第捌話 自覚 ソノイチ
慈由无ら六子が教頭先生の謎の影を無意識に光の攻撃を放った。六子達は、あの影が悪だったのか、自分らの行動は正解だったのか、疑問を持ちながら過ごしていた。
「こんにちは、変わらず勉強頑張ってますか、私は君達と話しをした後、体調が良くなりましてね、活力も漲って毎日充実した日々を過ごしてますよ」
次の授業が音楽で、音楽室へ向かう剣侍狼と迦美亜に廊下で出会った教頭先生は明るい笑顔で二人へ声をかけてきた。
「良かったですね、他のみんなにも伝えますね」
剣侍狼と迦美亜は声をシンクロさせた。
『剣侍狼、やっぱりあの影は悪いものだったんだろうね』
『うん、教頭先生、良かったとは思うけど、俺たち、また、あんなのと出会すのかな、トレーニングしとかないとな』
『えぇ、私も』
『みんなでやるの』
音学室まで二人だけで会話し歩いてた。
『迦美亜、見えてる』
『うん、嫌な感じな影じゃないけど、影なのかなぁ、白いよね、何だか気持ち良くない』
『あれは影じゃないね、なんもいってこないな、うん、気持ち良いな』
『放課後にみんなでこよ、みんなにも見てもらおうよ』
授業中、クラス全員で合唱の練習をしているが、モーツァルトの肖像画から白い雲のような煙のような物が沸き立つ物を見て、二人だけで会話した。
「聞こえてたよ、クラシックの音楽家の絵から出てきたんだよね」
剣侍狼と迦美亜が直接声をかけていないが、放課後、他の四人も音楽室に向かっていて、一番早く着いた慈由无が後から来たみんなの顔を確認し、剣侍狼と迦美亜に話しかけた。
「うん、聞こえてたよ」
他の三人も声を合わせた。
「じゃあ、入ろうか」
剣侍狼が音楽室の扉を開けた。
いつもの音楽室とは違い、静寂に包まれていた。流石に、この六人とも、音楽教師の手伝いで静かな音楽室に物を運んだ経験は一度はあるが、その時の雰囲気とは全然違っていた。
「この絵からだったんだ」
「モーツァルトね、この人が作った曲は癒し効果があるらしいわよ」
剣侍狼がモーツァルトへ指を指すと、巫那は、間髪入れずにそういった。
〝おう、来てくれたか君達、〟
モーツァルトの肖像画は動いたり、表情を変えたりしなかったが、明らかにモーツァルトから発する言葉と六人全員が認識できた。
〝君達に与えたい物がある、これは巫那に与えたいのだ、与えたいという物は癒しの光だ〟
『ちょっと待って、あなたは何者、名前はあるの、何故私なの、嫌とは思わないんだけど、とても、とても、不思議で、何が何だか分からないわ』
巫那はその声の主の動きを止めて、困惑していることを伝えた。
〝大丈夫だ、私を信じてくれ、先日は矢印の影を消滅させたではないか、おの影は悲しみの影だったんだ、慈由无に悲しみを癒す力を伝達したではないか〟
『そんなつもりでやったわけじゃないもん、自然に身体が動いただけだったの』
〝大丈夫だ、その内分かるようになる、あの男は平穏を失わずに済んだではないか、強く産まれた者の役割なのだ〟
『紀子ばあちゃんと同じこといってる』
慈由无が呟いた。
『わかったわ、役割りってことはわかった、多分、またあんなことがあれば、自然に身体が動いてくれるんでしょ、それ、ちょうだい』
巫那は深くは納得できていないが、紀子と同じことをいってることを納得し、その光を受け入れることにした。
すると、その白いモヤモヤは巫那の身体を包み込み、お臍の少し下辺りへ吸い込まれていった。そして、モーツァルトの肖像画は普段通りに戻った。
「大丈夫みたい、帰ろうか」
巫那は平気な表情だった。
その後、六人で家路を歩んでいると、足場が組まれたマンションの建築現場に差しかかった。
すると、現場職員が出入るするスペースから赤い光と黒い影が飛び出してきた。何やら争っているように六子達には見えた。
『なんだ今度は』
拳逸楼が叫ぶと黒い影は建物の中に入っていった。
再び、六人は無意識に身体が動いた。剣侍狼が先頭に立ち、その真後ろに拳逸楼が位置し、右掌を剣侍狼の背中、第八胸椎付近に当てた。そして、拳逸楼の右後方に慈由无が拳逸楼の肩に右手を当て、その右後方に巫那がいて慈由无の右肩に右手を置いた。一方、左後方に、釈亜真、迦美亜の順に位置し、釈亜真の左手は拳逸楼の左肩、迦美亜の左手は釈亜真の左肩に当てた。つまり、剣侍狼が先頭のV字型の陣営となった。
そして、赤い光が拳逸楼の身体に入り込み、両手から真っ赤な光を放ち、剣侍狼の左手は建築中の建物の最上階より高い位置まで赤く輝く光の剣が立ち昇った。
すると、剣侍狼はその建物へその剣を振りかざした。建物自体には何の影響はなく、黒い影が足場を覆う防御ネットな裾から飛び出してきた。
剣侍狼は次に、その影に斬りつけるように剣を地面と平行に振った。その黒い影は、剣に吸収されていくよう消滅していった。
『何だよ、俺の中に赤い光が入り込んだぞ』
拳逸楼は自分の左右の掌を数回瞬きしながら五人にいい放った。
その声で全員が我に帰った。そして、拳逸楼から赤く輝く光の剣が姿を現した。
〝丁度、皆が来てくれて取り逃さずに済んだぞ、あれは怒りの影だったのだ、ここで働く人達の身体を乗っ取ろうとしてたのだ〟
『えっ、あなたは何物』
〝私は怒りを鎮める赤光だ、拳逸楼、今のように怒りの影が現れたら、消し去ってくれ、頼んだぞ〟
赤光からそんな言葉が聞こえてくると、拳逸楼の身体に吸い込まれていき、消えた。
『巫那の次は俺か、後四回はこんなできごとに出会すのか、本当に俺たちってなんなんだ』
『私達の宿命なのね、弱い者を救わないといけないんだ、怒りって、人間にとって弱い心ってことかしら』
拳逸楼が疑問を混乱すると、慈由无はぼそっと言葉を口に出した。
『まあ、まあ、俺たちは人の心の歪みを正すことをしていく役なんじゃないの、俺はとてもスッキリしたよ』
赤く輝く剣を使った剣侍狼は充実した表情を見せた。
『そうだな、そうなんだろうな、身体は至って変わらないよ、大丈夫だ、帰ろうか』
拳逸楼は六人だけの会話を収めて家路を進み出した。
六人が家に近づくと、焦げ臭さを感じた。その臭いを追うと、一軒の定食屋から炎が立ち上がっていた。
「火事だあ、誰か、消防に電話してくれぇ」
定食屋の店主はバケツで外にある水道から水を汲み、火を消そうと必死になっていた。
『ねぇ、よく見て、火の中に黒い影と青い光があるわ、分かる』
釈亜真がみんなに確認させた。
『見えるよ釈亜真』
五人の声がシンクロした。
すると、炎の中から黒い影と青い光が飛び出してきた。同時に、釈亜真がそれの正面に身体を向けるように立ち、真後ろに迦美亜が立ち左右の掌を釈亜真の左右の肩に当てた。そして、釈亜真の右後ろに拳逸楼と剣侍狼が位置し、左後ろには巫那と慈由无が位置した。
この四人は迦美亜の後ろで円を描いて並んだ。慈由无と剣侍狼が手を繋ぎ、慈由无と巫那が手を繋ぎ、巫那の左手は迦美亜左肩に当て、剣侍狼と拳逸楼が同じように手を繋ぎ、拳逸楼の右手は迦美亜の右肩に当てた。円の陣形を取った。青い光が迦美亜に吸い込まれると、釈亜真は両手を開き、天に突き上げた。その掌から青い閃光が立ち昇り、黒い影に物凄い速いスピードで飛んでいき包み込んだ。その影はその瞬間消えてなくなった。定食屋の炎も一気に消えた。
『良かったぁ、火が消えてくれて、火事の被害は少なそうよ』
迦美亜は定食屋を安堵して眺めてた。
迦美亜に吸い込まれた青い光が出てきた。
〝良いタイミングできてくれたな、分かるか、あの影は不安の影だ、不安が積もり積もると、爆発するように火が立ち昇るのだ、青い光は水面の光、すなわち、水だ〟
青い光が発すると、迦美亜に入り込んだ。
『不安って、弱い者なのね』
迦美亜は力がない声で呟いた。
流石に六人は家に着くと、疲れきって、居間で倒れ込むように横になって眠ってしまった。
続