リテラ http://lite-ra.com/2016/01/post-1891.html より転載
元家族会・蓮池透氏インタビュー(後編)
蓮池透氏がさらに安倍首相の詐術を徹底批判! 「安倍さんはきっと北の核実験を利用し、逃げ道にする」
拉致問題のみならず、安保・原発・沖縄・報道圧力など、他の政策に関しても安倍政権に疑問を投げかける蓮池透氏
昨日、本サイトで掲載した拉致被害者家族・蓮池透氏の安倍首相への反論インタビューは大きな反響を呼んだ。
安倍首相は1月12日の衆院予算委員会で、蓮池氏の著書『拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々』(講談社)の内容を否定し、「私が言っていることは議員バッジをかけて真実」と大ミエを切ったが、これに対し蓮池氏が真っ向から反論。
具体例を細かにあげながら、「私が書いていることはすべて本当の話」「安倍さんが拉致問題で嘘をつき、政治利用していたのは事実」と述べたうえで、「安倍さんは議員バッジの前にブルーリボンを外すべき」とまで言い切ったのだ。
しかも、蓮池氏の話はそれで終わりではなかった。安倍首相へのさらなる不信、北朝鮮の“水爆”実験、この間の政府の交渉のやり方への疑問、さらには言論弾圧まで……。後編はこうした問題についての蓮池氏の発言を紹介したい。
──先日、北朝鮮は水爆の核実験に成功したと公表しました。安倍首相はこれを強く批判し、日本独自の経済制裁復活を検討しています。拉致問題への影響についてどう考えているのか。
蓮池 拉致問題に悪影響しか与えません。しかも、政府はこれを利用しかねない。「核実験を行う北朝鮮はけしからん、暴挙だ」といって、進まない拉致問題の隠れ蓑、言い訳に使う。そういうことだけは本当にやめてほしい。
でも、現実には「一生懸命やったけど、みなさんご存知の通り北朝鮮はけしからん国だ。しょうがない」と、安倍さんの逃げ道になる可能性は高いんじゃないでしょうか。
そもそも安倍さんは拉致問題に対し退路を断って対処しているわけじゃないし、どれほどの決意や熱意があるのか、疑問です。勇ましい言葉にしても国内向けにすぎない。だいたい、ひたすら圧力をかける、経済制裁をすると言っても、それが通用しないというのはもう歴史的にわかっている。ちょっと学習してほしいです。
6者協議にしても、私は、核と拉致を同列に扱ったらうまくいかないと思っています。ですから日朝独自外交を国交正常化交渉とセットでやる。もちろんアメリカからの横槍が入るでしょうが、もし安倍さんが本気なら、そこまでしてくれないと。まあ、アメリカべったりの安倍さんには無理だとは思いますが。
実は拉致解決に関して、私は今年前半が勝負だと思っていたんです。なぜかと言えば、5月に北朝鮮労働党の党大会がある。そこで今後の政策や人事を決めるわけですから、変な決議や決定がなされたら拉致問題にも大きな影響がでてくる。たとえば北朝鮮が日本とつきあっても何の利益もないといって、対日政策はあくまで強硬でいくと決定すれば、拉致問題も動かなくなってしまう。少なくとも党大会以降もこの運動を続けられるよう、5月までに布石を打っておかないと。そう思っていたところに核実験ですからね。
──核実験にしても、結局は安倍首相に有利に働いた部分があります。北朝鮮は何をするかわからない。だから安保法制は必要だし、憲法改正もしかり、と。拉致問題にしても引き延ばすことが安倍政権の利益になるのではないのかと思えるほどです。
蓮池 北の脅威を煽っていたほうが安倍政権の思い通りにいくのは確かでしょう。やっぱり北は危ないからちゃんとした軍備が必要だ、と。でも集団的自衛権があっても自衛隊が北朝鮮に行くなんて考えられない。ですから私から言わせれば、制裁を強化した段階で、拉致問題は断念したことと同じなんです。圧力をかければ向こうも反発して、今までのパイプが切れてしまう可能性だってありますからね。
──かつては強硬派として知られた蓮池さんが、こうして安倍首相への不信感を持ち、考え方が変わったのはいつからなのでしょう。
蓮池 小泉訪朝前、たしかに私たち被害者家族は誰も頼る人がいなくて孤立した存在でした。そんななか、秘書時代の安倍さんは私たちにやさしかった。救う会にしてもそうですが、彼らの言うことを私たちは鵜呑みにしてすがるしかなかった。第一次安倍政権のときには、何かあると家族会のメンバーを食事に招待してくれて。でも、その場でなぐさめてくれるだけなんです。
「がんばります」「全力を尽くす」「あらゆる手段を講じる」という常套句だけで、具体的なものはなかった。外交問題は政治家にとってすごく便利なものです。「やっている」と言いながら、「では具体的に何をやっているのか?」と聞くと、それは外交機密だっていう逃げ道がある。安倍さんもまさにそう。本当に戦略というのがあるのか、当初から疑問でした。
2014年のストックホルム合意についても、非常に安易な合意でした。お互いのゴールが一致していない。非常に広範な問題を一括しているし、最初からこれは難しいなと思っていました。安倍さんが拉致問題最優先って言っているわりに、北朝鮮側のプライオリティは非常に低い。あの時の戦略といったら、独自制裁の一部解除だけ。それで帰ってくるわけがない。しかも北からの報告がなし崩し的に遅れて、現在でもなしのつぶてです。こうした事態を日本側はきちんと検討したのか。家族からしてみれば半年、1年は死ぬほど長い時間です。しかも安倍さんからは何の説明もない。誰が責任を持ってやっているのかさえわからないのです。交渉しているかもわからない。
これまでも安倍さんが言ってきた「毅然とした」姿勢というのは、決して北朝鮮に向けたものではなく、国内向けでしょう。強硬姿勢はウケがいいですからね。遠い対岸に向かってひたすら吠えているようなもので、それは対岸に届かないことをわかってやっている。
しかも、そうした指摘を大手マスコミも書かない。安倍さんの意向を忖度している、言論統制に近いようなものを感じます。
──やはり蓮池さんも安倍政権の言論に対する姿勢に疑問を持っているということですね。
蓮池 今回の本を出した時にもそれは感じました。朝日新聞の取材を受けたとき、「ちょっとこのタイトル……う〜ん」と言われてしまって。他でもいくつかの媒体で同じような反応があったと聞いています。テレビでも本の表紙をあえて映さなかったり。安倍批判はダメだし、安倍批判をするとすぐに「反日」ですからね。書店だって隅っこに置かれていて。すごく嫌な国になった、そう感じました。でも今、拉致問題に関してはここまで過激なタイトルをつけないと誰も見向きもしないのが現実なのです。
政府はあまりにも無策で、時間だけが過ぎていっているのに、マスコミはタブーが多すぎる。また、家族会のことも聖域化しちゃって、今でも都合の悪い話はほとんど書かない。だから洗いざらいぶちまけようと思ったんです。世間の関心も低下し、世代交代も感じています。拉致問題をリアルタイムで知らない世代が増えている。そんな危機感もあります。
──たしかに、すでに東日本大震災や福島原発事故でさえ風化が危惧されていますから、拉致問題は尚更です。
蓮池 今、すごく感じるのは、震災で被害を受けた方々、原発で避難されている方々、あるいは沖縄の基地の問題などいわゆる被害者の人たちの民意を、政権はまったく汲まないということです。多くの被害者がいて反対もあるのに、原発を再稼働し基地を強引に移設しようとする。そういう意味では拉致問題も同じです。自国民をほったらかしなんです。
そうした意味でも拉致問題に関して志を同じにする人たちで、本当の意味で拉致問題を解決するグループを作ろうと、昨年から少し動き出していました。家族会や救う会ではなく、マスコミOBや大学の名誉教授、与野党問わず国会議員など本気で思ってくれる人が集まって。しかし、それも北の核実験があり水を差されてしまった状態です。
拉致問題の解決。言葉で言うのは簡単です。しかしそのためにも拉致問題の解決とは何か、どういう状態になれば全面解決なのか、その定義を安倍さんと政府ははっきり示して欲しい。そうでなければ何ら進歩のないまま、拉致問題がまたずるずると時を重ねるだけでしょう。
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蓮池氏の話はまさに、安倍首相のやり口の本質を突くものだった。実体のない勇ましいスローガンを声高に叫ぶだけで、実際は国民の生命や安全などつゆほども考えていない──。
しかし、おそらく安倍首相はこれからも「拉致問題解決が最重要課題」などといって、この問題を徹底的に政治利用していくだろう。
日本国民がこの詐術に気がつき、政府が国内右派向けの人気取りでない、リアルで戦略的な拉致問題解決に動き出す日ははたしてやってくるのだろうか。
(編集部)