時の堰(ときのせき)第八章「決戦」
一行は沼地、草原、雑木林と天子を倒し、鍵を手に入れ、シンボルに沿って容れる。照基がレバーを持ち「では一同、これより扉を開くぞ。」といってレバーを引いた。
数メートルはある大きな扉が重い、低い音を響かせて開いて行く。中は薄暗く、天井は高いが何もない。えっ、何もない。階段もない。監物一行は中を探ったが小さな明かり取り用の小窓に美しい壁画と暗い天井画があるだけで二階に上がる階段も何もない。
「なんじゃ。こりゃ。伽藍堂(がらんどう)の倉のようになっとる。塔の筈なのに上にあがる梯子もない。」
監物の声が、ただ広い観客席のない闘技場のような一階に響く。
「おそらく、壁画がこの一層を抜ける鍵になっているんではないかな。」
中畑君はそういうとメモを出して壁画の形を記して行く。壁画は大きく、全部で13枚ある。描かれているのは三人の女性が何か行っている姿のようだ。
すると後ろの扉が重い音を立てて閉じられて行く。
「まて、まだ閉めんでいい!」監物がそう叫び、扉を見たがそこには誰もいなかった。
大きな両開きの扉が大きな音を立てて閉じられた。監物一行は行き場のない一階に閉じ込められてしまった。
兵達からざわめきが起こり、家重が思わず言った「しまった罠にはめられたか!」の一言に皆動揺している。
「いや、罠ではないでしょう。」
中畑君がそういうと、みなの動揺は一旦治まったが、次の一言でま再びざわめきが起こった。
「罠ではないと思いますが、この一階の解法を見つけなければ全滅でしょう。恐らくここからは塔の主人の間まで一方通行で後戻りはできないんじゃないかな。」そう言うと、天井画を見上げた。
監物一行も天井を見上げたが、そこには人々を襲って喰う魔物の絵が美しく描かれている。その魔物の数はゆうに100は超えている。その天井画はリアルで美しいが喰われる人々の恐怖と絶望に満ちた表情が魔物達の恐ろしさを表していた。
「一階の解法を間違えると、この魔物が振って湧くという事か。」
照基が中畑君にそう尋ねると、「この一階の構造と勝手に閉じられた扉からしてこの一階の解法を知らない者がここに入ったら、殲滅する仕組みなのではないでしょうか。防御の為のシステムですね。」と平然と答えた。
「この場にこんなん出られたら防ぎきれんな。というか逃げる場もないんで次々現れたらいずれ殲滅されてしまうのう。」
監物がそういうと兵達はざわめき出した。口々に「あの絵の魔物達が次から次へと現れたら、守りきれんの。」と不安げに呟いている。
「中畑殿。解法は見つけられるか。」
照基がそう中畑君に問うと「わかりません。」とだけ答えて、メモした壁画のサムネイルを並べて、何度も順番を入れ替えて見直している。
「綾瀬さん。見て。どう思う。」
「壁画の人は何かをしている状態を表しているよね。文字ではなくて絵画のアナグラム?」
13枚の壁画に描かれている三人の女の人は、ポーズが酷似したものもあり、バラバラにして並べ替えると続き絵のようになりそうだ。
「これは何かの過程を絵で表しているんじゃないか。」
中畑君はメモした壁画を並べてそう言った。
「よく見ると壁画の下の方に何度も触った跡があるんだ。ほら、ここにも、ここにも。」
中畑君はそう解説すると、壁画の前に立ち、手を下ろしてほぼ同じ高さのあせている壁画の跡を皆に見せながら確認している。
「順番にタッチして行けば上に上がれるんじゃないかな。」
中畑君が言うようにそれぞれの壁画の一カ所に何度も触った跡がある。順番通り触れて行くのは間違いないだろう。
中畑君とうらら、サヨとレン、綾瀬社長が中畑君のメモを見つめ、何度も順番を入れ替えてみている。
「最初の絵はこれで間違いないと思うんだけど、どう思う。」
中畑君がそういい、皆に見解を聞くと皆同意した。
「じゃあ、これが最初。」中畑君はその絵に1と書いた。
「問題は2番目3番目なんだよね。どっちのポーズが先なのか三人の並び方もポーズも似ているので確証ができないんだ。どう。」
中畑君が険しい表情を浮かべると皆も同様の表情を浮かべた。
「ゲームみたいにリセットできるなら適当に選んで、ダメだったらやり直しが効くのにね。」
サヨが皆が悩んでいる中、場を和ませようと明るく言うと、監物が何か閃いたかのような顔をして話しかけて来た。
「綾瀬社長。ちょっと来てくれ。」
監物は綾瀬社長になにやら話しながら”逆巻きのネジ”をあれこれ触っていたが、にやりとすると、うららに「千代はどれが始まりだと思う。」と聞いた。
「恐らく、これかな。皆もこれが始まりじゃないかと思ってるし。」
うららは不安げに皆に言うと。監物はその絵にタッチして「正解じゃな。」とまるで答えを知っているかのように言う。
「次はどれじゃ。」
監物はそう言うと、急に青ざめた表情をしている。
「それは間違いじゃ。気を付けられよ。そうこれで正解じゃ。」
皆、不思議がったが、進めるうちに益々監物が弱ってゆくように皆見える。
しかしながら監物の言う事には間違いなく、着実に順番をクリアしていく。
そして終に最後の二枚が残った。
「さあ、どっちが最後から二番目じゃ。」
ここまで順調に来ているが、何故か監物は答えを知っているかのように見えた。しかしながら壁画をタッチするたびに息が荒くなり、弱っているのが解る。
「城代。どうしたの。大丈夫。」
サヨは心配になり監物に駆け寄ると小さな体で監物の大きな体を支えようとしている。
「城代。どうしたんじゃ。」
同じくらい大きな体の照基が監物の弱り切った肩を担ぎ不思議そうな顔でいつの間にかクマができた監物の顔を覗いた。
みな、意味が解らず、ただ弱ってゆく監物を見ている。
「いや、ワシは大丈夫じゃ。はよ最後から二番目を選べ。」
うららが皆に確認をし終わり、絵画をタッチすると最後に一枚だけのこった。
「これで終いじゃ。しんどかったのう。綾瀬社長。」
監物はそういうと、バタっと床に倒れた。
「城代!」みなそう呼び、周りに集まってきた。すると綾瀬社長が監物の腕についている逆巻きのネジを差し、難なく解決できた事の顛末を語り始めた。
「最初のうららの選択は間違ってなかったんだよ。でも次に選んだのは実は三枚目で間違っていたんだ。すると天から描かれている魔物が一斉に落ちてて皆を襲ったんだ。城代はみなの盾となり魔物にその身を喰いちぎられ、この外道界から消える瞬間、逆巻きのネジを動かし、選択前に戻ってやり直してたんだよ。弱っていったのは何度も魔物に喰われているからさ。」
綾瀬社長はそう言うと、監物は聞いていたのか身を起こすと一言呟いた。
「しんどかったわ。しかし、この作戦はうまくいった。こういうパターンならばこの逆巻きのネジがあれば簡単にクリアできるな。しかし、巻き戻している本人の体力と気力がどこまでもつか解らんがな。」
「城代!すごーい!カッコいい!体はって皆を守ってくれてたんだ!」とはしゃぎ監物に抱きつくサヨ。
これでこの塔の天子にも勝てるだろう。この監物の体をはった作戦に皆が湧いた。
綾瀬社長が強壮剤といった薬を監物に飲ませると、以外にあっさりと監物は回復していった。
「城代に長く休まれると皆が困りますから。」
綾瀬社長がそういうと、「むち打ってはよ戦えっちゅうことか。」と笑いながらいい、「さあ、元に戻ったぞ。まいろうか。」といって立ち上がった。
もう、一行のテンションはMAXになっている。このまま塔の天子を打ち倒すべきと監物は思っている。照基も家重も士郎もうららもレンもサヨも。
一行は螺旋状の塔の壁に沿って作られている階段を登った。階段は狭く、監物や照基などの大男は一人登るのが精一杯の広さだ。先頭は監物、しんがりを家重が引き受けた。
塔は結構な高さまで登りやがて粗末な広間に出た。
「そろそろ、この塔の天子と一戦交える時がきたか。」
監物そう呟き、皆が上がって来ると物陰に潜むように指示して声を殺し皆に作戦を話した。
「偃月の陣形を取る。ワシが先頭で、右後ろに大石殿、金子殿、左後ろに千代、レン殿、この五人が天子との決戦部隊じゃ。皆、ワシの間合いを出ぬように、天子の攻撃はワシに集中させるのじゃ。士郎はサヨ殿を守り、共に戦ってくれ。兵はワシら五人の後ろに詰め、キヨミ殿、吉良殿、白井殿、中畑殿を守備し、戦ってくれ。」
「ワシが天子に敗れたら巻き戻して初めからやり直すでな。天子がよほど強くなければこの策で勝てるじゃろ。」
監物はそう囁くと、皆、こころしてくれと囁いた。
「強そうな天子が出て来るのかな。」
サヨが士郎にそう呟いている。
すると奥に粗末なおじいさんが現れた。
みなは柱に、壁に、身を隠すと、いそいそと働くおじいさんを見つめた。捕まって奴隷のように天子にこき使われているのだろうか。やせ細った貧相なおじいさんだ。
監物は身を隠しながら、このおじいさんに近寄ると、肩をたたき、振り向いたおじいさんの腕を掴んで柱の影に引き入れると、おじいさんに言った。
「天子はいるか。どこにいる。」
おじいさんは、はっとして、明るい表情を浮かべると、「あなたさま達は、塔をあがってこられたんですかねえ。えらいこっちゃ。六人の天子を倒さないと塔に入れないって聞いてるんじゃが、どうなすった。」と訪ねた。
「もちろん、六人の天子を倒して、一階のアナグラムの解を解いて上がってきましたぞ。」
監物がそういうとおじいさんは、驚いて、「たまげたこっちゃ。呪縛されていて他の誰かと接点のないこの外道界で六人の天子を倒して塔に入ってこられた罪人ははじめてじゃ。」という。
「罪人ではない。われらはこの外道界の支配者である天子を倒しにきたのじゃ。して、天子は何処にいるのじゃ。」
監物は貧相で小さいおじいさんにそう言うとにやりと不気味な表情をしていう。
「おぬしの前に天子はおるわ。」
おじいさんはそういうと監物の手を払いのけて後ろに数歩下がっていった。
「私がこの外道界の神だ。」
おじいさんは自信に満ちた表情を浮かべているが、見た目は年老いた貧相な男でとても強そうには見えない。
「以外に最後の天子は弱そうじゃの。」
監物がそう言うと刀の柄に手をかけ、間合いに入っている貧相な老人を叩き切った。
老人の断末魔の声が響いて老人が蒸発して行く。
「なんか最後はあっけなかったの。」そう思いながら監物は逆巻きのネジを起動した。
監物が気がつくと目の前には自信に満ちた表情の貧相な老人がいた。
「私がこの外道界の神だ。」
あれ。さっきのちょっと前に戻ってる。最後の天子を討てば、この外道界が消滅するんではなかったのか?消滅してないと言う事は、やはり、このじいさんは天子ではないんだ。
監物はそう理解すると、「おまえは天子などではない。天子はどこにおるのだ。」と叫んだ。
貧相な老人は突然狂ったかのように四つん這いになり、そのまま監物に飛び掛かって来た。
監物は飛びかかって来る狂気の表情を浮かべた老人を両断すると、老人は断末魔の叫びを上げ消滅した。
「皆々方、陣形を整えよ。」
監物を先頭に陣形が形成される間もなく、先ほどの狂った老人が奥から次々現れ、監物一行を襲った。
監物、うらら、照基、家重、レンは迫り来る狂った老人を叩き切っていく、その数はだんだん増して行く。いくら切り捨ててもきりがない。老人は四つん這いになり、壁を伝って、天井を伝って襲いかかって来る。
「やめろ!」白井さん達を守っていた雑兵が一人狂った老人に飛びつかれてしまった。老人は兵の首元に噛み付き引きちぎった。兵は消滅してしまう。と同時に他の雑兵らが四つん這いの老人に槍を突き刺す。老人は消滅したが、次から次へ襲って来る。
「このままではきりがない!奥にこやつらを操っている天子が居る筈じゃ!先へ進むぞ!」
監物はそう言うと、防戦一方なまま奥へ進んだ。狂った老人は次々襲いかかって来て、兵が次々と消滅して行ってしまう。
「もう一歩じゃ!ここが耐え時じゃ!」監物はそう叫びながら前へ進む。奥は広いホールになっていて、多くの四つん這いの老人の奥に同じ顔をしたやはり貧相な老人がいる。
監物は「士郎よ!サヨ殿達を守って何とか耐えしのげ!兵は士郎に従え!」と言うと襲い来る狂った老人達を切り捨てながら、「千代、レン殿、大石殿、金子殿、行くぞ!」と叫んで奥にいる老人目がけて突進する。
襲い来る四つん這いの同じ顔をした老人達を叩き切りながら突進するレンの姿に気がついた貧相の老人は一瞬凍り付いたかのような恐怖の表情を浮かべた時に全ての攻撃が一瞬止まった。
「貞時様!何故、外道界におられるのですか!」
老人は恐怖にかられてか跪き、レンの方にひれ伏すと、動きを止めてただ佇む四つん這いの老人を切り捨てながら突進してくる監物達を見て立ち上がり、「貞時様とてここにおられるなら捕まえ罰を与えましょう!ここは私の世界ですから!」そう叫んで「襲え滅ぼせ。」と自分と同じ姿の狂った老人達に監物たちを再び襲いかからせた。
レンは奥の老人に狙いを定めて持っている槍を走りながら放る。
「うりぃぃぃゃー!」
槍は向かって来る四つん這いの老人達を消滅させながら奥の老人目がけて空気を切り裂いて飛んで行く。槍は奥の老人の首をかすめて壁を砕いて突き刺さった。
老人の表情は恐怖に満ちている。
老人は震えながら「これも、私の使命なのです。」と告げる。
やがて狂った老人達を切り捨てながら突進して来る監物達が奥の老人のすぐ目の前に現れる。
狂った四つん這いの老人達は次々と襲いかかって来るが、五人は狂った四つん這いの老人をみな叩き切ってしまう。
「おのれ!貞時とて、ここで滅ぼしてくれる!」
奥の老人はそういうと光り輝き、狂った四つん這いの老人達を集め始めた。監物が振り返ると士郎達と共に居た兵はもう僅かしか居ない。大分やられたか。士郎この場を持ちこたえてくれ。
老人は光り輝く巨大な大黒天の姿に変わると、その槍と剣を監物達に向かって振り回してきた。
「取り囲め!」
監物を正面に五人は大黒天を取り囲むと、後ろから横から攻撃する。
やがて、サヨ達を警護していた士郎と兵達が追いつき、大黒天を囲み攻撃に入るが、大黒天の槍に、剣に兵達は次々に倒され、消滅して行く。
監物達は防御しながら大黒天と戦っている。が、みなの疲労は目に見えてわかる。
「士郎殿!アタシも戦う!」
サヨがそう言うと、「大丈夫です。ご覧なさい、大黒天もだいぶ疲弊しています。」といって止めた。
塔の天子の大黒天も大分疲弊している。レンに攻撃されている事も大きかったようだ。うららとレンはうららが防御、レンが攻撃といった戦略で大黒天にダメージを与えている。
大黒天がレンに気を取られていると家重、照基、監物の刀が大黒天を襲う。
「今だ!」
レンの姿に戦いている大黒天が疲労からか一瞬たじろいだ所にレンの槍が脇腹を突いた。
大黒天の絶叫が響いた。監物、照基、家重が一斉に大黒天に切り掛かる。
「これで終いじゃ!」
三人のかけ声が聞こえると大黒天の姿が消えて行く。あたりは目映い光に包まれて行く。
「サヨ殿、レン殿、これでこの世界は消滅する。お二人は始まりの朝に戻ってやり直してくれ。千代を、皆を、救ってくれ。」
何もかもが真っ白な目映い光がサヨとレンを包み込んでいく。
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