②争いの果てに
突然、ゆっくりと地面の土が盛り上がって来た。グリフィルが産んだ6月経つ3体の子が遊んでる側で。その子らは警戒心を持たず不思議そうに見つめてた。好奇心が優先してる。その盛り上がる土はなんとなく三角垂の頂が倒れているように見えてた。そして、土の動きは一旦止まった。また、その子らは近づいて行く。土の盛り上がりの頂に触れる。その頂の麓から球体が4、50cmの距離をとって同時に飛び出して来た。好奇心旺盛の子らは、その球体へ近づいた。すると、鉤爪の付いた2本の長い棒状の物が地中から飛び出して来て、3体のグリフィルを挟み2つの球体が更に地中から飛び出した。クロサンカクの顔だ。その瞬間、一気にグリフィル達に牙をむいた。クロサンカクの前肢の中でグリフィル達は倒れた。そして、ゆっくりクロサンカクの全身が地上に上がって来た。後肢で自分の顔の周りの土を払い除け捕食し始めた。2本の牙を横に開閉させながら、ムシャムシャムシャ音を立てながら、生殖活動後に眠りについた後の空腹を満たすのを楽しんでいる目つきだ。
最後の1体を食べようとした時だった。槍のような物が飛んで来た。それは、3体のグリフィルを育ててた親グリフィルの中の1体が放った、流木を削ってこさえた見窄らしい槍だった。グリフィルには天敵が特に居ず、頻繁に武器を作る習慣がなく、突き刺さるとは思えない、まるで杖のような槍なのだ。そんな槍がクロサンカクの眼に命中した。勿論、刺さらない。しかし、クロサンカクは食べるを止め周りを見渡した。顔を向けるのではなく、左右の眼球が独自に色んな方向を見渡した。クロサンカクの視界は自分のカラダの真後ろだけ入らない。
それに気がついた親グリフィル4体は、3体が視界に入るよう槍を持って正面、右側、左側に姿を見せた。そして、真後ろには石で出来たナイフのような鋭い刃先の石器を持った1体が気づかれないように身を屈め現れた。クルサンカクの視界に入るグリフィル達は一斉に向かって行った。クロサンカクはグリフィルの子を手放し、長い前肢を伸ばし右側と左側のグリフィルに爪を立てた。左右のグリフィルは槍でその爪を受け止めた。だが、2体の槍は砕け脇腹に爪が刺さった。同時に、正面のグリフィルの槍は、クロサンカクの口の中に突き刺さった。後方のグリフィルは背中の真ん中に尖った石器を突き刺した。そして、左右のグリフィルとクロサンカクの喉、背中からそれぞれの血液が噴き出した。正面と後方のグリフィルはクロサンカクの真っ黒な返り血を浴びた。
2種の生物の戦いはあっという間に終わった。いや、生き残った2体は長時間に感じてた。2体のグリフィルと1体の子グリフィル、クロサンカクの死体の側で抱き合い、地面に崩れ落ちた。泣き崩れた。涙は流れるも泣き声は聞こえない。
泣き疲れ眠りに入った。周りに居た生物達は、他種の生物同士の殺し合いを見るのが初めてだったため、その2体のグリフィルに近づかなかった。食物連鎖の中でこう言った戦いは滅多にない事で、普段、クロサンカクはグリフィルを襲わない。たまたまの出来事であったが矛盾と言うよりもパラダイムシフトしかねない出来事だった。
2体が目覚めると2日間かけて4つの死体を食べ尽くした。食べると言うよりも吸い尽くすと言った方が良いだろう。また、その姿を見た周囲の生物達は驚き、戸惑った。そして、同種からも無視されてしまった。
この2体もクロサンカクまで食すとは考えてなかったが、無意識にそうしてしまった。この出来事はこれからの恐ろしい進化の始まりの予兆とは誰も気づく事はなかった。この2体は周囲から無視されてる事に気がついていた。だから止む無く2体で繁殖行動を起こした。そして、1体の子を授かった。産まれて来た子は最早、グリフィルの子とは思えない色だった。また、母親の乳房は膨らんだものの、1.5倍程度に留まった。そして、乳輪と乳首の色は変化しなかった。実は、クロサンカクの血液を浴びたのとカラダ事態を食べてしまった事でクロサンカクの細胞に取り入れていたミトコンドリアが親グリフィルの細胞に入り込んだのだ。そして、誕生した子は胎生期からミトコンドリアが存在する個体となった。
1年後、グリフィルとしての成人を迎えた。親グリフィルは2体とも逝ってしまった。ミトコンドリアグリフィルは悲しむ事は無かった。繁殖行動を始めた。無我夢中と言っても言い過ぎでは無い程に。どんどん自分と同じような個体が増えた。そして、グリフィルは性別が2つに分かれた。女性と男性へ。そして、100年後、絶滅した。
グリフィルはミトコンドリアを偶然、細胞に取り込んでしまう事で絶滅を早めてしまった。それは、光合成が出来なくなった事、性別が分かれた事、この2点が生物を捕食せざるを得なくなった。そして、捕食対象を狩るのが男性グリフィルが担った。力があり狩に適していた。しかし、怪我をすると直ぐに菌やウイルスに感染し命を絶った。外観は強そうに見えても免疫システムが貧弱だった。
ミトコンドリアによる莫大なATPの産生に、ATPからの高エネルギーを効率よく活用出来なかった。平たく言うと瞬発力が高まっても持久力までは持てなかったと考える。
初めての偶然な予期せぬ争いがきっかけで、グリフィルは性が分化し進化したように見えた。しかし、結果的にミトコンドリアに絶滅させられたのである。この事は、未来永劫、誰もが知る由も無い悲しい出来事となり消え去った。
生命にとってイレギュラーな出来事が進化や絶滅のトリガーになったのではないか。生存の安定のピークは、直ぐ側に不安定が待ち構えてて、即、崩れてしまう。常に、危機感を持ち不安定であったほうが種の存続には丁度良いのかも知れない。
おわり