ワシントン(CNN) 米司法省のサリー・イェイツ長官代行が同省の弁護士に対し、移民や難民に関するトランプ大統領の大統領令を擁護する弁論を行わないよう指示した。この問題に詳しい複数の関係者が明らかにした。
この動きは、オバマ前大統領が指名したイェイツ氏と、トランプ政権との対立を浮き彫りにした。イェイツ氏は、トランプ大統領が次期司法長官に指名したジェフ・セッションズ上院議員の人事が承認されるまで、長官代行を務める。
「私の責務は、司法省の立場が法的に擁護できるだけでなくきちんとした情報に基づいたものだと保証することにある。その情報とは、全ての事実を検討後、当該の法に関する最善の判断を経て得られるものである」。
省内に向けた書簡の中でイェイツ氏はそう述べ、「法廷における我々の立場は、常に公正を追求し、正しい側に立つという当機関の厳粛な責務と常に一致しなければならない」と指摘した。
その上で、「現時点では今回の大統領令がそうした責務と一致しているとは確信できない。この大統領令が合法だとも確信できない」と言明している。
トランプ大統領が27日に署名した大統領令は、シリアやイラクなど7カ国の市民の入国を90日間禁止し、難民の受け入れは120日間停止する内容。これに対して全米で抗議運動が巻き起こり、連邦裁判所の裁判官4人が、空港で拘束された入国者などに対する大統領令の執行停止を命じていた。
イェイツ長官代行の指示により、セッションズ氏が就任するまで数日の間、大統領令は実質的に凍結される。
ただ、セッションズ氏の人事案については31日の上院司法委員会で採決が行われる予定で、イェイツ氏の指示は極めて短命に終わる見通しだ。ホワイトハウスがイェイツ氏を解任し、政権にとっての優先課題を遂行する人物を据える可能性もある。
大統領令の立案にかかわった政策担当大統領補佐官のスティーブン・ミラー氏はイェイツ氏の判断についてMSNBCの取材に対し、「我が国の政策が政治の道具にされ、法の執行を拒む者がいるのは悲しいことだ」とコメントした。
大統領令に対して不服を申し立てる訴えは、バージニア、ニューヨーク、マサチューセッツ、ワシントン、カリフォルニアの少なくとも5州で起こされている。
Image copyrightGETTY IMAGESImage caption特定7カ国からの移民・難民入国を制限するトランプ米大統領の命令には各地で大規模な抗議が起きている。写真は28日、ニューヨーク・ケネディドナルド・トランプ米大統領がシリアやイラクなど特定7カ国の移民・難民受け入れを制限すると命令したことについて、司法長官代行がこの大統領令を法廷で弁護しないよう省内に指示したところ、トランプ政権はただちに長官代行を解任し、後任を任命した。空ドナルド・トランプ米大統領がシリアやイラクなど特定7カ国の移民・難民受け入れを制限すると命令したことについて、司法長官代行がこの大統領令を法廷で弁護しないよう省内に指示したところ、トランプ政権はただちに長官代行を解任し、後任を任命した。
オバマ政権下の副長官だったサリー・イエーツ長官代行は、大統領令が合法だと「確信」できないと述べ、各地の裁判所で起こされる裁判において、司法省の担当弁護士たちに大統領令を弁護しないよう指示。大統領令の合法性や政策としての有効性に疑問があると書いた。
これに対してホワイトハウスはただちに、イエーツ長官代行の解任を発表。イエーツ氏は「司法省を裏切った」と声明で非難し、バージニア州東部地区のダナ・ボエンテ連邦検事を新しい長官代行に任命した。
ホワイトハウスの声明は、イエーツ氏が「米国の市民を守るために作られた法律命令の執行を拒否し、司法省を裏切った」と書いている。
トランプ氏が新長官に指名したジェフ・セッションズ上院議員(アラバマ州選出)については、上院での承認公聴会が続いている。これについてホワイトハウス声明は「完全に政治的な理由から民主党の上院議員たちが、承認を遅らせている」と批判した。
解任の発表に先立ちトランプ氏は、「民主党は純粋に政治的な理由から、私の閣僚指名(の承認)を遅らせてる。妨害するしか能がないんだ。今の司法長官はオバマのだ」とツイートした。
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解任に先立ち大統領令を弁護しないよう省内に指示したイエーツ氏は、上級法律顧問への書簡で、「(司法長官代行としての)私の責任は、司法省の立場が法的に正当化できると同時に、法律の最も正しい解釈に裏付けられいるよう、保障することです」、「私たちが法廷でとる立場は、常に正義を追求し、正しいことを支持するというこの機関の、厳粛な責務に常に沿った形でなくてはならない」と書いた。
Image copyrightAFPImage caption司法長官代行を解任されたイエーツ氏
米外交官たちも反発
この間、ベテランの辞任が相次ぎ、新国務長官の承認も終わっていない国務省では、外交官や職員百人が、大統領令を正式に批判する「不同意電文」の策定を開始した。
この電文の草案では、移民規制は米国の安全に寄与せず、米国らしからぬ措置で、イスラム教圏に間違ったメッセージを送ることになると批判している。
これに対してショーン・スパイサー大統領報道官は、「大統領令の目標や内容が理解できないキャリア外交官たち」は「この事業に協力するか、そうでないなら辞めるべきだ」と述べた。
一方でバラク・オバマ前大統領は、広報担当を通じて、移民規制に対する抗議集会を称賛。トランプ氏を名指しはしないながらも、「市民が憲法で保障されている集会の自由権を行使し、自分たちの声を公職者に届けようとするのは、米国の価値の行方が問われている時には、まったく当然のことだ」と文書で表明した。
大統領経験者が現職大統領の政策について発言するのは異例。
<解説>「月曜夜の虐殺」? ――アンソニー・ザーチャーBBC北米担当記者
トランプ氏を批判する人たちは、「月曜夜の虐殺」と呼んでいる。ウォーターゲート事件の渦中にあった1973年に、当時のリチャード・ニクソン大統領が土曜の夜に司法長官をいきなり解任したのになぞらえている。
しかし今回は少し違う。サリー・イェーツ司法長官代行は、大統領令を法廷で弁護するなと司法省の法律顧問たちに指示することで、実質的にトランプ氏の対応を無理やり引き出したのだ。
間もなく新長官によって交代させられるオバマ政権の居残り組に、このような反抗的態度をとられて、トランプ氏が座視できるはずもなかった。しかし同時に、ホワイトハウスのチームは相変わらず、表現を激しく大げさにして音量を最大限に上げずにはいられなかった。イェーツ氏の解任を発表するのに、長官代行が司法省を「裏切った」とまで非難したのだ。
イェーツ氏解任に先駆けて、政権は国務省の外交官100人以上の書簡にも過剰に反応している。
発足からまだ1週間余りのこの政権は、自分たちをあらゆる形で妨害するワシントンの官僚組織に敵対心を抱いているのだろう。それは想像に難くない。敵対心と猜疑心(さいぎしん)に凝り固まった、塹壕(ざんごう)に立てこもっているような心理状態が今後も続くなら、今回の政治的流血は、単なる始まりに過ぎない。
(英語記事 Trump sacks defiant attorney general)