第弍什伍話 刃
揺れて、素早く揺れて、邪念が磨きをかけて刃へと姿を変える。
当の本人達は気がつかないままに。これは、我々の性。そう変わってしまうのは自然の摂理なのだろう。
死に向かって生きているにも拘らず、その先が分からない世界だから、目を向けないように、若しくは、不安に恐怖を覚え、心を病んでしまうばかり。
人の不幸は蜜の味、よく言ったものだ。邪を晒している。
初めて国を治めた人の末裔は自由を奪われたにも拘らず、不平不満を表さないで、我々のなかの光を顕示してくれている。我々の闇をも認識しているのにだ。
心を和ませてくれて、明日の光を抱かしてくれて、怒りさえをも鎮めてくれている。
ありがたい存在、と、誰もが認めている。
特に、我々が災いを蒙った後は、真心で暖かみを与えてくれる。
そんな施しを我々は感謝し、恭敬し、生きていくことの手本とするべきではないか。
そんな存在に、我々は刃を振り翳した。詮索、誤認、自惚れ、言葉という、加えて、報道という刃で心傷させた。
恥ずべきことと思い直せ。
「誤った情報が事実であるかのような印象を与えかねないので、口頭で質問に答えるのは恐怖でなりません、助言を頂けたら幸いなのですが」
「はい、そういった質問には、もう答えられなくていいと思いす、お身体をお傷めかねませんね、質疑応答はお止めになさって下さい」
眉を顰め、こぼれ落ちないように瞼のなかに涙を溜めて心療内科医はそう答えた。
終