まで統一名簿に積極的となったのに、岡田代表が踏み切れなかったのは『民進党のエゴ』といわざるを得ません。全ての1人区で野党共闘が実現しても、比例統一名簿がないことで“画竜点睛を欠く”状況になってしまった。決断しなかった岡田代表の歴史的責任は重くなりそうです」(鈴木哲夫氏=前出)
統一名簿をフイにした野党は、この国の民主主義を見殺しにしたも同然だ。後世の歴史家に「致命的大失態」と評価されるのは間違いない。
1人区は野党2ケタの勝利だったが(C)日刊ゲンダイ