ファシズムの兆候14項目がなんか当てはまってないか?
「日本国憲法は、権力者から国民の“権利”を守るものです(「「納税」の“義務”を“権利”と誤解している人が47%も」)。しかしまた、“権利”は主張し続けないと、奪われて消えていくものでもあります。それを教えてくれるのが、アメリカの政治学者ローレンス・ブリット博士による『ファシズムの初期の兆候(Early Warning Signs of Fascism)』です。ワシントンD.C.のホロコースト記念博物館に掲げられています」(伊藤弁護士。以下「 」内同)
ファシズム研究で知られるブリット博士は、ドイツのヒトラーなど20世紀を代表するファシストたちの研究から、ファシズムの初期の兆候として、次の14項目の共通点を見出したという。
ファシズムの初期の兆候
・強力で継続的なナショナリズム
・人権の軽視
・団結の目的のため敵国を設定
・軍事優先(軍隊の優越性)
・はびこる性差別
・マスメディアのコントロール
・安全保障強化への異常な執着
・宗教と政治の一体化
・企業の力の保護
・抑圧される労働者
・知性や芸術の軽視
・刑罰強化への執着
・身びいきの蔓延や腐敗(汚職)
・詐欺的な選挙
「人権軽視、女性蔑視からファシズムは始まります。『〇〇が攻めてくるぞ』からファシズムは始まります。身びいきからファシズムは始まります……これらは70年以上前のナチスの教訓から学んだことなのに、今のアメリカにぴったり当てはまるんじゃないかということで大きな話題になりました。しかもこれらが当てはまる国はほかにもあるんじゃないのか、しかも14項目全部あてはまっちゃんじゃないのか、と思えてくる内容です」
「大衆の理解力は小さいが、忘却力は大きい」
70年以上前のナチスの発言に学ぶことは大きいと、伊藤弁護士は言う。なかでも大衆操作に長けたヒトラーと、ゲシュタポを作ったゲーリングの発言は、今読んでも70年前のものとは思えないほどの現実性を持っているという。
ヒトラーの発言(『わが闘争』より)
『大衆の理解力は小さいが、忘却力は大きい』
『効果的な宣伝は重点をうんと制限して、これをスローガンのように利用し』
『最後の1人まで思い浮かべることができるように継続的に行わなければならない』
『民衆の圧倒的多数は冷静な熟慮よりむしろ感情的な感じで考え方や行動を決める』
『肯定か否定か、愛か憎しみか、正か不正か、真か偽りか』
『何千回も繰り返すこと』
ゲーリングの発言(敗戦後、獄中での発言)
『一般人は戦争を望みません。ソ連でも、イギリスでも、アメリカでも、そしてその点ではドイツも同じことです。ですが、政策を決めるのはその国の指導者です。それに人々を従わせるのはどんな政治体制であろうと、常に簡単なことです』
『国民に向かって、われわれは攻撃されかかっているのだと煽り、平和主義者に対しては、愛国心が欠けているし、国を危険に晒していると非難すればよいのです。この方法はどんな国でもうまくいきますよ』
「〇〇からミサイルが飛んでくるぞ、と愛国心を煽る。そうやって大衆に動揺を誘う。このヒトラーとゲーリングの発言を読んだ後、冒頭の『ファシズムの初期の兆候』を読めば、何に注意しなければいけないか、わかると思います。
日本国憲法が大切にしている〈個人の尊厳〉、これを戦争は苦しめます。個人の生命・身体・財産等を侵害し、人の内面から優しさと心を奪い、学問・科学・医療などが本来の目的から逸脱し、信仰心や内心を破壊し、人を人でなくしてしまう。そしてとりわけ、女性の尊厳を奪うものであることは、現在のイスラム国の性奴隷などの例を見ても明らかです。
しかし、ゲーリングも言っているように、政治が大衆を操作するのは簡単なのです。だから、ちょっとした兆候にでも気づいたら、声を上げることが大事です。
ドイツの神学者、マルチン・ニーメラーは次のような言葉を残しています。
『ナチスが最初共産主義者を攻撃したとき、私は声をあげなかった。私は共産主義者ではなかったから
社会民主主義者が牢獄に入れられたとき、私は声をあげなかった。私は社会民主主義ではなかったから
彼らが労働組合員たちを攻撃したとき、私は声をあげなかった。私は労働組合員ではなかったから
そして、彼らが私を攻撃したとき、私のために声をあげる者は、誰一人残っていなかった』
いま私たちに問われているのは、国は私たちが創り上げるものだということを自覚すること、熱気に流されない冷静さを保つこと、憲法を学び自立した市民として主体的に行動すること、おかしいことにはおかしいと気づいた者から声をあげること、です。
憲法の理想に現実を近づけることこそ、今必要なことなのです」
(続く)
伊藤真
いとう・まこと 弁護士・伊藤塾塾長・法学館法律事務所所長
1958年生まれ。1981年に司法試験に合格、1982年東京大学法学部卒業。法学館法律事務所を設立し、所長を務める。憲法や法律を使って社会に貢献できる人材の育成を目指し、1995年伊藤塾を開塾。また、書籍・講演・テレビ出演などを通して憲法価値の実現に努めている。NHK「日曜討論」「仕事学のすすめ」、テレビ朝日「朝まで生テレビ」などテレビ出演多数。『あなたは、今の仕事をするためだけに生まれてきたのですか―48歳からはじめるセカンドキャリア読本』『私たちは戦争を許さない』等著書多数。
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